その日エリス諸島にある無人島に設置された通信中継局に3人の技師が訪れていた。
「まったく故障するなんてついていないぜ。」
「ぼやくなよ、これも仕事だぜ。」
先頭を歩いている技師がぼやくと後から付いて来た男が諭す様に言う。
「確かにな、早く修理して帰ろうぜ・・・何だか不気味な雰囲気だしな。」
3人目の男が周りを見渡しながら呟く、何故なら静かすぎるからだ。
「そう言えば・・・」
前に来た時は鳥や小動物の姿を見掛けたのだが今は気配すら感じられないからだ。
「何日か前にこの辺に落ちたらしいと騒ぎになっていた隕石の所為か?」
中継局の周辺に隕石が落下したのを付近を航行中だった船の船員が見たと言ってニュースで話題になっていた事を思い出す3人。
「まさかな・・・」
そんな話をしている中に3人の技師は中継局に辿り着く。
「!?おいこれを見ろ。」
そこに中継局は無かった、破壊されがれきが広がっているだけだった。
「「「・・・」」」
3人は引きつった表情で顔を見合わせる。
「一体何があったんだ?」
「そんな事俺に分かるか。」
「取り敢えず確認するぞ・・・」
恐る恐るってがれきに近づく3人。
そのうちの一人が何かに気づき指を向けながら震えた声を出しながら2人に話し掛ける。
「なあ・・・あれ何だ?」
2人がその方を向くと赤い光が二つ暗闇に浮かんでいるのに気づく。
「あれはいったい?」
男が正体を確かめる為近きその姿が暗闇に消えた瞬間。
「た、助け・・・ぎゃぁぁ!!」
突然暗闇から男の断末魔の叫びが響き、それが直ぐに途切れる。
「ひっ!?」
突然の事に残された2人はその場に座り込んでしまう。
そして赤い光は恐怖のあまり動けなくなってしまった2人に近づいて来る。
「に、逃げ・・・おわぁぁ!!」
「ぎゃぁぁ!!」
恐怖に2人は何とか立ち上がり逃げようするが次の瞬間何かに押し倒されて断末魔の悲鳴を上げる。
そして2人の悲鳴は先の男の様に途切れ元の静寂が戻った、暗闇に赤い光とうごめく影を残して。
数日後その無人島沖合にはるなが現れた。
「両舷停止、総員警戒配置。」
「両舷停止。」
「総員警戒配置に付け繰り返す総員警戒配置に付け。」
恵理香の指示ではるなは沖合に停止すると総員警戒配置に付く。
「陸上警備隊第1小銃班は出動準備へ。」
『第1小銃班は出動準備願います。』
艦内にアナウンスが流れるとタクティカルベストを着た第一小銃班員達がウェルドック内のLCAC1号前に集合する。
「全員装備を確認後作業艇に搭乗。」
小銃班長の三浦 大輔1等陸尉が指示すると班員達は所持している64式小銃やM60ニューナンブのチェックを開始する。
チェック終了後小銃班はLCAC1号に搭載された人員輸送用モジュール乗り込む。
「艦長、LCAC1号発進準備完了です。」
艦橋で報告を受けた恵理香は頷くと指示を出す。
「では発進して下さい。」
LCAC1号はウェルドックから発進すると島の桟橋近くの海岸に上陸後停止すると小銃班員達は降り立つ。
上陸した三浦班長は辺りを見渡した後、身に着けていた通信機を作動させてはるなを呼び出す。
「三浦よりはるなへ、これより第1小銃班は中継局に向かいます。」
『了解です三浦班長・・・余計なことかもしれませんが慎重にお願いします。』
「はい艦長。」
通信を終えると桟橋上に待機している小銃班に三浦班長は指示を出す。
「それでは出発するぞ。」
「「「「はい班長。」」」」
三浦班長を先頭に第1小銃班は中継局に向かって歩き始めた。
今回はるながここに来たのはマーべリック准将からの依頼が合ったからだ。
『牧瀬艦長、ギルバート諸島にある無人島に設置された中継局の状況確認をしてもらいたい。』
恵理香は艦長席に設置されたディスプレーに映し出されているマーべリック准将から要請を聞いてた。
事の発端は1週間前島に設置された中継局が突然機能を停止してしまった事だった。
中継局の機能停止はこの海域を航行する船舶にとって死活問題になる、そこで要請を受けた業者が修理の為技師3人を島に送った。
しかし技師3人は中継局に向かったまま連絡が途絶えた為、連れて来た船の乗員が様子を確認しに行ったのだが。
『中継局の周りを正体不明の赤い光が動き回っているのを見て引き返す羽目になったらしい。』
業者は国連災害援助隊に通報、そしてマーべリック准将は恵理香とはるなに原因調査を要請してきたのだった。
「了解しました・・・ただお聞きしたいことがあります。」
『何だね?』
眉間に深いしわを寄せつつ恵理香はマーべリック准将に尋ねる。
「この任務ははるないえ私だからですか?」
『もちろんだとも・・・牧瀬艦長ならこの手の事案に最適だと判断したしたからだ。』
