魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第五話 魔法よ……導いて――

 ベルが洞窟の出口へと走る。引っ張られているコミが離してくださいというがその願いを叶えることはできない。彼は巨像の攻撃からアートが時間を稼いでいてくれる間に、可能な限り出口へと逃げなければならなかった。だが、コミが掴んでいた手の拘束を強引に払って抜け出していていく。再び、その手を掴もうと振り返ると巨像が満身創痍なアートにトドメを刺そうとしていた。

 

「アートさん!」

 

 コミは手を伸ばしながら叫んだその時――彼女の脳内に映像がよぎった。翼を持つ巨大なトカゲと少女が戦っている。戦っている少女は後ろにいる誰かに向けて何かを言う。その言葉に頷いた、その者は言葉を発声しようとした。

 

 声が聞こえてくる――声を合わせよと。彼女は言葉を並べていく者に合わるように無意識に声を出していく。

 

 魔法よ……導いて――

 

 言葉を告げるたびに、足元から全身を、光が覆うようにして溢れていく。

 

「オール・エンハンス‼」

 

 最後の言葉を告げたのを合図に、伸ばした手に光が集まっていき、アートに向かって極彩色を放ちながら飛んで行った。

 

「コミ! さっきのは一体何なのじゃ⁉」

 

 ベルは先ほど現象に驚きながら、それを引き起こしたコミへ質問をした。だが反応はなく息切れが僅かに聞こえる。様子を確認しようと――

 

 ドォーン‼

 

 巨大な打撃音が耳をつんざいた。二人は思わず顔をそちらに向ける。先ほどの音は巨像が剣を床にたたきつけた音なのだろう。アートがいた場所には振り下ろし終えた剣があった。

 

 どうなってしまったのか想像が出来てしまう。おそらくアートは――

 

 巨像は彼らに考える隙を与えようとしない。すぐに二人の方へと向き直り、近づき始めるのだった。

 

 二人は逃げるように出口へと駆け出す。アートのおかげで、あと少しで到達できる距離まで、たどり着いていた。二人が走れば巨像に追いつかれる前に脱出できるであろう。

 

 しかし、ベルは走っている途中でコミがいないことに気づいた。後ろを振り返ると彼女は汗をたらしながら膝に手を付け息を整えていた。近づいてくる足音に急いでコミの手を握り、引っ張ると少しでも巨像から距離を稼ぐために走った。

 

 迫る足音が徐々に大きくなっていく……それはまるで死神が近づいてくるように聞こえるのだった。

 

 走る二人の上から影が差し、後ろを振り向くと迫りくる剣が見えた。「万事休すなのじゃ……」そんな言葉がベルの口から零れる。誰もが恐怖に目を閉じようとした時であった。何かが飛来する音が聞こえる。それは巨像の背に力強くぶつかった。後ろからの不意打ちに反応できない巨像は前のめりに倒れ膝をつく。

 

 巨像に衝突した何かは背中から飛び降りると同時にベルとコミを抱えて出口へと走る。太陽の光が見え始め洞窟から二人と何かは脱出することに成功するのだった。

 

 外に出た二人は、すぐに自分たちを運んできた何かを確認すると――

 

 そこにいたのはアートだった。

 

「アートさん! 無事だったんですね!」

 

 コミは喜び抱き着く。

 

「コミさん、落ち着いて」

 

「あっ……すいません」

 

 アートの言葉に落ち着いたコミは照れくさそうに離れた。少し恥ずかしかったのだろうか頬を染めているのが分かる。

 

 それを温かい目で見ていたベルは死んでしまったと思われたアートが生きていたから舞い上がっても仕方ないのと言うように何度も頭を上下に振った。

 

「アート、良く生きてたのう」

 

「はい、なんで生きているのか不思議なぐらいです」

 

 光が体を覆ったときに力が溢れてきた。そのおかげで生き延びることが出来たのだとアートは言う。

 

 ベルは、その光に見覚えがありコミの方へと顔を向ける。

 

「おそらく私が放った光ですよね?」

 

「間違いないじゃろう。それ以外にアートに向かっていく光は見えなかったからのう」

 

 アートはコミが助けてくれたことが分かると、お礼を言う。

 

「ありがとう。あの光がなければ助からなかったです」

 

「いえ、私は特になにも……ただアートさんの無事を願っただけで……」

 

 二人のやり取りを見ていたベルは、このままでは、いつまでたっても終わらぬなと話題を変えようとする。

 

「そこまでじゃ。それでコミよ。あの光の正体は一体何なのじゃ? わしには全く見当がつかん」

 

「分かりません。ただ頭の中に映像と声が聞こえたのです」

 

