星屑の夢   作:ハレルヤ

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4-1.遭遇、便利屋68

「――えっ、箸を四膳ですか? まさか一杯を四人で分け合うつもり?」

 

 賑わう紫関ラーメンにて、バイト中のセリカは思わず敬語が抜けるほどに驚愕を露わにした。

 同時に白衣を揺らし、遅れてやって来たリョウヤが入店する。

 

「ご、ご、ごめんなさいっ! 貧乏ですみません! お金がなくてすみません!」

 

「……ちょっと声でかいよ、ハルカ。周りに迷惑」

 

 セリカ以外の面々も既に来店している。一先ず店員であるセリカを目指して歩いていたリョウヤだったが、そのセリカが対応している相手の切実な叫びと、それを注意する声に聞き覚えがあり体を小さく揺らした。

 

「あ、先輩」

 

 リョウヤの接近に反応したセリカが顔を向けると、貧乏であることを謝罪していた声の主達とは反対のテーブルから見知った顔が覗く。ノノミだ。

 こっちですよ~、とセリカの反応から待ち人が到着したことに気がついて手招きをしてくれる。

 踵を鳴らしてリョウヤがノノミ達のいるテーブルに近づくと、騒ぎの中心となっていた向かいのテーブルの面々と綺麗に目が合う。

 五人の少年少女が仲良く「あ」と漏らす。

 

「リョウヤくんじゃーん!」

 

 真っ先に声をかけたのは白ウサギを彷彿させる女生徒、浅黄ムツキは楽しげに片手を振った。

 倣って小さく手を振り返したリョウヤの白衣が引っ張られる。振り向くと、それぞれで色の違う双眸が見上げていた。

 

「知り合い?」

 

 自分の知らない生徒と親しげにしていたために、ホシノの声のトーンは少しばかり低い。ぱっと見た雰囲気は普段と変わらないので少し分かり難いが、どこか警戒しているようだった。

 

「端的に言うと依頼人と便利屋」

 

「それはつまり、リョウヤくんのお客さん……」

 

「残念、俺が依頼人側」

 

 リョウヤは悪戯が成功したでも言うような笑みを浮かべ「うーん、悉く外すなぁ」と先生が頭を掻く。悉くというのは、前回のクーポン券を貰ったのが報酬か否かの話だった。つい先日の話なのにも関わらず、今となっては懐かしさすら感じてしまう。濃い数日間だったのがよく分かる。

 

「……リョウヤ、写真は見た?」

 

「見た、いつも助かる」

 

 鋭さのある目線と冷めた声音で問い掛けた鬼方カヨコは、リョウヤの軽い調子の返事に満足げに頷く。

 

「直接会うのは久しぶりね? 請負人さん」

 

「おう久しぶり、アル。ハルカも。ああ……そうだ、金振り込もうとしたら口座凍結されてたぞ、予想はしていたけど」

 

 不敵な笑み浮かべていた少女、陸八魔アルはテーブルの下で長い足を組み直し余裕のある笑みを作ったものの、サラッと言い放たれた事実に表情を凍り付かせた。

 怯えた様子を隠さない伊草ハルカは「お、おひ、お久しぶりです……」と吃りながらもリョウヤに返答する。こんな対応でもかなり進歩してくれたので、会う機会こそ少ないものの感慨深いものがあったりする。

 リョウヤは四人組、便利屋68と長期の契約を交わしていた。それは所謂……物品回収と呼ばれるもの。回収した品を写真で送って貰い、写真を確認し、お金を振り込むという形をとっていた。

 

「もしかしてそれって、ラーメン一杯を四人で食べようとしたことと関係ある……? 先輩、ごめん。ちょっとお願い! はい、いま行きまーす!」

 

「ああ、頑張ってな」

 

 口座凍結と聞いてセリカが首を傾げるも、他のお客さんに呼ばれて慌てて離れていく。既に手慣れているバイト姿に成長を感じさせられて、思わず目頭が熱くなる。

 セリカは本来なら便利屋68の注文を取りかけていた所だったのだが、四人で一人分のラーメンを分け合うのは普通ではない。知り合いらしいリョウヤに、一度話を聞いて貰おうと考えたのだ。