その台詞にやはりそうだったのかと恵理香は艦長席で項垂れるのだった。
まあ2回もあのような事案に遭遇し、しかもそれを解決しているのだからと当然だとマーべリック准将。
陸上警備隊の小銃班を乗船させられた時点でそれは決定していたのだと恵理香は理解し溜息を付くのだった。
上陸して1時間後小銃班は中継局へ到着しようとしていた。
「そろそろ到着するぞ、総員警戒しろ。」
三浦班長の指示に班員達は表情を引き締め中継局へ接近してゆく。
やがて中継局に到着した三浦班長達が発見したのは・・・
「これは・・・」
「酷いな。」
破壊された施設の破片や不明になった技師の工具が散乱し、あちこちに血痕が飛び散った凄惨な現場だった。
班員達は散開すると周囲を慎重に調べ始める。
「これじゃ修理じゃなくて新しく建て直す方べきだな。」
現場を見渡しながら三浦班長はそう言って肩を竦める。
「・・・そうですね。」
班員の1人も周りを見渡しながら答える。
「班長こちらへ来て下さい!」
捜索していた班員の呼ぶ声がし三浦班長はそちらに向かう。
「どうした?」
「はい、残された血痕ですがこの先にある洞窟に続いているみたいです。」
三浦班長は呼び掛けて来た班員と共にその洞窟へ向う。
洞窟前には既に他の班員達が来て居て中をライトで照らしつつ待機している。
「あっ班長こちらです。」
班員の1人が手招きし血の跡が残る地面を指し示す。
複数ある血の跡を見た三浦班長は照らされている洞窟内を見る。
「さてと何が居るのやら・・・」
三浦班長は洞窟内を見ながら呟く、正直言って嫌な予感しかしないと思いながら。
「まあ入ってみればわかるか・・・2名付いてこい、後は外で待機だ。」
三浦班長はそう指示すると2名を率いて洞窟内に入って行く。
「班長、気をつけてください。」
残った班員の言葉に軽く手を上がて答えつつ三浦班長以下3名は洞窟内に消えてゆく。
見送った班員は無線機を作動させてはるなに現状を報告し始める。
洞窟内は暗くジメジメしておりあまり長居はしたくないなと三浦班長は先頭を歩きながら呟く。
「班長あれは?」
10分経った頃班員の1人が前方を指差ししながら震えた声を上げる。
「・・・」
前方に浮かぶ赤い光に三浦班長は眉をひそめながら小銃を構え静かに接近して行く。
そして三浦班長はその赤い光が2つあり揃って左右に揺れている事に気づく、まるで空中に浮かぶ目玉の様に見えた。
「ライトを当てみろ!」
後方に居る班員がライトを赤い光に向ける。
「・・・!?」
普段から豪胆な三浦班長もライトに照らし出されたそれに絶句してしまった。
ぬめぬめした体表を光らせ赤い目玉を触覚の上に乗せた見た事の無い巨大な化け物がそこに居たからだ。
「は、班長・・・」
「ひっ!?」
同様にそれを見た班員達は湧き上がってくる生理的悪寒を抑えきれず引きつった声を上げてしまう。
その化け物は見るとぬめぬめした体を揺らしながら近づいてくる、その姿はナメクジにそっくりだった・・・大きさが桁違いだったが。
「・・・行方不明になった技師達はこのナメクジモドキの犠牲になった訳か。」
そして次の獲物として自分達を選ばれたのだと三浦班長達は確信する。
「全員射撃用意!」
「「・・・はい班長。」」
三浦班長の声に2人の班員達は即座に冷静さを取戻すと小銃を構える。
「撃てっ!」
3丁の小銃が三浦班長の指示で化け物に対し射撃を開始するが・・・
「ちっ効果なしか?」
化け物は3人の銃撃を受けても平気な様子で前進してくるのだった。
「総員後退!」
効果が無い事を悟った三浦班長は即座に班員達に下がるよう指示を出す。
「「はい隊長。」」
2人が後方に走って行くのを確認した三浦班長は化け物を一瞥すると駆け足で後退する。
幸い巨大なナメクジモドキの歩く速度はそれほど早くなかったので三浦班長達は追いつかれる事もなく洞窟を出る事が出来た。
「は、班長一体何が!?」
急に飛び出して来た三浦班長達に外で待機していた班員が驚いた表情で聞いて来る。
「犯人が分かった・・・いや人じゃねえなあれは。」
「人じゃなかったってそれって・・・えっ!?」
三浦班長の言葉に戸惑って洞窟内に視線を向けた班員がたて近づいてくる赤い光に気づく。
「兎に角全員後退しろ!銃じゃ相手にならん。」
「了解です班長!!」
事情は完全に理解出来なかったが班員達も尋常ではない事を悟り後退を始める。
そして三浦班長達が洞窟から出て数分後あの化け物が出て来た。
「あれが!?」
後ろを振り向いて化け物を見た班員が叫ぶ、ぬめぬめした身体を陽光に光らせ歩く姿を見て。
「ははは・・・うちの艦長殿はあんなのに余程気に入られているみたいだな、はるなに連絡を。」
苦笑いを浮かべ三浦班長が指示する。
