星屑の夢   作:ハレルヤ

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3-3.なおるもの、なおらないもの

「おっと、二人共ここにいたか」

 

「あ、リョウヤ先輩」

 

「噂をすればだねぇ」

 

 画面がバキバキに割れた携帯端末を片手に廊下を歩いていたリョウヤが、セリカとホシノの姿を見付けて明るく声をかけた。学校内の自動販売機近くで休憩していた二人は笑顔で迎える。

 

「噂?」

 

「絆されてるなーって」

 

 リョウヤが首を傾げると、少し意地悪そうな表情でホシノが笑いかけた。

 

「ああ、先生ね」

 

 リョウヤは自身が先生を自宅に招待したことを指しているのだろうと、すぐに思い至った。

 自覚もあるので、クツクツと笑い返す。

 

「言い訳するなら、近くに置いたほうが監視しやすい」

 

「本音は?」

 

「漫画喫茶で過ごさせるのは気が引けた」

 

「正直者だねぇ」

 

 リョウヤとホシノが小気味よいやりとりを交わす。

 それを見て、自身が先生を受け入れつつあることを理解していたセリカは、先輩が同じであることに少しホッとしてしまう。誤魔化すように缶ジュースをちびちびと飲み込む。

 

「まぁでも、まだ立ち位置を変えるつもりはないよ」

 

 監視していても優しくすることは出来るのだ。

 リョウヤは肩をすくめて嘆息した。

 決め手となったのは、先生が行ったセントラルネットワークへのアクセスがバレると問題になることを知ってしまったからだ。

 伝えるつもりもなかった様子だったが、セリカを救出した帰り道の雑談でポロッと溢してしまっていたのだ。先生は「バレなきゃオッケー」と笑っていたものの、リスクある行動を文句も言わずに実行してくれたのは事実である。

 話題を変えるべく、リョウヤは左手で持った完全に沈黙している携帯端末を顔の前に掲げた。

 

「スマホ。見た感じだと直せると思うから、持って帰ってもいいか?」

 

「えっ、直せるの!?」

 

 セリカがバッと顔を上げた。

 直せる直せる、とリョウヤはあっさりと肯定する。

 

「逆に買い替えるってなら、データだけ抜くことも出来るけど……どうする?」

 

「修理で!」

 

 無惨な姿となった携帯端末に、セリカ自身は買い替えるしかないと思っていたのだ。直してもらえるというのなら是非もない。

 借金問題で苦労をかけているのが分かる迷いない注文に「はいよ」と答えたリョウヤの心境は複雑だ。

 

「先輩、ありがとう!」

 

 セリカは満面の笑みでリョウヤの右手を取り、ぶんぶんと上下する。

 修理が成功してからお礼を言えば良いのだが、セリカは直ることを疑っていないらしい。勿論、全力で修理するものの保証はないのだ。リョウヤの口元が少し弛む。

 

「必要な物は? 私が準備するけど……」

 

 ふと考えが至り、セリカは「あっ」と声を出してから尋ねた。ぶんぶん振っていた手は落ち着き、少し恥ずかしそうに手を引っ込める。

 

「うちの工房にあるので充分だよ」

 

 一転してムムッとするセリカ。アビドス高等学校に入学して理解したことがある。それは、技術には対価を支払うべきということだ。自分のために使われる材料費なら尚のことである。

 

「嘘じゃないから、そんな顔するな」

 

「わっ……」

 

 小さく笑いながら頭に手を置かれたセリカは「誤魔化されてる気がする」とぼやく。

 百面相のセリカをニコニコと見守っていたホシノは、外野だからこそ両者の気持ちがよく分かった。助けられたのなら対価を払いたいとも思うし、先輩としては後輩から徴収もしたくはない。

 まぁまぁセリカちゃん、とホシノは後輩を嗜める。

 

「別の形でお礼したら良いんだよー」

 

「……それもそっか」

 

 ホシノの代案にセリカは素直に納得する。

 今この場で問い詰めても、のらりくらりと躱されるのは目に見えていたからだ。

 

「大した手間でも額でもないんだけどな……」

 

