「うぃっ・・・」
1人の酔っぱらった漁師が海岸に通じるは道を危なっかしい足取りで歩いていた。
真夜中の3時を超えようかとする時間だがその漁師は酔いを醒まそうと海風に当たる積りだった。
そして海岸を見渡せる場所に着いた時だった。
「何だあれ・・・?」
海岸線に巨大な黒い塊を見つけ漁師は目を擦りその正体を判別しようして次の瞬間腰を抜かして座り込んでしまう。
「な、なんだあれは!?」
海岸線に佇む巨大な黒い塊を指さしながら漁師は後ずさる。
「うぁぁ!!」
そして漁師はその場から絶叫を上げ離れて行くのだった。
「黒い・・・怪獣みたいまものですか?」
はるなの艦長室で尋ねて来た者達に言葉を聞いて恵理香は困惑した表情を浮かべて聞き返す。
「はいここ数日イリーナ島の海岸で目撃されていいるらしいのですが・・・」
尋ねられた島の役人は深刻そうな表情で説明していた。
本来なら怪獣の出現は重大な事態なのだが。
「毎晩現れるだけで何もしない・・・今までにない事ことだね。」
隣の席に座っているケイが首を捻りながらこの状況を考えていた。
そう今回の怪獣(巨大有害生物)はイリーナ島の海岸に現れるだけで何もしないらしいのだ。
「今までとはまったく様子が違いますね。」
恵理香は今までの怪獣出現の事を思い出しながら言う。
「まったく動きが無いというのだから確かにね・・・」
ケイがお手上げだと言うように肩を竦めて言う。
目撃者の証言通りなら怪獣はその場にただ佇んで居るだけらしいのだ。
「しかも朝にはその姿を消してしまう・・・」
そして昼間には現れないという事が更に恵理香達を余計混乱させているのだ。
「事情は理解しました、我々はこれより調査に入ります。」
「はいお願いします。」
役人はほっとした表情を浮かべ頭を下げる、余程困り果てていたらしい。
島に到着した恵理香は艦の指揮を副長に託しケイと護衛役の三浦班長以下小銃班を伴いLCAC1号で島に上陸する。
そして街の集会場に向かう、既に連絡が言っており事件の目撃者達が集められていた。
恵理香とケイはそこで目撃者達の証言を詳しく聞き状況を確認する積りだったのだが。
目撃者達の証言は怪獣らしいと以外不整合な点が多く恵理香とケイは困惑させられるのだった。
大きさも大型なものだと言う者もから小型だと言う者、数も1匹から数匹とバラバラなものだったからだ。
「艦長、これって幻覚じゃないのか?」
三浦班長がその証言内容に困惑し恵理香に問い掛けてくる。
「私もその可能性を捨てきれないと思うよ。」
同様にケイもお手上げだとばかりにそう言ってくる。
「・・・確かにそうとも言えるかもしれませんが、逆に不自然さを感じますね。」
「そうだな・・・幻覚じゃないとは言わないが、証言を聞いているとそれだけでは無いような気がするぜ。」
バラバラな証言が恵理香に別の何かを示唆している気がしていた、三浦班長も同様な感想を持った様だった。
暫し考え込んでいた恵理香はケイ達を見渡しながら話す。
「議論していても解決は出来そうもありません、一番確実なのは我々の目で確かめる事です。」
「そうだね恵理香。」
「賛成だ艦長。」
ケイと三浦班長はその言葉に頷くのだった。
深夜のイリーナ島沿岸近くに恵理香達は居た、時間は目撃が多発する深夜。
あの後はるなに連絡しキャンプ用品をLCACで運んできて貰いベースキャンプを沿岸近くに設営した。
「艦長今の所問題なしです。」
監視を終えた小銃班員が恵理香に報告して来る。
「ご苦労様でした、食事を取って休息して下さい。」
恵理香は報告を終えた班員に労いの言葉を掛ける。
「はい艦長。」
そして休息に入るたきなに代わりに三浦班長達が監視に向かう。
「艦長、これより監視任務に入るぜ。」
