魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第十八話 願い

 冷たい風がたなびく中、一行は王城の庭で兵士の集団と共に王の演説を聞いていた。王は口にするデルキルタス王国とゲーマ王国を兵士が行き来するにはアモナーダ海域を経由して行かねばならないため、戦争は必然的に海上戦になることが決まっていると。その際に使用される武器の弓と砲弾を使い海を渡って内陸へと侵攻し、王の首と教祖の首の二つを取る。それが戦争を終わらせるための目的だと強く訴えるのだった。王の言葉からはゲーマ王国を教団を許すことは無いと滲み出ているように聞こえてくる。王は細かな作戦は衛兵隊長を経由して伝えると言い、最後に士気を高める様に鼓舞激励をおこなう。

 

「今から海上戦……アモナーダの戦を開始する!敵は海の向こうにあり!」

 

 兵士達は気合を入れる様に叫ぶと、港に停泊させている軍事用の船へと移動していく。一行も彼らの後に続き移動しようとしたが、駆け寄ってくる人物によって止められるのであった。

 

「ベル博士一行とお見受けする。向こうにいる人達と一緒に行動してくれ」

 

「貴方は?」

 

「失礼。私は一番衛兵隊長のブランダルムだ。おしゃべりしている時間はない。早く彼らと合流するといい」

 

 彼は自身の兵を連れて港へと急ぐ様に向かっていった。

 

 一行は彼に言われた通りに遠目で自分達を待っている人達の元へと駆け足で移動する。

 

「お待ちしていました。これで全員ですね」

 

 巫女服の上に防具を付けたミレディが告げる。どうやら彼女がこの集団の指揮を執るようだ。しかしこの集団は少し変わっていて、鎧を着ている兵士とは違い服装がまばらであった。その見た目に一行が不思議そうにしていると、作戦の説明を全員に聞こえる様に声を上げているミレディの隣にいた従者が小声で答えてくれる。どうやらこの集団は、何でも屋などから戦争に参加してくれる方を集結させた傭兵団ということらしいことが分かった。

 

「では私達も港に向かいましょう」

 

 説明を終えたミレディが先陣を切って港へと歩き始めた時だった――

 

 ――ラアドベルク山脈方面から突風が巻き起こり、上空に一つの青白い光の太い線が伸びた。遅れて轟音が鳴り響き、地面が揺れ、空気が震えてくる。慌てて状況を飲み込んだ人々は一体何が起こったのか一斉に山脈の方へと顔を向けた。山から溢れ出る煙が晴れていき状況が鮮明になっていく。大勢の瞳に収めた景色の先には隣国の境目であった山の一部が融解している様子であった。遠くからでも見えるほどの巨大な金属の人形が新しく出来て間もない熱が帯びる道を通り、エディア村にいたゴーレムを侍らせながら姿を見せる。

 

「ブルト、ニヘム……」

 

「コミさん?」

 

 彼女は覚えていた。あの巨大な金属の人形は彼女が過去に王城を脱出する際にゲーマ王国の王によって見せられた代物であると。焦りに沈黙してしまう彼女へと答えるかのように視界に映るドラゴンに似た頭部が、その記憶は確かだと鈍く光ったかのような幻覚を見せた。

 

 人の声が巨大な音声の様に辺りに響く。それはゲーマ王国の王、自らの宣言であった。

 

「我らは新たな力。殲滅機械竜騎士ブルトニヘムを筆頭に結成された機械兵器軍と共に、新時代の門出を上げることを宣言する! 魔法は我らと共にあり!」

 

 ――マホウは我らと共にあり!

