人生で初めて買った音声作品がカスの嘘お姉さんASMRになったので初投稿です。
評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。糧です。
1/25,1/30 加筆修正を行いました。
「ふむ…先生、黒豆の製造は厳密には違法なのですよ」
しまった!カスの嘘だ!
早朝の作業中、フウカからお正月の残りとしてもらった黒豆を摘まみながら作業を行っていたところ、今日の当番であるヒマリが突然そう言った。
冷凍保存されていた黒豆をルンルンで解凍したら
「…違法?」
不穏なワードをオウム返しすると、ヒマリは何処か得意げな微笑を浮かべて頷いた。カス嘘のときの顔である。もうこうなってしまっては止まらない。
「えぇ、違法です。それを詳しく説明するためには…そうですね、私も黒豆を頂いてもよろしいでしょうか?」
別に詳しく説明してほしいわけではないが、欲しいと言われたら断る理由は無い。フウカのおせちは美味しいのできっと彼女も気に入るだろうし、微々たるものだが量も減らせる。調子に乗って解凍しすぎたこともあって、一石二鳥だといえる。何か鳥を2匹仕留めたらついでに何か変な物が飛んで来たけど。
「いいよ、ちょっと待ってて…」
新しい箸をとってくるために席を立とうとすると、ヒマリに腕を掴まれた。どうしたのかとそちらを向けば、親鳥から餌をもらう雛のように口を開いた彼女と目が合う。…食べさせろと?
暫く無言で見つめった後、結局こちらが折れて箸の逆方向でつまんだ豆を彼女の口へ放り込んだ。飴玉のように暫しコロコロと口の中で弄ぶと、数度の咀嚼ののち、彼女の細い喉がこくんと動いた。
「…ふぅ、あら、おいしい」
「でしょ?」
上品に口元を細い指で押さえて漏らされた感嘆の声に、こちらも笑って返す。黒豆というとあまり子供ウケしないイメージではあったが、喜んでくれて素直に嬉しく感じた。
というか、演歌が趣味だったりこういう渋いものを好んだりと、意外とヒマリは趣味に関しては老成した女性のような───
思考を読まないで、と思った瞬間、空気がピシッと硬直する。
全身を搾られているかのような圧力に屈し、ヒマリへ向けて軽く頭を下げると、彼女はじとっとした視線でこちらを見た。視線が痛い。
どうにか耐えて平謝りを続けていると、彼女は暫く目を閉じた後に、いつもの微笑へ表情を戻した。どうやら許してもらえたらしい。
内心でほっと胸を撫でおろしたのもつかの間、彼女は意気揚々と口を開いた。先程の負い目がある以上、止めるのは申し訳ないと思った瞬間、先程のやり取りで免罪符を与えてしまっていたことに気付く。ははっ、もう終わりだ。
「……さて、黒豆は大抵パックで売られていますね。あれはそもそも黒豆の製造が違法であり、選ばれた者だけが製造を許されている…という理由からくるものです」
「製法がいけないってこと?」
「えぇ、そもそも黒豆自体は大豆です…あ、これは本当ですよ?」
これ"は"と言ってしまっている。つまるところ別の部分は嘘であると暗に言っているようなものだ。
もうこの話終わりにしていいかな。
体は既に仕事に戻っており、耳だけが彼女の方へ注意を向けている状況だ。
仕事自体は流れ作業のようなものなので、内容的には何のメリットも無い話は、彼女の耳触りの良い声も相まって作業のお供としては最適な部類に入るのだろう。
いやでもやはり何の反応も返さないのは気が引けるな、と思った瞬間、彼女が言葉をつづけた。
「黒豆を付ける出汁の下ごしらえには、毒を含む材料が多く含まれていました」
蟲毒かな?
