「……アトウッド家の子か」
組み分けを見守っていたフリットウィック教授は痛ましげに呟いた。隣に座っていたスプラウト教授は気になって聞き返す。
「アトウッドというと、あの『例のあの人』に壊滅されかけた……?」
「彼女の父は殺され、母は今も病床に伏している。今は叔父が後見人をしていると聞く。アトウッド家は代々優秀な人材を輩出してきたが、痛ましいことよ……」
アトウッド家の者にレイブンクロー生は多い。多くが薬草学や魔法薬学などの分野で優れた成績を収め、近年では様々な分野で成果を残している名家である。いや、名家であった。その優れた能力に目を付けた『例のあの人』からの勧誘を断った結果、本家一族は当時別の場所に預けられていた幼子を残して壊滅させられたのだという噂である。あくまで噂なのは、目撃者は既に故人、もしくはアズカバン送りになっているからだ。
「我々が気にかけてあげなければなりませんね」
スプラウト教授の言葉にうなずくフリットウィック教授の目には、今しがたレイブンクローに組み分けされた彼女への憐憫とわずかな期待が浮かんでいた。彼女は新入生とは思えない超然とした態度で組み分けを終えたところであった。
テリーザ・アトウッド
組み分けは物凄く緊張した。ホグワーツ特急で同席したセドリックは平然としていた様子だったが、私は気が気じゃない。手を握るとじっとりとしていて、手汗がひどいのが自分でもわかる。
「アトウッド・テリーザ!!」
玄関まで迎えに来てくれた威厳のある副校長、マクゴナガル教授に名前を呼ばれ前に進み出てスツールに座り、帽子を被る。途端に頭の中で声が聞こえた。
(アトウッド家の子だね……これは難しい)
頭の中で声が聞こえる。帽子が喋っている?
(競争心はないが知性に優れている……目的のためには手段を択ばない狡猾さもある……)
なんだか帽子(と思われる声)が悩み始めたけど、私は―――
「レイブンクロー!!」
無事に組み分けされたことに安堵しながら、一番拍手が大きい青色のネクタイを付けた生徒が集うテーブルに向かった。
続けて組み分けされたセドリック、アンジェリーナはそれぞれハッフルパフとグリフィンドールに組み分けされて少し寂しく思ったけれど、先輩方の話を聞くうちに私はこれからの学校生活に思いを馳せるようになった。
その後校歌を歌ったり諸注意を聞いたりしてから、私たち新入生は上級生に連れられて寮へ向かった。
私の組み分けされたレイブンクローの寮は塔のてっぺんにあり、寮に入るにはドアのノッカーの質問に答えなければならないらしい。いかにも知性を重んじる寮である。寮に入ると、主塔から伸びた小塔に案内された。適度な気温の室内とは裏腹に、塔に吹き付ける風の音が少し気になる。
それでもふかふかのベッドは気持ちがよさそうだったので、今日ばかりはすぐに就寝することを決めた。
*
翌日から始まった授業はとても面白かった。レイブンクロー生はほとんどがとても勤勉なようで、授業態度も良く居心地が良い。他の寮の授業の様子は知らないが、この寮に組み分けされて良かった。事前に教科書を読み込んだり呪文の練習をしていたためか、何点か加点もしてもらえた。他の生徒は一緒に教室を移動したり授業をしているみたいだけれど、私は基本的に一人だ。でも、同室の女の子とは全く話さない訳ではないのでぎりぎり友達と呼べるのではないだろうか。次の休暇で帰宅したら心配しているであろう屋敷しもべ妖精に友達はできたと言おう。
気に入ったのは薬草学、魔法薬学だ。授業もそうだが、教授たちの余談もとても面白かった。スプラウト教授はおしゃべりで、私は教授の自慢の温室の話をしっかり心に留めた。上級生になったら入れたりするだろうか。
個性豊かながらも興味深いホグワーツの教授たちの授業を受けた後は夕食の時間である。そろそろホグワーツの地理にも慣れてきたと感じることができたころ、自宅にいたときと比べても遜色ない夕食に舌鼓を打つのもそこそこに、私は夕食会場を離れ中庭に向かった。寮の寝室から見た植物のことが気になってしょうがなかった。
セブルス・スネイプ
授業のために材料庫を整理していたらすっかり夕食ぎりぎりの時間になってしまった。ちょうど夕食時なので、玄関ホールには人気がない。少し急いで歩きながら何気なく外を見て息を呑んだ。中庭に植えられている暴れ柳にふらりと近づく小さな影が見える。
「この馬鹿者!!」
体格からして下級生だとか、ネクタイからしてレイブンクロー生だとか、そういったことを判断する前に杖を振るった。間一髪、その生徒は後方に吹き飛ばされ、さっきまでその生徒が立っていた場所に暴れ柳の枝が振るわれた。
「何をしている、死にたいのか!」
危機感のなさそうな顔でぽかんと自分の立っていた場所を眺めるレイブンクロー生に怒鳴りつけると、その生徒はふるふると首を振った。暗がりでよく顔が見えない。苛立ちもそこそこに杖を振って明かりをつけた瞬間に息を呑んだ。
「……アトウッド」
過去、自分が見殺しにした同窓生の面影のある端正な顔がこちらを見返していた。
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