カスの嘘お姉さんASMRで「悪い夢」が一番好きなので初投稿です。皆様も是非(ダイマ)
誤字報告、評価、ここすき、感想、お気に入り登録、しおり。そして何よりご拝読。心からありがとうございます。栄養です。
2/1、誤字修正を行いました。後書きに「カス嘘ヒマリの空知恵(誤用)袋」への誘導を張り付けました。
「先生、どうぞ横になってください」
開口一番飛び出すのは、いつも通りのカスの嘘豆知識…では無かった。
「…え?」
「そこに立っていられては耳かきが出来ないではないですか」
いつもの柔和な微笑を浮かべたまま、さも当然といった具合にヒマリが言う。
「どうぞ、このパールのような白さとマシュマロのような柔らかさが共存する超絶美少女の膝枕へ、頭を預けて下さい。服越しですが柔らかさは保証しますよ?」
ぽんぽんと太ももを叩くヒマリに、口をぽかんと開けたまま呆けてしまう。
いつものように嘘の豆知識を言ってこないことを素直に喜ぶべきかと思いながらも、違和感がぬぐえない。何か熱でもあるんじゃないかと訝しげに視線を送るが、当のヒマリに変わった様子は見られなかった。
そもそも一体どうしてこんなことに──そう考えたところで、ここに至るまでの経緯が全く思い出せないことに気が付く。
その瞬間、チャプターを飛ばしたようにパッと私の視界が切り替わった。
世界が横に90度傾いており、右側には何かに押し付けられるような感覚がある。
視界を上下左右に動かしてみると、見慣れた部屋だというのに今私を膝にのせているヒマリ以外はいやにぼやけているのに気が付いた。
なるほど、これは夢か。
「ふふ、いらっしゃいませ、先生」
くすくす、とヒマリが軽く笑うのが聞こえて、彼女の細い指が私の頬をつついた。ひんやりとした指先に、涼やかな温度の彼女の衣服の質感を感じる。いやにリアルな夢である。
「ふぅ、では早速…さん、てん……」
彼女の肌の熱すら感じられるほどの至近距離で、囁き声と吐息が耳をそっと撫でる。聞こえる数字からして、彼女らしく円周率でも唱えるのだろうか。
しかし、これは良い。とても。
ヒマリの鈴を鳴らしたような清廉さのある声も相まって、ただでさえ意識のぼやけた夢の中なのにまどろみの中にいるような心地になる。
あぁ、もうずっとこのままでもいいかもしれない───そう思った瞬間、ヒマリが言葉を続けた。
「…3.14から続く円周率は実は計算式の変更で3.2で終わるようになったのですよ……」
カス嘘だこれ!!!!!
誰か!!早く私をここから出して!!!!
今日の当番!あっウタハだ!!ウタハ!!!うんうん唸ってると思うからさっさと起こしてくれ!
しかし現実は非情である。声を出そうとしても叫びが出ず、体を動かそうとしても金縛りにあったようにピクリとも反応しない。
明晰夢だというのに思い通りにならない現状に絶望していると、ヒマリは「漸く言えました」と言わんばかりに誇らしげな溜息を吐いた。
「ふふ…お待たせしました、先生。豆知識が無いと物足りませんでしたよね。ちなみにお待たせはもともと意味が喪失してしまった古代語から響きだけを借りた物なのですよ」
待ってない!!!
というかどう考えても『待たせてしまいました』とかからできた言葉だろうそれは!!
