巨大有害生物担当チーム   作:h.hokura

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第12話「歌う湖」

『歌が・・・聞こえる・・・』

『何っ歌?一体何を・・・言って?』

『呼んでいる・・・俺も・・・皆の様に・・・』

『おいっ呼んでいるって誰が・・・おぃ!』

『・・・・・・』

そこで音声は途切れ暫くノイズが続いた後そこで再生が止められる。

そして再生を止めたレイア・マーべリック准将が会議室の席に座る恵理香とケイ、三浦班長の顔を見渡す。

「この通信の後救援チームからの連絡は無く、こちらからの呼び出しにも応答がない。」

ことの発端はとある島で起こった島民の集団失踪だった、気づいたのはたまたま寄港した漁船だ。

要請を受け援助隊の救援チームが島に向かったのだが、そのチームも先ほどの通信を最後に音信不通になったとレイア。

「歌と言ってましたが・・・」

恵理香の問い掛けにレイアはレポートを3人に渡し説明する。

「最初は普通だったらしい、が1週間過ぎた辺りから様子がおかしくなった。」

恵理香達は通信の記録が書かれたレポートのページを読み始める。

確かに最初は真っ当な報告だったが、レイアの言う通り1週間過ぎた辺りから奇妙な報告が増え始めた。

曰く

『隊員が歌が聞こえると訴えてきた。』

『最初は幻覚かと思われたが、日に日にそう訴える者が増えてきた。』

『そのうち行方が分からなくなる者が出始めた。』

そんな報告が続き、やがて先ほど聞かされた報告が入り、以後通信が切れてしまったらしい。

「それで?」

ケイがその後の対応を訪ねると肩を竦めレイアが答える。

「哨戒機を送ったが、島に人の気配は無かった、状況が異常なので以後は上空から監視のみだ。」

レイアはそう答えると、改めて恵理香達を見ながら命令を発する。

「牧瀬艦長以下の対策チームはこの島に向かい消滅した島民と救援チームの捜索と原因究明を命ずる。」

「了解しました。」

そう答え恵理香達が立ち上がり会議室を出ようとしたところでレイアがケイを呼び求める。

「パーク博士に伝える事がある、島にはブラット・ヘンリー博士が率いる環境調査の為の研究チームが居たそうだ・・・」

「!?」

何時もは飄々としたケイの表情が強張るのを見て恵理香と三浦班長が顔を見合わせる。

「ヘンリー博士が・・・間違い無いんだね。」

「ああ・・・研究所との連絡は島民の失踪が確認される前に途絶えていたらしい。」

レイアの説明にケイは暫し沈黙した後言う。

「分かった、艦長行こうか。」

何時もとは違うケイの様子に恵理香は困惑しつつ頷いて立ち上がる。

「それでは出発しますマーべリック准将。」

レイアに答えながら恵理香は三浦班長と共に啓礼して会議室から先に出て行ったケイを追って行くのだった。

パールハーバーを出港したはるなは問題の島に向かって進んでいた。

そのはるな左舷見張り所にケイは立ち前方の海を見ていた、そこに何時もの飄々とした雰囲気は無かった。

「パーク博士。」

恵理香が艦橋から出てきてケイに話し掛ける。

「艦長・・・どうかしたかい?」

やはり何時もと違うなと恵理香は内心ため息をつく。

「島まではあと3時間で到着します。」

「・・・了解だ艦長。」

会話がそこで途切れ、恵理香は暫し言葉を探し結局見つけられず艦橋に戻ろうとした時だった。

「ブラット・ヘンリー博士は私の大学時代の恩師だった人だよ艦長。」

戻ろとした恵理香はケイの言葉に足を止め振り返った。

「悪かったね・・・艦長達には余計な心配をさせてしまった。」

「謝る事はありませんよパーク博士。」

再び見張り所に戻った恵理香はケイの隣に立ってそう言う。

「大学では私は厄介者扱いでね、どの研究室でも受け入れて貰えなかったんだが、ヘンリー博士はそんな私でも受け入れてくれた。」

海上を見つめながらケイは淡々と話す、恵理香は黙ってそれを聞いていた。

「卒業後も何かと気に掛けてくれてね・・・だから何があったのか私は知りたいんだ艦長。」