「艦長!第1小銃班より緊急連絡・・・化け物が出現した?」
「外部カメラを作動、共用ディスプレーに画像を。」
副長の報告に恵理香は一瞬眉をしかめつつカメラの作動を指示する。
「はい艦長。」
恵理香の指示通り外部カメラが作動し共用ディスプレーに画像が映る。
「・・・あれは一体?」
副長が映し出された映像を見て呟く、表情や声に嫌悪感を込めて。
いやそれは艦橋いる他の乗員達も同じ気持ちだった、ただし恵理香を除いてだったが。
幼い頃見たとある特撮作品に出て来たある怪獣を思い出したからだ。
「なんであれにそっくりなんですか・・・」
ボートに急ぐ三浦班長達の背後に迫る巨大ナメクジモドキを見ながら恵理香は頭を抱えたくなった。
一方海岸に待機していたLCAC1号にたどり着いた三浦班長達はモジュールに積んできた肩撃ち式の無反動砲を持ち出してくる。
「射撃用意。」
「射撃用意。」
班長以下無反動砲を構えた3人がモドキに照準を合わせる。
「打ち方始め。」
発射された3発の砲弾がモドキに命中し弾き飛ばすが、そいつは再び起き上がると進んで来る。
「銃どころかこいつも駄目か?一体どうやったら倒せるんだアイツを・・・」
その光景を見て三浦班長が表情をしかめながらボヤく。
「艦長?」
「どうやらあの身体のぬめりと皮膚の柔軟性のお陰で大したダメージを与えられないみたいですね。」
副長の問いに恵理香がディスプレーを見ながら、その特撮作品での事を思い出しながら答える。
ふと恵理香はモドキいや怪獣が海に面した崖の傍に近づいて行くのに気づく。
「・・・一応試してみますか。」
先ほどの特撮作品の結末を思い出した恵理香は試してみる事にした。
「三浦班長に連絡を、奴が崖に達したら無反動砲を足元に撃ち込む様にと。」
「足元にですか・・・分かりました艦長。」
副長が一瞬怪訝な表情を浮かべるが恵理香の指示に素直に従って通信室に伝える。
「あいつじゃなくて足元にだと?・・・分かった全員照準を先頭の足元に合わせろ。」
「えっ?」
通信を受けた三浦班長は一瞬考えた後班員達に指示を出す。
「グズグズするな!!」
「「了解です。」」
そしてモドキが崖に達すると三浦班長が射撃を命じる。
「打て!」
発射された砲弾が崖に命中して破壊されるとモドキは破片と共に海上に落下する。
「「「あああ・・・」」」
「「「おおお!!」」」
海上に落下したモドキがのたうち回りながら身体が溶かされれてゆく光景を見た乗員達と小銃班達が声を上げる。
やがてモドキは完全にその身体を溶かされ海中に消えていった。
「艦長・・・流石です!!」
「「「艦長凄いです!」」」
副長や乗員達が称賛の声を上げ恵理香を見るのだが・・・
思い出した通りの結末だった事に恵理香は頭を抱えていた。
「艦長?」
「いえ何でもないですよ。」
副長の問いに恵理香は引きつった笑みを浮かべつつ答える。
「・・・三浦班長にはるなに戻る様伝えて下さい。」
数時間後恵理香は三浦班長達と共にLCAC1号で島に上陸していた。
「艦長こっちです!」
三浦班長に呼ばれ恵理香が彼の元に向かう。
「何か見つかりましたか?」
頷き地面を指さす三浦班長、恵理香はしゃがみ込むと凹んだ地面上にある石の塊らしきものを見る。
半分に割れ明らかに中に何か入っていたらしい石を。
「あいつの卵見たいな物ですね・・・それにただの石ではなく隕石の様ですね。」
宇宙から来た物か・・・恵理香は内心溜息を付く。
「最近この辺一帯に落ちたとやつでしょうね。」
三浦班長が呟く。
「星の欠片ですか・・・ちっともロマンチックな気分になれませんけど。」
恵理香がそれを見ながら言う。
「艦長、三浦班長こちらにもあります。」
別の場所を捜索していた班員が恵理香達を呼ぶ。
そこにはまだふ化(?)していない隕石が数個有った。
「容器をこっちへ。」
班員が容器を持ってくると塩水の入った中にその隕石を入れ蓋を閉じる。
その隕石は後に島から離れた場所に密閉したまま海中投棄される事になっていた。
そして一帯の安全を確認後、別船で到着した技師達によって中継局の再建が始められるのだった。
もちろん三浦班長以下の小銃班の護衛を受けつつだ、おかげではるなは暫く島に留まる事になった。
『ご苦労だったな牧瀬艦長、任せて正解だったな。』
一連の出来事を報告した恵理香はマーべリック准将にからかい気味にそう言れてしまう。
「恐縮です准将・・・まあ出来ればこんな事今回だけにして欲しいですが。」
心底嫌そうな恵理香の様子にマーべリック准将は肩を竦め苦笑しながら言う。
『まあとんでもない空からの贈り物だったな。』
空でなく宇宙からの方が合ってますけどと恵理香はそう思って深い溜息を付くのだった。