もしも哭倉村の血桜に千年前の魔物の石板が埋まっていたとしたら。

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魔物の子と桜が紡いだ物語

 

もしも哭倉村の血桜に千年前の魔物の石板が埋まっていたとしたら。

それはどれだけ悲しいことだったんだろう。

 

 

 

 

かつて魔界から来た魔物の子が1人の人間と出会った。

 

魔物は植物を操る力を持っていた。人間はそれを利用して世界を旅するうちに植物の扱いが上手くなった。

 

 

彼らは相棒だった。

────2人で平安の世を疾く駆け抜けた。

 

彼らはパートナーだった。

───2人で様々な敵を打ち倒した。

 

彼らは人間と人外の友情を築いた。

──人間と魔物は不思議な本で繋がり心を通わせた。

 

そして、彼らは負けた。

─ゴーレンという魔物に魔物は石板にされ、人間と魔物は2度と言葉を交わすことが出来なくなった。

 

人間は泣いた。そして魔物の子だったモノを抱えて故郷に戻ると、友情を築いた魔物の仲間達と共に石板を魔物が気に入っていた山奥の桜の幹の穴に立てかけて墓にした。

 

人間はもちろん墓にする気などさらさら無かったがやがて魔物の戦いが終わり友人だったうちの1人の魔物が王となり『共に過ごした記憶と引き換えにしてでも』と輝く本へと願いを告げるも叶えられることは無く石板となった世界中の魔物たちは石板のままだったので、人間は時に1人で、時に再び出会った魔物のパートナーだった人達と共に、世界中に散らばる様々な方法を学び持ち帰っては桜に埋まった石板(相棒)へと試しては失敗した。

 

やがて人間は年を取って魔物と同じように桜の根本に埋まった。

 

 

 

 

石板になった魔物には意識があった。

ゴーレンに石板にされ日本に連れ帰られ仲の良かった桜の中に置かれ王を決める戦いが終わっても石板のままだったが、途切れること無く意識はあったのでパートナーや仲間たちが訪ねてきた時には魔物も話をちゃんと聞いたしちゃんと答えた。

石板になった口も喉も言葉を空気を震わすことは無かったけれど、そんな時は(友人)が答えるように樹を枝を揺らしてくれた。(友人)は石板の側面を覆う事はあれど、魔物の浮き出た石板の表にはその枝を触れることすらしなかったからパートナーと魔物はいつでも会えた。

パートナーは人間なのに植物の扱いがとても上手かったら、(友人)を見事に整え絶えず人が訪れる場所にした。

だから魔物は全然全く寂しくなんか無かった。

 

時たま長期にパートナーが世界を巡る事があったけれど、そんなときはパートナーの家族達が桜と石板の世話を焼いてくれた。

 

桜も石板とよく話をしてくれた。

桜は背が高かったから、どこそこに何が出来たとかどういうやつが村に来たとか変わった動物が樹に登ってきたとかそんな事をよく教えてくれた。

 

パートナーは魔物を元の姿に戻すために色んな術や物や言葉を石板に振りかけたが石板にはなんの効果も無かった。しかし友人の桜が何かよく分からない効果で変に丈夫になっていったから、魔物と人間はその度に2人で笑った。2度と通じることのない言葉で、でも繋がったままの心で2人で笑った。

 

やがてパートナーは動かなくなった。パートナーの紡いだ家族達が、パートナーを桜の根っこの穴の中に埋めた。魔物と一緒に居られるように、自分たちの家族として過ごした魔物が寂しくないように、忘れないように。その桜をパートナーの墓とした。

 

それからまた長い時が過ぎて幾つかの戦いがこの地を襲って、パートナーの遠い子孫たちも散り散りに各地に逃げて行ってからようやく、桜は護るように石板(魔物)をその大樹の中に取り込んだ。

 

それから桜と魔物は微睡むような日々を過ごしていた、そんなある日。桜を大きな振動が襲った。魔物は桜に必死に声をかけ続けたが桜は悲鳴をあげるばかりで答えてはくれず、最後に1つ大きく慟哭すると桜はその口を閉ざした。

 

それから長い年月が過ぎて桜はある日突然以前のように魔物に話をするようになったが、魔物は桜が決定的に変わってしまったことに気づいていた。

 

気づいてしまっていた。

 

 

 

 

桜はなんの変哲もない桜だった。

そんな山奥に咲く花木の1つだった桜の元に、ある時から変わった生物が通うようになった。

その生物は横に立つ人の子に『この桜を気に入った』と言った。人の子もそれに同意した。そうして何度も会ううち植物を操る特技を持つその魔物の子を桜も気に入った。その力で何かと戦っているらしく魔物の子と人の子は生傷が絶えなかった。しかし2人共いつも笑顔だったから桜は2人共を気に入っていた。彼らの仲間も魔物や人の子ばかりだったが、桜はその子らも一纏めにして大好きだった。

