星屑の夢 作:ハレルヤ
場面変更が少し多いので、読み難かったら申し訳ないです。
昼食を終えて学校に戻ると、アヤネが校舎より南十五キロメートル地点付近に大規模な兵力の反応を確認する。
偵察のために慌ててドローンを飛ばすと、すぐに緊急会議が始まった。
「まさかヘルメット団が?」
「違います! これは……恐らく傭兵です!」
今までの経験からなるシロコの予想を、ノートパソコンを睨むアヤネは修正する。
対策委員会と便利屋68は、詳しい自己紹介をしたわけではない。しかしアル達はホシノ達が学校の復興を目指していることを聞いていたし、ホシノ達はアル達が便利屋を営んでいることを聞いていた。何よりアルから渡された名刺にも書かれている。
そのアル達はゲヘナの制服を着ていたので、わざわざ学区を超えてアビドスに来ていたことになるのだ。
何故わざわざ? そう疑問を抱くのは当たり前だった。ホシノはある種の確信を持って、自分達と便利屋68に共通していた知り合いに目線を滑らせた。
「傭兵かぁ……どう思う?」
「タイミングがバッチリ過ぎる……」
現在進行形で頭を抱えているリョウヤの所属を、ムツキが確認していたことにも合点がいくのだ。
よしよし、とノノミがリョウヤの頭を撫でる。
対策委員会の面々は慌てて装備を整え、傭兵を迎え撃つべく出動する。
校門前まで飛び出すと、前方には傭兵を率いている集団が確認できた。
中心にいるのは、つい数時間前に見た四人組……便利屋68だ。
「あ、本当にラーメン屋さんの……」
予めドローンで姿を確認していたものの、いざ目の前にしてノノミがしゅんとする。折角仲良くなれたと思った相手と敵対するのは、どことなく寂しさを感じてしまう。
「あはは、やっぱり予想出来ちゃってた? でも、こっちも仕事でさ」
「悪いけど、公私は区別する。その辺は請負人やってるリョウヤがいるし、分かってると思うけど」
リョウヤがいることもあり、予想されていたことに関してムツキもカヨコも驚いた様子はない。昼間と同じ雰囲気だ。
「そうじゃなければ良いとは思ったけどな」
紛れもない本音だった。
リョウヤが頭を掻くと、アルは「ぐぐっ……」と歯を食いしばるも、次の言葉にパッと顔を上げる。
「ま、仕事じゃ仕方ないか」
ハッ、とリョウヤは薄く笑う。
あまりにも淡白だったが、三年生にまでなった今では嫌でも理解していた。
少しでも敵対する相手を減らすための努力をしていても、全ての希望が叶うほど現実は甘くない。
キヴォトスとはそういう場所なのだ。とうに受け入れている。
地球出身のリョウヤとキヴォトス生まれでは、銃撃戦に対する認識の軽重が違うことも理解していた。
便利屋68のやり方が派手で過激なのことも知っていたし、ゲヘナ風紀委員の手伝いを経てやらかし具合も把握したリョウヤだったが、自身が似たような仕事をしているだけあって嫌悪もない。まだ大きな被害を受けていないだけなので、あくまで現状はとつくが……それが事実だ。
フルフルとアルは震えていた。
カヨコとムツキはお得意のアイコンタクトで意思を疎通する。
(感極まってる……)
(まぁ、便利屋作るキッカケになった相手だしねー)
その事実をリョウヤは知らない。
何せキッカケと言ってもあまりに些細な……それこそリョウヤがアルに何か伝えたわけでも、何かを行ったわけではないのだ。
時期の話をするならアルよりも早い段階で活動していたものの、何でも屋なんてものは他にいくらでもいる。先駆者はいくらでもいた。
依頼人と依頼に関する話を詰めていた様子を見て刺激と感銘を受けられていたなどと――想像すら出来ない。
「ええ! ええ! 一度依頼を受けた以上は全力で遂行させてもらうわ!」
アルはハードボイルドに憧れを持つ生徒で、リョウヤは別に当てはまらない。しかし親譲りの軽薄ささえ感じさせる余裕のある態度が、心の琴線に触れてしまったらしい。
先輩便利屋の割り切り方に感激し、精神を持ち直したのだ。
ハルカが「アル様!」と破顔した。