視線を恵理香に向けるとケイはそう言って笑みを浮かべる。

「分かりましたパーク博士、私も協力を惜しみませんよ。」

「ああ、ありがとう艦長。」

3時間後はるなが島に到着し沖合に停船した。

「艦長、港にオーストラリア海軍の駆逐艦を確認しました。」

大型双眼鏡で港内を見た見張り員が報告する、レイアが言っていた援助隊の艦だと恵理香は双眼鏡で見ながら頷く。

「三浦班長に駆逐艦内の捜索を行う様に伝えて下さい。」

「了解です艦長、三浦班長に捜索に向かうよう連絡を。」

副長が待機中の三浦班長指揮下の小隊に駆逐艦への捜索指示を伝える。

はるなから作業艇が降ろされ三浦班長達が駆逐艦に向かう。

1時間後駆逐艦の捜索を終えた三浦班長から報告が入る。

『艦内に乗員は一人も居以外以上は認められない。』

「分かりました、航海日誌を回収して戻って下さい、副長ドローンの発進準備を。」

『了解だ艦長、航海日誌を回収して戻る。』

「ドローンの発進準備を開始します。」

副長と三浦班長が復唱、20分後に三浦班長が戻りはるなからドローンが発進する。

ドローンが配置につく間、恵理香は三浦班長が持ち帰った航海日誌を見ていた。

「どうだい艦長?」

ケイが問い掛けると恵理香はため息を付きながら日誌を見せる。

救援チームの通信と同じですね・・・最初はまともで後半はやはり歌の記述ばかりですね。」

「・・・歌か、この一致は何を示唆しているんだろうね。」

日誌を見ながら眉を顰めケイが呟く。

「艦長、ドローンが予定地点に到達、画像が入ってきました。」

「共用ディスプレーに回して下さい。」

副長の報告に頷き恵理香が指示すると、艦橋にある共用ディスプレーに島を上空から映した映像が出る。

画面上に映し出された街には人の気配は見られなかった。

ドローンは街から山麓の方へ移動していった、そこで恵理香が何かに気づき声を上げる。

「ドローンを現在位置で停止、画像を拡大して下さい。」

動いていた画像が停止し、拡大されたものを見たケイと三浦班長が息をのむ。

そこに映されたのは・・・青い水を輝かせている湖だった。

恵理香は自分のタブレットを作動させ島の地図を表示させる。

「・・・やはりこの島にはこんな湖は無かった様ですが。」

「じゃあこの湖は何時の間現れたんだ?」

三浦班長が恵理香の言葉に首を捻りながら呟く。

「島民の失踪事件が起こる2ヶ月前に地震が起こった後出現したらしいね。」

ケイが同じ様に自分のタブレットで検索して見つけた関連情報を述べる。

「艦長はこれが失踪と何らかの関係があると思っているのか?」

「今に所は何とも言えませんね・・・それに湖にして違和感がある様な・・・」

三浦班長の問い掛けに恵理香は慎重に答える、余りにも情報が不足しており断定は出来そうもなかった。

「まず島民の消えた街を調べましょう、三浦班長申し訳ありませんが引き続き捜索を、今度は私とパーク博士も同行します。」

1時間後、はるな搭載の作業艇で恵理香とケイ、そして三浦班長率いる小銃班達が島に上陸する。

作業艇が着けられた桟橋から街に続く道路にはトラックが1台止められていた。

素早くトラックの運転席に小銃班員が近づき確認すると恵理香達の方に振り向くと首を横に振ってくる。

恵理香は人気の無い街に続く道路の先を見ながら指示を出す。

「行きましょうか・・・まあ出来れば何も無い事を祈りたいですが。」

街は静寂に包まれていた、車が放置され、商店は開いている様だが店員や客の姿は無った。

三浦班長が視線を向けてきたので恵理香は頷く。

「家の中を捜索する、3人一組だ、何か異常が有ったらすぐ知らせろ。」

班員達が頷き3人一組で近くの家の中へ入って行く。

「ただの事故や事件とは思えないね・・・」

ケイが周りを見渡しながら言う、何時もと雰囲気が違うのは恩師の事が気になっているからかなと恵理香。

やがて捜索をしていた班員達が戻ってきて恵理香達に報告する。

「どこの家も荒らされた様子は無く、直前まで普通に生活していた感じがします。」

「何か起きて皆出て行ったと言う訳か、問題はそれが何かだね。」