ふふんと得意げに笑ったヒマリを全力で否定しようとするも、声が出ない。唸り声すら漏らせないのは明晰夢としてどうなのだろうか。
「ほら、力を抜いてください…えぇ、分かっています。頻度は落ちますが、きちんと豆知識を混ぜながら耳かきをしてゆきますよ」
耳かきの方に集中してくれ。切実に。
そうこうしているうちに、耳の中に耳かきが挿入される。耳の壁を軽くこつこつと刺激しながら入ってくるそれに、全身が強張るのを感じた。
体をぐねぐねと捩じって抵抗しようかとも思ったが、本能が鼓膜の危険を感知しているのか全身が硬直している。
詰みである。
さながら今の状況は死神に鎌を突き付けられているようなものだ。ヒマリの鎌は多分カスの嘘で構成されているのだろう。意識を刈り取る形をしてそうだ。
ちょんちょんと耳の内壁が擦られ初め、ヒマリがふぅ、と小さく吐息をこぼした。
「カリスマと仮初は同じ語源…借りた書籍は仮の所有物なため法律の適用外…カリンバはもともと狩りの道具…」
カス嘘でオノマトペを再現しようとするのは無理があるだろう。
「胡椒は蕎麦の種からも取れる…古書の文字はマヨネーズを使うと浮き出る…小正月と同じく、小バレンタインデーが存在する…ふぅ…」
カス嘘オノマトペ、無駄にバリエーションがある。
『カリカリ』以外に『こしょこしょ』も再現可能であることを見せられると、なんだかこのまま他のパターンも聞いてみたくなってきた。
若干この状況に慣れて来た自分がいることに恐怖するが、ヒマリは相変わらず僅かな吐息を漏らしながら耳かきをくりくりと動かしている。
「大きいのがとれそうです、先生…動かず、そのままで……因みに「デカい」という言葉は刑事を表す「デカ」から来た造語なのですよ…っと」
強すぎず弱すぎず適度な力加減で耳奥を擦られる快感と同時に、中身のない情報が無限に流し込まれる。気が狂いそうだ。
その瞬間、ヒマリがはっと息を呑んだ。
「先生、やりました!!」
その言葉と共に、耳の中の風通しがよくなったのかひやりとした風を感じた。
やはりいやにリアリティのある夢だと思ったその瞬間、耳元でバサバサとはばたく音がした。
「とれましたよ…鳩が…!!!」
リアリティないわ…
『ポ゛――――ッ!!!』という声と共に飛び去ってゆく羽音に白目を剥きそうになる。ヒマリの方を横目で見れば、彼女は達成感の溢れる笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「鳩は卵が非常に小さく、時折こうして人を利用して生息範囲を広げるのです」
ホラーだよそれは。
いよいよ夢の要素が強くなってきた。いや、現実でも手品とかでこれくらいはやりそうではある。
急な情報量の洪水に戦慄していると、ヒマリが私の頭をぺしぺしと軽く叩いた。
「さあ先生、いくらこの癒しという概念を超越した清楚系ふわふわ美少女の膝枕がいくら心地良いとはいえ寝ている場合ではありません。行きますよ!」
言われるがまま上体を起こすと、ヒマリがきょとんとして首を傾げた。
「…先生なのですから、各学園の様子を見て回るのは当然でしょう?今回は私も手伝ってあげますので、一緒に行きましょう」
そう言って彼女が私の手を取る。水族館で握った時の手と同じ、少しひんやりとした小さな手だ。ひんやりとした細く長い指が、私の手を握りこむ。
「めくるめく豆知識への旅へ…」
「シンプルに意味不明……」
言葉を返してみて、自分が口を利けるようになっていることに気付く。ありったけ叫んでみれば起きられるかとも思ったが、どう考えても大人がすることでは無いので流石にやめた。
「最初は…えぇ、ゲヘナにしましょうか」
ヒマリが空中に指を滑らせると、空中に虹の橋が形成される。いよいよ夢であることを隠さなくなったな。
恐る恐る足を踏み出せば、思ったよりしっかりとした足場が、こつん、と小さな靴音を響かせた。強度には問題が無いらしい。
そのままヒマリをエスコートするように先導すると、不意に下から何かが聞こえてくる。小さく、高い声も相まってよく聞き取れず、いやな予感がしつつも耳を澄ませてみる。
「カレーライスはもともとシチューの失敗作だったのですよ」「リスは海苔の佃煮が嫌いなので木に塗っておくと寄ってこないのですよ」「手紙は封筒が小さければ小さいほど早く届くのですよ」「箸は表面張力によって食材が落ちづらいのですよ」
彼女が言い始めてから今まで聞いたカス嘘のダイジェストだった。
地獄か?
