魔法が忘れ去られた世界で願いを   作:六角ルビー

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第八話 研究

 夜が明け朝日が昇り三人は食事をすました後、遺跡の捜索で手に入れた情報を整理していた。

 

「まずは、捜索で手に入れたものじゃな。辞典と鍵、それとこの青白く光り浮かぶ何か、紫の石の欠片じゃ」

 

 ベルが本と複雑な彫りがついた金属の棒、青白く光る何かが入っている瓶、紫色に透き通る石の欠片を机の上に並べた。するとコミが本を手に取る。

 

「この本はゴーレムの辞典だと分かっていますね」

 

「そうじゃの。これは後でアートに文字を教えて貰ってから調べるとするのじゃ。それで、いいかのアート」

 

「教えるといいましたし、問題ないです」

 

「では、一度この本は置いておくとするのじゃ。次は鍵じゃな」

 

 本を持っていたコミは机に本を置いて鍵の方を見る。

 

「アートさんの説明通りであれば、ただの鍵にしか見えないのですけど……」

 

「いや、何かが漏れているのは確実じゃ。ただの鍵ではないのは間違いないじゃろう」

 

 二人の話を聞いていたアートは、コミが鍵に触れたのに何も起きなかったと言い、本にも詳しく書かれていなかったので他にどうやって調べたらいいかと聞こうとする。

 

「福音の本が発見された場所に軍の仮拠点があるのじゃ。その中にある仮研究室であれば調べられるはず。この瓶の中の光も同じく研究室で調べたほうがよさそうじゃの。次はこれじゃ」

 

 ベルはアートの質問に答えながら、鍵と瓶を本の近くに置き、紫色の透き通る石を三人が見えやすいように移動させる。

 

「紫色の石ですか……これも研究室で調べたほうがいいのでは?」

 

 アートはベルが先ほど言っていた仮研究室で調べることを提案するが、ベルが顎に手を置く素振りをしてから答えた。

 

「確かに、研究室で調べたほうがよいとは思うのじゃが。昨日の夜に起きた現象に対して確認しておきたくての。それに今朝から何もなさそうにしておるがコミは昨日から体に変化はないのじゃ?」

 

「昨日に話した通り、体の疲れが取れたぐらいですね。その後は特におかしなことは起きていません」

 

「ふむ……では、この石の欠片を持ってみてくれなのじゃ」

 

 コミは言われた通り、紫の石の欠片を手に取る。光が反射し薄く輝いただけで、昨日のような現象は起きなかった。

 

「何も起きないの。何が条件じゃったのじゃ?」

 

 ベルは、昨日のような反応をしないでいる、紫の石の欠片を見つめながら考える。

 

「マホウを使用した後だったからではないですか? 使用した後に来た疲労が回復したんですよね」

 

「確かに使用した後でした」

 

 アートとコミの言葉のやり取りを聞いたベルがコミに指示をする。

 

「次は、使ってから石を手に取ってみるのじゃ」

 

 指示に従いコミはアートに向けてマホウを使った後、紫の石の欠片を手に取る。しばらくすると欠片が淡い紫色に光を放ち体の中へと吸い込まれていく。手に持った欠片は徐々に石になっていった。

 

「どうじゃ? 昨日と変わらぬか?」

 

「はい……昨日と同じ感覚です。使用した後の疲労も取れました」

 

「そうなるとマホウを使用した者だけが使える石で、疲労を回復させる効果があるのかもしれないのう。疲労が回復した分だけマホウが使えるようになってないかの?」

 

「感覚的に使用する前に戻った感じがします。おそらくですが使えると思います」

 

「石の欠片は複数残っておる。一つは研究用に残しておくとして、残りはコミが持っていたほうがいいのじゃ」

 

 ベルは紫色の石の欠片を一つ手元に置き、残りをコミの前に置きながら話を続ける。

 

「この先、宮殿を捜索するにあたって、マホウが絶対に必要になってくるはず。そこでマホウを使えるコミが疲れて使えない状態になってしまうと、ゴーレムや霧の獣が現れたときに対処できず、死につながる可能性があるからの」

 

「分かりました。石は貰っておきますね」

 

 ベルの言葉に了承したコミは、紫色の石の欠片を手前へと引き寄せた。

 

