「艦長、前方に島が見えます。」
へりのパイロットが後席に座る恵理香に報告する。
パイロットの後から前方を見た恵理香はその島を見つめる。
「救難信号はどうやらあの島付近から発信されている様です艦長。」
通信担当が通信機を操作しながら報告する、恵理香は頷くと命じる。
「分かりました、接近して下さい。」
その日恵理香は派遣艦隊の艦長会議に出席する為旗艦である警備艦あさぎりへ移動中に遭難信号を受信しここまで来たのだった。
ヘリが島に近づくにつれ恵理香は島の中央部が光り輝いている事に気づく、何かが太陽の光を反射している様に見えるのだが。
「・・・?」
持ってきた双眼鏡をそれに向けるが眩し過ぎて恵理香はそれが何か分からなかった。
「どこへ降ろしますか艦長?」
パイロットの問いに一瞬考え込んだ後恵理香は指示を出す。
「海岸線に降ろしてください。」
輝きのある地点傍にも下りられそうだったが、念の為離れた場所に降りる事に恵理香はしたのだった。
「艦長、海岸線に漁船が。」
乗っていた三浦班長が指さしながら恵理香に報告する。
その方に目を向けた恵理香は海岸線に接舷しているというより漂着の方が合っている漁船を見る。
どうやらあの漁船が救難信号を発したのではないかと思い、恵理香はとコクピットに振り向き指示する。
「漁船の傍に降ろして下さい、あと総員警戒態勢に。」
「漁船の傍に着地します。」
「「「はい艦長。」」」
その指示を受け三浦班長と班員達は64式小銃の装弾を確認、パイロットはヘリを漁船の傍に着地させる。
「日本の漁船の様ですね・・・船内の確認を。」
漁船の船尾に第1ふくりゅう丸書かれた船名を確認した恵理香が船内の捜索を命じる。
「了解、小西付いてこい。」
三浦班長は1人の班員を指名しヘリから素早く降りると漁船に向かって行く。
たどり着くとまず最初に三浦班長が乗り込みもう1人も後に続き船内に突入して行く。
暫し待っていると三浦班長が班員と戻って来て恵理香に報告する。
「艦長、船内には誰も居ないですね・・・様子からすると居なくなって大分経っている様ですが。」
「そうですか・・・ご苦労様です、それでは先ほどの輝くものの正体を確かめに行きましょう。」
三浦班長の報告に頷くと恵理香はそう指示を出しつつヘリを降りる。
「貴方達はそのまま待機を・・・1時間経っても戻らなかったらはるなに連絡して指示を仰いで下さい。」
「分かりました艦長、無事に戻って来て下さいね。」
心配そうに答えるパイロットに恵理香は微笑みつつ答える。
「もちろんその積りです。」
「心配するな、俺達が艦長を絶対に守るからな。」
同行する三浦班長が力強く宣言して見せるのだった。
海岸線から出発した恵理香と三浦班長以下4人はうっそうとした林の中を歩いていた。
この島にはまったく人は住んで居ない様だった、まあ近くに漁場も航路も存在しないから当然と言えるが。
それだけに何があるのかまったく分からない状況だけに恵理香達は用心深く行動していた。
「艦長、森を抜けます。」
やがて先行していた班員の報告に恵理香は頷く。
「皆さんここからは慎重に進みましょう。」
恵理香の指示に三浦班長達は頷くと慎重に進み、一面白い砂に覆われた場所に出た瞬間。
「皆さん止まって!」
「・・・・・」
前方に広がる数多くの光り輝く奇妙なオブジェクトに恵理香達は遭遇する。
それはある意味神秘的な光景に見えない事は無かったが、恵理香はそこに禍々しいものを感じて素直にそう受け取れなった。
「艦長・・・これは?」
その光景を見た三浦班長が聞いて来る、残りの4人は禍々しに圧倒されて声も出せなでいた。
「確認して来ます、このまま全員待機を。」
「えっ艦長!?危険だ俺達が・・・」
三浦班長が慌てて追いかけようとするが恵理香は制するとオブジェクトの一つに近寄りそれが水晶の塊だと気づく。
「・・・何でこんな物が此処に?」
この辺の島で水晶が産出すると言う話を恵理香は聞いた事無かった。
だとすればこれは唯の水晶では無いのではないかと恵理香の心中に深い疑念が沸き起こる。
そんな思いに囚われていた恵理香、その直後班員が三浦班長に呼び掛ける声に振り向く。
「班長!今誰かが林の中らこちらを見ていた奴がいます、くそっ逃げだしやがった。」
「直ぐに追いかけて確保しろ!」
「はい班長。」