ゲヘナ学園への道が本物の
「感慨深いですね」
そっか…
どこが…?
しみじみと呟くヒマリから視線を外す。100を超えたあたりから数えなくなっていたが、思えば確かに途方もない量の嘘の豆知識を流し込まれたものだ。
膨大な虚無の情報量の中、感情を押し殺して先に進んでいくと、案外すんなりゲヘナへ到着した。『途中で落ちたらさっさと目覚められてカス嘘キャンセルできたかもしれなかったのになぁ』などとは思ってない。断じて思ってない。ないったらない。
「あら…名残惜しいですが到着ですね。ちなみに『名残』は元々波が残る海面を現した言葉ですが、おおもとの語源は『濁り』です」
取り戻しかけた感情がヒマリによってよみがえった傍から死ぬ。私の人間性をリスキルするな。
諦めてきょろきょろと周囲を見渡してみるも、おかしいところは全くない。明晰夢とはかくもディティールが凝っているものだろうか。
一応自室的な存在であるシャーレの部屋は結構ぼやけていたが、やはり生徒たちの学び舎はしっかりイメージできているらしく、少し安心する。
そこまで考えたところで、丁度目の前、校舎前の広場に誰かいることに気が付いた。
「…ヒナ……!?」
珍しいこともあるものだと、夢であることも忘れて彼女の名を呼ぶ。その声でこちらに気が付いた彼女が、ぱっと花の咲くような笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「先生…!来てくれたんだ…普段は忙しくてあんまり会えないから、嬉しい…あっ、仕事は大丈夫そう?」
「……今のところはないかな。ヒナも仕事は大丈夫?いつも今の時間帯は大変そうだけど…」
「うん…今日は不思議と余裕があるの。何か手伝えることがあったら、言ってみてほしい…それじゃあね」
そう言ってヒナがはにかむ。彼女の目の下に隈は無く、やせ我慢をしているようには見えない。
仕事に追われていない、晴れ晴れとした笑顔を見て泣きそうになる。「余裕」の二文字は現実の彼女には残念ながら縁遠いものだが、たとえ夢の中とはいえこのような姿を見れることは素直に嬉しいし、何とか現実のものにしたいと思える。
ヒナ、私感動で泣きそうだよ。
そう思った瞬間、ヒナがくるりと振り向いた。
何だろう。猛烈に嫌な予感がする。
「そうだ先生、実はゲヘナの生徒の角って一部着脱式なんだよ」
ヒナ、私今度は絶望で泣きそうだよ。
言うことは言ったとばかりに去ってゆく彼女の後ろ姿を見送って数秒後、私は膝から崩れ落ちた。エイミの一件でも思ったが、どうやら私はヒマリ以外のカス嘘に耐性がないらしい。
それはそうと現実のものにしたい姿を見た直後に、現実になったら即座に発狂する姿を見せるな。落差が酷過ぎてスカイダイビングしたかと思った。
「ゲヘナの生徒は統計学的に後出しじゃんけんの勝率が異様に高いそうですね」
しれっとゲヘナの嘘を追加するな元凶。
このままいくとフウカから直々に黒豆が法律違反である宣言が出されそうだ。そうなったら立ち直れない。
「ヒマリ、私は別のとこに行きたいかな…」
よろよろと立ち上がりながら声を絞りだすと、ヒマリがそれに軽く頷く。
「ふふ、よいでしょう。では…」
そのまま彼女がパチンと指を鳴らすと、景色が一瞬でトリニティのそれに変化した。
それできるなら最初からやってくれ。なんであのカス嘘の橋を渡らせたんだ。
そう思いながらヒマリの方を見るも、責めるような空気はどこ吹く風と言ったように、彼女は私の顔をちらりと一瞥しただけで何も言わない。
夢に整合性を求めるのも無駄かと思い、小さく溜息を吐く。
周囲を見回してみると、ゲヘナの時と同様やけに細部まで作りこまれた景色が目に入った。どうやら私は存外記憶力が良いらしい。
結構な量のヒマリの知識を吸収していることから証明されていると思える。先日のエイミの反応を見るに、それはそこまで良いことでは無いらしいが。
まぁ、あの時エイミとヒマリの二人が言っていたこと全部をきちんと覚えているのは悪いことでは無いだろう。おそらく。きっとメイビー。
「きぇへへへへへぇ!!!きき…きききぃっ!!」
ぐるぐると考えを巡らせていると、聞き覚えのある声と共に目の前に何かが落下した。ズドンという衝撃とともに風が吹き荒れ、ヒマリが私の手を握る力を少し強める。
「きひゃああああああっ!!!!」
「ツルギ、お疲れ様」
「エあぁッ…!?せせ、先生えええええっ!!??き、きぃえああああっ!!??ひひ、ひひひひ…!!」
声を掛ければ、彼女は甲高い声を発しながらぐりんぐりんと上体を反らす。
夢の中でも健在である。記憶云々を吹き飛ばすようなインパクトのある彼女に、ふふっと笑みが漏れた。やはり鮮烈な個性というものはカス嘘などには負けないのだろう。
そう思った瞬間、彼女はぴたりと動きを止めてこちらをすっと見据えた。
嫌な予感(短縮詠唱)
「きへえっぇえええ!!!