「映像と、また声ですか……」

 

「それはどのような内容だったのじゃ?」

 

 コミは二人に伝える。アートさんが巨像に殺されそうになっているのを視界に入れた時、走馬灯のように脳内から二人の人物が翼を持つ巨大なトカゲと対峙していたのを見たと。更に一人が言葉を並べていく声に合わせろと聞こえてきたのだと話す。

 

「全く分からん。その言葉は覚えておるかの?」

 

「はい、覚えています。魔法よ……」

 

 ベルの言われる通りに、言葉を紡ぎ始めるとコミの足元から光が溢れてくる。そして最後の言葉とともに光はアートへと吸い込まれていった。

 

「どうやら、その言葉が光を出す鍵のようじゃの。コミは疲れてはいないかの?」

 

「あの時よりはしんどくないです」

 

「無理はせぬようにの。アートはどうかの?」

 

「力が溢れてきます。あの時と変わりません」

 

 不思議な光の効果を確認したベルは遺跡の入口へと前を向け呟く。

 

「マホウ……それはかなりの秘密が隠されておるかもしれないのう」

 

「ベル博士! もう一度、遺跡の中に行くのですか? いくら僕が強くなったからといっても巨像は倒せませんよ」

 

「分かっておるわい。福音には、なにか書いておらぬのか?」

 

「いえ、巨像に関しては載っていましたが、弱点までは……」

 

「そうじゃろな。わしでも不利なこと書く事は、しないわい。そ・こ・で! これじゃ」

 

 ベルは麻袋の中から背負えるほどの巨大な機械を取り出した。

 

 見たことがない機械にコミは疑問を口にする。

 

「ベル博士こんな機械持ってなかったですよね?」

 

「これはじゃな。石扉の調査に使った道具を改造してパワーアップさせたのじゃ。題して見える君じゃ!」

 

 どうやら、石扉で使っていた機械を一つにまとめて四角い箱型に改造。一つの金属の突起物を押すと算出され表示される画面が側面から出現し目の前まで展開する。更に、対象へと道具を近づけなければ調査調べる事が出来なかったのを、遠くからでも調査を可能にした探知機がこの見える君らしい。

 

 高笑いしながら話を進めていくベルに、二人は顔を合わせてから溜息を吐いた。

 

「どうしたのじゃ? いくのじゃ」

 

 いつの間にか入り口付近にいたベルに呼びかけられた二人は、慌ててついていくのであった。

 

 三人は再び地下へと到達する。辺りを見渡すと、先ほど襲ってきた巨像は元の位置に戻っているのが確認できた。動き始めた時に付いた色は元に戻っていないため起動状態のままなのは間違いないだろう。近寄れば、すぐに攻撃してくるのは手に取るように分かった。

 

「やはり無視して通り過ぎるのは難しそうじゃ……おそらく宮殿の中に入るものに対して攻撃をするみたいじゃの。さて、見える君を試してみるかの」

 

 背負った機械が展開され調査を開始する。ベルはしばらくの間、文字が表示されていく画面を見つめていたが不意に顔を上げた。

 

「分かったのじゃ。弱点は人でいうところの心臓付近にある核のような物なのじゃ」

 

「では、そこを破壊したら停止するのですね」

 

「核の部分からエネルギーが通っておる、破壊したら停止するのは間違いないじゃろうな。アートよ頼めるかの?」

 

「はい。コミさん、お願いします」

 

「魔法よ……」

 

 詠唱が開始され、アートへと光が吸い込まれた。

 

「ありがとうございます。後は離れていてください」

 

 彼の指示に二人は少し離れる。それを確認したアートは短剣を手に走り出した。巨像との間はかなり離れた距離だったが、それをものともせず高速で間合いを詰める。

 

 迫ってくるアートを認識した巨像は動き出す。剣が振るわれ風圧がアートを襲うが、彼はひるむことなく接敵し対峙する。巨大な音が鳴り響く激しい攻防が始まったのだった――

 

 風が吹き込む中、そんな光景を見ているコミはアートの無事を心配していた。

 

「アートさん……大丈夫なんでしょうか?」

 

「大丈夫じゃろう。それ巨像が転んだのじゃ」

 

 ベルが指をさす、その先には転んだ巨像の胸に剣を突き立てようとしているアートが見えた。巨像は立ち上がろうとするが先に剣の方が突き刺さる。青い光が漏れ出していき、やがて巨像は動きを止めるのだった。アートの戦いの一部始終を見ていた二人はアートの方へと急いで駆けよる。

 

 彼は二人を見ると少しよろけながら手を上げていた。

 

「アートさん、やりましたね!」

 

「何とかって感じですよ。コミさん」

 