「はいお願いします。」
交代の班員達と共に三浦班長はベースキャンプを出発していった。
「はるなから何か連絡は?」
三浦班長達を見送った後恵理香は通信を担当している班員に尋ねる。
「いえ、今の所有りません艦長。」
「そうですか・・・」
はるなは現在イリーナ島沿岸から離れた沖合に待機している、怪獣が何処から現れても対応できる様に。
「引き続き監視をお願いしますと伝えて下さい。」
「はい艦長。」
指示を終え恵理香はコーヒーを飲みながら海岸の方に視線を向ける。
「さて現れるかな?」
恵理香の隣で折り畳み式の椅子に座っているケイがこちらもコーヒーを飲みながら呟く。
「私としては状況をはっきりさせる為に現れて欲しいとは思いますが・・・」
実際は出現しない方が良いかもしれないので恵理香としては悩みどころだった。
海岸傍に陣取った三浦班長はふと時計を見る、既に1時間が経過していた。
「何も出そうもないみたいだな・・・」
あくびを噛み殺しながら三浦班長はそう呟くと一緒に監視に当たっていた班員が苦笑しつつ目を海に向けた途端。
「た、班長あれ!?」
「何んだ慌てて。」
そこに漆喰の巨大な怪獣が現れていた。
「くそったれ・・・一体いつの間に出やがった?」
三浦班長にはその怪獣が突然現れた様にしか思えなかった、数人で監視していた筈なのにだ。
「艦長に連絡を・・・早く!!」
班員が無線機を作動させてベースキャンプに連絡を入れる。
「艦長、三浦班長から怪獣出現との報告です!」
その報告に恵理香とケイが顔を見合わせると立ち上がる。
「総員現場に向かいます、あとはるなにも連絡を。」
班達はそれぞれ64式小銃や無反動砲を手に取り装弾を確認するとベースキャンプを飛び出してゆく。
「三浦班長、状況は?」
岩陰に隠れ海岸を見ている三浦班長の傍に恵理香はたどり着くとそっと話し掛ける。
「今の所動きは・・・ただちょっと変なんだ。」
三浦班長は怪獣を見ながら答える。
「何の前触れも無く表れた様に見えたんだ・・・しかも。」
隣で同じように見ている班員達に視線を移しながら三浦班長は続ける。
「あいつらに言わせると漆喰の小型怪獣2匹だとか3匹に見えるとか言ってまったく一致しない。」
「・・・それは。」
ちなみに恵理香には中型の怪獣に見えていた。
「パーク博士、貴女はどうですか?」
傍らで海岸を見ているケイに恵理香が尋ねる。
「僕にはかなり大型で漆喰の怪獣見えるね・・・やはり変だよ艦長。」
海岸線に目を向けていたケイが恵理香に視線を戻し答える。
共通しているのは漆喰のと言う事しかあっていない事になる、これまでの目撃者の証言と同じように。
「それに活動している気配がまるで無い・・・写真を見ている様な気分だよ。」
「・・・三浦班長の言っていた幻覚と言う説も否定できませんね。」
そう言って怪獣を見ながら暫し考えたあと恵理香は三浦班長を見て言う。
「兎に角確認してみる必要がありますね、三浦班長信号弾拳銃を。」
「お、おう艦長。」
指示を受けて戸惑いつつ三浦班長は信号弾拳銃を恵理香に渡す。
「総員警戒態勢を。」
「お前ら配置に付け!」
恵理香の指示を受け三浦班長が配置に付くよう言うと、班員達が小銃や無反動を構える。
「パーク博士はベースキャンプへ下がって・・・」
「いや私も残るよ艦長。」
ベースキャンプへ下がるよう言おうとした恵理香の言葉をケイはきっぱりと拒否する。
「・・・分かりましたパーク博士。」
深い溜息をついて恵理香は肩を竦めると信号弾拳銃を構える。
「それでは打ちます。」
引き金を引いて信号弾を発射する恵理香。
発射された信号弾は怪獣に向かい・・・そのまますり抜けていった。
「「「え!?」」」」
その光景に三浦班長と班員達が驚きの声を上げる。