「総員、攻撃!」
そうして開幕を知らせる銃声が鳴り始める――その三十分程前。
対策委員会はドローンが到着したことによって、進行している勢力を視覚情報として確認してしていた。
案の定、便利屋68と雇われ傭兵六人の姿がノートパソコンに映る。
「もう分かってると思うけど、便利屋68って四人組なんだよ。つまりその他大勢は雇われてるだけだ。アヤネの言う通り傭兵だな」
リョウヤは画面に映った便利屋68の四人を小さく指差すと、アルを社長、ムツキを室長、カヨコを課長、ハルカを平社員と補足する。
先生が「役職あるなんて本格的だね」と感心した。アルが自信満々にリョウヤへと役職紹介をした際、カヨコは「薄っぺらさが目立つからやめた方がいい」と嗜めていたので対照的である。
「……そういえばお金ないって」
ラーメン屋でのやりとりを思い出したようにセリカが反応すると、思い至ったノノミがポンと手を鳴らした。
「傭兵を雇うために資金を使い果たした、ということですね」
「詳しく言うなら、ただでさえ少ない資金を……になる」
リョウヤは便利屋68のお金事情をある程度把握している。今となっては、この場の全員予想もついていることだろう。
依頼をする際に直接会うこともあったし、ごくごく稀にモモトークで個人的なやり取りをすることもある。
ゲヘナ風紀委員や生徒会とまだ関係がない時点であった数少ないゲヘナ学園の生徒との繋がりだったこともあり、良い関係を維持できるようにと最初は意識していたのだ。今となっては、打算抜きでも気の良い連中と認識している。胸中は複雑だ。
「口座も凍結されてたって話してたねー」
金欠なのは事実だろうと言うホシノの腕と目は、愛銃に注がれている。戦闘前の最終確認中だった。
「確か傭兵って高いんだっけ」
先生もシッテムの箱を片手に口を挟む。言いながら傭兵の価格を調べて「うわ、たっか!」と目を丸くする。
「多分、結構ギリギリだったんじゃないか? 傭兵確保するの」
どんな世界でも傭兵は高いものだが、先生の正直な反応に苦笑いを浮かべるリョウヤは便利屋68の金銭事情に同情するように告げた。
そこまで説明されれば、言いたいことも分かる者もいる。
「つまり便利屋68と雇われ傭兵に確固たる信頼関係はなく、傭兵達はキッチリ報酬分の仕事しかしない可能性が高い……ですね?」
確信を持ってアヤネがリョウヤを見ると、正解と大きく頷かれる。
「で、この手の雇われ傭兵は時給制が多い。バイトだから」
時刻は既におやつ時を過ぎている。日払いで傭兵を雇っているとは、とてもじゃないが考え難い。
いや、あるのか? とリョウヤの思考にアルという女生徒がノイズとして入り込む。その場のテンションで言動が左右されるタイプだ。一瞬浮かんだ疑問に解答が出るよりも先に、シロコが納得の声を出す。
「短ければ一時間も掛からずに撤退するってことだね」
戦闘時間だけでなく、移動時間も仕事時間に含まれるのなら、正直そこまで長い間を稼ぐ必要もない。
尤も、戦闘に於ける一分一秒の長さというのは文字通りではない。戦いの密度が濃ければ濃いほど、体感時間は増していく。言葉で言うほど容易くはないだろうことはシロコも理解しているので、声色は真剣そのものだ。
雇われ傭兵がいなくなった後、便利屋68がどんな判断を下すかは未知だが敵戦力は確実に減る。
「ちなみにだが、便利屋68は四人でゲヘナ風紀委員ともやり合えるくらいの実力がある。前にカヨコ本人から聞いたんだけど、ヒナ……風紀委員長がいないなら他の風紀委員はどうにでもなるらしい」
カヨコの言葉がどこまで真実か分からなかったが、指名手配されている便利屋68がゲヘナ風紀委員会から逃げ仰せているのは事実だ。
リョウヤに対して誘拐まがいの行為をした美食研究会も確かな実力者だったが、風紀委員によって投獄されていたのを踏まえると、アルたちの実力の程が窺える。
(……美食研究会は逃走って選択肢ない状態だったから、一概には言えないか?)