 漠然と状況を理解したリョウヤは、通路を開けるためにアル達側のテーブルに寄った。

 あっ、とホシノが手を離す。寂しげに宙を彷徨った小さな手を見て、ホシノの隣に座っていたシロコが抱き寄せる。

 

「……パパ、冷たいね」

 

「ママに優しくしてくれるのは娘だけだよー」

 

 シロコとホシノがじゃれつき始めると、ノノミも「亭主関白というやつですね!」などと好き放題に言い始めた。

 それを聞いていたムツキは「亭主関白のパパ……」と笑う声を隠そうともしない。

 家族ごっこは対策委員会ではよくあることなので、パパ役はスルーしておく。

 

「予想していたっていうのは?」

 

 フリーズして再起動する様子のないアルに代わり、カヨコが先程の発言で気になった点を問いかける。

 

「この前までゲヘナ学園で仕事してたんだけど、風紀委員がそんなことを言ってた」

 

「風紀委員と知り合えたんだ」

 

 良かったね、と納得しながらカヨコは軽く微笑む。

 カヨコ自身は勿論、便利屋68としてもゲヘナ学園風紀委員とは因縁があるのだが、リョウヤがゲヘナ学園の権力者とのパイプを求めていたのは知っているのだ。

 ありがとう、とリョウヤが釣られて微笑む。カヨコは第一印象で怖がられることも、疑われることもある性質だ。けれど少し関われば、優しい人柄なのがよく分かる。元々リョウヤは第一印象に引き摺られるタイプでないこともあり、落ち着きのある年長者二人はそれなりの友好を築いていた。

 

「私たちじゃ学園とのコネ作りは役に立てなかったもんね」

 

「ひぃぃ、や、役立たずですみません!」

 

 楽しそうに笑うムツキと必死な形相で謝罪するハルカ。特に後者は初見時で面食らったが、最早慣れたものだ。

 何を隠そう、リョウヤが便利屋68と接触した時に真っ先に尋ねたのは「生徒会や風紀委員会とコンタクトはとれるか?」だったのだ。

 お尋ね者の便利屋68では、その希望には応えられなかった過去がある。

 

「気にしなくていい、向き不向きだ」

 

 便利屋68は色々とやらかす側だ。リョウヤも充分に理解している。その上で、優秀だとも思っている。戦力も申し分ない。だからこそ、ブラックマーケットのような危険なエリアでの物品回収などを依頼していた。

 特定の品の回収は地味だが、一点物ではなく出回っている物の回収を期間を設けずという依頼で、且つ危険手当もつけている。それも回収する都度に報酬が出る形。ぶっちゃけ便利屋68にとっても破格だった。生命線と言っても過言ではない。

 

(大きな企業じゃないってのも、こっちからしたら都合良かったしな)

 

 流石に当人たちには言えない本音はそっとしまい、一つ提案することにする。

 

「報酬、キャッシュで渡そうか? 今」

 

「……へ?」

 

「全額は手元にないけど、飯代くらいなら出せる」

 

 漸くアルが再起動して、目を瞬かせる。ムツキは「ひゅーひゅー」と茶化すように口笛を真似た。

 

「気前いいね」

 

「元々払うつもりだったんだから、支払い方法が少し変わるだけだ」

 

 リョウヤは肩をすくめる。

 言っておきながら、カヨコも裏があると疑っているわけではない。善意からの提案なのは分かるし、報酬を踏み倒すとも今では全く考えていない。

 

「……」

 

(揺らいでる)

 

(揺らいでるね)

 

 リョウヤの言葉を受けたアルを見て、カヨコとムツキは目と目で語り合う。

 便利屋68と言うより、アル個人が拘りの強い生徒だ。

 逡巡して、結局アルはかぶりを振った。気持ちはありがたいけれど――そう口にしようとして、隣に座る可愛い部下の声に閉口することなる。

 

