カスみたいな嘘の豆知識を言うヒマリの二次創作をしていたらカスみたいな事実を言う空崎ヒナが公式化してしまったので初投稿です。
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2/7 誤字と加筆修正を行いました。
題名から「番外編」を削除しました。
放課後。
仕事に使う物や私物などもろもろの雑貨を買いに、ヒナと一緒にデパートに来ていた。
「先生、このエスカレータは上へむかう」
それを言われた瞬間、聞き間違いかと思って隣を見る。
「えっ?」
「…?…先生、このエスカレータは、上へ、向かう」
よく聞こえていなかったと解釈されたのか、一語一語を私へ言い聞かせるようにヒナが言った。思わず呆然とする視界の隅で、景色が上から下へと流れてゆく。
いや、上へ向かってるエスカレーターに乗っているのだからそりゃ上に向かうだろう。
自分で言語化してみると頭がおかしくなりそうだ。カス嘘で慣らしておかなければ耐えられなかった。
「…ヒナ、結構疲れてる?」
「先生、私はあまり疲れてない」
本当だろうか。
やせ我慢ではないことは口調で判別できると思って質問してみたが、こうも淡々と事実だけを言われると逆に分からなくなる。
とにかくこれは参った。
中身のない情報ではあるけれど、普段のヒマリが言うそれとは毛色が異なっている。普段のヒマリのカスの嘘を1=0.1と言っているようなものと例えるならば、今のヒナが言っていることは1=1だ。
普段の生活には縁が遠すぎて知るメリットが無く、しかもそれが虚実であるヒマリの豆知識をカスの嘘と言うならば、今のヒナが言っているものは、必須の情報だがありふれ過ぎててわざわざ言うまでも無い、誰もが当然知っている情報。
言うなれば、カスの事実だ。
待てよ、確かに0にも満たない情報量だが生徒の言葉をカスと断定するのは流石に駄目ではないのか。いや、既にヒマリの嘘の豆知識をカスの嘘と言ってしまっている。確かにヒマリのあれは普通にカスの嘘だと思うが…なんだか頭が痛くなってきた。
さておきどうしたものか。彼女が疲れていないと言っていても正直かなり心配だし、多少なり休ませるのは確定事項として、今すぐ自室へ連行して寝かすべきかと頭を捻る。
「『捻る』と『鯰』は右側が同じですが、これは昔鯰料理は捻った刺身が主流だったからなのですよ」
なにっ!?カス嘘!?
溜息を飲み込んで横を見ると、声の主は人差し指を立ててしたり顔をしていてこちらを見ていた。カス嘘のポージングである。
面倒がギアチェンジして加速した音が聞こえた。具体的に言うと50㏄が200㏄になっている。
「…ヒマリ、何かあった?」
彼女は当番だったはずで、もっと言うなら今日は先に出張へ行くから、業務を終わらせに来るまで適当に休んでいて欲しいと伝えたはずだった。
私の問いかけに彼女はきょとんとして首を傾げると、さも当然というように口を開く。
「暇です」
「そっか……」
出たよ。
彼女をはじめとする特異現象捜査部の面々は、暇という言葉を魔法の呪文か何かだと思ってるのだろうか。暇つぶしがエスカレートしたらえらいことになるのは目に見えているので、暇の矛先は私だけに留めて欲しい。
そう思っていると、ヒナが私の服の裾をくいくいと引っ張った。
「先生、あの子の髪は白い」
「ヒナと一緒だね」
「ふふふ」
ふふふって何?
