星屑の夢   作:ハレルヤ

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2-7.帰路

 爆発が収まった砂漠に一陣の風が起こり、戦車や盾が風を受けると鈍い音を鳴らす。戦車から剥がれ落ちた金属片が砂に落ちると、辺りを静寂が支配した。

 アヤネからドローンを通して安全が確保された旨を告げられ、ホシノは変形式の盾を畳み込み一息吐いた。

 ノノミと、ノノミに抱き抱えられるセリカがゆっくりと顔を上げる。

 

「ふぅ、ビックリしましたね」

 

「うん……みんな大丈夫?」

 

 側で先生によって抱え込まれていたリョウヤが、僅かにしんどそうな声を漏らした。

 

「先生、苦しい……」

 

「え!? あっ、ごめんね!」

 

「いや、庇ってくれてありがとう……けど先生も危ないんだからさ」

 

 先生は危ない、ではなく「先生も危ない」そう言ってしまったのは失言だったかもしれない。先生は気が付いていない様だったが、リョウヤは言ってから自覚する。

 

「いやぁ、思わず動いちゃった」

 

 考えるより先に体が動いたのであろう先生はたはーと笑った。反省はあっても後悔はない様子だ。

 先生はリョウヤをキヴォトス人だと認識している。そんな先生はキヴォトス外からの来訪者。ならばやはり、本来なら庇われる側の人間なのだ。

 

「皆、大丈夫そうで良かったねぇ~」

 

「……だな」

 

 リョウヤの何とも言えない表情を見て、ホシノが助け舟を出す。

 名を呼んだだけで盾として為すべきことを成したホシノに、リョウヤはお礼を言うと逃げるように戦車の上に飛び乗った。

 シロコ、ノノミ、セリカ、先生もホシノに感謝の言葉を述べ、ホシノは少し照れたように「うへへ」と笑み浮かべる。

 助けられたカタカタヘルメット団は、気まずそうに視線を彷徨わせた。

 

「――関係性はどうあれ……助けてもらったのなら、言わないといけないことがあるんじゃないかな」

 

 そんなカタカタヘルメット団に先生は優しく微笑みかけると、言い聞かせるように告げた。すると、カタカタヘルメット団はおずおずとお礼をの言葉を口にし始める。

 ホシノは普段通りの調子で「どういたしましてー」と返すものの、なんとも複雑な胸中だ。

 

「ん、お礼は襲撃をやめてくれればいい……誘拐とかも」

 

「ごもっとも」

 

 シロコがサラッと言い放つ。ハッチから戦車内を覗いていたリョウヤも、落胆したように溜め息を吐いてから砂上に飛び降りて同調した。

 

「セリカちゃんへの謝罪も欲しいですね☆」

 

 これには先生も「それはそう」とシロコとノノミに同意する。

 助けられたのならお礼を。悪いことをしたのなら謝罪を。当たり前のことだった。

 

「……ごめん」

 

 戦車に於ける車長を務めていたカタカタヘルメット団の少女が素直に頭を下げた。習うように、他の乗組員達も続く。対策委員会一向は意外なものを見たような顔になる。

 

「そこまで恥知らずじゃないよ」

 

 普段から襲撃していて、今日は誘拐をした組織に属している。加害者である自分たちが、その被害者に救われたのだ。感情はぐちゃぐちゃだが、それでも思うところはある。

 それに――

 

「自分たちが乗ってた戦車に爆弾なんて仕掛けられて……今まで通りになんていかないから」

 

 ――捨て駒扱いは、流石に堪えるものがあった。

 車長の少女は力無く笑う。

 カタカタヘルメット団がアビドス高等学校に対してやっていることを考えると、リョウヤ達からしたら同情の余地はないはずだ。ないはず、なのだが……揃いも揃って何も言えなくなっていた。

 対策委員会の一年生と二年生もカタカタヘルメット団の資金源、或いは受けている補助の異常性には気が付いている。

 カタカタヘルメット団は悪い大人に利用されているという認識なのだ。不良集団には違いないのだが、本来その程度の集まりの筈だった。

 

「そっか……」

 

 先生もきちんと感謝と謝罪を告げたのを見て「根っから悪い子なわけじゃない」と判断を下し、難しい表情を作っている。

 

「フォローするなら、自爆で狙ったのはお前達や……俺たちに対する加害目的じゃない」

 