班員2人が素早く森の中まで追い掛けて行き、暫く経った時。
「確保しました!」
「分かりました、行きましょう。」
「はい艦長。」
恵理香は残った三浦班長達と共に確保された人物が居る所へ向かう。
その人物は班員2人の間に座らせれていた。
「彼が?」
「はい、捕まえたら、『助けてくれ、俺は取り込まれたくない。』って訳の分からない事を言い出して。」
その班員は溜息を付き続ける。
「何とか宥めて落ち着かせたんですが・・・」
恵理香は三浦班長と顔を見合わせると服装から漁師らしい男を見つめる。
「・・・あんたらは?」
漁師らしい男は恵理香と三浦班長に気付いたのか虚ろな目を向けながら聞いて来る。
「国連災害援助隊の牧瀬です。」
「国連の・・・そうか・・・でも・・・こいつらも・・・あいつらの様に・・・」
男は恵理香の返答にそう答えると再び虚ろな目に戻りブツブツ言いと始める。
「貴方は漁師の様ですが、何故ここに居るんですか?」
質問する恵理香に男は顔を上げると答える。
「近くで遭難して、仲間数人とこの島に辿り着いて・・・ここを見つけて・・・」
「それで他の人達はどうしたんですか?」
その恵理香の質問に男は突然頭を抱えて喚きだす。
「居なくなった・・・いやあれに取り込まれたんだ・・・欲に目が眩んで・・・いやだ・・・俺は・・・取り込まれてたまるか!!」
その姿に恵理香と三浦班長は再び顔を見合わせて困惑の表情を浮かべる、余りにも支離滅裂で要領を得ないからだ。
「あんた達もあの水晶に見入られて・・・ははは!!・・・同じ様になる・・・俺の仲間の様にな・・・」
その言葉に恵理香は何かを感じて、後方に広がる水晶群を振り向いて見つめる。
「俺の仲間の様にって、一体何が起こったんだ?」
三浦班長が困惑した表情のまま漁師に問い質す。
「・・・連中はあの水晶に目が眩んで・・・手を出して・・・あはは・・・取り込まれちまったんだよ!!」
狂気に満ちた男の言葉に恵理香は水晶の一つに近寄ると目を凝らして見つめる。
「・・・!?」
そして恵理香は水晶の中に鳥らしい動物が居る事に気付き驚愕の表情を浮かべる。
「取り込まれる・・・ってそう言う事・・・ですか・・・」
そう呟く恵理香の足元の砂が激しく蠢き始める。
その気配にはっと気づいて距離を取ると恵理香はタイトスカート後方にあるホルスターからM60ニューナンブを抜くと安全装置を解除し足元に向ける。
砂を割って出て来たものは数本の触手にしか見えないものだった、恵理香は躊躇う事も無くM60を向けると射撃し始める。
「か、艦長!?」
問い掛けてくる三浦班長に構わず全弾を触手達に叩き込む恵理香。
そう恵理香は気付いたのだ、蛾が光に引かれ近寄って行く様に、あの漁師の仲間達はこの水晶に魅了され・・・捕食されたのだと。
これは水晶なんかでは無い、その美しさで獲物を誘い、自分の体内に取り込んで食する狡猾な生き物だったのだと。
やがて銃弾を撃ち尽くした恵理香はシリンダーをスイングアウトして排莢するとスピードローターで次弾をしながら三浦班長達に振り返り叫ぶ。
「総員戦闘配置!!」
「はい艦長、総員戦闘配置!」
三浦班長と班員達は、恵理香の切迫した様子と周りの異様な状況に気付き班員達に命じると小銃を構える。
「貴方は逃げて下さい、海岸にヘリが居ます・・・それとも皆の様に取り込まれたいんですか!?」
「ひ、ひぃぃ!!」
男は恵理香の言葉に恐怖の叫びを上げると林の中に向かって逃げて行く。
その間に各水晶の埋まった根本が蠢き触手が現れ恵理香達に伸ばし始めていた。
恵理香が最初に感じていた禍々しいさが辺りを辺りを急速に支配始めていた。
「射撃開始!」
三浦班長達が恵理香の指示で小銃を水晶や触手に向け射撃を開始するが目立った効果は見られなかった。
そして全ての水晶から現れた触手はまるでこちらを誘っている様に蠢めきながら恵理香達に近づいてくる。
「艦長?」
「どうすれば・・・」
ふと恵理香は三浦班長達がタクティカルベストに付けている手榴弾を見て閃く。
幼い頃見た特撮ドラマで怪獣を倒すため内部に入り込み体内から攻撃して倒した話を。
「手榴弾を奴らに早く!」
「え?了解です。」
三浦班長が手榴弾をベストから外しピンを抜こうとすると恵理香が声を掛ける。
「ピンを抜いたら直ぐにあの触手に投げて下さい。」