「あとは昨日の夜、現れた獣じゃの。攻撃が効かず殺したとしても肉体を残さぬ生き物など聞いたことがないのじゃ。頼みの綱は、奴が落とした紫色の石の欠片だけじゃが、心臓だった以外に説明がつかぬ。二人は何か分からぬかの?」

 

 ベルは昨日の夜に現れた霧で体が出来ている獣に対し、最初に出会った二人に質問をするが、二人は分からないと首を振る。

 

「分からないです。黒い霧で出来た獣としか……」

 

「僕も霧から生まれた獣というのは聞いたことがありません。オカルトなどを、詳しく知っている人がいれば、何か分かるかもしれませんが」

 

 アートのオカルトという言葉に何かを思い出したようにベルが答える。

 

「そういえば、オカルトなら研究員に詳しいやつがいたの。仮拠点にいけば会えるはずじゃ」

 

「なら、その人に聞いてみましょう。ちなみに、どんな人なのですか?」

 

 会ったことがないアートは、その研究員について質問するとコミが答えた。何でも背の高い女性であり、陽気な方だと言われ彼は少し安心した。

 

「さて、ほとんど研究室で調べることになったの。準備をおこなってから、向かうとするのじゃ」

 

 ベルの言葉に二人は返事をすると準備をおこなうために、部屋を出ていった。それを見送ったベルは一人呟く。

 

「まさか……あそこに行くことになるとはのう。もう少し離れていたかったのじゃ」

 

 溜息を吐いたベルは机の上に置いた物を片付け、部屋を出ていくのだった。

 

 ♢

 

 一行は仮研究室に向かうため出発の準備を終えた後、家の外へと出る。

 

「仮研究室は、ここから東に向かった先にあるのじゃ。忘れ物はないかの」

 

 ベルに聞かれた二人は特に無いと答えた。

 

「では出発するのじゃ」

 

 三人は家から東にある仮研究室に向けて歩き出した。しばらく歩いていると広々とした空間に出る。広場の中央には石の台らしき物があり、巨大なオブジェが石の台をかこむように地面から生えていた。そばには沢山の人影が集まって何かをしているのが確認できる。そこから視線をはずすと少し離れたところにテントらしきものが複数と、大きい木造の家が一軒建っているのが見えた。

 

「到着じゃ。二人は少し待っておれ、デトロス隊長を探してくるのじゃ」

 

 ベルはそれだけ言うとテントの方へと小走りで走っていった。残された二人はベルの帰りを待つため近くあった岩に腰を掛ける。

 

「そういえば、デトロス隊長について聞いていませんでした。どういった方なのでしょうか」

 

「デトロス隊長を知っているのですか⁉

 

「コミさんが寝込んでいた時に、副隊長のオルフさんが来まして。その時にベル博士から聞かされたんです。国の命令が絶対の方だって」

 

「確かにそうです。デトロス隊長は国の命令が絶対という方でして、どれだけ理にかなったことであっても、国の命令があれば、そちらに従ってしまうのです」

 

「それは……」

 

 アートが何かを言おうとした時、テントの方から二つの影が近寄ってくるのが見えた。

 

「来たみたいですね」

 

 二人は立ち上がり人影が近くに来るのを待つ。すると見えてくるのはベルと副隊長のオルフであった。

 

「あれ? オルフさんですね。どうしてでしょうか」

 

 デトロスではなくオルフが来たことにコミが疑問に感じて声を漏らす。

 

「副隊長のオルフを連れてきたのじゃ」

 

 ベルが二人の前に到着するとオルフを紹介する。デトロスが来ると思っていた二人はオルフが来て困惑していた。

 

「私はオルフ副隊長です。現在デトロス隊長は黒い霧の獣の出現により、町の見回りへと向かいました。今は私が、ここの監視を任されている状態です」

 

 困惑する二人はオルフが説明したことで理解し冷静になるが、黒い霧の獣が別のところでも現れていたということに驚く。

 

「ベル博士、一体どういうことですか?」

 

「わしも分からんが、どうやら昨日の夜、この島のいたるところで黒い霧の獣が現れたのは間違いないのじゃ。そうじゃのオルフ」

 

「はい。いまだに信じられませんが、間違いはないでしょう」

 

「ちなみに、どうやって倒したのかね?」

 

