星屑の夢 作:ハレルヤ
本日、あらすじを編集及び加筆しました。
本日も晴天。
陽光の差し込む対策委員会室には、既に先生含む全員の姿がある。
眩しいな、とリョウヤが半透明のカーテンを閉めた。
非常に珍しい小鳥遊ホシノ沸騰事件から一日。
セリカの体調はすっかり回復していたし、ホシノも調子を取り戻していた。
「二日連続になるけど、今日も会議をやりまーす」
「定例会議、ですね! 本日も昨日に続き、先生が参加してくれています」
ホシノが切り出して嬉しそうにアヤネが補足すると、各々が普段通りの返答をする。
定例というだけあって毎月行われているが、重苦しいものでもない。
リョウヤが先生に「よろしくー」と声を掛けると他の面々も倣う。先生は「よろしく!」と短く返した。
アヤネは真剣な顔で口を開く。
「議題は、学校の負債をどう返済するか……です」
意見を述べるのは挙手制である。はい! と真っ先にセリカが元気よく声上げた。
「一年の黒見さん、お願いします」
定例会議の進行はアヤネが担当である。
昨日とは打って変わり、リョウヤがホワイトボードの前で待機していた。
「あの、まず名字で呼ぶのやめない? ぎこちないんだけど」
セリカはむず痒さを感じてぼやく。
「せ、セリカちゃん……でも折角の定例会議だし」
「うん、雰囲気あってそれっぽいと思う」
「ですよね! なんだか委員会っぽくてイイと思いま~す☆」
シロコとノノミの言葉を受け、アヤネは嬉しそうに破顔した。
三年生二人は「後々まとめ役になるのはアヤネだろうから」と定例会議ではアヤネを中心に据え始めている。アヤネの為人を知っているので、その選択自体に文句のある生徒はいなかったのだ。
アヤネが望むのなら、リョウヤもホシノも従う次第だった。
苦言を呈したセリカだったが、アヤネだけでなくシロコとノノミまで乗り気では諦めるしかない。
「じゃあ……改めて言うけど、毎月の返済額は利息だけで七百八十万円! このままじゃ埒が開かないわ!」
リョウヤ達からしたら改める程の情報ではないので、言葉の向けられた先は先生なのだろう。
ほうほう、と全体の額はともかく利息を知らなかった先生は一人頷いている。
「つまり、一攫千金を狙わないとってことだね」
「いやまぁ、現状では焼け石に水なのは確かだけどな……」
先生の呟きを拾い、リョウヤがペン回しをしながら答える。言外に「それが出来たら苦労はしない」と滲んでいた。
ホワイトボードにはセリカの発言を受け、利息返済毎月780万と書き足されている。
はい! とホシノが手を挙げ、アヤネが指名する。
「我が校一番の問題は、全校生徒がここにいるだけってことなんだよねー。だからこそ、リョウヤは入学希望者増やすために設備とか直してくれてるわけだし」
「プールとシャワーも、使い物にならない状態から復活させてくれたんですよね!」
そーそー、と少し自慢げなノノミの言葉にホシノは首を縦に振った。
一年生の二人と先生は良い反応でリョウヤに視線を集中させている。視線を受けている当人は呑気にエグい軌道のペン回しを楽しんでいた。視線に気がつくとピースサインで応える。
「生徒が増えれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるんだよね」
「問題は手段ですよね……」
「それは簡単だよ、他校のスクールバスを拉致すればオッケー!」
「はい!?」
鋭い指摘に納得して感心していたアヤネの表情が変わる。何を言われたのか理解できないと言った風だ。
あーあ、とリョウヤが苦笑する。
ホシノは生徒不足や連邦生徒会での発言権の重要性を説きたいのであって、その手段については未だ考えついていないのだろう。
「……ターゲットはトリニティ? それともゲヘナ? ミレニアム?」
「ミレニアムとゲヘナはリョウヤ先輩が仲良くしてますよ~」
案の定、勇猛果敢なシロコは乗り気で、ノノミは軽い調子で補足している。
となると、とシロコはホシノへと視線をやった。
「トリニティ! トリニティのバスをジャックして、うちの編入学書類にハンコを押させよう! リョウヤならハンコの用意もできるよねー?」
シロコへと頷くと、ホシノは高めのテンションでリョウヤへ問いかける。返答は「出来る出来ないなら、そりゃ出来るだろうけど」と困ったように述べた。
当然アヤネは頭を抱えている。