ケイは肩を竦めながら言うと恵理香は深いため息を付く。

「次は・・・ヘンリー博士の環境調査チームですね、ベースキャンプは確か。」

タブレットを操作しベースキャンプの位置を表示させ恵理香は次の目的地を指示する。

ベースキャンプは街の端に有った、そのキャンプも街と同様人の気配は無く、パソコン等の備品がつい最近まで使われた状態で置かれていた。

「状況は街の様子と変わらないみたいですね・・・パーク博士チームの記録を調べられますか?」

「ああ待ってくれ・・・これだな。」

恵理香の指示を受けケイが置かれていたパソコンの前に行き、電源を入れ起動させる。

「パスワードは・・・変えていないのか、ヘンリー博士は相変わらずこう言った事には無頓着だな。」

やがてケイはチームの日誌を呼び出し暫し眺めた後、恵理香を呼び画面を見せる。

「我々が見せられた通信の記録と同じだね・・・最初は普通だったのに後半は『歌』の記述だけになっている。」

日誌を画面上で見ていた恵理香も頷くと、深い溜息を付きつつ言う。

「ええ、これは思ったよりも厄介な状況と言えますね。」

全ての答が歌にあることは間違い無いと確信を深める恵理香、問題は・・・

「その歌って一体何だって言うんだろうな、何だかセイレーンを思い出すぜ。」

三浦班長が恵理香とケイの会話を聞きながら呟く。

「なるほどね、三浦班長の見解は非常に興味深いね、とは言えまさかセイレーンが原因だとは断定出来ないが。」

その歌声で船員を惑わせ船を難破させるというセイレーンの伝説、現実にあるとは流石に恵理香は思わなかったが。

「日が暮れますね・・・一旦はるなに戻りましょう、セイレーンが居る場所で夜を明かす気にはなれませんから。」

冗談に聞こえない恵理香の言葉に三浦班長とケイ、そして小銃班員達は引きつった笑みを浮かべるのだった。

はるな帰還から4時間後、艦内は当直を除き皆眠りについていた。

そんな艦内を恵理香が歩いていた、まあ特段何か有ったわけでなく、目が覚めてしまい夜風に当たろうとして甲板に出ようとしていたのだ。

だがその途中で恵理香はふらふらと歩いている乗員に気づく、制服でなくジャージを着ているので非番の乗員の様だが様子が変だった。

「どうかしましたか?」

声を掛けるが乗員は聞こえていない様で何かブツブツ言いながら歩いている。

「歌が・・・行かないと・・・早く・・・」

「!?」

歌という言葉に恵理香は調査中に聞いたり見たものを思い出し、慌てて夢遊病者の様になっている乗員の元に駆け寄り肩を両手で掴み揺する。

「ちょっとしっかりして下さい。」

揺さぶらて乗員は意識を戻し戸惑った様に周りを見渡してから恵理香をみて言う。

「艦長?あれどうして・・・」

「それは私が聞きたいですね、貴女歌が聞こえるといってましたが、何があったか分かりますか?」

乗員は暫く呆然としていたが、突然何かを思い出したのか恵理香の両手を掴んで話始める。

「部屋で本を読んでいたら歌が聞こえた気がして・・・それから・・・意識が無くなって、気づいたら艦長が目の前に居て。」

混乱しつつ乗員はその時の状況を説明した、恵理香は暫し考えると、そっと乗員の手を放し艦内電話に向かうと受話器を取り艦橋に連絡する。

10分後はるな艦橋に制服に着替えた恵理香が入って来る、ちなみに最初は就寝時の服装(スパッツとシャツの上に膝まで隠れるトレーナー)で向かう積りだった。

まあ例のごとく乗員達に「着替えてきてほしい。」との嘆願があり、恵理香は一旦艦長室に戻って着替える羽目になった。

「艦長、医療班からの報告では6人ほどが夢遊病者状態になった模様です・・・全員歌を聞いたと言ってます。」

副長からの報告に恵理香は深い溜息をついて言う。

「島民や調査チームに起きたのもこれでしょうかね。」

「だが早すぎないか艦長、連中がああなるまでは時間が掛かったみたいんだが。」

三浦班長が相違点を指摘すると恵理香は頷いて答える。

「ええ私もそう思います・・・ところでパーク博士は?」

状況を把握しようとしていた為今になって恵理香はその事に気づく。