 

 ゲーマ王国の兵士が一斉に掛け声を轟く様にして上げる。彼らは勢いのまま武器を持った生身の兵士を先頭に、機械の軍団を進軍させたのだった。

 

「港に向かうのを即刻中止し! ラアドベルク山脈方面から迫る敵兵から国を防衛せよ!」

 

 デルキルタスの王の声を張り上げを耳に聞き届けた兵士は、敵兵が迫りくる西門へと急ぐ。アート達の集団も兵士の群れに交じって走るのであった。

 

 予期しない山脈の一部が消失。本来あり得ない出来事から戸惑いを隠せない人々は冷や汗を掻く。戦争はゲーマ王国と教団によって波乱万象な現象から始まったのであった。

 

 ♢

 

 戦争が始まって数刻。デルキルタス王国は見た目が巨大な箱型で背中に長円の物体を背負っている機械兵器軍に苦戦を強いられていた。一機倒すだけで大勢の犠牲が発生している。どう考えても割に合わない状況に玉座の間で報告を受けていた王は冷や汗を隠しきれていなかった。幸いなのかは分からないが、機械兵器軍の数が少ないことが唯一の救いだった。しかし敵国の王が乗っていると思われる殲滅機械竜騎士ブルトニヘムが山を破壊したきり動いていないことを不思議に感じていた。窓からブルトニヘムを見つめていると何やら胸の下付近に青白い光が集まっているのを視界に収め……慌てて指示を飛ばした。

 

「敵の王は先ほどの攻撃を再びおこなおうとしている! 青い光を集めきる前に奴の体勢を崩すのだ! 少しでも時間を稼げ!」

 

 伝令の者が走り出し軍の元へと急いでいく。息を切らし呼吸を整えていく王はその光景を苦虫を潰したかのような顔で見つめ、自身の護衛と世話を兼任しているフルカーヌに、ある人物を連れてくるように指示を与えるのだった。

 

 王の命令が軍に伝わり、兵士の顔色が瞬く間に蒼く黒ずんでいく。ただでさえ機械兵器軍の相手で手がいっぱいなのに、遥か先にいるブルトニヘムの体勢を崩すことなど不可能に等しかった。戦意が著しく低下した兵士はブルトニヘムの元へとたどり着くどころか、機械の腕によって次々に潰されていく。やがて青い光を集めることを許してしまった軍団は二度目の光線によって地面もろとも広範囲にわたって消滅した。残された一部の兵士達の中に戦意消失して逃げ出そうとする者が出てくる。もう軍隊のまとまりがなくなったデルキルタス王国に勝ち目がないように思われた。

 

 地獄のような戦場で機能が停止していた機械兵器の背中にある長円の物体に穴が開いた。中から液体と共に黒い霧が噴き出す。穴は徐々に大きくなり、中に入っていたものが姿を見せた。人だ。それも黒い霧を纏った人である。その者達はうめき声を上げると共に姿を変えた。もう兵士の誰もが耳にしたことのある上半身が人で下半身がカエルの姿の顔がない魔物へと変化した。勢いよく飛び上がった魔物は周囲にいた機械兵器も人も無差別に攻撃を加えだしたのだった。

 

 光線を逃れながらも前線で戦っていたアート達は、味方問わず危害を加えていく魔物に戸惑いを見せながらも機械兵器の時と同じように対処していた。コミが障壁で相手の体勢を崩し、その間にアートが弱点を攻撃していく作戦だ。これならば剣の扱いが悪くても、その場凌ぎにはなるだろうというベルの発案であった。現在ベルは作戦会議のため頭脳を借りたいという王の命令により、王城に向かっているので一行の中で戦場に立っているのは二人だけである。

 

「太陽はまだ沈んでいないのに何で魔物が!」

 

「克服した? 一体どうやって……」

 

 二人が言うように外はまだ太陽が昇っており、光が大地に降り注いでいる。それなのにも関わらず、魔物は霧散せず形を保ち攻撃が可能なほどに活発な様子を見せていた。近場にいた機械兵器を操作している兵士が想定していなかったかのように慌てた声を上げる。

 

「な、何で、魔物が! やめろ! こっちに来るなぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 無茶苦茶な操作で振り回される機械の腕を魔物は正面から突破し、一撃で機械兵器を破壊した。兵士が乗っている場所を無理やり両手でこじ開けると、先ほどまで存在しなかった口を出現させ、片手で頭を掴み持ち上げる。必死にもがく兵士の胸を腕で簡単に貫き、何かを掴み取るように引き抜く。魔物はまだ鼓動している物体を口の中に放り込み咀嚼した。長い悠久の時を感じるほどの光景が終わると、口が無かったかのように元通りになるのだった。

 

 魔物に破壊された機械兵器の背中の筒から新たな魔物が誕生する。それは……すぐさま近くにいた兵士の胸を貫いた。

 