既に混沌としてきた空気の中で、先生はリョウヤへと視線を向けた。
「……仲良くしてるなら穏便に、とはいかないかな?」
「編入を? 流石に無理だろ。そもそも俺が関係を築きたかった理由も、人だとか金を貰う為じゃないし……」
先生が冗談半分に聞くと、リョウヤは肩をすくめた。一人二人編入してもらった所で意味もないのだ。
それに一概に仲良くと言っても、ミレニアムサイエンススクールとゲヘナ学園ではリョウヤとの関係性は異なる。
前者なら師弟関係や協力関係の生徒が多く、後者は契約を伴ったビジネス関係が主だ。頭を下げてお願いするにしても、ミレニアムの方がまだ希望がある。
「仮に拉致っても風紀委員……トリニティは正義実現委員会だったか、その辺りが黙ってないでしょーよ。ゲヘナ風紀委員の実力考えると、トリニティの方も相手にしたくはないな」
ゲヘナとトリニティは犬猿の仲。
リョウヤはゲヘナ風紀委員を近くで見たばかりだ。噂通りの実力者達で、特にトップの風紀委員長は洒落にならない強さだった。それでもホシノなら対抗できると踏んでいるが、やはり人数差は覆らない。
ゲヘナ学園の戦力とトリニティの戦力を互角と推定すると、どうあっても勝ち目は薄いだろう。
「うへ~、やっぱりそうだよねー?」
ホシノの出した話題の修正をリョウヤが行うというのも様式美だ。
アヤネはリョウヤに感謝しつつも溜め息を漏らした。毎度のことながら、会議として成立するかどうかが未知過ぎる。
「私にも、いい考えがある」
スッと手を挙げるシロコ。諦め半分でアヤネは指名したが、叩き出された案はあまりにも突飛なものだった。
「銀行を襲うの」
「はいっ!?」
アヤネはホシノの発案時よりよっぽと大きな声を上げる。
同じように、リョウヤが回していたペンを足元に落とす。流石に驚きの提案だった。
ターゲットも選定済み。金庫の位置。警備員の動線。現金輸送車の走行ルートも把握している。しかも「覆面も用意してある」とシロコから全員の手に覆面が配られた。冗談とは思えない。
「うわー、シロコちゃんの手作り?」
「わぁ、見てください! レスラーみたいです!」
ホシノとノノミは楽しげである。後者に至っては覆面を実際に被ってまでいた。手作り品大好きなリョウヤも「これ貰っていいの?」と少し嬉しそうにしている。
アヤネが頭痛がするとばかりに頭を抱えた。
「銀行強盗なんて駄目に決まってるでしょ!」
「犯罪は流石にねぇ……」
一拍おいてセリカが声を荒げる。先生もまた苦笑いだ。遅れてアヤネが二人に同調して「そっ、そうです! 犯罪はいけませんっ!」と乗り気な三人を叱り付ける。
「……」
「ふくれっ面をしても駄目です、シロコ先輩っ!」
頬を膨らませて不満を主張したシロコを、アヤネはバッサリと断じて大きな溜め息を一つ。このテンションな面々を先輩は一体どうやって纏めていたのかと思ってしまう。
「はーい! 私も案があります!」
「はい……二年の十六夜ノノミさん。犯罪は抜きでご意見をお願いします……」
挙手したノノミとは裏腹に、アヤネは早くも疲れ切っている。同情したリョウヤが、背後から小さなチョコレートの小袋を提供した。
小さく頭を下げて感謝を伝えて、アヤネは開封してチョコレートを口に含む。不思議なもので、それだけでも少しだが確かに気は楽になる。
「ズバリ、アイドルです! スクールアイドル!」
ノノミは胸を張って宣言する。
先ほどまでとは違う意味で、脳が理解するのに時間を要する提案だった。
「アニメで観たんですけど、学校を復興するのが定番なんです!」
熱弁するノノミに対して、リョウヤだけが「そういうものなのか」と知らない情報に興味ありげに呟いて先生を見た。
リョウヤが昨日、深夜にキッチンへ飲み物を求めて行った際にリビングで先生はアニメを見ていたのだ。その時は素直に驚かされたものだが、聞くとアニメが好きらしい。
そんなこともあり、アニメに詳しいだろうとリョウヤに判断された先生は、実際にノノミの言うアニメの作品名が分かり曖昧に笑う。
「当たればデカい、のか? グッズとか印税とか」
「そうだね。それに全部は無理でも……自分たちで衣装や機材、曲を用意できれば節約もできるし」
私としても安心して応援できる、と既に対策委員会を箱で推している先生は付け足す。ごもっともである。
とは言えだ。リョウヤが言ったように「当たれば」である。寧ろ失敗する可能性の方がよっぽど高い。