しかしある日、魔物の子は動かなくなって帰ってきた。

 

それでも人の子は、笑顔で魔物の子に会いに来た。

 

魔物がさみしくないように、いつまでも桜が元気に寄り添ってくれるように。

でもこの人の子はずっと魔物の子を桜の元に置いておくつもりはさらさら無かったので、魔物の子の身体を石板から取り出す術を探し歩いているのを桜は知っていた。遠く見渡せる樹で見ていたから知っていた。

 

そんな人の子だからこそ桜はこの2人共を気に入っていた。

 

だから人の子が魔物の子とは別の理由で動かなくなって自分の根本の穴に埋められたとき、桜は決めた。人の子が魔物の子に使った術や物や言葉で知らず知らず変化していた桜はずっとこの魔物の子に寄り添えるだけの時を生きられる丈夫な樹を手に入れていたから、いつかこの子が元の姿に戻るまでは共にいようと決めていた。そして桜はかの人の子の目指した奇跡をも引き継いで、この魔物の子に良さそうなモノをも取り込んでは振り掛け続けた。魔物の子を優しく隠してからもそれをやり続けた。桜はどんどん立派になっていったから、祀られた事もあった。桜を慕う人ならざる者たちが集まる事もあった。桜はそのたびに魔物の子に語りかけては2人でそっと笑った。

 

そしてある日突然、桜はわるいにんげんに拐われた。

 

そして気に入っていた人の子とは全く別の優しさなんて欠片もない術や物や言葉でからだを魂を在り方を無理矢理変化させられた。石板に効きそうなモノを魔物の子が「自分のせいで桜が誰かを傷つけた」と言って泣かないようにと編み出した、相手に負担をかけないように取り込む力に目をつけられて、無理矢理変化をさせられた。

 

そうして桜は血桜になった。

 

血桜になりたくなんて無かった。誰かを永遠に苦しませながら血を吸いたくなんてなかった。だが樹は術で縛られ勝手に動いてどうしようもなかった。でも樹の中で自分を想って泣く魔物の子(友人)に心配を掛けたくなかったから、再び話せるようになってからは努めていつも通りにおしゃべりをし続けた。幽霊族の血を吸い続けて憎悪と悲鳴を浴び続けながらも血桜はただただ魔物の子の中では彼らの友人()のままで有り続けたかった。

 

そんなある日また突然に白い幽霊族の男と斧を持った黒い服の人間が現れて、幽霊族の技で血桜は散った。

 

桜はようやく開放された。友人(人の子)との勝手に決めた約束を果たすこと無く、共に居たいと決めていた友人(魔物の子)に最期の言葉を投げかけることすら無く消し飛ばされてしまった。

 

 

 

 

魔物の子は植物を操る力を持っていた。

その力があれば変わってしまった友人()をすぐに戻せる事なんて分かっていた。無理矢理操られる友人()の支配権を奪い取って元通りにしてから開放することなんて果てしなく容易いって事に気づいていた。でも石板になっていたから力を使えるわけもなく、心だけが藻掻いているうちに友人()は歪んだままの姿で消えてしまった。

 

パートナーとの思い出が詰まった友人()すら粉になって散ってしまってから50年以上経った。たった1人ぼっちになったと突きつけられた魔物の子は桜の残骸に埋もれて狂骨にすら気づかれないまま穴倉の中で長く時を過ごし、平成の世にようやっとカエルの魔物の子に掘り起こされると、爆発の力を操る魔物の子が開発した人工の月の光により身体を取り戻した。

 

そうして知った。石板にされた戦いから、1000年経っていた。

 

植物を操る千年前の魔物の子はあのとき見ていた。(友人)を殺したのが一体誰なのかを、崩れる(友人)(からだ)からこぼれ落ちながらしっかりと見ていた。その幽霊族の男がどうなったのかもしっかりと見ていた。

 

だから魔物の子は心を眠らせたパートナーの遠い遠い子孫と共に日本へ渡り、植物に聞いて探して探してとうとう見つけ出した。

 

 

カランコロンと下駄が鳴る。

あの白い男によく似た子供がそこに居る。

 

その頭からひょっこり覗く赤い目玉に魔物はちゃんと気づいて、パートナーの子孫に本を開かせてにこりとわらった。

 

ようやく会えたとにこりとわらった。

 

1000年間共に居てくれた友人の仇へ向かって使える中で最強の術を放ちながら、泣きながらわらった。




魔物の子∶ジュロン系の術を使う家系の魔物の子。植物を操る力がある。


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