…引き笑いとは元来「ひ」と「キ」で構成された笑い声を指すものであり、現在一般的に使われる用途は誤用」
うわあ!急に落ち着くな!
「そそそそれでは!!!きぃえええええっ!!!!!!」
言うが早いかロケットのごとくすっ飛んで行く彼女を呆然と見ていると、隣のヒマリが口を開く。
「引き笑いは元々退却の際兵士が恐怖から笑いだすことから「退き笑い」と言われていたそうですよ」
一つのトピックに対して微妙に角度を変えたアプローチをしないでくれ。どっちが真実なのかわからなくなる。
いやこれどっちも嘘だった。もう駄目だ。
「さぁ先生、次へ参りましょうか」
もう若干諦めに入りつつある私を、ヒマリがぐいぐいと引っ張る。視察なんだからもう少し深くまで見た方が良いんじゃないかとも思うが、四方八方からカスみたいな嘘を聞かされることになったら夢の中だろうと私の頭が爆発するので口を閉じた。
一歩足踏み入れたらカストラップダンジョンだった、なんてことになったら泣き叫ぶ。
そんなことを考えていると、不意に何か足場が無くなったような感覚がして、たたん、とたたらを踏んだ。体勢を立て直して顔を上げれば、既に景色が切り替わっていることに気が付いた。
窓の外を流れる青空に、暑く乾燥した空気。そしてこれ以上ないほど見慣れた、空っぽの机の数々──
「…アビドス高校?」
まさかシロコに「ん、先生、私のカス嘘も聞くべき」とか言われるのかと身構えながら振り向くと、机に頭を預けている生徒と、そのピンクの髪が目に入った。
「ホシノ!」
「うへ~~~~、先生、水族館って違法なんだねぇ」
「それ嘘だよ」
「それはどうでしょうか?」
「ヒマリ、めっ」
指でバツ印を組むと、ヒマリはいかにも不機嫌そうにぷくっと頬を膨らませる。
しかし、まさかホシノに嘘の豆知識を先制されるとは思っていなかった。見かけ上は普通に返していたが、既に手痛いダメージを喰らってしまっている。
「先生に先制攻撃という訳ですね」
「何て?」
「はぁ…先生ですらこの圧倒的かつ先鋭的なセンスに気づけないとは…孤独なものですね天才とは…」
無敵か…?