「に、逃げろぉぉぉぉぉぉ‼」

 

 誰かの声を皮切りにゲーマ王国が優勢だった戦場が入り乱れ混乱が加速する。魔物は混乱に乗じて手当たり次第に獲物を狩るように命を奪っていく。

 

「アートさん危ない!」

 

 彼の背後から迫りくる魔物の拳をコミが障壁で受け止める。その隙に遅れてい気づいたアートが剣で核を破壊する。

 

「助かりました」

 

「まだです!」

 

 真剣な眼差しで彼女が見つめる先は、機械兵器の数を減らしていく代わりに増えていく魔物の姿と、再び青白い光を集め始めるブルトニヘムの姿だった。

 

 増産されていく魔物の軍勢に敵味方関係なく押されていく。かなりの数の人が減少し血生臭い空気が戦場に漂う中、戦場に残った者達は必死に抵抗しようとする。しかし倒しても倒しても増殖する魔物の圧倒的な数の暴力により苦戦を強いられていた。

 

 再び放たれたブルトニヘムの光線が魔物も敵も味方も飲み込んで戦場を横切っていく。光線が通過し変形してしまった地形は見る影もない状態になっていた。

 

 光線の余波を障壁で受けきったコミが息を切らす。夜を迎えようとするほどに長い戦いで体力の消耗が激しく目が霞む。隣に居るアートも呼吸が荒くなっている。彼も彼女と同じ状態であろうことが一目で分かるほどだった。

 

 彼女はすぐに障壁で襲い掛かる魔物の拳を受け止めるが、アートのガタついてきた体が言う事を聞かないようで反撃が遅れてしまう。魔物はその隙を逃さんとでもいうように追撃。

 

「コミ、さん!」

 

 彼が必死に彼女の名前を叫んだ時だった。後ろから飛んできた薙刀が魔物の胸に突き刺さった。

 

「無事で何よりです」

 

 後ろから遅れて姿を見せたミレディが倒れた魔物から薙刀を引き抜き二人に告げる。その顔は少し安堵したかのように緩んでいた。

 

「ありが――」

 

「気づいていますか?」

 

 彼女の発言に二人は疑問を浮かべる。それを見た彼女はある方向へと指を差した。

 

「魔物が集まっている?」

 

 二人が見たものは一カ所に固まるようにして集合していく魔物の姿だった。隙間が埋まり、まるで初めからその姿だったとでも言うように黒い霧で出来た巨大な粘り気のある液体へと変化していく。

 

「なにあれ……」

 

 コミが疑問を口にしたのもつかの間、液体からドラゴンの顔をした触手が伸び、周囲にいた生きる者の胸を貫いていく。口にくわえられた赤き物体を飲み込み、次の獲物へと動き出す。その光景は誰が見ても食事をしているかのように感じる行動であった。

 

 不意打ちのように液体の魔物の後ろからブルトニヘムによって放たれた青白い光が貫いた。しかしその巨大さ故、全てを消滅させることは叶わず半分ほど残ってしまう。あまりの負傷に動きを止めたように見せた液体の魔物であったが、何事もなかったかのように再生し行動を開始する。

 

「あの光ですら無理だなんて……」

 

 言葉にならない状況に三人は苦悩の表情を浮かべる。天へと昇っていく触手を見つめる事しか出来なかった。

 

 先ほどまでの攻撃範囲よりも遠くまで届くように天高く昇った触手が一斉に降り注いだ。それは三人がいる場所まで到達する。コミが急いで障壁を展開して二人を守るが、連続で襲い掛かる触手に耐えられず破壊されてしまう。

 

 彼女は目の前に迫る触手に恐怖で目を閉じる。しかし一向に痛みを感じることはなかった。その代わり顔に生暖かい粘り気のある鉄の匂いを持つ液体が降り注いだ。

 

「えっ――」

 

 目を開けた視界がぼやける。鮮明になっていくその瞳の先には、半ばから折れた剣を持ち、背中から生える触手によって心臓を奪われたアートがいた。

 

 ――よかっ……

 

 触手が引き抜かれ、時が遅くなったかのように前のめりで倒れ行く彼が瞳に映る。

 

