魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

40 / 42
第二章 エピローグ

 デルキルタス王国で一泊した一行は早朝に海上国セフィトシア行きの船に乗る。同じ国に行く人が多いのか乗客の数はかなりのもので、船にある客室が埋まるほどの賑わいを見せていた。そんな中、運よく客室を手に入れた一行は、貴重品以外の荷物を部屋に置いて海風を浴びながら海を眺めていた。海上から魚が跳ねたりして踊っているような姿を見せる海に和んでいると、海中から一瞬だけ顔を見せた黒い物体が海上の魚を丸呑みして水の中に潜っていった。

 

「……」

 

「ええっと……」

 

 自身の目を覆いたくなる光景に沈黙していた一行を他所に、船にある鐘が鳴り響いた。近場にいた水兵が魔物が現れたと叫び「乗組員で対処するので乗客はその場を動かないように」と大声で聞こえるように指示する。乗客達が困惑していると海の中から甲板に複数の魔物が飛び乗った。それは三つ又の槍を持った黒色で頭が魚で体は人の形をした魔物。体の鱗からヌメった液体を床に垂らし、滑るようにして移動していく。流れるような動きで魔物は手に持った武器を使い乗客達を突き刺そうとした。

 

 ガン‼

 

「お客さん無事かい?」

 

 アート達の近くへ走ってきた水兵が木製の盾で魔物の攻撃を防ぐと安否を確認しようと声をかける。その間に魔物が盾ごと押し切ろうと足を前に進めようとするのだが、水兵の力が強く拮抗状態になる。

 

「ええ、貴方のおかげで怪我はありません。それよりもその魔物は一体……」

 

 水兵が気合を入れて盾で魔物を吹き飛ばし転んだ隙をついて剣を突き刺した。退治を終えた水兵がミレディの質問に答える。

 

「あいつはサバギンだ」

 

「サバギン?」

 

「戦争が終わった後、突然海に出てきてな。頭の見た目が鯖に似ている事から俺達の共通の呼び名なんだ。色はあれだが……ほら、鯖に似ているだろう?」

 

「……」

 

 一行は少し離れた場所で他の水兵と一戦交えているサバギンを見ると……目と目が合ったような気がした。魚特有のヌメった目がじっと固視しているように見える。サバギンへ何とも言えない気持ち悪さを覚えた一行はすぐに目を離し、水兵を盾にして座り込んだ。

 

「今さっき……目が合いませんでした?」

 

「はい……合ったと思います…………鯖……でしたね」

 

 目を泳がせながら不安そうに聞くアートにミレディが答える。残りの二人も挙動不審になりながらも首を強く縦に振った。

 

「取り合えず、そのサバギン……でしたっけ? 退治しましょう」

 

 困惑を隠せない状態で立ち上がった一行は水兵に協力を申し出て甲板に出たサバギンを退治する。アート自身はコミの力で生成される右腕を隠すため戦闘には参加せず、周りにいる他にサバギンがいないか警戒していると再び鐘が鳴った。近くにいた水兵の話ではサバギンの対処が終えた合図のようだった。水兵が船の安全を確認すると船は緩やかに動き始める。

 

「サバギンって鯖に似ているのだから食えるのかな? ハッハッハ!」

 

 黒い霧になって散っていくサバギンを見つめ、よだれを隠そうともせず呟いた水兵が笑いながら自身の配置に戻っていく。

 

「何だか戦争よりも疲れた気がします……」

 

 疲労したミレディの呟きに全員が同意するように頷くのであった。

 

 その後は特に問題なく船はアモナーダ海域を進み、海上国セフィトシアの海域であるシアーラ海域へと入る。海域が変わったせいなのか、海の透明度が高くなっていく。船の下を覗くと岩から生えるサンゴ礁が見えるほどであった。

 

 ――綺麗ですね

 

「コミさんにそう言ってもらえるなんて嬉しい限りです。私達の国は海を大事にしていますので綺麗な状態が保たれているのです。たとえば……………………」

 