「あえて呼び出さなかったのですが。」

何かあれば呼び出さなくても恵理香の元に来るので、副長もケイに連絡していなかった。

恵理香は艦長席の艦内電話の受話器をとり、ケイの部屋に繋ぐが返答は無かった。

「艦長!甲板上にパーク博士が!」

乗員が艦橋前面の窓から振り向いて報告する、それを聞き恵理香が艦長席から立つと窓まで行き甲板を見下ろす。

「三浦班長付いて来て下さい。」

艦中央部の甲板を歩いて艦尾に向かうケイの姿を見た恵理香は三浦班長に声を掛け艦橋を飛び出す。

そして甲板に出た恵理香と三浦班長はケイを追って艦尾へ向かう。

やがて艦尾甲板に立つケイの元に恵理香と三浦班長は追いつく。

「パーク博士!」

呆然と前方を見ながら立っていたケイは恵理香の声で我に返ったのか振り向く。

「艦長それに三浦班長・・・」

恵理香は先ほどの乗員の様に夢遊病状態になったのかと思ったが様子が違う事に気づく。

「パーク博士、貴女も歌を聞いたんですか?」

多分違うだろうと予感しながら恵理香が訪ねる。

「歌・・・ではないね・・・声だった・・・ヘンリー博士の・・・」

「「!?」」

恵理香と三浦班長に緊張が走る、とその時だった。

『・・・パーク君・・・』

突然聞こえた声に3人が前方に視線を向け、その見たものに固まってしまう。

だがケイは直ぐに我に返り震えた声で問い掛ける。

「ヘンリー博士・・・貴方なのか?」

ケイの問い掛けに恵理香はそこに立っている人物がレイアから渡された調査チームの資料に添付されていた写真で見た事のあるヘンリー博士だと気づく。

だが何故かその姿は半透明に見え、恵理香はまるで幽霊だと思ってしまった。

「艦長、あれは実在しているのか?俺には・・・」

「ええ三浦班長、私も同じ気持ちです。」

三浦班長も同様だったらしく、恵理香は自分が幻覚を見ている訳ではないと理解する。

『ああ私だよパーク君、こんな姿で君とは再会したくはなかった、だがどうしても伝えなければならない事がある。』

ヘンリー博士は苦渋に満ちた表情でそう言うと、ケイの後ろに居る恵理香達を見る。

『対策チームの牧瀬艦長、我々に何が起きたか伝えなければならない。』

そのヘンリー博士の言葉に恵理香は緊張した表情を浮かべる。

『パーク君も気づいているだろう、全ては歌いやそう聞こえているものが発端だ。』

そしてこれは山麓のある一見湖に見えるものが関係しているとヘンリー博士は語る。

島に到着後、その湖を調査していたヘンリー博士達の間で歌が聞こえるという話が出始めた。

時を同じくして島民の間でもその様な話が出始めヘンリー博士は困惑した。

そうするうちに島民の間から失踪者が出てくる、失踪直前に当人の話しによれば歌が聞こえある場所が見えたと。

「その場所・・・やはりあの湖ですかヘンリー博士?」

ケイの言葉に恵理香が彼女とヘンリー博士を交互に見る、

『そうだ、島民や調査チーム、そして救助部隊の失踪はあの湖いやあれは湖では無い・・・あの生物が原因なのだよ。』

ヘンリー博士の衝撃的な言葉に恵理香と三浦班長が衝撃を受ける、ケイは表情を変えず冷静でいたが。

「湖が生物なのですか?」

我に返った恵理香がヘンリー博士に問い掛ける。

『そうだ、まあ牧瀬艦長にとっては怪獣と言った方がいいかもしれんがね。』

「怪獣ですか・・・」

今回もこうなるのかと恵理香は内心溜息を付きつつ問い返す。

「既存の生物体系に当てはまらないならものなら怪獣と呼ぶしかないと思うよ艦長。」

世界の生物学者の多くは怪獣の事をそう位置付けている・・・まあ今までの生物学では説明出来ないので苦肉の策としてだが。

『やつはいやこの怪獣は他の生物に何らかの作用、精神に対してだが働きかけて自分自身に同化させるらしいのだ。』

「同化ですか・・・まさか!?」

ヘンリー博士の説明を恵理香は理解して驚愕の声を上げる。

「えっそれって?」

「つまり消えた人々はあの怪獣に取り込まれたと言う事ですよ三浦班長。」

絶句する三浦班長、一方ケイは冷静な表情を崩す事なくいた。

『ただあの怪獣に悪意がある訳では無い、本能に従って取り込んでいるだけだ・・・まあ贄になった我々にとっては迷惑だが。』