「いや、いや、いやぁぁ、ぁ、ぁ……」

 

 胸が引き裂かれるような重く苦しい感情がコミを支配していく。足を引きずるようにゆっくりと彼の元へと体を進める。事切れた頭を両手に抱えむせび泣く。

 

「一緒にオーシャンフェスティバルに行くって約束。嘘だったんですか⁉ 一緒に生きて帰るって嘘だったんですか⁉ 目を……目を開けてください! お願いですから!」

 

 彼は何も答えようとはしない。泣き崩れる彼女の頭上には見せびらかす様に彼の物を咀嚼し始める触手がいるのみだった。

 

 あまりの光景に固まっていたミレディは食事に夢中で動かない触手の隙をついて切り捨てる。すぐさまコミの方へと顔を向けるが、彼女はもう戦える状態ではなかった。彼女を撤退させようと試みるが触手の数は当然一つだけではない。とてもではないがコミを撤退させるほどの余力など持ち合わせてはいなかった。触手の雨による第二波が訪れる。

 

「ぁ……ぁ……あァァァァァァ‼」

 

 涙を流すコミが上空に湧き上がる感情をぶつける様に叫ぶ。

 

  魔法よ! ……っ私達を……導いて‼

 

 その瞬間彼女と彼を包むように淡い青き光が溢れ出す。それはコミの懐からいくつもの割れる音共に戦場にいる者達を包み込むほどに拡大していく。

 

 襲い掛かろうとしていた触手の雨が、光に触れ消滅する光景を見たミレディは重い息を吐いた。

 

「温かい光……」

 

 彼女は青白い光を放出するコミを見つめる。その様子はまるでアートに思いを伝えるような、そんな雰囲気を醸し出していた。光が目を開けることが出来ないほどに強くなり、雲を貫き太陽が沈んでいく空へ高く舞い上る。貫ら抜かれた雲の隙間から星空が姿を見せるほどに。

 

 ♢

 

 眩しい光の中でコミが目を開ける。抱きしめていたアートの肉体が存在しないどころか、先ほどまでの戦場は見当たらず、自身が真っ白な空間の中で一人たたずんでいることに気が付いた。

 

「ここは……」

 

 見渡しても見渡しても、目に見えるのは白い景色。足を踏み出し歩いてみるが、視界に映る色は変わることがなかった。

 

「一体どこなの? 私は確かアートさんと……」

 

 過去を振り返り思いつめたような顔を見せるのだが、まずは自身がいる空間の事に対して分析を始めようと考えを改めた時だった。何もない空間から声が聞こえてくる。

 

 ――作られた存在がここまで来れるなんて、人の欲望はとんでもないですね。

 

「貴方は一体……」

 

 ――私は精霊アールド。人工物である貴方のオリジナルに等しい存在です。

 

 コミの目の前に黄色い姿で青い翼をもつ鳥が青白い粒子を羽からまき散らしながら現れる。

 

 ――ここは眠りについた精霊達を繋ぐパスのようなところ。貴方の魔法を願う思いの力がここへと導いたのです。

 

「思いの力……」

 

 彼女は自身の胸に手を当てる。

 

 ――貴方の思いは伝わってきましたよ。私であれば、それを願いを叶えることが出来ます。ですが代わりに私の願いを叶えて欲しいのです。

 

「貴方の願いですか?」

 

 ――ええ、貴方にはユグドラシルの再生を止めてもらいたいと思っています。彼女はそんなことは望んでいませんから……

 

「彼女とは誰なのですか?」

 

 ――知らないままの方がいいです。ですが貴方の歩む道によっては、いずれ分かる時が来るでしょう。

 

 一人と一羽が話していると空間に歪みが生じてきた。徐々に大きくなる歪みに気づいたアールドの空気が変わる。

 

 ――無理やり繋がったからなのか時間がないようですね。方法だけ手短にお答えします。まず彼と貴方のパスを繋げるためにキスをしてください。

 

「‼ キス……で、すか?」

 

 赤らめたコミは落ち着かないように目を四方八方に動かす。

 

 ――その後は私が力を使い貴方の肉体を対価に彼を蘇生させます。

 

「それって私が死ぬという事ですか?」

 