そりゃ違法である。というか自分が食べているものがそうしてできた物だと言われると、思わず箸が止まってしまう。それを尻目に、ヒマリは言葉をつづけた。
「今でこそ品種改良によってそれらはなくなりましたが…かつては、それらの化学反応によって、毒が一つになるまで煮込むというのが主流の料理法だったようです」
蟲毒じゃん。
いや、ここは現代では行われていない確証が得られたことを喜ぶべきかもしれない。
喜ばしいついでに、黒豆の一粒を摘まんで口に入れた。もそっとした食感が口に優しい。
「そうして最後に残った汁を全て棄て、きちんと洗った釜で改めて煮出汁を作って豆を作るのが、正式な調理工程なのです」
「えぇ………」
棄てるんかい。
下ごしらえというか食器洗ってるだけじゃないかソレ。もしくは煮沸消毒。
急に梯子を外された気分になり、溜息の様に口から言葉が漏れる。それにヒマリはクスクスと笑うと、箸で黒豆をひょいと摘まみ上げた。
「今でこそ色合いになぞらえて「黒豆」と呼ばれていますが、もともとは多大な苦労によって生み出されるために「苦労豆」と呼ばれていたのですよ?」
「オチそこに付くんだ……」
「付くのです。はいどうぞ…あっ」
ヒマリがそう言って箸をひょいと上げれば、つるりと黒豆がその間をすっぽ抜け、華麗に宙を舞った。
「ちょっ…んむぐっ」
「ナイスキャッチです。いえ、我ながら美少女に相応しい整った曲線のナイススロー、でしょうか」
なんとかして口で受け取ると、ヒマリの顔に満足げな笑みが浮かんだ。明らかに落としかけていただろうによく言うものだと、黒豆を咀嚼しながら考える。
相も変わらず素朴な美味しさだが、ヒマリが言うには違法の味らしい。ならば中々に背徳的な行為なのではないだろうか。
「しかし箸は大抵表面張力によって食材が落ちづらくなっているのですが…いえ、弘法にも筆の誤り、器用さも折り紙付きの超天才美少女にも箸の誤りと言ったところでしょうか」
もう何でも繫げてくるな。あとやっぱ落としていたんじゃないか。
というか、どの嘘も絶妙にあり得そうなラインを攻めてくるあたり中々に始末が悪い。今のところ私以外に披露している様子がないから良いのだが、嘘だと思っているこれが本当の豆知識だったらどうすればいいのだろうか。
…別にどうもならないな。
思わず「無駄」とタイピングしそうになり、慌ててバックスペースキーを押す。視界の端でヒマリがピクリと反応したのを見ると、彼女も一応こちらの動向を見守ってくれているようだ。
だったら手伝って欲しいなぁと思う。折角ハッカーなのだから、こういう系統は得意分野ではないだろうか。
「ただのハッカーではありません。超天才美少女で尚且つこのキヴォトスにおける最高位のハッカーです。お間違いないように」
思考。(詠唱破棄)
どこか定型化されたやりとりに軽く苦笑を浮かべると、ヒマリがぴんと人差し指を立てた。
「実は、厳密には違法であるものは結構存在するのですよ」
今思ったけどキヴォトスにおける法って十全に機能しているのだろうか。
いや、機能していない面があるからヒナをはじめとした風紀委員や、ツルギたち正義実現委員がいるのだろうけれど。
「例えば?」
「そうですね…あ、水族館。あれは違法ですね」
想定外の物が飛び出した。
脳内でホシノが「うへ~~~~!!」と唸っている。共犯だな、私たち……*1
晴れて犯罪者となった私の横で、ヒマリが意気揚々と解説を続ける。さながら、探偵の推理を聞かされる犯人の気分だ。刑事さん私がやったんでコイツどっかやってもらっていいですか。
「水族館には大抵レストランが備え付けられていますが、あれはそもそも水族館が違法であるため、『レストランにご飯を食べに来た客が休憩中に生簀の中の魚を眺めている』というていで運営しているのです」
とんでもない理屈だ。それを初めに考えたやつの気が知れない。
いやこれ多分目の前にいるわ。今ドヤ顔で自信満々に語ってるわ。
本気で何しに来たの?