 ホシノは的確にリョウヤの弱点を突いているようで「気持ちは嬉しいが」と当人は困ったように笑ってしまっている。

 

「じゃあスマホは少し預かるな」

 

 セリカが頷いたのを確認して、リョウヤの手元から壊れた携帯端末は姿を消した。

 アビドス高等学校内であれば、太陽光発電で蓄電器に貯められた電力を魔力に変換……つまりエネルギーの補助が受けられる。携帯端末程度の大きさなら、魔力(エネルギー)の消費とマーキングで工房に送ることが可能だった。

 自動販売機に近寄ったリョウヤはコインを入れると、カフェオレの購入ボタンを押し込む。ゴトンと聞きなれた音を立てて、取り出し口にアルミ缶が落ちる。

 

「ホシノにも確認したいことあるんだけど」

 

 リョウヤが缶を手に取って開けながら問うと、ホシノはちょうど缶ジュースに口をつけていた。

 なにー? とホシノが聞くより先に、先輩二人を交互に見やったセリカが声を上げる。

 

「あっ……私、アヤネちゃんに呼ばれてたんだった」

 

 ちょっと行ってくるね、とセリカはよそよそしい態度で離れていく。リョウヤは一応「アヤネならパソコン弄ってたぞー」と背中に投げかけたものの、余り意味はないように思えた。

 

「気、遣われたか?」

 

「だろうね」

 

 自分が聞いても良い話題か分からなかったから、セリカは率先して場を離れたのだ。

 自身の頬を軽く掻くリョウヤの言葉を、ホシノは微笑みと共に肯定した。

 セリカには悪いことをした気もしたが、確かにありがたくもある。これからするのは個人の問題だからだ。リョウヤは気を引き締めると、躊躇いなく切り出す。

 

「最近、眠れてないのか?」

 

 問い掛けに、ホシノは一瞬きょとんとした。

 

「あー……昨日、口走っちゃったからかぁ」

 

 思い当たる節があったホシノは「失敗、失敗」と苦笑いだ。リョウヤの表情が一瞬だけ暗くなり、小さく息を吐き出す。

 

「いつから?」

 

 眠れていないことだけに対する疑問ではない、とホシノにも分かった。何せ、かつてその時にリョウヤも居合わせていたからだ。

 

「いやいや。そんなに酷い状態じゃないよ? 無理して寝ようともしてないしねー」

 

 思い出すのは、ユメを失い、二人で誓いを立て、我武者羅に学校を良くしようとしていた頃。

 特にリョウヤはプールやシャワーを修復したり、電気周りやソーラーパネルを改造したりと、校内に泊まり込んで作業をすることが多かった。現状の使い物にならない状態で、入学希望者がいると思えなかったからだ。

 対してホシノはそういった形で力になれることは少ないのだが、リョウヤが「どんな状態の物でも、使えるように仕上げる」と伝えたことで、壊れた機械……ソーラーパネルなどを安く仕入れてくるようになった。

 リョウヤでは難しい超重量の機材も、ホシノは運び入れることが出来る。時に指名手配犯を捕らえ、時に書類を整理し、時にリョウヤの役立つ物を探しにとホシノも奔走していた。

 家に帰る時間すら惜しい。

 二人揃って、そう結論つけた。その結果が、仮眠室の存在に繋がっている。とは言え当時の仮眠室は、本当に何もなかった。

 畳はホシノが買って敷き詰めたものの最初は二人分のスペースだったし、今のようにぬいぐるみなどの可愛いものはなく、本当にただ眠る為の簡素な空間だったのだ。

 シャワーを浴び、ジャージを着て仮眠室で睡眠をとる。そんな日々が続いた。

 同じ部屋で眠ることに関してはリョウヤに抵抗はなく、ホシノも同じだ。仮にリョウヤから手を出されても、撃退するだけの自信がホシノにはあったからだ。

 だからこそ――その日、自分の体が揺すられて起床を促された事にホシノは驚かされた。緩やかだが、確かに力の籠った揺すられ方だ。

 暗闇に包まれた不気味にも見える教室の姿から、時間帯は夜。仮眠室に来た時間を考えると深夜なのが推察できる。

 やけに閉塞感を覚えながら、ホシノは乾き切った口を動かした。

 