「・・・なるほどねこれは興味深いね。」
「ええ、疑いの余地はありませんね。」
恵理香とケイは顔を見合わせて頷きあう。
その時だった水平線上が明るくなってきた、どうやら夜明けを迎えた様だった。
「か、艦長怪獣が!?」
三浦班長の声に視線を戻した恵理香とケイは怪獣の姿が薄れ消えて行くのを見る。
「消えたね・・・」
その光景を見ながらケイが呟く。
やがてその姿が完全に見えなくなると恵理香は深い溜息を吐いてケイ達を見渡し指示を出す。
「一旦ベースキャンプに後退しそれからはるなに戻ります、キャンプには数名監視の人間を残して置いて下さい三浦班長。」
「了解だ艦長。」
指示にそう答えると三浦班長は班員達に指示を出しベースキャンプに向かう。
「パーク博士、行きましょう。」
「うん艦長。」
ベースキャンプに向かおうとした恵理香は再度海岸線を見る。
「・・・幻影の標的ですか。」
「艦長何か言ったかい?」
恵理香の呟きにケイが聞き返してくるが恵理香は肩を竦めると答える。
「何でもありませんよパーク博士。」
そして恵理香はケイと共にベースキャンプに後退しその後はるなに戻ったのだった。
「それでははるなのレーダーにはまったく何も反応は無かったのですね。」
はるなの艦橋で恵理香は昨晩の状況を副長から聞いていた。
「はい、レーダーにはまったく反応無しでした。」
海岸を監視していたドローンの暗視カメラも何も捉えていなかったらしい。
「見えていたのは現場に居た我々だけだった訳ですか・・・」
「はい、ただドローンのNBC(核・細菌・生物)兵器センサーに反応がありました、ただ何かまでは不明ですが。」
副長がタブレット端末そのデータを表示さ恵理香に見せる。
「ケイ、どうですか?」
脇から覗き込んでいたケイに恵理香が尋ねる。
「・・・はるなのデーターベースには該当する物は無いみたいだね、アメリカの研究所に送って分析してもらおう。」
「そうですね、副長至急このデータを援助隊本部を通じて研究所に送ってくれる様要請して下さい。」
ケイの提案に恵理香は頷くと副長に指示を出す。
「了解です艦長。」
副長がデータをアメリカの研究所に送る様本部に伝えているの見ながら恵理香は原因が解ればいいなと思うのだった。
数時間後研究所から回答が援助隊本部を通じて送られてきた。
「分析結果が分かったよ・・・これは一種の幻覚ガスの様だね。」
帰って来た分析結果を検討したケイが恵理香に説明する。
「幻覚ガスですか?」
「そうみたいだね、送られたデータを元に研究所でそのガスを再現してシュミレーションした結果だよ。」
タブレット端末に表示されたシュミレーション結果の情報を見せながらケイが説明する。
「どんな効果をもたらすんですかその幻覚ガスは?」
「どうやらこのガスは人の恐怖心を煽る様だね、まあ更に詳しい分析をしてみないと断言は出来ないみたいだ。」
「恐怖心をですか?」
その結果を見ながら恵理香は昔見た外国のSF映画を思い出す。
人間の心の中にある秘めた感情によって現れた怪物の話を、まあ原因は古代遺跡で今回とは状況が違ったが。
「これで今までの事を説明できるよ艦長。」
結果のデータを指差ししながらケイが言う。
「私達にとって共通する恐怖は・・・暗闇だからね。」
「なるほど、そう言う事ですか。」
ケイの言葉に恵理香は頷きながら呟く、確かに今人々にとって暗闇は最大の恐怖と言っても大げさな話では無い。
「あの怪獣モドキは人々の恐怖心が生み出したものなのかもしれないね。」
恵理香だけでなく副長や乗員達もケイの説明に納得した表情を浮かべる。
「問題はそんなガスを誰が、いえ何がまき散らしているかですね。」
恵理香は思案顔でケイに問い掛ける。
「それは議論するより現地へだよ艦長。」