 ――いいえ、少し違います。貴方の肉体を対価に彼と共に生きる精霊として生まれ変わるのです。

 

「それしか方法は……」

 

 ――ありません。なぜなら彼にはもう心臓がありませんから……

 

「……」

 

 ――貴方の選択を聞かせてください。

 

「私は――」

 

 ♢

 

「ここは……」

 

 気が付いたコミは青白い光の中にいて、先ほどの夢の続きなのかと考えようとしたのだが、自身が抱きかかえているアートを見て、ここは現実なのだと理解した。

 

「アートさん。待っててくださいね」

 

 答えることのない彼の額にかかった髪の毛を退かし、コミは優しく唇を交わした――

 

 夜独特の冷たい風が人々の頬を撫でる中、広大な範囲まで包み込んだ青白い光が巻き戻るように収縮していく。光が収まったころには、光の発生源であったコミの姿はおらず、穴が開いた胸に青き粒子を蓄えたアートだけがいるのみ。

 

「コミさんは一体どこに……」

 

 ミレディが彼女の姿を探そうと辺りを見渡していると、死んでいたはずの彼が起き上がった。

 

「ここは?」

 

「ここは戦場です。どうして生きているのかは聞きません。それよりも貴方のそばにコミさんがいたはずですが、知りませんか?」

 

「コミさ……ん? そうだ。僕はあの時確かに死んで……」

 

 彼の手に力がこもる。

 

「僕は……守れなかったのか? そんなはずは……」

 

「いいえ。間違いなく貴方はコミさんを守りました。しかし、貴方が目を覚ました時には……」

 

「そんな……僕は……僕は……」

 

「コミさんは貴方を何らしらかの方法で生き返らせたのでしょう。彼女がここにいないということは多分……しかし悲しみに暮れている時間はありません」

 

 青白い光に体を削られ行動を阻害されていた液体の魔物が再生を開始する。

 

「分かっている。僕は……いいや、俺は絶対にコミさんの分まで生き抜いてみせる!」

 

 アートは決意を込めた目で地面に転がっている剣を拾い、液体の魔物を見据えた。

 

 ――そんなに思ってくれるなんて嬉しいです。

 

「今のは……」

 

 アートは自身の体に異常が起こっていることに気づく。

 

「これは一体……」

 

 彼が胸の粒子に触れようとすると声が聞こえてきた。

 

 ――聞こえていますか?

 

「この声は!」

 

 彼は声の主を知っていた。急いで辺りを見渡すが、探し人は見つかることはなかった。

 

 ――そこに私はいませんよアートさん。

 

「どこにいるんですか! コミさん!」

 

 ――ここです。

 

 アートの胸元の粒子が伸び、青い人型を形成する。それはやがて彼の知る姿へと変化すると共に彼を抱きしめるのだった。

 

 ――ああ、私の願いが叶ったのですね……

 

 うれし涙を流すように目から粒子を垂れ流す彼女の抱きしめる力が増していく。

 

「その姿は……」

 

 ――これですか?

 

 離れて宙に浮くコミが、姿を見せびらかす様に回転した。

 

 ――どうやら精霊と言う存在になったみたいです。

 

「精霊?」

 

 ――はい。マナで構成された肉体を持ち、人間と契約することで力を与える存在です。なので私はアートさんの契約精霊という事になりますね。

 

「は? えっ?」

 

「原理は分かりませんが、彼女は力を使い貴方を生き返らせたという事です。その過程で精霊に……その姿になったという事ですね」

 

 状況を飲み込んだミレディが会話に参加するようにコミを見つめる。

 

 ――その通りです。今度こそアートさんは私が守りますから。

 

「……」

 

「詳しい話は後にして、この力があればきっと戦争を終わらせることが出来ます」

 

 彼女が見つめる先、黒い霧で出来た粘り気のある液体が再生を終わらせようとしていた。コミが彼の胸に戻ると、無くなっていたはずの右腕が青い粒子で形成される。

 

「腕が……」

 

 ――右腕を前に

 

 彼は指示通りに腕を前へと伸ばし、目の前で生成されていく青い粒子の剣を手に取る。

 

 ――行きましょう。アートさん。

 

「……ああ! 終わらせに行こう。この戦争を!」

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