頬杖を突きながらヒマリが溜息を吐く。それを一瞥すると、私は未だにぐでっとしているホシノの隣の席に腰かけた。
「先生、ほかの生徒の子と一緒に水族館行ったんだって~?おじさん、抜け駆けされて悲しいな~」
「それは…ごめん……」
夢だとしても普通に罪悪感がある。いや、実際私は生徒の誘いに乗っただけなのだが、文面だけ取られればホシノが言っていることは間違いとは言えない。
口を尖らせたホシノに、罪悪感のまま素直に頭を下げる。
「図星とはもともと的の中心を示す言葉ですが、星と言われている通り昔は星形だったのですよ」
全然悪びれないなこの元凶。神経が図太すぎる。まぁ、悪いのは実際私だから仕方ないが。
刑を待つ被告人のように姿勢を正して下を見ていると、隣から押し殺した笑い声が聞こえた。そちらを見れば、ホシノが机に突っ伏したまま肩を震わせている。
「ふふふ…や、冗談冗談~~。いじわるしちゃったよ。だめだよ~先生、こーんな簡単におじさんの口車に乗せられちゃあ~」
「いや、それでも抜け駆けしたのは事実だ。今度埋め合わせする」
「うへ、じゃあ…水族館でくじらのぬいぐるみ買ってよ。おそろいの奴が良いな~…忘れないでよ?」
「もちろん」
記憶力には自信がある。特に生徒のことに対しては、あり過ぎるくらいだ。
「パインジュースを鼻の下に塗ると蒸発するまでの間のことに対して40%程度記憶力が上がるそうですよ」
いったん静かにしててくれ。
夢の中の内容だから既に安心できない記憶の内容がカス嘘で上書きされかねない。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「ん、じゃあね~あ、そうだ先生」
どうしたの、と言って振り向くと、ホシノが机からちょっと体を浮かせて呟いた。
「シャチはあんまりご飯を食べられなかったまま成長しちゃったクジラなんだよ」
「そうか!!ホシノは物知りだね!!!ヒマリ!!!!」
「はい」
じゃあね~と手を振ったホシノに、息も絶え絶えなのを隠して手を振り返す。そして景色が変わった瞬間、腰が抜けたように崩れ落ちた。
「不意打ちは卑怯じゃない…?」
正直カス嘘の部分だけ上手いこと脳の中で別にするか忘れておきたい。というか夢の中なんだから厳密には生徒の言葉ではないし、忘れても許されはしないだろうか。
次はどこだろうかと重い頭を上げると、そこには何もなかった。見渡す限りの真っ白な世界が、どこまでも果てしなく続いている。
「…あぁ、なるほど」
耳を澄ませば、現実世界の音であろう鳥の声が聞こえてくる。どうやら目覚めが近いらしい。長い夢だった…
「なんかどっと疲れた気がするんだけど…」
「ですがこの妖精のような超天才美少女ハッカーが共にいたのです。夢のような旅路でしたでしょう?夢ですが」
「ははっ、そうだね」
「声と反応が渇いていますよ。もっと潤いを与えてください。この純白の最高超美少女のもち肌の様に」
繋いでいない方の手で自分の顔を指さしながら、ヒマリが言う。それを見て、私は再度軽く声を出して笑った。
二人で並んで白い世界を見る。徐々に眩しくなっていく世界で、ヒマリが口を開いた。
「…先生、あなたはどうして、私の言ったことを全て覚えているのですか?」
「そりゃあ………」
生徒の言葉だから。そう言いかけて、これは正しくないなと思い直して口を噤む。いや、確かに本音だが、理由の全てを言っているのではない。好きな料理を聞かれて「肉」と答えるような、漠然とした答えだった。
かといって「大人の責任」というのもまた違う気がする。内容自体は日常会話なのだから、そこまで重い理由ではない。
暫し考えて、そして口を開いた。
「私はね、青春は重要なことと取るに足らないことで彩られているものだと思うんだ。どっちも力を注いで、場合によっては全力でやるから良いものになる」
取るに足らない、という言葉に、ヒマリがピクリと反応するのがわかる。自覚しているのだろうか。相も変わらず、いやにリアルな夢だ。
「…で、私はそれを可能な限り大事にしたい。君たちがいずれ忘れるような些細なことでも拾って、いつか君たちの前で出して笑ってみたいんだ」
先生だからね、と笑うと、ヒマリもつられて小さく微笑んだ。
「ヒマリ達には記憶できるかとか関係なしに、思いきり時間を過ごしてほしい。好きなところってのは勝手の覚えるものだし。私も、私の好きなところを覚える」