葛、葉(くずの、は)……?」

 

 自覚なく息が荒いホシノの視界に、溶岩のように赤い右目と深緑のような左目の碧眼が鮮明に映り込む。

 初めての出来事であり、考えてもいなかった展開で驚きに襲われながらも、ホシノは続く言葉を紡ごうとして遮られる。

 リョウヤに手を取られ、言葉なく立ち上がるように促されたからだ。

 

「え、あ……」

 

 流れるように立ち上がらされて混乱する様をよそに、リョウヤは足元のタオルケットを拾い上げるとホシノに羽織らせる。そのタオルケットで頬を優しく拭われて、漸くホシノは自分が汗でびっしょりなことに気がついた。寝汗だろうか? 自覚すると、余りにも不愉快だ。

 

「こっちだ」

 

 言葉を探して視線を彷徨わせたホシノの手を引き、口数も少なくリョウヤは仮眠室を出ていく。

 知らないうちに俯いていたホシノの視界に、迷いなく動くリョウヤの足元が映り込んだ。

 

「意識してゆっくり呼吸しろ」

 

 歩き始めてすぐに、リョウヤは淡々と告げた。まるで自分の呼吸が不自然とでも指摘されたようで、ホシノは自身の呼吸が荒いことに初めて気がつく。

 

「いつも通りの呼吸をすれば良い……簡単だ」

 

 あくまで事実だけを述べるリョウヤの体温は、ホシノのものと比べても低い。

 返事はできなかったが、代わりとばかりに呼吸は少しずつだが落ち着いていく。

 

「……夢を……見て、いたんです」

 

「魘されていた」

 

 全力で走った後のように荒かった呼吸が治り始めると、ホシノは途切れながらも吐き出すように口にした。

 リョウヤは相変わらず感情が表に出てこない声色だ。ホシノからは見えていないが、表情も未だに固い。しかし、発せられたのは間違いなく気遣いの言葉だった。

 

「悪い夢を見たなら、無理に眠ろうとするな」

 

 皆まで言う必要はないのか、リョウヤは静かに言葉を続ける。

 ホシノの繋ぐ手に、ぎゅっと力が入る。無意識だった。

 

「部屋を出ろ」

 

「……はい」

 

「新鮮な空気を肺に入れろ」

 

「……はい」

 

 リョウヤが言い聞かせて、ホシノが力のない言葉を返す。

 他に誰もいなくなった寂しい校舎の廊下に、二人分の足音が響き渡る。廊下を抜け階段を上がり、重い扉を開けて辿り着いたのは屋上だ。

 そんなことはないはずなのに、ホシノは随分と長いこと歩かされている気がした。

 

「上を」

 

「あ……」

 

 言われるままにホシノは頭上を見る。それだけの動作すら億劫だった筈なのに、口から漏れたのは感嘆だった。

 瞳が大きく開かれる。

 晴天とは程遠い暗闇を纏っていた。重く、粘り気すらあるかのような、深い泥水を歩くような酷く動き難い感覚だ。終わりがあるとは思えなかった。

 纏っていた黒と同じ夜の空には、目一杯の星が広がっていて。

 新鮮で冷たい空気が頬を撫でるのが心地良くて。

 ホシノはやっと、自分が屋上に連れてこられたことを理解した。

 

「大丈夫だ、小鳥遊」

 

 大丈夫、と繰り返される声には優しさを感じる。きっと、ずっとそうだったのだろうと漸く気が付いた。

 繋いだ手も温かい。

 肺に新鮮な空気が染み込み、頭が冴え渡って、心が落ち着いていく。

 手を繋いだまま、ホシノは身長差からリョウヤをゆっくりと見上げた。

 

「はい……ありがとうございます、葛葉」

 

 側にいてくれて、とホシノは笑いかける。久しぶりに、心から笑えた気がした。

 まだまだ変わろうとしている段階であったリョウヤは大きく頷く。それがホシノにはやけに嬉しそうに映った。

 少し後になって聞かされた「眠れないなら体を動かすのも良い」という言葉が、ホシノが学校をパトロールすることにした切っ掛けとなったのだ。

 