「ヘンリー博士、あいつに取り込まれた者はどうなってしまうんだろうか。」

ケイが冷静な表情で問い返す、それを恵理香と三浦班長は緊張の面持ちで見守る。

『・・・身体だけでなく意識もまた同化されるらしい・・・私も同化されつつあるよパーク君。』

「予想はしていましたが・・・やはりそうですか。」

ヘンリー博士の言葉に今まで冷静な表情だったケイの表情が歪む。

『すでに身体を失っているから時間の問題だったがね、同化される前にパーク君と牧瀬艦長に会えたのは僥倖だったよ。』

そう言ってヘンリー博士はケイをそして恵理香を見る。

『あの怪獣は危険だ、次々と他の生物を取り込み、成長しその力を増してゆく、その結果どうなるかは説明の必要は無いだろう。』

恵理香とケイは顔を見合わせるとヘンリー博士に向き言う。

「被害はこの島だけでは済まない事になるだろうね。」

「・・・やはりそうなりますか。」

ケイの出した結論にヘンリー博士を見て恵理香は言う。

「分かりました、対策チームはあの怪獣を処理しますヘンリー博士。」

恵理香の言葉にヘンリー博士は頷くとケイを見て言う。

『パーク君、私は君の事が気がかりだった・・・だから取り込まれるのに時間が掛かったのかもしれん。』

ヘンリー博士の言葉にケイは苦笑しつつ答える。

「申し訳ありませんヘンリー博士。」

俯いてそう答えるケイを微笑みを浮かべながらヘンリー博士が言う。

『もっともその心配も必要無い様だが。』

恵理香はそう言いながら自分を見るヘンリー博士に困惑した表情を浮かべる。

「・・・ああそうだね、彼女が居るからね、まだましだと思う。」

ヘンリー博士とケイが顔を見合わせてほほ笑んだ後恵理香を見る。

研究室でも学会でもケイは優秀すぎて周りから疎まれていた、唯一の理解者であったヘンリー博士はそんな彼女を心配していたのだが。

そんなケイを恵理香は普通に受け入れてくれたのだ、彼女にとってようやく居場所が出来たのだったのだ。

「一体お二人は何を言って・・・」

まあ残念ながら当の恵理香は気づいていなかった様だが。

「艦長の鈍さは容姿や能力だけでなくて自分に向けられる感情もなんだな。」

三浦班長が何か納得した表情でそう言うと恵理香は益々困惑した状態になってしまうのだった。

『君の活躍を祈っているよ・・・元気でな。』

そう言いながらヘンリー博士の姿は消えていった、まるで今世の心残りが消え成仏してゆくみたいだなと恵理香は思う。

「ああヘンリー博士いや先生、さよならだ。」

その姿が消えて暫しの間3人は沈黙していた。

「パーク博士・・・ってあの・・・博士!?」

ケイの事が気になり声を掛けようとした恵理香は突然彼女に抱き着かれ慌てふためく。

「すまないね艦長、暫く胸を貸してくれないか。」

慌てていた恵理香はその言葉に落ち着くと苦笑しつつ言われたままにする。

夜間照明の甲板上で恵理香とケイは暫し抱き合うのだった、ちなみに三浦班長はその間視線を彷徨せせていたらしい。

翌朝はるなは沖合に出ると、全部甲板上に自走多連装ロケット砲搭載車を展開させていた。

「艦長、ロケット砲発射準備完了です。」

指揮車からの報告を副長が伝えてくる。

「了解です。」

艦長席から立ち上がり恵理香は艦橋前面の窓から双眼鏡で島に向ける。

街の傍にある山の頂上付近に青く広がる湖、いや怪獣を双眼鏡で暫し見つめながら呟く。

「・・・あれが生物いえ怪獣ですか、未だに信じれませんね。」

「人間は全てを知っている訳でないからね・・・あんなものが居ても不思議ではないよ艦長。」

何時の間にか傍らに来たケイがそう話しかけてくる。

「あの怪獣が人や他の動物を取り込のは本能だとヘンリー博士が言ってましたが。」

双眼鏡から目を放しケイを見ながら恵理香が聞く。

「その通りだと私も思うよ、欲望や悪意での行いではないだろうけど。」

頂上付近の怪獣を見つめながらケイは答える。

「まあ欲望や悪意でないとしても取り込まれる方としては迷惑な事だがね。」