「オカルト好きの研究員のおかげです。彼女がいなければ倒せなかったでしょう。ですが、他の場所では対策が取れず大きな損害を出しました」

 

「なら他の場所には、まだ黒い霧の獣がいるのかの?」

 

「太陽が昇るころには姿形が消えていましたので恐らく、いない可能性が高いです。ただ確証はないため、念をいれてデトロス隊長が見回りに行きました。しかし、私の話に、あまり驚かないということは、お三方も獣に出会っているのですか?」

 

「だからデトロスがいなかったのじゃな。それと獣には会っておるのじゃ。なかなかに苦労したがの」

 

「苦労したといっていますが、元気な様子を見る限り、逃げ切れたということで?」

 

「いや、退治したのじゃ。おそらく、お主たちと同じ方法での」

 

「なるほど、怪我をする前に弱点が見つかったということですね」

 

「ところで、今から仮研究室を使いたいのじゃが、アートは入っても構わぬかのう」

 

「そうですね。本来であれば、正式に軍に所属していない人を入らせてはいけないのですが、ベル博士が信頼しているようですし、許可を出します。くれぐれも余計なことはしないでください。デトロス隊長にバレたら大変ですから」

 

「分かりました。気を付けます」

 

「オルフはこの後どうするのじゃ?」

 

「私はデトロス隊長が帰還するまでは、中央にある石の台の近くで見張りをしています。何かあれば、近くにいる兵士に伝言をお願いしてください」

 

「分かったのじゃ。では、仮研究室に行くのじゃ」

 

 三人はオルフと石の台の付近まで一緒に歩いて仮研究室へと向かった。

 

「ここが仮研究室じゃの」

 

 ベルが顔を向ける先には大きめの木造で出来た家がある。遠くからでも見えていた家だ。

 

「仮研究室なのは分かりましたが、どうしてここだけ木造なんですか? 他はテントなのに……」

 

 アートが疑問を口にしながらテントの方へと顔を向ける。

 

「それはじゃな。高価で壊れやすい機械などを持ってきておるからじゃの。テントの中になんか入れておいたら、何かの拍子に落ちたり踏んづけてしまう可能性が高くなるのじゃ。その危険性をなるべく回避するために、しっかりした家がいるのじゃの」

 

「それで木造の家を……」

 

「さて、入るかの」

 

 ベルが先に扉を開けて中に入って二人を招く。二人が中に入ると機械が沢山並んでいるのが見えた。

 

「すごいですね。これだけあれば調べようとしているもの全部、分かるんじゃないですか?」

 

「いや、この辺りの機械では何も分からぬじゃろう。もう少し奥の方にあるはずじゃ」

 

 二人はベルに案内されて家の奥の方へと向かう。家の奥には筒状のガラスが付いた機械が机の上に置いてあった。

 

「もしかして、これで調べるのですか?」

 

「そうじゃ、このガラスの筒に入れて横の突起を押し、下についている画面に結果が表示されるという仕組みじゃ。試しに、この紫の欠片を入れてみるのじゃ」

 

 彼はガラスの筒を外し、紫の欠片を入れ元に戻す。しっかりと設置できているのかを確認してから、突起を押すと機械が動き出した。

 

「あとは、しばらく待つだけじゃな」

 

「どれだけ待てばいいのですか?」

 

「数分もすれば大丈夫じゃろう」

 

 三人はじっと見つめながら機械の結果を待っていると、後ろから声を掛けられた。

 

「みんな~何してるの~?」

 

 突然、後ろから声をかけられた三人は驚愕し、素早く後ろを振り向く。すると背の高い女性が薄笑いしながら、こちらを見ていた。

 

「見られない子がいるけど……コミちゃん、ベル博士、久しぶり元気してた?」

 

「お・お・驚かせないでくれなのじゃ!」

 

「久しぶりだったからつい?」

 

「つい? ではないのじゃ……」

 

 ベルは溜息を吐いて頭を抱える。

 

「アート、この人がミランダじゃ。例のオカルト好きじゃよ。これじゃから来たくなかったのじゃ」

 

「オカルト好きなのは確かだけど、来たくないは心外ね」

 

 先ほどのベルの言葉にミランダは怒るようにベルを睨みつける。

 

「ミランダ、この人はアートじゃ。現在わしの研究を手伝ってもらっておる」

 

「アートです。よろしくお願いします」

 