言ってしまえば美食研究会は防衛戦をしていた。リョウヤに調理をさせているので、料理人のリョウヤが保護されても調理が終わるのでアウト。料理を食べたいので自分達が捕まってもアウト。調理場が破壊されてもアウト。
美食研究会が舌鼓を打つためには、風紀委員を被害少なく撃退しなくてはならない状況だった。
連想ゲームのように少し前の出来事を思い出したが、今となってはクリア条件の厳しさには同情せざるを得ない。
閑話休題。
言葉の真偽はともかく、間違いなく便利屋68は強い――リョウヤは断言した。
「最初は攻めるのではなく守り主体で、傭兵が引いてからが勝負なのかな」
先生がなんとなしに呟いた作戦が採用されたのは、そろそろ対策委員会も迎撃のために移動を開始しないといけない頃である。
武器を持ち、各々が部屋を後にする中でリョウヤはアヤネの名を呼んだ。
「防衛戦なわけだけど……アレを使ってみないか?」
「アレって……もしかしてAWS2ですか!? わ、私なんかより先輩が使った方が良いんじゃ……」
守りをメインに据えていること。アレ。自身を名指ししていたこと。三つのキーワードからすぐに思い当たった提案にアヤネは狼狽した。
ホシノ達は話の内容を理解して一足早くに校門へと急ぐ。先生だけが不思議そうにしていたが、ホシノ達に説明を受けながら二人から離れていく。
「俺一人を対象にするとかならまぁそうだけど、当然あまり意味はないし……対象が複数人になるなら話は変わる」
私なんか、と自身を下げた発言を聞いたリョウヤの眉が僅かに上がるも、悟らせることなく言葉を選んでいく。
「ですが……その、私に出来るでしょうか?」
アヤネは不安そうにリョウヤを見上げた。
その言葉は間違いなく本音なのが、微かに揺れる瞳からも判別できる。
「俺はアヤネになら出来ると思うし、うちではアヤネにしか出来ないと思う」
真摯な響きに、アヤネは瞳を大きく開いた。
そして今。
『AWS2-V7ベースユニット、到着! エクステンションユニット、展開します!』
アヤネは高らかに宣言する。それは奇しくも、アルの開戦宣言とほぼ同じタイミングだった。
戦場となったアビドス高等学校校門、その遥か上空に飛来した大型ドローンの外装が分離、手の平サイズのペンタゴンとなって剥がれ落ちるように展開された。
インカムから届いた言の葉にリョウヤは口角を吊り上げ、ホシノはドヤ顔。ノノミは嬉しそうに微笑み、シロコは「ん!」と満足げに笑む。セリカは自慢するような胸を張ると、アヤネも含んだ対策委員会の反応に先生は喜色満面を隠せそうになかった。
雇われ傭兵が銃を構えて尚、微動だにしなかった対策委員会と先生を訝しげな視線が貫いていたが、そこで発砲を躊躇うキヴォトス人ではない。いや、アルだけは「大丈夫? 撃っていいの?」と不安そうな顔をしていた。根の善性が隠せていない。
傭兵達は容赦なく引き金を引き――その全てが音を立てて遮断された。
「な、ななな、なんですか!?」
ハルカが目を白黒させて声を荒げる。
ドローンから展開された十二個のホームベース型をした五角形は高速で飛行すると、リョウヤ、ホシノ、ノノミ、シロコ、セリカ、先生を狙う銃口との射線上に割り込んだのだ。
発砲したままでは状況が分からず、慌ててアルが傭兵達を一度止める。
「盾か……!」
銃撃が止まると、対策委員会の面々と先生のすぐ側に黒い物体の姿がしっかりと視認できた。
それは追従するように、それぞれ一人に二つずつ。
クルクルと回転しながら宙を漂っている飛行体の正体を、カヨコは一見で看破して表情を歪める。
『――皆さん! 回避行動はきちんとしてください!』
インカムを通して、アヤネが本気で叱りつけた。何考えてるんですか!? と、あまりに激しい声色だ。