想像より重症である。やはり彼女を強引にでも寝かせたほうが良いかもしれない。
「白と言えば、虹は今でこそ7色ですが昔は公転等の関係から白一色だったのですよ」
ヒマリももう強引に帰らせた方が良いかもしれない。
カス嘘は許容できるが、生徒の無理は許容しかねるので、意を決してヒナに口を開いた。
「ヒナ、自室に戻って寝た方が良いんじゃ…」
「先生、今は寝るには結構早い」
やんわりと拒否された。彼女自身引き際というか、これ以上働いたら倒れるラインはわきまえているのでこれ以上何とも言えない。目に見える異常だったらよかったのだが…仕方ない、動向を見て決めるしかないようだ。
「じゃあ、予定通りお店に行って大丈夫?」
「先生、お店はこの階にある」
だからエスカレーター乗ってここ来たんだよと言いかけて、寸でのところで飲み込んだ。
私が歩き始めると、ヒナは何も言わず私と同じペースで隣を進む。よかった。『先生、私は歩く』とか言い出してたら速攻でセナを呼び出すところだった。
しかしどうしたものか。うんうんと悩みながら、さりげなく横目でヒナを注視して見る。
歩いている足がふらついているわけではない。目の下に隈は無いし、やつれている様子もない。顔色は普通で、寧ろいつもより良いような気もする。
ゲヘナパーティー以降ピアノが趣味になったようで、どこかしらで毎日練習しているらしい。それが原因で寝不足になっているのかとも思ったが、さっき見た通りその様子はない。
やはり無理にでも休ませようかという結論に帰結するも、そんな視線に気が付いたのか、ヒナは軽くふるふるとかぶりを振った。
「先生、今は寝るには結構早い」
「そうだね」
いやこれ大分まずいな。さっき聞いたよそれ。
「季節によって昼間の長さは左右されますが、日付×月÷日付÷10でおおよその時間を求められますよ」
反応したら追跡されるタイプの怪異かな?
君は付いて来てるなら一声かけてくれ。唐突にカス嘘を後ろから囁かれるのは少し怖い。
「ヒマリも買い物?」
「暇です!」
だからそれは魔法の呪文じゃないって。
しかし丁度いいかもしれない。自称する通り頭脳派である彼女の知恵を借りられれば、上手く息抜きと休憩の折り合いを付けるだけでなく、休ませるための良い言い回しもアドバイスしてくれるのではないか。
「ただの頭脳派ではありません。ミレニアム最優の『全知』の称号を持つ天を衝くような知能と知識を持つ最高美少女です」
思考を読まれるのにはもう慣れた。
「ヒマリ、察する通り今の彼女は少し何というか…調子が悪いみたいなんだ。どうすればいいと思う?」
「普通に休ませればいいのでは?…因みに銭湯などにあるマッサージチェアには格安で予約できるものがありますが、混んでいる場合は座れないのでご注意を」
「チェアなのに?」
彼女に聞こうと思った私が馬鹿だったかもしれない。
いや、そもそも彼女は私と接触してしまった以上ただのヒマリではない。カスみたいな嘘を延々と付くヒマリ、カス嘘ヒマリになってしまっているのだ。
自分で考えておいて意味が分からない。私も疲れているのか?
ともかくこれは困った。3人寄れば文殊の知恵とは言うが、知恵を出してくれないのが2人いる場合はどうなのだろうか。
寄ったはいいがカスみたいな嘘とカスみたいな事実が入り混じった結果、降臨したのが仏ではなくキメラになっている。決して優秀とは言えない私の頭脳にデバフが加わったら、仏の知恵とは真逆の獣以下の知恵に仕上がってしまいそうだ。
それはそれとして、当初の予定である買い物はキッチリとしておかねばならない。
「あった…ペンとハサミをいくつか買っておきたかったんだよね」
「あら、どちらも確か在庫があったのでは?」
「エンジニア部に自爆機能つけられて全滅した」
「あら…因みにりんご飴を作るときは温度を一定以下にしてしまうと爆発するのですよ」
「先生、爆発に当たると痛い」
たぶん痛いですむのは君くらいだと思う。
結局買い物中に結論は出ず、目当ての雑貨をいくつかと、ヒナに猫のストラップ、ヒマリに占いの本をそれぞれ買って店を後にした。
買い物は案外体力を使うが、いかんせんそれとは別の方面でどっと疲れたような気がする。
「…一旦下の階に行こうか」
「足元気を付けて、下へ向かう」
嘘でしょ?