「アート君ね。よろしく」

 

 ミランダが手を伸ばし握手を求める。アートは握手に応じると、突然手をつかんだまま引っ張られ肩を組まれた。ミランダが耳元で囁く。

 

「ベル博士から嫌なことされてない? 何かあったらお姉さんに相談するのよ」

 

「ミランダ聞こえておるぞ。何も変なことはしておらぬのじゃ」

 

 ベルの言葉に肩を組むのをミランダは止めた。

 

「分かっているわよ。でも念のためってね。それよりもコミちゃん元気してたー? 変なことされていない?」

 

「大丈夫ですよ。二人とも良い方です」

 

「男だけの空間が嫌だったら、すぐに戻ってきてもいいのよ」

 

「たく、用件はそれだけかの?」

 

「違うわ。私も、その機械を使いたくてね。ここに来る道中で軍の人に聞いたと思うんだけど、黒い霧の獣を退治したって言ってたじゃない。それで獣が落としたこの紫の欠片を調べてみたくってね」

 

 ミランダが服についたポケットから紫色の欠片を取り出す。それはアート達が持っている紫の欠片と同じように見えた。

 

「もしかして、これと同じではないですか?」

 

 コミがポケットに入れていた紫の欠片を取り出す。するとミランダが驚愕する。

 

「あなたたちも持っていたの!? もしかして今、機械に入れているものは……」

 

「そうじゃ、その紫の欠片じゃ」

 

 四人が話しをしていると、機械が大きな音を鳴らし出した。

 

「どうやら、終わったようじゃの。どれどれ?」

 

 ベルは画面に表示された結果を確認し始めると、ミランダが後ろか覗き込む。

 

「どう? 何が書いて……うそ……こんなのありえない」

 

「大丈夫ですか? 何が書いてあったのですか?」

 

 ミランダのあまりの動揺にコミが心配するとベルが動揺する彼女の代わりに答えたのだった。

 

「膨大なエネルギーが眠っておる。この欠片一つで、一世帯の一ヶ月分の電気が賄えてしまうほどじゃ」

 

「そんなに……」

 

「それってとんでもないじゃないですか!」

 

 ベルの答えにコミとアートは驚愕する。二人の驚愕を見て落ち着きを取り戻したミランダが話を続ける。

 

「ええ、とてつもないわよ。こんなものが溢れかえったら、世界の常識は瞬く間に変わってしまうでしょうね」

 

「しかし、欠片のエネルギーを抽出することが現状出来ぬため、すぐさま問題にはならぬであろうな」

 

「え? できないの?」

 

 ミランダがベルの言葉に思わず疑問を口にする。

 

「現状それが出来るのは、マホウが使えるコミだけじゃ。しかもエネルギーの一部は消えてしまうようじゃの」

 

「どうしてエネルギーが消えてしまうなんて分かるんですか?」

 

「エネルギーがコミに吸い込まれていったとき、コミが爆散しなかったのじゃ。こんなエネルギーを人体に入れれば、速攻で肉体が吹き飛ぶはずじゃからの」

 

 三人だけが分かる会話が始まり、理解が追いつかないミランダが手のひらを見せて待ったをかける。

 

「待って待って、三人だけが分かる会話しているんじゃないわよ。まず、マホウというのが分からないし、第一コミちゃんの体にそんな危険物が入って大丈夫なの?」

 

「特に体に違和感はありません。いつも通り動けますよ」

 

「コミが大丈夫と言っておるのじゃから、おそらく大丈夫であろう。それでマホウというのはじゃな──」

 

 ベルがミランダにマホウを教えようとするのだが、それよりも早くミランダがコミの元へ駆け寄り肩を強く掴む。

 

「大丈夫じゃないでしょ! コミちゃんは一度、健康診断をおこなったほうがいいわ。うん、それがいいと思う──ね?」

 

 コミはミランダの顔の圧に負けてしまい。素直に手を引かれていった。

 

「どうします? ベル博士」

 

 ベルは溜息を吐いた。

 

「とりあえず戻ってくる前に、他の調べるものを機械で調べるのじゃ」

 

「あっはい……」

 

 アートとベルは二人が帰ってくるまで、調べるはずだった物を機械に入れ込んで、結果を確認すると同時に紙に書きこんでいったのであった。

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