「……」

 

 昔を懐かしんで黙ってしまったホシノを、リョウヤは気遣うように見つめていた。うへ、と溢してから口を動かす。

 

「嘘じゃないよー? そりゃ近くにいてくれた方が安心して眠れるけど……」

 

 改めて言ってみて、ホシノは少しだけ恥ずかしさを覚える。しかし相手はそれで、馬鹿にしたり揶揄ったりする性格でもない。今も医者としての役割を徹底しているのだろう。

 

「私もリョウヤくらい強かったら乗り越えられたのにねぇ」

 

「どうかな……俺は単に薄情なだけかもしれない」

 

 両者共に諦観を孕んだ声音だ。

 ホシノ同様にリョウヤもかつてのことを夢として見ることは多々ある。

 昔の自分というだけでリョウヤにとっては悪夢めいているものの、眠れない程のことは少ない。何より楽しい、嬉しいと思う夢を見ることもある。夢の中でしか会えない人がいるからだ……その場合は寧ろ起きた後の虚無感が酷いが、それでもやはり眠れないという話ではないのだ。

 生活に支障を来していないという点においては、確かに乗り越えていると言えるのかもしれない。

 

「夢であまり見ない代わりに、起きている時に考え込んじゃう癖に」

 

 或いはだからこそ、リョウヤは何かに没頭している時間が長いのかもしれない……とホシノは常々思っていた。

 何かに集中していれば、思い出に浸ることもないのだ。

 

「……」

 

 切れ味の良い指摘にリョウヤは思わず黙り込んだ。

 いつだって、どこでだって思い出すのだ……――今だって。

 

「話が逸れたな」

 

 リョウヤは、鬱々とした感情を外に出すように深い溜め息を吐いた。

 ホシノが悪夢に苛まれていたことはリョウヤも知っている。しかし、暫く共に寝泊まりしていると落ち着いていったとも記憶していた。

 葛葉邸に泊まった時も、学校で眠っている時も、ホシノのヘイローは消えている……つまり、肉体は睡眠状態になっているのだ。

 

「家では眠れない? いや、一人が駄目なのか?」

 

 リョウヤの真面目な声音に、ホシノは改めて自己分析する。自分が睡眠を行うに至って、特に問題ない状況や場所はどこだろうか? と。

 発言通り、家で一人は駄目だ。けれど学校でなら一人でも平気である。

 

「一人、はダメかもしれないかなぁ……あ、でも仮眠室とかなら一人でも平気かも」

 

 口にしたことで一つ、ホシノの中で仮説が生まれる。

 

「だから意外ときちんと眠ってるよ? なんならリョウヤよりも寝てるかもねぇ?」

 

「俺は俺の限界値を把握してる上で、問題なく稼働できるだけの睡眠は摂ってる」

 

 普段なら痛いところを突かれたと怯む指摘だったが、医者として活動している今のリョウヤには大した影響はない。キッパリとホシノに反論をする。事実として、ホシノ達も睡眠不足からリョウヤが倒れたところ等は見たことがないのだ。

 うへ、と困ったような鳴き声が響く。

 

「……やっぱり、リョウヤがいるかどうかは大きい……ような」

 

 観念してホシノは仮説を紡ぎ出す。リョウヤの真剣な雰囲気に負けた自覚はあった。

 

葛葉邸()は当たり前だけど、仮眠室にもリョウヤの気配は結構残ってるし……これもある種の依存なのかなぁ?」

 

 ユメにも依存していると自認しているし、改めるとリョウヤに依存している気もする。

 

(でもそれはそれで、ユメ先輩とリョウヤを想っている証な気も……)

 

 うへへ、とホシノは笑った。

 口にしたのなら、目の前の渋面を作っている相手はどう反応するだろうか? 困るのか喜ぶのか。少し気になるものの、結局は余計な負担を増やすだけな気がして思い止まる。

 

「……うちに泊まり込んでも全然良いけど」

 