「それは困った。前に行ったとき、レストランに寄らず帰っちゃった」
「まぁ、それは………違法ですね」
「ゆるされないんだ…」
「はい、ヴァルキューレに突き出されても文句は言えません」
首をふるふると振ってヒマリが言う。もう自分の手に負えないといった具合の沈痛さだが、やったことは水族館に行ったことだけだ。
突き出されても文句は言えないというが、どちらかといえばヴァルキューレの方が文句を言いたいんじゃないのかその法制度。
今日もキヴォトスの法整備はガバガバである。行政のシャーレ涙目。私も仕事が終わらなくて涙目。もう駄目っぽいからみんなで一緒に泣こうと思う。共犯のホシノも一緒だよ。*2
概念に片足突っ込んでいる仲間たちとイマジナリー円陣を組んだところで、ヒマリがちょん、と私の横腹をつついた。
「…ですが、魚を見た後にレストランへ行けばいいので。後々レストランに行けば結果として合法と言って差し支えないでしょう」
「何その煙管乗車みたいな理屈」
「バレなければ犯罪ではない、というものです。というわけで今度行きましょう。それで合法です」
脱法だよ。
ともあれ、彼女が水族館に行きたいのであれば止める必要はない…
…ないのだが、水族館というスポットが最早カス嘘を誘発する場所にしか思えない。苦痛ではないが、それを信じてしまう人がいたら事である。
あと混雑具合によってゴミのような情報が不特定多数の脳に流し込まれる事態に陥りかねない。最悪の領域展開だ。
「最近はどこの水族館も、入場チケットを年に3ミリずつ大きくする法律が制定されたばかりですからね」
何の意味があるんだその法律。
「映っている魚を年々ズームアップする法律が制定されて3年になりますが、感慨深いものです。以前のものと比べてどうなっているのか見てみたいですね」
だから何の意味があるんだよその法律も。
急に畳みかけられた。意味分からない内容の訳が分からない法律が渋滞していつまでも情報が完結しない。
とりあえず彼女が水族館に行きたいことだけは痛いほど分かったので、パソコンを操作して予約用のサイトを起動する。
「いつ行こうか?チケットは取っておくよ」
「まぁ…!ありがとうございます。では次に私が当番の日にしましょうか」
「でも仕事の具合では行けないかもしれないから、その時はごめんね」
「ふふふ…この業務に於いては最高効率を突き進む天才美少女が当番なのです。その心配は必要ありません」
確かにカス嘘のせいで業務効率的には悪いように思えるが、彼女が本気で手伝ってくれればこのような業務はまさに朝飯前と言えるだろう。
カス嘘さえなければ………そう思っていると、不意にヒマリが指を軽く動かし、ホログラムディスプレイを起動した。
「心ばかりの謝礼ですが…えいっ」
彼女が空中に軽く指を滑らせると、突如として私のパソコンのソフトに数字が打ち込まれてゆく。否、撃ち込まれると言っていいほどのその速度にぽかんと口を開けていると、ヒマリが体を寄せて私の手元の書類を覗き込んだ。
「ふむ、見たところ間違いは無いようですね」
画面を眺めれば、手元の書類に果てなく印字されていた予算申請をはじめとする数字たちが、寸分の狂い無くソフトに打ち込まれ、整理されている。
修行部の寝具一式に、C&Cの銃弾や爆弾、ゲーム部のゲームソフト、エンジニア部に片栗粉3t……なんか最後変な物混ざってたな。
「…流石、超天才美少女ハッカー」
「えぇ、えぇ。もっと褒めてくれても構わないのですよ?」
ヒマリの話をバックに進めて25%程度だった進捗が一気に7割近くまで終わったことに、素直に感嘆の声を漏らす。
それに対してヒマリは、当然と言った具合に胸を反らす。いかにも誇らしげな笑みがその顔に浮かんでいた。
このままいけば午前中にすべての業務が完了するぞとほくそ笑んだ瞬間、ヒマリが口を開いた。
「では水族館の話に戻りますが、ジンベエザメは顎が弱点です」
しまった!カスの嘘再開だ!!!
そして4時間かけてカスの嘘を聞かされた後、彼女が「まぁこのくらいでいいでしょう」と仕事を手伝い始めて20分で本日の業務は終了した。
勘弁してくれ。
読んでくださりありがとうございます。
ヒマリ、校内放送でカスの嘘流してくれ。
以下お礼
赤評価!!!???
何だ夢か……
赤評価!!!??
となっておりました。
重ね重ねになりますが、皆様本当にありがとうございます。
Connor様、userlame_tan様、スプライト茶漬け様、@マロ様、bm4mrdsde様、歌憐様、tea-様、ばるばろっさ様、kattas様、Ⅳ肆③様、aimai-P様、ヴィリタス様、世桜様、アカシアの木様、抹茶漬け様、むやみ様、foxey15877様、あにまに様、TDN糞土方様、まさかかまいたち様、Be Cows様、炬燵の猫様、huzikura様、べるぎあ様
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foxey15877様には誤字報告、Ⅳ肆③様には感想、お二方と可憐様には評価まで頂いて…感謝してもしきれません。
評価下さった奏デル様、サンドピット様(感想有難う御座います、励みになります!)、骸纏様、相殺様、お祈りメール様の5名様にも心からのお礼を!
それでは、再度会えたら宜しくお願い致します。