恵理香の指示に三浦班長は困惑する、通常ピンを抜いて数秒を置いて投げるのが普通だったからだ。
「・・・はい艦長。」
戸惑っていたのは一瞬で三浦班長はピンを抜くと直ぐに触手に向けて投げつける。
すると触手は手榴弾を掴むと自分の身体である水晶に取り込む・・・そして次の瞬間。
爆発音と共に水晶が砕けて透明な体液らしきものを辺りにまき散らして動かなくなる。
「なるほど、その手が・・・全員俺の様に手榴弾を投げろ!」
恵理香の意図に気づいた三浦班長が指示すると班員達は手榴弾をピンを抜いた直後に触手に投げつけ始める。
水晶達はその度に水晶体の中に取り込んでは最初の奴の様に砕けて体液をまき散らして動きを止めてゆく。
「今の中に後退します。」
数匹の仲間がやられ触手を延ばすのを止めた水晶達を見て恵理香は指示を出す。
「了解、全員後退しろ。」
指示に従い後退する班員達に続いて恵理香と三浦班長も後退し海岸のヘリへ駆け出して行く。
「艦長・・一体何が?」
先にヘリにたどり着いていた漁師を介抱していたパイロットが驚いた表情で恵理香と三浦班長達を迎える。
恵理香をはじめ全員が尋常じゃない表情で駆け戻って来たからだ。
「・・・詳しい話は後で・・・直ちにこの島を離れます、ここは人の近づいてはいけない所の様ですから。」
「分かりました艦長。」
恵理香の言葉にパイロットは困惑しつつコクピットに戻り出発準備を開始する。
その間に班員達は漁師をヘリのキャビンに乗り込ませる。
「艦長。」
三浦班長の呼びかけに恵理香も乗り込もうとして一瞬林の奥を一瞥する。
「・・・・」
だが直ぐに首を振ると恵理香はヘリに乗り込む。
スライドドアが閉じられるとヘリは急速に上昇すると逃げる様に島から離れて行くのだった。
「あんな生き物が居るんだな・・・」
はるなに戻った三浦班長が艦橋で呟く。
「まだまだこの世界には知られていない物が多くあるってことでしょうね・・・」
恵理香は島を見ながら深い溜息を付き答える。
「それで艦長、今後の事だがマーべリック准将に至急報告する必要があるな。」
三浦班長が今後の事について進言する。
「そうですね、早急に対応してもらう必要があります・・・これ以上の犠牲者を出さない為にも・・・」
恵理香はそう言って溜息を付く。
「これだけの犠牲者が出ていますからね、まあこれだけで済んで幸いだったとも言えるかもしれませんが。」
副長が恵理香の言葉に頷く、もしあの島を訪れのが遅かったらもっと犠牲者が出た可能性もあったと。
「取り敢えずマーべリック准将へ一報を入れて下さい、詳しい報告は私が行います。」
「・・・無理をしないで下さい艦長。」
指示を出す恵理香を見ながら副長が気遣う。
「ありがとうございます副長、でも当事者の私がするべきでしょう、大丈夫無理はしませんから。」
艦長としての義務は果たせねばならない、悪夢の様な光景を思い出しながら恵理香は自分を鼓舞するのだった。
報告を受けたマーべリック准将は直ちに島への上陸を行わない様に付近の島々に要請してくれた。
ただこの島で起こった件は内密とされ、詳細は関係者のみに共有される事になったが。
まあ開示するには内容が余りにも衝撃的な事過ぎた為仕方が無かったと言えるが。
こうしてこの島は禁断の島となったのだが、その為様々な出来事を誘発する事になるが、それはまた別に語られる話である。
「それにしても彼女はこういう案件に本当に好かれているみたいだね。」
白衣を着こみ眼鏡を掛けた小柄な女性がタブレット端末を見ながら愉快そうにマーべリック准将に話し掛けて来る。
「それを本人の前で言わん様にな・・・まあその点については同感だがな。」
マーべリック准将は苦笑しつつそう答えながら己のタブレット端末に視線を落とす。
そこには先ほどまで行われていた会議で決定した事案が表示されていた。
『巨大有害生物担当チーム』、立て続けに起こった事案に対し国連が設立を決定したものだった。
その中心となるのがはるなであり、チームを率いるのはもちろん牧瀬 恵理香三等海佐だった。
「まあそういう訳で彼女の補佐をしかっり頼むぞケイ・パーク、お前は言動は最悪だが知識は確かだからな。」
「いや褒めないでよレイアちゃん。」
「褒めてはいない、それにちゃん付けはやめろと言っているだろうが。」
深い溜息を付きながらさてこれからどうなるのかとマーべリック准将は考えるのだった。