目を閉じると、暗い世界の中に横一文字に走る光が見えた。ヒマリに繋がれている手の感触だけがやけにはっきりしている。もう覚める世界の中で、私は最後の力を振り絞る様にしてつづけた。
「その覚えたいところが、ヒマリ達と過ごす1秒一瞬なだけだよ」
「…ありがとうございます。先生。では、さようなら」
ヒマリの言葉にさようならと返す前に、私の意識は微睡の中に落ちていった。
◇◆◇
「先生!!」
目を開けると、ヒマリが上から私を覗き込んでいる。
彼女に体が当たらないように起き上がると、オフィスの椅子を布団代わりにしていた反動が、全身の骨が軋みを上げた。
あとなんか頭が重い。どうしたのだろうと頭のあたりに手をやると、ばふ、と音を立てて何かが手に当たった。
「えっ、なにこれ」
「当番であるウタハは本日「絶対に外せない開発がある!」とのことで、今日は私が当番を引き継いだのです。そちらはエンジニア部謹製の
ところどころに配線プラグやモニターがある枕のようなものを手に持ち、まじまじと眺める。
とんでもない夢を見たような気がするが、ウタハの仕業なようだ。
「アリスの時に用いたダイブ機能…あれを応用して、好きな夢を見られる機能があるとのことでしたが、私が少々手を加えまして。このミレニアムが誇る非現実級現実系清楚系美少女ハッカーの夢を見られるようにプログラミングしました」
君のせいか。
真犯人に向かってじっと視線を送ると、彼女は悪びれる様子無くえへんと胸を張った。
「良い夢でしたでしょう?」
「…………………いい夢だったよ」
「ちょっ声小さすぎませんか!?吐息の方がまだ音量ありますよ?!」
「…いや、でも確かにヒマリがいる夢を見てた…ような…」
夢の内容を頑張って思い出そうとしてみる。
ヒナとフウカとツルギに会ったら確認しないといけないことがあるような気がした。そうでもないと何か大変なことになる気がする。主に私が。
それと、ホシノと一緒に水族館にもう一回行って、ついでに何かを買わなければならないという使命感のようなものがある。
他にも何かあったような気がするとうんうん
「あ、でもそうだ。ヒマリに何で言ったことを全部覚えているのかって夢の中で聞かれたのは覚えてるよ」
「……あら、それは気になりますね。何と答えたのですか?」
そう言われて言葉に詰まった。
自分の思いの丈を全て言ったようにも思えるし、全然取り留めのないことをただつらつらと吐き出したようにも思える。
だが一つ、シンプルに言えることは。
「
「………そうですか」
「うん、そう」
念押しするようにヒマリに返して、我ながらシンプル過ぎるなと首を捻る。
捻ったところで、床に何かが落ちていることに気が付いた。
「…耳かきの棒…?」
「片方についている白いもふもふは梵天と言いますが、またの名をストレンジファーと言うようですね」
ともかく持ち主不明のそれを忘れ物として置いておくと、私は今日の業務へ移った。
因みに業務の5割はエンジニア部の予算や材料申請だった。
カス嘘に関しては6時間ぶっ通しだった。
ヒマリもエンジニア部も何なんだ、本当に。
今までチラッと名前が出た生徒たちが先生の夢にて出演したり先生に言及されたりしてます。
ご拝読、誠にありがとうございました。
ついでに思いついたカス嘘や、これ披露したい!という雑学がある方。
↓に書いていただけると幸いです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=308505&uid=334171
以下お礼
日刊ランキングに入ってる!?
…何だ夢か…
日刊ランキングに入ってる!!?
となっておりました。ひとえに読者様のおかげです。
(新規お気に入り登録者様がありがたいことにかなり多くなっていますので、更新スピードと折り合いをつけて現在は省略させていただきます。1/31日11:00時点での新規お気に入り登録者320名様のお名前は後ほど加筆いたします。)
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SailorCat様には全話のご感想を、シエラ◆ps7O5A.d9c様にはネタ提供をして頂きました!感謝感激です!(誤字報告も感謝です!!)
ご拝読及びこの小説に触れて下さった皆様に、この場を借りて心から感謝申し上げます。