「確かにそうですね・・・それでは無力化を急ぎましょう、これ以上犠牲を出さない為に。」

恵理香とケイはそう言って溜息を付く。

「照準は怪獣の上方の岩石に合わせて下さい。」

恵理香の指示を副長が指揮車に伝える。

「艦長、照準を岩石に合わせました。」

「では・・・発射!」

はるな前方の甲板に展開していたロケット砲搭載車からロケット弾4発が発射され岩石に命中する。

激しい轟音を響かせながらバラバラに破壊され岩石が怪獣に降り注ぎあっという間に埋めてしまう。

「えっ・・・?」

その瞬間恵理香は断末魔の声いや絶叫を聞いた様な気がして周りを見渡してしまう。

「艦長どうかしたのかね?」

「いえ・・・今何か聞こえませんでしたか?」

恵理香は戸惑った声でケイや乗員達に問い掛けるが。

「いや轟音以外聞こえなかったが。」

「私もです艦長。」

ケイや副長を始めとした乗員達も聞いていな様子に恵理香は暫し戸惑うが直ぐに気持ちを切り替え次の指示を出す。

「ドローンを発進させて下さい。」

「はいドローンを発進させます。」

副長が復唱し甲板上で待機していたドローンを発進させる。

はるなを発進したドローンはバラバラの岩石に覆われた地点の上空に到着し画像を送って来る。

あの怪獣は完全に岩石に埋もれ姿は見えなくなっていた、その光景を見て艦橋内にほっとした空気が流れる。

「これで終わりですかねパーク博士・・・」

「そうであって欲しいね、ただ暫くは監視の必要があるね。」

ケイは恵理香の問いに肩を竦めながら答える。

「私もそう思います、副長援助隊本部に通信を、マーべリック准将を呼び出してくれる様に伝えて下さい。」

2時間後、本部のレイアからはるなに連絡が入る。

『まさかそんな事態になっていたとな・・・』

艦長席に据え付けられたディスプレーに映し出されたレイアは深い溜息を付きながら言う。

「はい、島民と調査隊や救助隊の人々は全員残念な事になってしまいました。」

恵理香は艦長席に座りながら悲痛な表情を浮かべながら報告する。

『事実を発表すべきか迷うところだな、パーク博士はどう思う?」

「事実は伝えるべきだと思うね、艦長はどうだい?」

レイアの問いにケイはそう答えた後恵理香に聞く。

「そうすべきだと私も思います、まあ発表内容は慎重に検討すべきでしょうが。」

『分かった、その点については我々の方で検討しよう、牧瀬艦長ご苦労だった・・・』

そして通信を終える前にケイを見てレイアは何か言葉を掛けようとしたが結局何も言わず通信を終える。

多分ヘンリー博士の事でケイを心配したのだろうと察した恵理香も同じ気持ちだったが敢えて言う事はしなかった。

ケイはそんな恵理香とレイアの気持ちに気づいたのか苦笑すると左舷見張り所に出ると島を見つめる。

恵理香もまた見張り所に出てケイの隣に立って問い掛ける。

「あの怪獣は結局なんだったのでしょうね。」

隣に立つ恵理香を見て再び島を見ながらケイは答える。

「我々の知る既存の生態系には当てはまらないものとしか言えないね、もしかして未知の生態系かもしれないね。」

そんなケイの答えに恵理香は何故か妙に納得している自分に気づく、そして先ほど皆に聞こえなかった声のについても。

「疲れているのかな。」

降って湧いたそんな心情に戸惑った恵理香は呟く。

「艦長大丈夫かい、疲れている様だが。」

「まあ・・・色々ありましたから、パーク博士は・・・」

あの夜以来ケイは吹っ切れたのか何時もの調子に戻っていたので恵理香は内心安堵していたのだが。

ケイは視線を島に戻すと答える。

「大丈夫とはまだ言えないが・・・艦長が居てくれるからね。」

「それは・・・」

信頼感溢れる視線と言葉に照れてしまう恵理香を見てケイは微笑みを浮かべる。

こうしてとある島を襲った事件は一応の解決をみたのだった。

ちなみに恵理香は暫くして『湖(海)に見えたものが実は生物だった。』という事件がかって見たソ連の映画に似ていた事に気づいて何とも言えない気分になった。

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