はーい、ごめんなさーい! と気の抜ける返事が溢れる。言い訳をすると制服は防弾仕様だし、リョウヤに至ってはアンダーと白衣も同様だ。それでもアヤネの言い分はご尤もなので、流石に反省は口にする。
『もうっ! 動いていてもこちらで合わせますから、敢えて受けるなんて真似はしないでくださいね!』
信頼と信用から来た行動なことがアヤネにも理解できるので、頬を膨らませながらも、緩んでいく表情を抑えきれない。
(こちらで合わせる、か……それがどれだけ難しいことか)
リョウヤでも、盾を自分の動きに合わせて扱うことは出来る。しかし自分以外を、それも六人を同時に守ることは困難極まるだろう。
何せ自分以外の思考は分からない。反射で体が動くこともあるだろう。視界を遮ってしまっても問題だし、回避先に盾を置いてしまっては目も当てられないのだ。
(アヤネのドローン捌きからして、問題なく扱えるとは思っていたけど……想像以上だな)
アビドス高等学校周辺はリョウヤが設置した監視カメラだらけで、その映像とベースユニットと呼称されたドローンから撮影された映像、コンタクトレンズ型魔具を通したリョウヤの視界。全てをアヤネはオペレート室にある九つのモニターと……
リョウヤは「俺達の後輩凄いだろ!」と声を上げて笑いたい気持ちだった。
嬉しそうだねぇ! とホシノはリョウヤを横目にして思う。尤も、気持ちは皆同じだ。アヤネなら問題ないと思ったからこそ、自然体で防御もしなかったのだから。
「な、なんていう物を持っているのアビドス……! いえ、今はとにかく攻撃を!」
棒立ちで弾丸を防御するという予想外の展開に、便利屋68と傭兵に動揺が走る。
戦慄きながらもアルは傭兵達に再度命令を下した。
それを聞いてホシノは盾を構え、その後ろへとリョウヤが迷いなく滑り込む。自分を頼りにしてくれることが、ホシノにとっては地味に嬉しい。
シロコは先生を引き摺るように校門左側の支柱の裏へと入り込んだ。
ノノミは門の左側、セリカは右側に続き、二人は膝立ちのまま手を伸ばした。取手を掴むとロックとなっている引き金を絞り、勢いに任せて引っ張り出す。
アビドス高等学校の校門は上下で分離するギミックとなっている。校門下部位が左右から音を立ててぶつかり合うと、あっという間にバリケードが完成するのだ。
「じゃあ先生、指揮はよろしく」
言うや否や、シロコはバリケードから飛び出して行く。
傭兵達に弾幕をはらせている間に、便利屋68はバリケードの裏で簡単な作戦会議を進める。
瓦礫などは撤去されてしまっているので、用意してきた小型のバリケードや道のガードレール、電柱などを盾代わりにするしかない。それでも大丈夫だと思っていたが、アビドス側が想像以上にガチガチに固めている。侵攻に慣れすぎていた。
「ど、どどど、どうしましょう!?」
「くふふ。アルちゃんの言う通り、とにかく攻めるしかないかな? 爆弾とか散弾なら、あの小さな盾じゃ防ぎ切れないだろうし、壊せるかもしれないから。あれ、動かしてるのメガネちゃんだよね?」
「あの感じだと、そうだろうね。リョウヤが動かしてるなら話は楽だったんだけど……社長の火力でも盾は抜けるかもだけど、可能なら上のドローンの破壊も狙ってみて欲しい」
「ええ、任せてちょうだい!」
ムツキの言葉を聞き「と、とりあえず撃ちます!」と、ハルカはホシノへとショットガンを連射しながら突貫していく。
リョウヤが航空小盾を操作しているのなら、打ち倒せば済む話だ。しかし、この場にいないアヤネが操作しているのなら、当人が現場にいない以上解決策は限られてしまう。
カヨコはアルへと案を一つ出してハルカへと続いたが、航空小盾を展開したドローンを破壊した所で肝心の小盾の方が停止するかは未知だった。何よりも、親機となるドローンも動き続けている。
試しにとアルは
(基本行動は分かりやすいのに……!)