 コミに褒められて調子がよくなったミレディが自慢気に自身の国の事を説明していく。国の中心には神樹があり、その下に神社が大規模に建っている場所があるという。しかも国の住民が飲む水や海に流れる水は神樹の葉から零れ落ちる雫であり、透明の割には栄養価が高く健康に良いのだと言う。そのためシアーラ海域はこの透明度でも生き物が暮らしていけるほどだと数時間に渡り語った。

 

「皆さん。分かりましたか?」

 

 喋り終えて一息ついた彼女は意気揚々と傍にいたアート達を見ると、彼らはなんだか疲労しているようであった。不思議に感じた彼女は何故なのか質問するのだが、彼らは返答をごまかすばかりで話にならなかった。そこで仲の良いコミに聞いてみる。しかしコミも笑ってごまかすだけであった。結局なぜ疲れているのか彼女はよく分からないままだったのだが、気にしないことにして夕焼けに染まった故郷の海を眺めるのであった。

 

 しばらくして一度客室に戻った一行はセフィトシアまでの間のんびりとくつろいでいると、夜の食事の合図である船の汽笛が鳴る。立ち上がった一行は服のシワを整えてから食堂へと向かう。食堂にたどり着いた一行を向かい入れたのは乗客全員が中に入っても伸び伸びと行動出来る程には広い空間であった。中央は丸い机とイスが一定の距離を置いて配置されており、部屋の端には卓上に海産物系をメインとした料理が所狭しと並べられている長机があった。客が好きなようにとって食べる形式になっているようで食堂の入口付近に食器が用意されているのが見て取れる。一行は皿を手に取ると各々バラけて料理を好きなように選びだした。

 

 ――アートさん! あれを食べてみたいです!

 

 精霊としてアートの隣で料理を物色していたコミが指を差す。その先にあるのは固そうな甲羅を被った大きな生き物であり、茹でられて真っ赤になった姿を皿の上に晒していた。

 

「これがエビか。変わった形をしているね」

 

 大皿に入れられたエビは大きすぎるのか取りやすいように切り分けられていた。興味深そうにアートが見つめた後、一緒にいたミレディに頼んで代わりに切り身を一つ皿に移してもらう。

 

「ありがとうございます」

 

「いいえ。もう片方の腕がないと料理が取れませんから、当然のことをしたまでですよ。それにコミさんが食べたそうにしていたので」

 

 ――食べたことがなかったので、ちょっと興味が……

 

 三人は会話を交えながら料理を皿に盛っていく。ただ精霊状態のコミを見える人は少なく、はたから見れば二人が虚空へと呟いているように見える。そのため三人の状況を知らない他の乗客達からは少し距離を置かれていた。

 

「さて、俺は何を食べようか……」

 

 ほとんどコミが食べたい物が入った皿を持って、アートは並んでいる料理を真剣な目で物色する。彼女が料理を選んでいる間にも自身が食べたいと思える料理を探してはいたのだが、目移りしすぎてなかなか選べずにいた。そんなさなかコミが何かを見つける。

 

 ――あっシチューがありますよ!

 

「シチューにしよう」

 

 食べたい物が決まったアートは一度ミレディと一緒に丸机の席へと向かう。ミレディ様一行と書かれた札が置かれている丸机の上に料理が縦に盛られた皿を置いた後、シチューが入っている食缶の元へ。そのままついてきてもらったミレディにシチューを深めの器へと移してもらった。二人が席に戻ると既に男組が料理を選び終えていたらしく彼らを待っていた。

 

「ではご飯にしましょう」

 

 ミレディの言葉を皮切りに各々が選び抜いた料理を口にし食事を堪能していく。しかしアートが手を付けている縦に盛られた皿の中身が尋常ではない速度で次々に減っていく様子を見たターバが食べる手を止めた。

 

「よく食べるんですね……」

 

「ん? ああ……昔はこんなに食べなかったんだけど、コミさんと一緒になってからは沢山食べれるようになってね……まあ、原因は分かっているんだけど……」

 