「おぬしの功績じゃ。よくやったのじゃ」

 

「ありがとうございます。ベル博士」

 

「ようやくこれで、宮殿の中に入れるの」

 

 三人は既に扉が開いている宮殿を見る。

 

「そうですね」

 

「ようやく入れますね」

 

「今度は何もおこならないことを願いながら入るとするかの」

 

 ベルの言葉に三人は笑った。しばらく笑ってから、宮殿に入っていく。

 

 今度は何事もなく入れたようだで三人は安堵の表情を浮かべる。宮殿の中は大きなエントランスホールとなっており青白い光が周囲を漂っており、部屋の左右と奥にある二つの大階段の間に扉が存在するのが確認できた。

 

「これは……見事な物じゃのう」

 

「分かってはいましたが広いですね」

 

「青い光が外よりも増えておる。おそらく、ここから外へと出て行っているようじゃの」

 

 外で浮かぶ青白い光はどうやら宮殿から溢れ出したものだったようで洞窟内よりも明るかった。

 

「ベル博士どこから調べますか?」

 

「そうじゃのう。どこか手がかりがあればよいのだがのう」

 

「ベル博士。一度扉を開いてみませんか?」

 

 コミは提案しながら右にある近くの扉を開けようとしたが、開かなかった。

 

「扉が開きません」

 

「どれ? わしに見せてみるのじゃ」

 

 ベルが扉に近づこうとした時、扉から青白く光る丸い円が現れる。その円は文字を内側の線に沿って浮かび上がらせ陣を形成していった。

 

「ふむ……アート、なんて書いてあるのじゃ?」

 

「シュゴ、フウインと書かれていますね」

 

「ということは、この扉を開けることは出来ないってことですか?」

 

「どうだろうの。コミ、扉に手を」

 

 コミは扉に手を付けようとしたら、陣から電流が走りはじかれる。彼女はイタっという声と共に手を引っ込めた。

 

「コミさん大丈夫ですか?」

 

「はい大丈夫です。ですが開けられません。取っ手には触れられますが扉自体には触れられません」

 

「開けられないのであれば仕方ないのじゃ。開けられる扉を探すとするかの」

 

 三人は開けられる扉を探していく。ほとんどの扉は陣が形成され開けることは叶わなかったが、二階にある左側の扉は開くことが出来て安堵した。

 

「この扉は開きましたね」

 

「まさか……この扉以外、開かないとはの」

 

「開く扉があってよかったです」

 

 中を覗いてみると長い廊下が現れる。壁にはいくつもの扉があるのが目についた。

 

「扉……たくさんありますね……」

 

「とりあえず、近くから見ていこう」

 

「扉は……開くようじゃの」

 

 ベルが近くの扉を開くと、そこは寝室のようで寝る場所が完備されていた。

 

「ベッドがありますね」

 

「見たことのない素材で出来ておるようじゃが、本当にただのベッドじゃな。見える君も何も反応せぬな」

 

「ではここには怪しいところは無さそうですね」

 

「次に行きましょう」

 

 廊下に出て次の扉を開いたが、そこも同じく寝室だった。

 

「もしかして全部、寝室なんでしょうか?」

 

「とにかく回ってみるのじゃ。もしかしたら何かはあるはずじゃ」

 

 他の扉も開いてみたが、寝室ばかりで頼みの綱である見える君も反応を示さなかった。

 

「何もなかったのう」

 

「見える君も反応しないですね」

 

 ベルとアートは、何の成果も得られず肩を落としていたが、コミだけは廊下の奥を見ていた。

 

「ベル博士、アートさんも何を言っているのですか? まだ廊下の奥に扉はありますよ?」

 

 コミの言葉に二人は廊下の奥を見るが何もなかった。

 

「何もないですよコミさん」

 

「わしも何も見えんのじゃが」

 

「えー!? ほらここに大きな扉が!」

 

 何も見えないという二人に対して、大きな扉がありますよとでも言うように、手を大きく振りながらここにあるとコミが訴える。

 

「本当に見えないのじゃが。コミがそこまで言うのであれば、見える君を使ってみるかの」

 

「どうです? ベル博士」

 

「ほんの少しじゃが、確かに反応しておるの。コミにしか見えぬ扉か……これもマホウというのが関係しておるのかの」

 

 見える君は反応しているらしいが、見えるのは壁があるだけだった。

 

「コミさん。僕たちでは、どう開ければいいのか分かりません。開けてもらえませんか?」

 

「本当に見えないのですね。分かりました。開けますので、そこをどいてください」

 

 コミが壁に触れようとすると、隠されていた扉が青い光で形作られる。扉が独りでに開くのだった。

 

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