「そうですね、まず調査を行いましょう。」
片目をつぶってほほ笑むケイに恵理香は頷くのだった。
怪獣が目撃された海岸に近い海中を潜水装備を付けた小銃班が調査を行っていた。
『ベースキャンプ、映像の状態はどうですか?』
「良好です、十分注意しつつ調査を行って下さい。」
『分かりましたこのまま調査を続けます。』
ベースキャンプから恵理香が指示すると班員達は海底を調査を始める。
そして一際巨大な岩石近づく、それは海上にまでそびえ立っているものだった。
班員の1人が小型のセンサーを岩石に近づけてゆく。
「パーク博士どうですか?」
ベースキャンプでセンサーのデータを見ているケイに恵理香が問い掛ける。
「ガスの検出を確認・・・量は大した事は無い様みたいだけど。」
データを確認しながらケイが推測を述べる。
「推測だけど夜に活発化するじゃないかな、そう考えれば今までの状況に合うしね。」
例の怪獣の目撃は夜間に集中していた事を恵理香は改めて思い出す。
「それにしてもこのガスの発生源ですが・・・」
送られてくる映像を見ながら恵理香は呟く。
「一見珊瑚に見えるね、もっとも今まで見た事の無い種類のようだけど。」
同じく映像を見ながらケイが言う。
「パーク博士正体についての議論は後にしましょう、爆薬のセットをお願いします。」
『はい艦長。』
班員が持ってきた爆薬を問題の珊瑚にセットする。
「タイマー設定に注意を。」
『はい艦長・・・15分に設定良しました。』
「それでは一旦後退して下さい。」
『了解です艦長。』
班員達は珊瑚から離れると海面に待機させていたボートに乗ると離れて行く。
「三浦班長警戒態勢を取ってください。」
「了解だ艦長、総員警戒しろ。」
指示を受けた班員達が小銃や無反動砲を持ち海岸へ向かう。
「爆発まであと1分です艦長。」
班員の報告に改めて海岸線に恵理香達が目を向ける。
「10秒前・・・5・4・3・2・1・0。」
激しい爆発音が辺りに響きと共に水柱が高く上がるのを見た恵理香はケイ達を促して海岸線に向かう。
海岸に到着した恵理香達を先に向かって行って待機していた班員達が迎える。
「艦長、珊瑚は完全に破壊された様です。」
班員が指し示した方を見ると水上に出ていた部分が崩れ沈んでいるのを恵理香達は見る。
「破片の回収をお願いします。」
『はい艦長。』
恵理香の指示を受け一旦退避していたボートが戻って来て、再び潜り海底から破片を引き上げる。
戻ってきたボートの班員から破片を受け取ったケイは恵理香と共にはるな向かう。
「三浦班長、後をお願いします。」
「了解だ艦長。」
恵理香の指示に三浦班長は返答すると班員達に指示を出し始めるのだった。
その夜に怪獣は出現せず島は久々の平穏を取り戻した。
暫く様子を見て問題ない事を確認した恵理香達は住民達から深い感謝を送られながら島を後にしたのだった。
「通常の珊瑚が突然変異を起こして特殊なガスを内部で発生させていたみたいだね。」
はるなに戻り艦内の研究室に破片を持ち込み分析していたケイが後日恵理香達を会議室に集めて報告する。
「突然変異?」
三浦班長がケイの説明に聞き返す。
「うん・・・原因ははっきり言えないけど海の汚染によって突然変異したんじゃないかな。」
「海洋汚染ですか。」
その説明に恵理香は深い溜息を付く。
「それで突然変異体が現れあんな幻影を見せた、それが怪獣なのは何かの皮肉かな。」
そんなケイの言葉に会議室に集った一同は何とも言えない表情を浮かべる。
「パーク博士・・・もしそうだとすればまたあの幻影は現れるかもしれないと言う事になりますね。」
「そうだね・・・人が愚かな事を続ける限りね。」
そう言ってケイは皮肉な笑みを浮かべ断言するのだった。