「ひ、一人一杯食べられるってことですか……?」

 

 期待のこもった声音にアル、陥落。

 リョウヤは「まぁそりゃ拒否できない」と理解を示す。なんとなくしか便利屋68の関係性を知らない対策委員会の者でさえもそうだった。

 生暖かい視線を受けるアルはぷるぷると震え、ムツキが「くふふ」と笑みを溢す。カヨコは嘆息したが何処か楽しそうで、ハルカは目を輝かせている。

 改めて注文お願いし食事が始まると、便利屋68も喜色満面にあふれた。声に出して褒め称えていることもあり、対策委員会も表情が緩む。自分たちの好きなもので喜んでもらえるのは嬉しいのだ。

 対策委員会と便利屋が意気投合し……帰り際、通路側に座っていたリョウヤの側にムツキが寄ってくる。

 

「ちょっとこっち向いてもらえるー? 座ったままでいいから!」

 

 何故? とは思っても、特に断る理由もない。

 リョウヤは大人しく従い、テーブルの下に収まっていた足を通路側へと移動させた。

 カヨコが少し離れた位置で二人を窺い、アルとハルカはレジで会計を済ましている最中だ。

 

「失礼するね」

 

 言うや否や。リョウヤの白衣の襟元に手を掛けると、バッと左右に開く。

 服を脱がせたわけではないとはいえ、アヤネが「はい!?」と困惑する。

 先生は「おやおや」と溢し、ノノミは「わぁ☆」と興奮し、シロコが目を見開く。

 

「何やってるのかなー?」

 

「そんな顔しないでよ、ちょっと確認したいことがあっただけだからさ」

 

 別に変な顔してないと思うけど、とホシノはぼやく。

 ムツキは悪戯っぽく笑いながらも、その目はリョウヤのブレザーの胸ポケットにぶら下げられた証明書の校章に注がれていた。

 お礼を言って白衣を戻すと、ムツキはカヨコと合流して店を出ていくアルとハルカに続く。

 

「やっぱりリョウヤくんもアビドスの生徒みたい」

 

「だろうね、先輩って呼ばれてたし」

 

 店を出て、アルとハルカの少し後方で声を潜めるムツキとカヨコ。

 一先ずムツキは、隣のテーブルにいた生徒の制服に気が付いていたカヨコにのみリョウヤの白衣に隠れていたエンブレムを共有する。

 ムツキは相変わらず楽しげだったが、カヨコは隠すことなく溜め息を溢した。友好的な知己と敵対行動をするのは、やはり気乗りしないものだ。

 対して、白衣を剥がれかけた側は混乱していた。

 

「胸を見ていましたよね?」

 

 ノノミはリョウヤの胸元を見つめる。

 改めて確認しようと、特に何を言うでもなくリョウヤは白衣を脱ぎ去った。

 普段と変わるものは何もない、他の皆と同じ制服のブレザーが姿を現す。

 

「胸筋フェチとか?」

 

「だったら最低でもブレザーは脱がせるんじゃないかな?」

 

 シロコが首を傾げ、先生がやんわりと否定すると、二人でリョウヤの胸周りを凝視した。ブレザーまで着ているのは、流石に外装が分厚すぎるだろう。なんなら、ワイシャツでもはっきりと胸筋が浮き上がっているわけではない。アンダーを着ている上に、全体的に細身なのだ。

 

「他にあるのは証明書ですが、それは別にリョウヤ先輩だけじゃないですよね」

 

 アヤネがそっと胸元のカードを撫でる。

 

「んー……でもあの子がリョウヤの所属知らなかったら、確認の為にブレザーとか校章は見たいかもねー?」

 

 その辺り、どうなの? とホシノはリョウヤに視線をやった。

 ミレニアムやゲヘナの学校へ行く時は私服だ。

 アビドスに通学の際は当然ながら制服で、加えて言うと通学してから白衣を纏う。そして下校の際に白衣を脱ぐ。それが最早ルーティンとなっている。

 