それいちいち言わないと駄目な体質になってしまったのか。いや、事実だけじゃなくこちらを慮る言葉が含まれていることから、彼女に理性があると判別出来ただけ良いかもしれない。
だがなんだろう、本当にいちいち言うのか少し試したくなってきた。そんな知的好奇心に負け、下へ降りた瞬間ヒナに声をかける。
「ごめん、買うものあったから上へ行こうか」
「先生、このエスカレータは上へ向かう」
なるほど、じゃあ次は下だ。
「やっぱ問題なかった。行こうか」
「そう。足元気を付けて、下へ向かう」
うん、少し、いや大分面白い。
もう一度だけやってみようとエスカレーターに乗ると、ヒナが少し困惑したような顔で口を開いた。
「せ、先生、このエスカレータは上へ…向かう…」
「わっはっはっはっは」
「…私は何を見せられているのでしょうか?」
ややひきつった笑顔でヒマリが言う。そういえば彼女をほったらかしにしていた。そういえば彼女は車椅子であり、エスカレーターに乗れないことをすっかり失念してしまっていた。申し訳ないなと罪悪感が胸を刺し、私は彼女に向って口を開いた。
「ヒマリも一緒に上り下りする?」
抱えるよというポージングをして彼女に言ってみる。
「……どうしてそうなるのですか…?」
いよいよドン引きされた。
「…一部の生徒相手には奇行に走るという噂は聞いておりましたが…なるほど」
「先生はたまに少しおかしい」
当惑したような表情をしたヒマリが何かを考えるように呟くと、ヒナが同調するように頷いた。
今のヒナが言っているってことは、純然たる事実と判定されているようだ。
イオリに対してもそうだが、私はどうやら特定の生徒たちに対してはからかい過ぎてしまうきらいがあるらしい。別に直そうとは思わないけれど。
◇◆◇◆
「それでヒナ、どうして今日はあんな感じだったの?」
帰り道を歩きながらそう切り出すと、彼女は暫し逡巡した後、意を決したように口を開いた。
「…その…先生は最近、雑学とか、豆知識をたくさん言う子と一緒にいるって聞いたから…でも、私は勉強ならできるけど、そういうのはあんまり知らなくて…」
「……それで、片っ端から自分が知ってるのを言ってみたってこと?」
私が言ったことに、彼女はコクリと弱弱しく頷いた。
なるほど、何となく話が見えて来た。責任感が強いヒナのことだ。恐らく私が豆知識だの雑学だのが好みなのだと考え、自分も楽しませなければという考えに至ったのだろう。
そして、そのストックが無いから取り敢えず言えることだけ言った結果が、カスの事実というわけで。
というかまたヒマリが元凶なのか。
そう思いながら振り向くと、彼女はいつもの微笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「そういえばデパートの食材売り場でアサリを見たのですが、アサリとシジミとハマグリは大きさが異なるだけで全て同種の貝なのですね」
息を吸って吐くようにカス嘘をついてくる。ヒナはどうやらこれを目指そうと思ったらしい。
正気か?やはり正常な判断が出来なくなるまで疲れてるんじゃないのか。
「…!!先生、アサリはお味噌汁がおいしい」
「いや別に対抗しなくても大丈夫だよ…?」
エイミと言い、カス嘘には言論で対抗するのがレギュレーションだったりするのだろうか。暴力に訴えるよりは良いのは明らかなのだが、私の脳のキャパに暴力が働かれている。いや、アサリの味噌汁が美味しいことで消費されるキャパは0に近いが。
ともあれ、それが彼女に負担を与えてしまうかもしれないのは事実である。それを解決するために、そして私がカス嘘に飢えているというような結構尋常ではない勘違いを正すためにも、私は彼女に向かって口を開いた。
「誤解があるようだから言っておくと、私は豆知識だとか雑学だとかが聞きたくて皆と一緒にいるんじゃないよ」
「っ、でも…やっぱり、話のタネとか、先生が知らないことを知っているのは大事でしょ…?」
「まぁ、一理あるね…でも別にそれが必要ってわけじゃないし、あったら絶対楽しくなるってわけではないと思う」
現に私の記憶容量は膨大な嘘の豆知識によって圧迫されている。