 声には出すさずに「あーもう!」と雑に自身の頭を掻いたリョウヤはハッキリと断言した。

 

「目的は中身だったってことー?」

 

「……分かる?」

 

 首を傾げたホシノに対し、リョウヤは少しの驚きをもって返す。

 当たりをつけたホシノへ向けた言葉は、それ自体が答えのようなものだった。

 

「音と炎は派手だったけど、衝撃は大したことなかったからねぇ……後、今リョウヤがちょっと中見てすぐに降りてきてたしねー」

 

 溜め息も吐いてた、とホシノは緩い笑みで鋭い考察を述べた。

 戦車の自爆前、リョウヤはカタカタヘルメット団を車内から追い出そうとしている。それは爆発することを知っていた……のではなく、車内に入りたかったからなのは明白。

 爆発後も同じように車上に登り、ハッチから内部を観察している。その後すぐに降りたのは、何の情報も得られないことを理解したからだと推察できた。

 ホシノの冷静な分析に、リョウヤは顎を引いて肯定の意志を表す。そして軽く戦車を蹴ると、ガンガン音を立てて何かの崩れる音が響く。しかし、戦車の外見に変化はない。

 

「中身が完全にやられてる。操作盤とかも駄目になってた。それにそもそも、爆発の狙いが攻撃なら自爆シークエンスとかいらないしな」

 

 リョウヤは苦々しい笑みを浮かべた。

 最も確実なのは戦場を観測し、効果的なタイミングで爆発させることだ。

 だが今回、爆発までのカウントダウンをしている。これは恐らく、乗員が逃げるための慈悲だ。

 戦車の中身を破壊したいのであって、乗員も対策委員会も初めから目的ではない。

 だからこそ、戦車が鎮圧された後に自爆するように仕組まれていた。

 

「……初めから戦車の提供者が、その痕跡を消すために用意した機能だったということですか?」

 

 だとしてもタイムリミットは短く、乗組員が逃げ切れない可能性があった。実際、動揺したカタカタヘルメット団はもたついてしまっている。脱出できずに怪我をしていたかもしれないし、怪我で済まなかったかもしれない。

 ノノミが怒り混じりに確認すると、ホシノは「嫌だねぇ」と肯定した。

 

「リョウヤのことは完全に意識してるよね~」

 

 リョウヤは作成する側の人間だ。機械系にも強い。戦車の中身となる部品や電子基盤等から、情報が漏れることを対策したかったのだと考えられる。

 

「ちなみに答えるつもりはある?」

 

 シロコが戦車を一瞥し、乗組員に尋ねる。返答は素直にしてくれた。今さら隠す理由も、気持ちもなかったのだ。

 

「……何も知らないんだよ、私たちは」

 

「多分、他の連中も知らない……と思う」

 

 義理立てする理由もない。嘘を言っているとは思えなかった。対策委員会一行も追及はしない。

 元より今日はセリカを救うことが第一目標だ。これ以上は高望みだろうと、アビドス高等学校へと帰ることにする。

 戦車の乗組員達に対して市街地まで一緒に行くか聞いている先生の姿が、やけにリョウヤとホシノの印象に残った。

 帰りの軽トラックは、助手席にセリカが座らされることとなる。

 荷台ではノノミがホシノに、シロコがリョウヤに膝枕をしていた。前者は比較的よく見る光景だ。

 膝を提供している二人は肩にタオルケットを羽織り、提供してもらっている二人は腰回りにタオルケットをかけている。

 ノノミとシロコは肩を寄せ合っているので、必然的にホシノとリョウヤも腕が触れ合っていた。

 

「いやー、まさかパソコン取り出すとはねぇ」

 

 軽トラックが発進すると、心地良さげに目を閉じたホシノが呆れの言葉を出す。

 後者はノートパソコンを工房から取り出したリョウヤを、シロコが強制的に沈めた結果である。当人は魔具の使い勝手を纏めるつもりだった。

 

「時間は有限だから……」

 

「睡眠時間は必要経費だと思う」

 

『ってシロコちゃんも言ってるよ? セリカちゃん』

 

『うぐ……』

 

 言い訳を吐き出すリョウヤにシロコが鋭く指摘すると、インカムを通して先生とセリカのやりとりが聞こえてくる。

 行きは電力の消耗などの理由から不用な連絡は取らなかったが、帰りなら余裕もある。車内、荷台、アビドス高等学校オペレート室と繋いでいる状態だ。

 