「……学校行く時以外は制服着てないから、知らなかった可能性はあるな」

 

 自身の通う学校について話した記憶もない。

 

「でも知ってどうするのでしょう?」

 

 ノノミの言葉に、場が沈黙する。

 僅かな思考の後、ホシノが辟易とした様子で口を開く。

 

「リョウヤの所属で影響が出るって言うとさぁ……」

 

「先輩の所属先に何かしら接触する場合、ですよね……?」

 

「所属先を確認した結果、全く関係なかったから安心したって可能性もある」

 

 ホシノの言葉をアヤネが引き継ぐと、シロコがコップに入った氷を鳴らして言った。

 

「お医者さんから見てどうだった?」

 

 医者である以上、相手の表情から察するものもあるかもしれない。そう考えた先生からの問いに、リョウヤの表情は僅かに渋くなる。

 

「安心した風ではなかったかな」

 

 寧ろ楽しそうだった、とリョウヤは足した。ムツキの楽しいの範囲は広いのだ。どうしても嫌な予感がしてしまう。

 

「仲は良さそうだったよね? 便利屋と請負人だからライバルなのかとも思ったけど」

 

 先生が先ほど受け取ったアルの名刺をしげしげと眺める。なかなか凝ったデザインだ。

 リョウヤくんもこういうのあるなら欲しいなー、という注文は流石に今は飲み込んだ。

 

「あ、というか請負人って名乗ってたんだね」

 

「自称したことはない」

 

 何でも屋。便利屋。請負人。呼び名に関しては特に拘りはなく、モモトークのプロフィールに「依頼があれば連絡を」と書き込んでいただけだ。ちなみに今は「依頼受付停止中」である。

 キッパリと断言したリョウヤに、先生は子供のように「えー!?」と不満を漏らす。

 

「請負人・葛葉リョウヤ……かっこよくない?」

 

 アニメや漫画、ゲームが好きな先生らしい意見だった。キラキラと子供のような瞳をさせている。

 

「でも、ホシノ先輩とコンビで活動したこともありますよ?」

 

 活動名が個人名では違うのではないか? とノノミが小首を傾げる。視線の先では、ホシノがコップの水をちびちびと口に含んでいた。

 

「え、そうだったんですか?」

 

 アヤネが驚く程度には知られていない、というより活動数が少ないコンビである。

 

「コンビって言うか、ちょっと手伝っただけだけどねー。護衛というか警護というか……ほら、戦闘関わるならおじさんも役に立てるから」

 

「ホシノ先輩以外はないよね? 手伝ったこと」

 

「そもそも荒事の依頼はほとんどないよ」

 

 修理した機械の郵送手続きなどはカウントされていないらしい。自分は頼られたことがない、と半目でシロコに見つめられたリョウヤは困り顔を浮かべる。

 今ではすっかり工学に強い何でも屋として認知されているのだ。おかげで物の修理依頼が多いし、便利屋68などの荒事を好む何でも屋も台頭して来ている。必然的に依頼内容で棲み分けされて来ているのだ。

 そうやって暫し意見を出し合ったものの、結局ムツキの奇行の答えは出なかった。

 午前のみのシフトだったセリカを待ち、対策委員会一行は学校へと足を進める。

 道中、リョウヤはポケットから携帯端末を取り出すとセリカへと差し出した。

 

「えっ、もう直ったの!?」

 

 セリカは新品同様の輝きを放つ携帯端末をまじまじと見つめた。修理のためにと預けて、僅か二晩である。

 

「スマホなんて仕組みも作りも分かりきってるから」

 

 リョウヤは何でもないように笑った。

 

「起動確認はしたけど中身まではちゃんと見てないから、何か問題あるようだったら言ってくれな」

 

「うん……ありがとう、先輩」

 