 リョウヤは苦々しく言い淀む。それは、結局なんの解決にもなっていないからだ。

 ただ精神そのものが取り替えの出来るものでもない。それで精神が安定するのなら、とは思ってしまう。どうせ自分は、ずっといるのだから。

 

「そこは強制じゃないんだ?」

 

「患者の意思に従う派だから」

 

 意外そうに返したホシノに、リョウヤは前髪を揺らす。それを聞いて、ホシノは一つ思い出したことがあった。

 

「あ、前に言ってくれた薬は嫌だからね」

 

 かつてリョウヤが一度だけ確認した「徐々に辛い記憶を引き出せなくなる薬」による処置を再び提示しようとして、予見したようにホシノにきっぱりと封殺された。

 ホシノとて悪意はないと分かっていた提案だったが、それだけは絶対に嫌だった。

 

「そもそもさ、リョウヤなら自分に使うの?」

 

 初めて聞かれた時は、まだリョウヤの口数が多くなかった。ホシノも、ゆっくりと口数を増やしていけば良いと思っていたのだ。故に聞き返せなかった問い掛けを、なんとなく答えが分かりながらもホシノは投げてみた。

 案の定、リョウヤは迷いなく首を横に振る。

 

「辛いことも悲しいこともあったけど、そういうのも全部楽しかったこととか嬉しかったことと繋がってるだろ……勘弁だ」

 

「うん、私もそう思う」

 

「だよな」

 

 二人して乾いた笑いを溢す。

 新しい道を提示して、渡してやれるかどうかが医者の仕事だ――リョウヤはパラケルススよりそう教えられている。

 精神を病んだ患者も見たことがあった。その悲惨さも。だからこそ、道は隠さないで提示したのだ。

 ホシノは委ねられている選択肢を選び、改めて口にする。

 

「今のところは大丈夫だから、気にしなくても平気だよ? それに本当に不味くなったら皆にも気付かれるんじゃないかな~?」

 

 リョウヤの言葉を借りるなら、限界値には達していないのだ。戦闘でも問題のないパフォーマンスを発揮している。対策委員会の面々が気付いていないということは、そういうことなのだ。

 リョウヤも黙ってホシノの言葉を吟味している。言われてみれば、実際に学校で睡眠を摂っているホシノを見ることは多々ある。つまり全く眠っていないということはないのだ。気にしすぎていたのかもしれない。

 もう一声かな? とリョウヤの様子を見て、ホシノは続けた。それが悪手だった。

 

「リョウヤの家も、家主がいない時に泊まらせてもらったりもしたしね」

 

「それは知ってる」

 

 葛葉邸の門や玄関には監視カメラが設置されている。家の中は工房にしかカメラは設置されていないが、基本的に人の出入りを家主は知ることが出来るのだ。それをホシノは知らない。そもそも家の内部は撮影していないので、言う必要があるとリョウヤは思わなかった……自己完結人間の片鱗である。

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 ホシノが言葉を失うと、リョウヤも「なんでそんな反応?」と不思議そうにオウム返す。

 普段ホシノ達が葛葉邸に泊まって使わせてもらっている部屋は、対策委員会のメンバーが増えたことで、複数の部屋の壁をぶち抜いた大部屋へと変貌を遂げている。一人で寝泊まりするには広すぎるのだ。その点リョウヤの個室は完全な一人部屋。

 ホシノの記憶に蘇るのは、自分がリョウヤの部屋のベッドで眠りに落ちていた記憶だった。

 それが知られている……? ちなみに答えはノーだが、ホシノに知る由はない。

 

「鍵渡したのは俺だし、気にしないでいいぞ……?」

 

 リョウヤもまた、ホシノの思考も使ったベッドも知る由はない。家を勝手に使っているのは構わないと、的外れなフォローを入れるものの効果はない。

 そのリョウヤに、対策委員会のメンバーに自分のベッドを勝手に使われて文句は言う印象がないのも良くなかった。

 ホシノの体温がみるみる上昇していく。

 

「うあーー!!」

 

 直後、顔色を髪と同色に染めたホシノの絶叫が響き渡ったのだった。




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