歯噛みするアル。こちらから仕掛けなければ規則的な円運動している
(傭兵の方々はまだしも、便利屋の皆さんは火力が高い……!)
ムツキとカヨコの判断は正しい。
同時にオペレート室で航空小盾の破損レベルを、データとして確認出来ているアヤネもまた焦りを感じていた。
咄嗟に「航空小盾で便利屋68の攻撃を防ぎ続けるのは難しいかもしれません」と報告する。
しかしそもそもの話、全てをアヤネが防ぎ切る必要はない。現場で迎撃に当たっている面々も回避行動をとるからだ。
「狙撃も警戒したいですね」
校門バリケードから外を窺い、ノノミが真剣な表情で小さく溢す。
便利屋68からの攻撃で警戒すべきは、四人の中で最も離れた位置にいるアルの狙撃だ。
リョウヤという狙撃銃を用いた者がいたことで、敵側に狙撃手がいることの恐ろしさを対策委員会は理解していた。
「狙撃で狙われている子に警告は私が出すよ」
アヤネと先生ならば、アルの銃口の先に誰がいるのかを把握して警告できる。アヤネはドローンを操作しながらでは厳しいだろうと、その役割を先生が買って出た。
防御を意識した戦いをしているのなら、リョウヤ達でも警告で充分に回避を可能だろう。
自身がピンポイントで対策をされているとは未だ知らないアルが、正面に視線を戻す。先生の指揮の元で、校門バリケードの向こうからノノミがミニガンで傭兵を牽制し始めていた。
傭兵の弾幕が薄くなったことで、航空小盾にも大きな余裕が生まれている。シロコに続いてセリカもバリケードを超え、攻撃を開始していた。
ただ、それでも必要以上に前に出てくる様子はない。
(あー、これ……)
(……色々とバレてる、か)
アビドス側は時間を稼ぐための動きをしていると、ムツキとカヨコは瞬時に理解する。前者は攻略しがいがあると楽しげに笑い、後者は億劫そうだ。
バリケードが弱いせいで、傭兵も既にダウンした者も出てきてしまっている。
「状況は理解したけど、本気でいくよ」
「俺としては手を抜いて欲しいけど、なッ!」
ハルカがホシノへと対応している間にリョウヤへと肉薄していたカヨコは、容赦なく拳銃を突き付けて引き金を引く。
既に勝ち目の低さは悟ってしまったカヨコだが、だからといって手を抜く理由はないのだ。
三度の発砲を最低限の動きで避けたリョウヤもまた、右手に持つリボルバーで反撃を試みる。サイレンサー付きのカヨコとは異なり、他の銃声を掻き消すレベルの爆音が辺りに響く。
カヨコはくるりと体を回転させて弾丸を回避すると、回し蹴りの要領でリョウヤの頭に向けて足を叩き付けた。
「……ッ」
左腕の前腕部で受け止めたリョウヤは、びりびり痺れる腕とじんわりと広がる痛みに小さく呻く。
頭の隅で「ミニスカートで上段回し蹴りはやめた方がいい」と後でメッセージを送ることを密かに決める。ちなみに返信は「すけべ」と一言だった。
(折れやしない。ヒビもない。が、やはり重い……!)