「私は楽しいですが」
「それはヒマリが言ってる方だからでしょ…」
「なるほど…ですがこの最高級の楽器にすら比肩しうる超絶美少女の超絶美声を聞いているのですから、先生も楽しんで然るべきでは?」
あっけらかんとした態度でそう言った彼女に生暖かい視線を注ぐも、ヒマリは一切気に留めない様子で言葉を続けた。
「聞くと言えば、イヤホンとはある古代の部族が付けていた『ビヤンホ』と呼ばれる耳飾りが語源なのですよ」
「ヒナ、これが本物だよ」
「…私は、明星ヒマリみたいにはなれない…というか若干なりたくない」
「聞き捨てなりませんが!!?」
引き気味に目を伏せたヒナの返答を聞いて、内心でほっと胸を撫で下ろす。ヒマリには悪いが嘘の豆知識がこれ以上増えるのは勘弁願いたい。
数日のうちに苦手だったピアノや水泳をマスターしてしまうヒナのことだ。放っておいたら普通にヒマリと同レベルにまでいっていそうで、ここで止められなかったことを考えると軽く寒気がした。
エイミの件でも思ったが、嘘の豆知識を言う生徒は私の気付かないうちに増えつつあるのかもしれない。
自分で考えておいて怖すぎる。今度ほかの学園にも寄る必要があるようだ。
一旦考えを止めて意識を現実にひき戻し、私はヒナに目を向けた。
「…まぁ、とにかく、無理に自分を変えようとする必要は無いよ。もちろん、ゲヘナパーティーのピアノとか良い変化はたくさんあるけどね」
「うん、わかった。…先生、今日はありがとう」
憑き物が落ちたように笑う彼女を見て、私も無意識に笑みが零れる。
「それと、結構疲れてるみたいだから、急を要するものを片付けたら今日はもう休むこと。私に手伝えるものがあったら可能な限りやっておくから」
「う……うん、ごめん」
図星を突かれたのか、ヒナがぎくりとして肩を竦めた。やはり疲労が溜まっていたようで、自分の見立てが外れていなかったことに少しホッとする。
「…あぁ、それと。私も豆知識を一つ思い出したから言っておこうかな」
「…?どういうもの?」
しゅんとしたヒナが、私の方へ視線を向けた。私はヒマリがよくするように人差し指を立てて微笑を浮かべる。カス嘘のポーズだが、私が言うことは純然たる事実である。
「ヒナはそのままでもすごく素敵だ」
「…!?なっ…!!」
ハッとしてこちらを見つめたヒナの顔がみるみるうちに赤くなる。
こちらまで恥ずかしくなるような照れ様から視線を外してからからと笑うと、背中を彼女の羽がぺしぺしと叩く。
「豆知識、もし私が先生に言ったら…覚えててくれる?」
「もちろん、ヒナが言う事なら何でも」
あたたかな午後の斜陽の中を、ヒナと並んで歩いた。
「因みに豆知識という名称は元々大豆が様々な食品になることに対する情報を食品メーカーが総称したもので、厳密には豆に対する知識だけを指します」
ブレなさすぎるだろ君は。
その後、ヒナから託された業務量が私のものに勝るとも劣らない量で軽く腰を抜かすも、何故かヒマリが手伝ってくれたこともあってどうにかしてやり遂げた。
シャーレの業務についてもやろうとしてくれたが、流石にこれ以上手を借りるのは申し訳ないと私が断ったところ、「では心ばかりですが…」とワイヤレスヘッドホンをハッキングして嘘の豆知識を9時間にわたって聞かせて来た。
おかげで寝ないで業務を終わらせることが出来たので感謝はしておいた。死ぬかと思った。
冒頭ママのことを言ってくれるヒナは秋葉原駅の山手線に行くまでのところにいます。
ヒナ、休んでくれ。
以下お礼
カス嘘ヒマリのそらぢえぶくろ https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=308505&uid=334171
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タスマニアたけしMK1a様と、サンドピット様の嘘豆知識を使用させていただきました。皆様も良ければ是非空知恵を貸していただけると幸いです。
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