『眠れないんですか? セリカちゃん』

 

『うん……ていうか、アヤネちゃんだって休んでていいって言われてなかった?』

 

「いえいえ、分かります☆ 寂しいですよね」

 

 和やかにノノミから本音を当てられ、アヤネは「あはは」と誤魔化すように笑った。

 映像の投映をしていなくて良かった、とアヤネは思う。頬が熱を持ったからだ。

 オペレーターという立場上、アヤネは一人でいることが多い。せめて皆との会話には混じっていたいという、可愛らしい心情だった。

 

(言われてみれば……行動中アヤネは大体ずっと通信繋いでいるな)

 

 流石にこんな深夜帯に対策委員会として行動したことはなかったので基本は日中だが、可能な時は大体いつでも話が出来る状態だったように思える。

 リョウヤの頭はシロコの膝の上。視界には星空を背景にシロコの顔が入っていて。その表情は「分かる」とでも言いたげなもので、隣で膝枕をされているホシノも「気持ちは分かるよー」と呟いている。知らなかったのは自分だけらしい。

 

「……通信補助専用に何か作るか」

 

『で、でも今日みたいに電波の届かない場所で使う機会があるとは限らないですから』

 

「でも、あって困ることはない」

 

 太腿の柔らかさを感じながら呟かれたリョウヤの声を聞き、アヤネが少し慌てている。先輩の負担を増やしたくない後輩心だった。

 リョウヤと目が合ったシロコはニコリと笑う。更に呟かれた後輩を思っての言葉に、嬉々としてリョウヤの頬を両手で触り始める。

 

「リョウヤ先輩なら簡単でしょうしね☆」

 

 シロコの手遊びを見て、ノノミもホシノの頬をムニりながら同意した。三年生二人はされるがままである。

 通信補助は既にドローンには組み込まれている機能だ。素人考えでも、新たに作るのが難しいことではないことは分かる。

 

『本当に多才だよねぇ……医学も工学も理系ではあるけど』

 

 先生がしみじみと呟く。そこには感嘆が含まれていた。

 

「医学に関しては、そういう環境だったってだけだけどな」

 

 リョウヤはなんとなしに返す。

 今でも率先して学んでいるのは、どちらかと言えば工学……モノを作る分野と、電子工学である。

 

『ご両親がお医者さんとか?』

 

 先生はリョウヤが医者の家系だと考えた。運転に集中しながらも、疑問をそのまま口にする。

 聞いたことのない過去の話だ。むにむにとリョウヤの頬を触っていた手を、思わずシロコは止めてしまう。

 シロコだけでなく、ホシノもノノミもセリカもアヤネも興味深げに耳を傾けていた。荷台組は視線もリョウヤに集中している。

 

「育ての親みたいなものかな、その男が医者だった……父と呼んだことはないが」

 

 呼ばれたいとも思っていなかったと思う、とリョウヤは付け足す。

 パラケルスス。それが育ての親……と言っていいかは微妙だが、リョウヤを引き取った男の名前だ。

 医者であり、機工魔術士でもある。

 

「英才教育ってやつー?」

 

 先生が「やってしまった!」と後悔する。育ての親と言うことは、生みの親ではないということ。そこに含まれた意味が、生みの親と離れ離れなのは確かだ。配慮が足りなかったと先生は思ったが、リョウヤは気にしていない。そもそも知らないことを配慮しろと言う方が無茶である。

 義姉がいることで察しを付けていたホシノが、先生をフォローするように揶揄い半分な調子で問い掛けた。

 

「いやぁ、あいつは別に俺を医者にしたかったとかはないよ」

 

 リョウヤは、ゆっくりと思い出すように瞑目した。後継者問題についても、当のパラケルススが長命だ。詳しくは把握していないものの、既に五百年以上を生きている男だ。必要としていないだろう。

 

「ただ医者の家ってこともあって、医学の本には困らなかった……まぁ絵本代わりだな」

 

 ん!? と全員の思考が停止する。今何か、可笑しなことを言った気がした。

 

『え、絵本……代わり?』

 

 セリカが混乱した顔で口にする。

 

