星屑の夢 作:ハレルヤ
ザッザッと砂を踏みしめる音が近づいて来ている。
カタカタヘルメット団の人数が光源という形で増えていくのが目に見えて分かる中、対策委員会一行はトラックの陰に身を潜め、セリカへと今後の動きを簡潔に分かりやすく説明をしていた。
「そ、それだけ……?」
作戦を最後まで聞かされたセリカは何処か意外そうに零したものの、リョウヤが工房から取り出した物を見て納得の声を上げた。
セリカの理解を得られると、ホシノの号令の下で作戦が開始される。
ホシノが真っ先に飛び出し、シロコとノノミが続く。中央にホシノ、両脇を二年生の二人が固め、光源であるカタカタヘルメット団のライトを目印に発砲を始めた。
「銃撃だ!」
「奴らまだいるぞ!」
光源と言ってもライトの明かりが届く距離には限界があるのだ。光の範囲外からの先制攻撃を受け、カタカタヘルメット団から悲鳴が上がる。
ホシノの背を追う形でセリカと先生が続く。セリカは「自衛と、先生の安全だけ意識してくれ」と言われているので攻撃行動はしない。先生は指示出し係だ。
アヤネがドローンとリョウヤの視界から得た情報をインカムで伝え、その情報と自分で見て感じたものを踏まえた上で先生が指揮を執る。
ドローンという中継点を挟むことで、リョウヤ達はインカムで通信をしているのだ。
『北西から回り込もうとしているヘルメット団がいます!』
「リョウヤくん!」
「了解」
アヤネからの通信を聞き、先生が鋭く指示を飛ばす。トラックの屋根に上がっていたリョウヤは、狙撃銃を俯せで構えながら淡々返す。
アヤネの言葉通り、明かりを消して動くヘルメット団が早くも出始めている。
アヤネの操るドローン自体にサーモグラフ機能はない。超長距離を高速で飛行し、カメラ機能を搭載し、電波の中継点となっている……これだけでもかなりのエネルギーを使う故に、敢えて搭載しなかったのだ。
リョウヤは素直に感心する。
(よく気が付くな……)
アヤネが見ているもので、熱源の探知をしている画面はリョウヤの視界だけなのだ。
次々に飛ぶ先生からの指示とアヤネの情報に耳を傾けながら、リョウヤはちらりと頭上に目を向けた。
おや? とリョウヤに疑問符が浮かぶ。
てっきり先生たちの頭上を追っていると思っていたドローンの姿がないのだ。
セリカが怪我人なので、対策委員会一行の移動はゆっくりしている。前の三人は小走りで距離を詰めもするが、待機している時間も多い。
リョウヤは暗闇でも皆の位置を確認できる。自分がまだトラックの屋根で狙撃していられることを確認すると、合間を見て上空に視線をやって――気が付いた。
ドローンが高速で動き回っている。
セリカか先生を中心とした円運動だ。
(あの速さで操作……はオートだとしても、全方位を観察して……正確な情報を伝えてくれているのか)
頼りになる……! とリョウヤの頬が緩んだが、先生から名前を呼ばれて引き締める。そろそろ合流をしてほしいとのことである。ちょうど狙撃でヘルメット団を一人、行動不能にしたタイミングだった。
セリカは自分と先生の盾となる位置をキープしているホシノから、視線を一瞬だけ先生に向ける。そして、リョウヤのいる背後を振り向きかけ……前だけ見ているように言われていたことを思い出し堪える。
セリカは未だに発砲していない。進んで攻撃を仕掛ける必要がないという指示が、自分の体を思ってのことだと分かっていたし、何より。
(一方的だなぁ……)
撃つ必要もなかった。
自衛と護衛を指示されていたものの、前衛の三人と後衛の一人で、倍以上の相手を打倒している。セリカ達に弾丸が向かってくることもない。あったとしても、まずホシノが盾で受けている。正直、ヘルメット団側に同情してしまいそうだ。
『重戦車Flak41改良型、来ます!』
アヤネの言葉に、ハッとなるセリカ。余裕があるとは言え、気を抜いて良いわけではない。体が熱を持っているようで、どうにもフワフワしている。
そんな様子のセリカに、隣の先生は気が付いて表情が固くなる。先生は医者ではないが、セリカの体調が良くないのはなんとなく分かる。然程動いていないにも関わらず、息が少し荒いのだ。
派手な銃声を立てながらセリカ達の後方に合流し、リョウヤは顔を顰めた。先ほどまでより、セリカの体温が上がっていたからだ。
打撲したであろう箇所が、熱を持ってしまっているのが窺えた。
市街地と隣接していても砂漠は砂漠。夜は気温も低い。あまり時間は掛けられない。
「行け行け! 射線上に入るなよ!」