 心底から簡単だったという雰囲気のリョウヤ。預かる時に言った通り工房に道具も素材もあったし、未知の物を扱うわけでもないのだ。苦労は何一つとしてなかった。

 セリカは両手で携帯端末を包むと、嬉しそうに笑んだ。それは良いことだ。良かったね、と皆で喜びを分かち合えるほどに。けれどそれはそれとして、代表するように一年生の一人が切り込んだ。

 どうしても気になってしまった。

 

「また徹夜ですか?」

 

「毎日寝てるよ」

 

 疑うようなアヤネだったが、間髪入れずに満面の笑みで返される。作り笑いで誤魔化そうとしているようにしか思えない。

 

「仮眠?」

 

「そう言えばこの前も深夜にキッチン来てたよね。あれって目が覚めたんじゃなくて、ずっと起きてただけだったりする?」

 

 シロコも、そして先生も詰めてくる。後者は自分も夜中に起きていたことを棚に上げて、もしかしてと予想を立てていた。

 

「何処からか覚えてきたお化粧で隈は誤魔化すようになったよねー」

 

「最初から上手でしたけど、今はもう本当にナチュラルに仕上がってますよね☆」

 

 言外に「いつも口にしてないだけだからね」というホシノ。

 しれっと初見時からメイクによる隈消しを見破っていたともとれる言葉を放つノノミ。

 閉口するリョウヤ。

 睡眠時間を削っている理由が理由なので普段は責められないが、それはそれとして心配にはなるのだ。だからこそ、切っ掛けがあるととことん苦言を呈される。

 これに関しては先生も「側から見ていたら気が気じゃないよねぇ」とリョウヤ以外に寄り添う他ない。

 セリカだけが携帯端末を修理してもらった手前、苦笑いを浮かべるだけに止まっていたのだった。

 そして同じ時、異なる場所にて、リョウヤとはまた違う理由から追い込まれた者が一人。

 

「――えっ、あの子達がアビドス!? 請負人さんも!?」

 

 声を荒げたのは、便利屋68社長その人だ。

 

「その反応うけるー」

 

「本当に全然気が付いてなかったのか……」

 

「えっ? そ、それって私たちのターゲットってことですよね?」

 

 ケラケラと笑うムツキ。もしかしたらとは思っていたものの、やはりと少し驚くカヨコ。混乱し狼狽えるハルカ。

 事務所へと戻る途中で、ムツキとカヨコは先ほど仲良く食事をしていた者達の制服について触れたのだ。

 

「う、嘘でしょ……あんなに良い人達と請負人さんがアビドスだなんて……なんという運命のいたずら……」

 

 アルは体を小刻みに振るわせ、呻きながらも言葉を絞り出す。

 会話の中で、リョウヤ達が目指していることについても聞いている。

 根の善性もあり、学校を復興させようと真っ当に頑張る者を踏みつけるということに大きな抵抗があった。

 

「なにしてんの、アルちゃん。仕事するよ?」

 

「それともやめる?」

 

 依頼を中断する気のないムツキがさも当然と笑いかけ、善意からカヨコが一応はと逃げ道を用意する。ハルカはおろおろと三人のやりとりを窺っていた。

 ムツキもカヨコもハルカも、アルがどちらを選んでも文句は言うつもりはない。

 判断を求めて、六つの瞳がアルに集まる。

 

「そ、それは……」

 

 便利屋68のモットーは「情け無用」「お金さえ貰えればなんでもやります」だ。そして既に依頼は受領してしまっている。

 依頼を取り消すとしても、バイトで雇った者は報酬さえ払えば文句は少ないだろう。

 故に問題は依頼主への対応になる。報酬が後払いとは言え「やっぱりやめます」は今後の信頼にも関わるし、流儀にも反する。

 右顧左眄としているアルは半ばパニック状態だ。

 しかし側には自分を社長として認め、信じて着いてきてくれている仲間がいる。このままじゃダメだと、アルは自分に強く言い聞かせた。

 

「…………行くわよ! バイトを集めて!」

 

 ややあって、覚悟を決めた顔をして高らかに宣言する。

 開き直りのやけっぱちに見えないこともなかったが、カヨコもムツキも指摘することはなかった。




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