「うん? うん、物心つく頃の話だし。あぁ、情報の更新って意味での勉強は今もしてるぞ、医学も進歩は凄いから。ただ基礎の大半は自然と身に付いたものだよ」

 

 暫しの沈黙が訪れ、不思議に思ったリョウヤは目を開けた。

 シロコが瞠目していた。シロコだけではない。ノノミとホシノも同じようにリョウヤを見ていたし、心情的にはセリカとアヤネ、先生も同様だった。

 驚き過ぎで最早、言葉すらない。

 

『ちょ、ちょっと待って! そんな子供の頃から医学を学んでいたの!?』

 

 え、何? とリョウヤが言うよりも早く、先生が驚愕を言葉にして発した。

 

「いや、学んでいたと言うと語弊がある……そんなに変か?」

 

 自分以外のサンプルを知らないリョウヤにとって、自分の経験こそが全てだ。大きな反応をされるとは考えていなかった。

 

「変……というか珍しい? 特殊?」

 

「自分でも言ってたけど、普通は絵本なんじゃなーい?」

 

「そうですね、私も絵本なら読んでもらっていた記憶がありますし」

 

『そうやって読んでもらった絵本の内容なら、確かに覚えてはいますよね……』

 

 シロコ、ホシノ、ノノミ、アヤネは唖然としつつ言葉を絞り出す。

 

「俺だって絵本を読んでもらったことはあるよ、義姉にだけど」

 

『あ、そこは普通っぽい……』

 

 セリカが思わず口にする。

 義姉。アリーセ――アイと呼ばれていることの方が多かった少女は、率先してリョウヤの面倒をみてくれていた。というか基本的にアイが面倒をみていた。

 今となっては古い記憶にリョウヤは懐かしさを感じながらも、皆の言いたいことを理解する。

 

「外を知らない子供にとって、家の中が世界の全てだろ? そんな中で本は数少ない世界を識るための道具(ツール)だ。俺の場合はそれが医学の本だったってお話」

 

 然程、興味もなさそうに告げるリョウヤ。実際そう大した話ではないのだ。幼い頃から簡単に手の届く範囲に知識があり、その大半が医学だった。育ての親であるパラケルススも質問すれば答えてくれたし、アイも同じだ。

 リョウヤにとっては初めに言った通り「そういう環境だった」という話でしかない。

 

「工学も切っ掛けは似たようなモンで。医学書読んでること知った工学者が、興味半分で専門書を貸してくれたんだ」

 

 それだけ、とリョウヤは締め括る。

 工学者、フルカネルリ。機工魔術士。所謂、できた人。彼はパラケルススが引き取った子供ということもあり、リョウヤのことを随分と可愛がっていた。可愛がり過ぎて、恋人であるユウカナリアが嫉妬する程である。

 優しくて、優秀で、リョウヤからしても亡くすには惜しい人だった。

 

『なにか……とんでもない話を聞かせてもらった気がします』

 

 一拍置き、アヤネが感動したように熱のある言葉を発する。まるで伝承でも聞かされたような反応に、リョウヤは「大げさな」と苦笑した。

 

『……でもリョウヤ先輩のこともっと知れて、結構嬉しかったかも』

 

「あ、それは分かります!」

 

「リョウヤ先輩って、自分の話はあまりしてくれないからね」

 

 セリカがはにかむと、ノノミとシロコも嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「昔の自分、嫌いなんだもんねー?」

 

 ホシノとしては話題を変えてあげる予定だった。しかし、続きを発するより先に……それこそ間髪入れずに反応する人物が二人いた。

 

『『え、そうなの!?』』

 

 セリカと先生が仲良く同時に反応したのだ。

 インカムが「ハモっちゃったね」「嬉しそうにしないで!」と、これまた仲の良さげなやりとりを拾う。

 セリカ、先生、リョウヤ以外に優しい笑みが浮かぶ。

 リョウヤは煽るように頬を突いてきていたシロコの傷ひとつない綺麗な指……ひいては掌に触れると、親指以外の四指を開いて自分の目元を隠してもらう。もう寝るというアピールだった。

 

We're closing now for today(今日はもう閉店です)

 

 昔の自分が嫌いということは事実なのか、辟易したリョウヤの「勘弁してくれー」とでも言うような呟きを期に全員の声量が小さくなる。

 アビドス高等学校に帰ってこられたのは、空が白んできた頃だった。

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