Flak41改良型から上半身を出したヘルメット団が声を上げると、戦車の裏からヘルメット団がわらわらと展開する。車体の裏に隠れながら接近してきていたのだ。
直後に轟音が鳴り響き、重戦車から砲撃が開始される。初弾は大きく外したものの、次弾からはきちんと修正して狙って来ている。
「うへー、良い威力だぁ~」
真正面から砲弾に耐えながら、ホシノは軽い調子で言う。褒めてこそいるが、余裕綽々といった風だ。
ヘルメット団はじりじりと包囲網を広げようとしている。
Flak41改良型に手を取られている間でなくては、形勢を逆転できないことを理解しているのだ。
リョウヤ達からしても重戦車は厄介だ。
「――投げるよ!」
先生は大きくないが、力強く宣言する。後ろを向くことなく、頭上後方に向けて放り投げたのは――スタングレネード。
セリカが作戦を聞いた際に納得した理由であり、リョウヤが先生に手渡していた……激しい閃光のみを伴う特注品だ。
使用タイミングは先生に一任されていたソレは、ちょうど先生とリョウヤの間の空中で炸裂した。
ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカ、先生の影が前方に、リョウヤの影が後方に長く伸びる。
対策委員会の作戦はシンプル……臨機応変に、前だけ見て進む。
配置は、前にホシノを中心としたシロコとノノミ。殿をリョウヤ。間に先生とセリカ。
最も必要なタイミングで、先生がスタングレネードを使うというもの。
「なっ……!?」
「眩しッ!?」
「目がっ……目がぁ……!」
今ではあちらこちらにヘルメット団のライトが輝きを放ちながら転がっているとはいえ、暗闇の砂漠ではあまりにも効果的だ。目を押さえて呻く者、砂上に転がる者もいる。
ホシノ達の目も眩むが、正面から閃光を受けたヘルメット団と比べたら微々たるもの。心の準備も出来ていた。リョウヤに至ってはコンタクトレンズ型の魔具によって、強い光を網膜に届く前にカットしている。
「リョウヤ!」
ホシノが叫ぶと同時にリョウヤは勢いよく飛び出していた。
砂が舞い上がる。
狙撃銃を仕舞ったリョウヤが左腕でホシノの腰に手を回し、ホシノは身を委ねる。そのままホシノを抱え跳躍すると、一瞬のうちに重戦車の眼前に降り立った。
はやっ! と先生が目を見開く。
二人で並び立ち、リョウヤは左手で、ホシノは右手でショットガンを構える。
着地音に反応したヘルメット団もいるが、既に後方ではシロコとノノミが、それぞれ重戦車の取り巻きに狙いを定めていた。
「お仕置きの時間ですよ~!」
「ドローン、作動開始」
Flak41改良型前に展開していたヘルメット団を、ノノミとシロコが容赦なく弾丸で撃ち貫く。
ノノミの武器はミニガン。シロコはアサルトライフルと、ドローンによるミサイル攻撃だ。二人息を合わせて弾丸をばら撒く。更にシロコは自身のドローンによるミサイルの爆風が、リョウヤとホシノに届かない位置を狙って落としてやる。
「うへへ、完璧に私達の意を汲んでくれてるねぇ」
「頼りなるよ、本当に」
ノノミとシロコの援護を受け、ホシノとリョウヤが柔和な微笑みを浮かべ――引き金を引いた。
火力を重視した改造を施し、魔具となっているショットガン二丁を近距離から連射され、Flak41改良型はあっけなく沈んだ。
小規模な爆発を起こしたFlak41改良型は煙を上げ、砲塔も下がって元気がないように見える。
『Flak41改良型、沈黙……周囲に敵影、ありません』
アヤネが映像を分析しつつ、慎重な様子で告げた。
ヘルメット団は強かで、既にほとんどが撤退している。砂漠は静けさを取り戻していた。
シロコとノノミが小さくハイタッチする。
「ん……? 顔、赤くない?」
「赤い、ですね……大丈夫ですか? セリカちゃん」
先生とセリカが合流すると、後者の様子にシロコが違和感を覚えた。ノノミも同様だ。
息も少し荒いよね、と先生も付け足す。
「そ、そうかな? 結構、元気なつもりだけど……」
セリカは自覚がなく、曖昧に答えた。体に痛みはあっても、精神面では本当に元気なのだ。と言うより、心が元気だからこそ肉体を問題なく動かせている節がある。
「お医者さーん」
Flak41改良型を見つめていたリョウヤに、ホシノが声をかけた。呼ばれたリョウヤは、既に手元に水入りのペットボトルとタオルを工房から取り出している。
「多分、打撲傷が熱を持ったんだ」