制服は勿論、白衣も防弾防刃仕様とはいえ、突き抜ける衝撃は誤魔化し切れない。
表情にこそ出さないのでカヨコにも気付いた様子はないが、正直なところ結構な鈍痛だ。
「リョウヤ先輩!」
「くっ」
追撃を行おうとするカヨコだったが、セリカの弾丸が割り込む。
セリカは先生の指示の元で、随時必要なポイントへの援護や傭兵への対応などを担当していたのだ。
「ナイス援護、ありがとう」
視線こそ向けないがリョウヤふっと微笑むと、セリカの雰囲気に気色が混ざる。
ハルカがホシノによって至近距離から弾丸を撃ち込まれるのが視界に入ったこともあり、対照的にカヨコは舌を打つ。
ムツキもシロコの相手に手こずっている。こちらにもセリカが要所要所で干渉しているようだった。
アルの狙撃は警告から回避。傭兵による銃撃は、航空小盾で阻んでくる。
アビドス側が守ることを優先していることに、流石のアルも気が付いて顔に焦りが滲み始める。
「死んで下さい死んで下さい死んで下さい!」
「いやぁ、頑丈な子だねー」
心臓部に発砲されて尚、銃を鈍器として殴りかかって来たハルカをホシノは素直に評する。
褒めつつも、打撃そのものは余裕綽々といった様子で受け止めている。
対策委員会からしたら頼りになるの一言だ。
「花火を始めよっかな!」
ムツキが手榴弾を取り出すと、投げられるより速くにシロコは自ら距離を詰めた。
至近距離では自爆の可能性があるので使用が出来ないと考えたわけではない。事実、ムツキは自分に被害が出ず、シロコには被害を与えられる絶妙な距離に手榴弾を放った。
背後からシロコを襲うはずだった爆発は、逆にムツキの後方で起こり、爆風を受けた傭兵が怒声を飛ばす。
航空小盾が手榴弾を弾いたのだ。
カキーン! とピンボールを彷彿させる小気味の良い音で手榴弾を打ち返されたムツキはポカンとした後、それはそれは楽しそうに笑ってしまう。
航空小盾に対して爆弾なら通用すると言う考えは間違っていないが、正しくもなかったのだだろう。尤も、起爆前に手榴弾を弾き飛ばすという芸等を予期しろと言う方が無茶だ。自動操作ではなく、手動操作の強みでもあるかもしれない。
「きゃはは! 何それ面白過ぎるー!」
「ん、流石は私達の後輩」
シロコとムツキは銃撃の応酬をしながらも笑みを浮かべている。
リョウヤとカヨコ。ホシノとハルカ。シロコとムツキ。セリカが襲撃による対策委員の、アルは狙撃による便利屋68の援護。ノノミと傭兵の弾幕。
傭兵の数で勝っている便利屋68だったが、先生の的確な指揮とアヤネの操る航空小盾のせいで成果が出ない。
状況は硬直していた。
つまり、アビドス側にとって都合が良いということだ。
青かった空は、気が付くとオレンジ色に染まっていた。
「――あ、定時だ」
時刻を知らせるチャイムが鳴ると、傭兵の一人が呟く。それがやけに鮮明に周囲に響いた。
銃声と爆音に包まれていた戦場が、途端にタンブルウィードでも転がりそうな空気になってしまう。
他の傭兵達も攻撃を止めたことで、対策委員会とアルが「えっ」と目を見開く。
「今日の日当だとここまでね」
「かなり値切られたし、後は自分達でどうにかして」
倒れていた傭兵も仲間の手を借り、むくりと立ち上がって服の汚れを払っていた。
「じゃ、みんな帰ろうか」
はーい、と残りの傭兵は声を揃える。
あまりに気の抜けるやりとりだった。
「は、はあ!? ちょっ、ちょっと待ってよ!」
慌てふためくアルを他所に、傭兵達は「蕎麦屋でも寄ってく?」と呑気に武器をおろしている。相手にする素振りを見せない辺りに、便利屋68と傭兵達に信用も信頼もないのが滲み出ていた。
嘆息したカヨコの側で、ムツキが口を開く。
「やっぱり決着つかなかったかー……どうする? 逃げる?」
「うぅ……これで終わったと思わないことね!」
「三流の台詞だよ、社長……」
「え、あっ……逃げっ……撤退するわよ!」
あまりに締まらない戦いの終わりだった。
(支援)つよつよアヤネちゃん。
無線兵器は盾より銃とかの方が良くね? に対する回答は後々にしますのでご容赦ください。
読了、ありがとうございました。