「逆紅一点もいますしね☆」
「ん、リョウヤ先輩は歌って踊れる?」
ノノミとシロコの瞳が集中し、リョウヤはギョッとした。自分がアイドル側だと全く想定していなかったのだ。
え、俺そっち? と雄弁に語る反応に、ホシノがくすりと笑う。
「いや……経験は、ないよ」
引き攣った顔での返答だ。
歌も踊りも専門外だし、そもそもリョウヤは目立つことは好きではない。
「先輩、鍛えてるよね? 見た目よりガッシリしてるし」
「え、シロコ先輩見ただけでそんなこと分かるの?」
「伊達に触ってない」
普段から引っ付くことの多いシロコ、渾身のキメ顔。
セリカは呆れながらも納得してしまう。
言われてみれば、と先生もタンデムした時のリョウヤの身体つきを思い出しながら口を開く。
「腹筋とか割れてる?」
「まぁ……」
「それは確かに見てみたいね」
リョウヤは僅かな困惑を伴って肯定したが、次いで飛び出した言葉に目を見開いてた。
先生から、完全に興味本位の発言が飛んできたのだ。驚きもする。
「脱がせる?」
「脱がせる!?」
先生に意識の割かれていたリョウヤに代わり、アヤネがシロコにツッコミを入れた。
このままでは収拾がつかないと判断したホシノは、パンパンと手を鳴らす。仮にも三年生なので、巫山戯ているだけとはいかないのだ。
「アイドルも却下だよー。歌ったり踊ったりに関しては皆素人だしねぇ」
「体力もそうだけど、何より時間っていうコストがかかるもんな!」
これ幸いにとリョウヤが乗っかると、集まって白衣に手を伸ばしていたノノミとシロコが力を抜く。先生まで参戦する気配があったのは、気のせいだとリョウヤは思いたかった。
真実はどうあれ、遊びは一旦終わりである。
窓から差し込む光のように明るい雰囲気のまま、騒がしかった空気が落ち着き始めた。
「でもリョウヤ先輩のキラキラ衣装、見てみたくないですか? 私、用意しますよ?」
「それは後で着てもらえばいいでしょー?」
比較的本気なトーンのノノミに、ホシノは考える素振りもなく返す。
そっかー、と先生も含めて全員が笑顔を作ると、ただ一人リョウヤだけが頭に「!?」と浮かべる。脱がす云々ではない以上、アヤネとセリカすらものほほんとしている。男子生徒には味方がいなかった。
「それじゃあアヤネちゃん、纏められる?」
ホシノに「はい!」と返したアヤネはホワイトボードの前にまで移動する。
リョウヤの板書は性格故か、黒いペンで事細かにされていた。
クイッと眼鏡を一度上げ、アヤネは赤いペンを待ちながら口を開く。
「一つ、生徒を増やすことの重要性。一つ、非合法で短時間で可能な集金手段。一つ、合法で時間の掛かる集金手段。今回、大事なのはこの辺りですね」
きゅっ、と音を立ててホワイトボードの文字を赤ペンで囲まれる。
正直、実際のやりとりは滅茶苦茶だった。しかし、その中から必要な情報の取捨選択をアヤネはきちんと熟してみせた。
「あ、犯罪行為に関しても触れるんだね」
あれだけ反発していたのに、と先生が意外そうに溢す。
「ホシノ先輩とリョウヤ先輩から知っておくだけでも意味はあるから、と言われているんです。実行したいとは到底思いませんし、させたくもありませんが……」
最終的に苦笑を伴うアヤネに、先生は納得する。要は、視野を広く持つことを望まれているということなのが分かったのだ。
ホシノも初めは突拍子もない案を出していた。が言いたいこと自体は生徒を増やす手段ではなく、増やすこと自体の必要性だった。
(流石は三年生だなぁ……それに、ちゃんとその意図をアヤネちゃんが拾ってる)
後輩の成長を促そうとしていることにも気がつき、感心した先生は一人頷く。
今日出た犯罪行為は誘拐と強盗なので説明不要だが……過去に事実として、可愛く言って「悪い手段」を学べたことを感謝している者がいる。
セリカだ。
彼女はつい先日、マルチ商法を持ちかけられたのである。幸いにも、と言って良いのだろうか。定例会議で発案された手段だったので知識として持っていたが、知らずにいたのなら引っかかっていた……と自身は考えていた。
「二つの手段は頭の片隅に。在校生を増やすことは今後も意識して考えておく必要があると思います」
異論はありますか? とアヤネが一同を見回すと、特にないのが伺える。最後にホシノとリョウヤを見ると二人は頷いた。
読了、ありがとうございました。