 隣で嬉しそうに頬に手を当てているコミの方を見る。ターバには見えていないはずなのだが、虚空に目を向けたアートに理解したようで「なるほど」と口にした。どうやらアートの空腹の原因は彼女のようであった。

 

「私、てっきりコミさんが食べるものだと思っていたのですが、もしかして味覚が共有されているのですか?」

 

 ミレディが不思議そうにする。それはアートが料理を口にするたび、まるで自身も料理を堪能しているかのような仕草をするコミの様子に向けての発言だった。

 

「ミレディさんの言う通り、俺とコミさんは味覚を共有しています」

 

 ――私自身お腹が空かず、もう料理を食べられない体なのですが、アートさんを経由して料理の味を堪能することは出来ます。なので代わりに沢山食べれるようになったアートさんに私が味わいたい物を食べてもらうようにしたんです。趣向品みたいな感じになるのでしょうか?

 

「その……苦手なものがあったら、揉めないですか?」

 

 ――そこは……臨機応変に?

 

「臨機応変なんですか……」

 

 会話もそこそこに料理を食べ終えた一行は部屋へと戻った。いくら客船とはいえ風呂までは完備されてはいなかったので到着時刻である早朝に備えて早めの就寝につくのであった。

 

 ポー

 

 まだ日が完全に昇る前。一行を乗せた船が複数の巨大な岩で自然に出来た洞窟みたいな海路に差し掛かった時であった。海上国セフィトシアはまだ見えていないはずなのに突然汽笛が鳴りだす。何事かとアートとコミそしてターバが起き上がった。しかし船の汽笛である低音とは違い高音の音であったため三人が不思議がっていると遠くの方で何かが音を出しているのが分かった。

 

 ガタンゴトン、ガタンゴトン

 

 音が大きくなるごとに水面に広がる波が打ち、何かが海上で動いているのを教えてくれる。三人の騒ぎに起きたミレディと従者のオポノは、三人が不思議がっている音を知っているらしく説明してくれるのだった。

 

「この音は水上機関車です」

 

「水上機関車?」

 

「ええ、そうです。我々の国ではゲールマトラ王国と協力し新たに水上を駆ける乗り物を作り出しました。今はまだゲールマトラ王国と行き来する事しか出来ませんが、いずれ各国にも水上レールが敷かれることとなるでしょう」

 

「水上レール……」

 

「海を見てください」

 

 三人はミレディに言われるがまま客室の窓から外へと目を向ける。すぐに見えたのは岩と岩の隙間から薄っすらと見える海だけ。特におかしなところが見つからないことを彼女に伝えるのだが、彼女からもう少しよく見るようにと促された。もう一回、今度はよく目を凝らして眺めてみる。すると三人の内、コミが遠くの海中に金属の物が置いてあることに気が付く。コミからアートに、アートからターバにへと伝言され三人が海中の金属に注目した。

 

「一定の間隔で置かれている金属。あれが水上レールですか?」

 

「あれが水上レールです。そろそろ見えてきますよ」

 

 ミレディが指を差す場所には、長方形の金属の箱が列をなして水上レールの上を走っていくのが見えた。

 

 ――あれが水上機関車ですか! 乗ってみたいです!

 

「もちろん乗れますよ。基本、海上国セフィトシアを移動する際の交通手段として何度か乗りますので期待していてください。それに他にもありますので楽しみにしてもらえると嬉しいです」

 

 ――やりました! アートさん楽しみですね

 

「うん楽しみだ。早く乗りたい。ところで水上機関車が見えたってことは、もうそろそろセフィトシアが見えてくるのですか?」

 

「もうそろそろ――あっ!」

 

 ミレディが言いかけた時だった。船が出口である大海原へと差し掛かる。岩のよって暗くなっていた甲板の上に明るい日差しが差し込むと共に、岩の陰から巨大な木がそびえ立つ島が遠くからでもハッキリと見えるほどの存在感で姿を現す。

 

 ボー

 

 船の汽笛が鳴る。それは海上国セフィトシアにたどり着いた事の意味を示していたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。