言いながら、リョウヤはタオルに水を染み込ませ始めた。そしてギュッと絞った冷たいタオルをノノミが受け取ると、シロコに支えられたセリカの顔を優しく拭いてから額に押し当てる。抵抗する気もないセリカは大人しく受け入れ、心地良さそうに目を細めた。
「痛み止めとかはないの~?」
「ある」
「あるんだ……」
ホシノはあると確信を持っていたが、リョウヤは想像以上に簡単に認めた。
思わず先生が零すと、リョウヤは「痛くなくなるだけなんだ」と返した。何故、最初から飲ませないのか? の解答だ。
言われて、先生も思い至る。
「状態が分からないのに、痛くないからって無理をさせないようにってことだね」
骨折していても痛くないから、と無理に動かせば怪我は悪化するものだ。
先生が一人頷くと、ホシノ達も同様に納得したようである。
「理解が早くて助かる。見てた感じ、折れてる素振りはなかったから……はい、これ」
ホシノに痛み止めと新しいペットボトルを渡し、リョウヤはFlak41改良型に飛び乗った。先生は先ほど同様に驚かされる。体した跳躍力である。……実際、リョウヤの靴は魔具であるのだが、先生は知る由もない。
「少し気になることがあるから、先に戻っててくれ」
返答は満場一致の「待っている」だった。殲滅が終わっているものの敵地だ。皆で固まっていたかったし、セリカの休息を僅かでも確保したかったのだ。
セリカにタオルケットを渡したリョウヤが、開け放たれたハッチから中を覗くとヘルメット団達はヒッ! と小さな悲鳴を上げる。リョウヤ達がいなくなるまで、車内で息を潜める予定が台無しになったのだ。
ヘルメット団は焦りながら口を開く。
「わ、私達はもう攻撃するつもりないぞ!」
「インチキ野郎……! あ、いや、なんでもないです」
「ねむいし」
「化け物じみた連中の相手は無理だよぉ」
操縦士達より戦車その物の方が先に駄目になっていた。
それにしても酷い言われようである。
ハハハ、とリョウヤは笑う。
先に手を出しておいてよく言う、というのが正直な感想だった。
(まぁでも、基本殺し合いにまでいかないのは……良い事、なのかね)
インチキ野郎は言い得て妙だ。何もない所から凡ゆる道具を出すのは、確かにインチキなのだろう。
ただ、銃で撃たれても「痛い」の一言で済ますのがキヴォトス人だ。リョウヤからしたら「そっちもインチキ」なのである。苦笑してしまうのも仕方がないことだった。
「そっちが仕掛けないなら、こっちからは何もしない」
「本当か……?」
疑わしげに言葉を紡ぐヘルメット団に、リョウヤは大きく頷いた。
「だから一端出てくれ……というか、そのまま帰ってくれていい」
ヘルメット団は思いの外、素直に従ってくれた。というのも、リョウヤ達の人柄を知っていたからだ。少なくとも「戦意のない相手を後ろから撃つことはないと思う」と言える……くらいの理解はあった。
一人、また一人と降りていき――異常が起こる。
『Flak41改良型の熱源復活! これは……!?』
「全員ホシノの後ろに!!」
アヤネの驚愕と焦りの通信と同時に、リョウヤは声を張り上げた。熱源の場所、流動の仕方から、何を目的とした再起動なのか推察できたのだ。
言葉だけで成すべき事を察したホシノは、数歩下がって盾を構える。
「ヘルメット団! お前達もだ!」
「ば、爆発!?」
リョウヤが最後のヘルメット団をハッチから引っ張り上げると、ちょうど車内から自爆シークエンスの案内ボイスが流れた。たった今ハッチから抜け出したヘルメット団にも聞こえていて「なんで? どうして?」と困惑し硬直してしまっている。
「シロコ!」
「えっ……キャア!」
「ん!」
何をすれば良いのか分からないといった様子のヘルメット団を、リョウヤは抱えて投げ飛ばした。受取手として指名されたシロコは、楽々と人一人を受け止める。
シロコは受け止めたヘルメット団を抑え込み、盾で戦車を遮るようにかがみ込む。他の戦車の搭乗員も、それに続いた。
「リョウヤくん!!」
先生が必死の形相で叫んだ。
カウントが十からスタートし、リョウヤがヘルメット団を放った時点で残り五秒。
リョウヤは冷静に戦車から飛び降り、ホシノの横を走り抜ける。すると先生の手が伸び、ホシノの背後へと引きずり込んだ。
ノノミはセリカを守るように抱え込み、先生はリョウヤを守るように抱え込む。
ほぼ同時に爆音が響く。
何人かは、爆炎が空に立ち上ったのを見た。
盾を構え、吹き飛ばされない用に足に力を込めるホシノ……その両横を爆風が突き抜け、砂が飛び散る。盾から伝わる衝撃は大きいが、思っていた程ではない。ホシノは一手早く、疑問を覚えたのだった。