星屑の夢   作:ハレルヤ

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4-4.ブラックマーケットにて①

 なにも借金の返済日だから特別、ということはない。数多く存在する分割支払いの一日であるだけだからだ。

 最近は利息の返済そのものには余裕もあり、緊張や不安は当然ない。

 アヤネのMVPを祝ったハッピーアンバースデーから日を跨いで数時間。

 未だ太陽は姿を表していない。

 暗闇に包まれながらリョウヤは目が覚めると、時間を確認すべく携帯端末に手を伸ばす。タオルケットを頭に被り、光が漏れないようにするのを忘れない。

 画面に表示された時刻は午前三時前。

 凡そ三時間は眠ることが出来ただろうか。

 むくり、と体を起こす。

 隅の方で女生徒達が固まり、自分が中央、先生は反対側の端に寄って眠っている。

 ゆっくりと立ち上がって体を伸ばすと、寝顔は覗くことが出来た。皆、幸せそうに寝息を立てている。自然と口元が緩んでしまう。

 心配だったホシノもノノミに抱えられる形で眠っており、ヘイローも消えているようだ。

 性別が同じでも生徒と共に眠るのはNGと確固たる意志をみせた先生は、猫のように縮こまってしまっていた。相変わらず難儀だな、と他人事な感想を抱く。

 

(いや、俺がもっと気にするべきなのか)

 

 年頃の男女が同室で眠るというのは、世間的には無しなはずだ。……今になって自分だけ別室が許されるかは分からないが、言うだけ言った方が良いかもしれない。

 その方が言い訳も出来るしな、などと考えながらリョウヤは音もなく仮眠室を出て行く。

 学校で出来る作業は、やはり工房と比べると少ない。こういう時、何処からでも工房へと出入りする手段は欲しいと思ってしまう。

 歯を磨き、顔を洗う。

 六時まではプログラミングに時間を割くと、今度は食堂で朝食の準備に手を付ける。

 ぽつぽつと起床する者が出始め、八時になる頃にはサンドウィッチ、オムレツ、ホットサラダは綺麗になくなっていた。

 ご馳走様でした! と皆で手を合わせ、食材と食材の生産者や調理した人へと感謝を告げて朝食の時間は終わる。

 

「そろそろ眠る時には誰かさんを拘束しないといけない気がしてくるねぇ」

 

「ホシノ先輩、流石にそれは……いえ、言いたいことは分かりますが」

 

 食後の紅茶やコーヒーを嗜む中でホシノが何気なく溢した言葉を、アヤネは否定したいと思いつつ出来ずに苦笑する。

 リョウヤが何か言うより先に、朝食を手伝っていたアヤネに先生が問いかける。

 

「今日はアヤネちゃんとリョウヤくん、どっちが先に起きていたの?」

 

「先輩です」

 

 間髪入れずの返答に、皆口を揃えて「ですよね」と納得した。正直、誰しも予想が出来ていたことだ。

 

「先輩、今日はどれくらい眠ったの?」

 

「やっぱり三十分ですか?」

 

「ノノミ先輩、流石にもっと眠ってると思うんだけど……眠ってるよね?」

 

 三十分しか寝ていなかった日があることを知ってしまうと、どうしても脳裏に残ってしまうのだ。シロコの言葉を切っ掛けに、ノノミが導き出した時間を、セリカですら違うと言い切れない。

 

「今日は三時間位だったか」

 

 視線が集まったことで、リョウヤが正直に答える。比較対象が三十分だと、なまじ眠っているように感じられるので質が悪い。

 日付が変わる頃に仮眠室へ移動しているので、実際に眠った時間は三時間を切っているのだが……敢えて口にすることでもないだろう。

 

「鎖とか手錠は簡単に外されちゃうよね?」

 

「先輩には工房がありますからね。それに拘束し過ぎてしまうと、逆に眠れないでしょうし……」

 

 睡眠時間を聞いて尚、二年生の二人は拘束手段について悩み続けていた。

 あれ? 聞こえなかった? とリョウヤ。いや、分かっている。しかし同時に「三時間でも駄目か……」と頭を抱える。

 隈はお化粧に魔力付加が乗っているのか、かなり薄くなっていた。

 

「ショートスリーパーの睡眠が五時間切っていたりするんだっけ」

 

「先輩がショートスリーパーとは聞いたことがないですね……」

 

 ショートスリーパーは平均より一時間以上も睡眠時間が少ないとされている。

 三時間睡眠で十分な活動が出来る人がいる、という話も聞いたことのあった先生の呟きに、アヤネがリョウヤへと確認の視線を向ける。

 

「実際ショートスリーパーなわけじゃないよ」

 

 返答はノーだった。

 ここで嘘を言えないのがなぁ、と先生は胸中で笑んでしまう。対策委員の仲間に隠し事はしても嘘は言わない。若しくは言いたくないのであろう姿に、どうしても微笑ましさを感じてしまうのだ。それはそれとして、せめて平均時間は眠ってほしいと思う。

 

「本当に大丈夫な範囲で活動してるんだけどな……」

 

 機工魔術士である自分の料理には魔力付加がされている。

 ホシノ達に振る舞う際は特に美味しくなるようにと思っているし、味覚方面だけではなく栄養や癒しという形でも支えたいと願っている。前者は味の底上げを。後者二つは即ち、疲労回復や体力増強の魔力付加。

 これがリョウヤが自分だけ食べる料理となると、後者二つの力が強くなる。

 それこそ、睡眠不足を補うための手段の一つだった。

 

「……」

 

 朝から楽しげに盛り上がるホシノ、シロコ、ノノミ、アヤネ、セリカ。時折り会話に混ざりつつも、基本は見守る先生。

 リョウヤが自分たちのテーブルから少し視線を動かすと、だだっ広い空間に誰も使っていないテーブルと椅子。空っぽのキッチンが確認できた。

 寂しさを感じさせる光景の中で、機工魔術士、魔力付加、出身地などについての隠し事が頭を過ぎる。なんにしても、この場で話せるようなことではない。いつまでも隠しておくことでもない。

 不意に、窓から差し込む朝日を黒い鳥が一瞬だけ遮るのが視界に入った。

 朝の温かな時間はあっという間に過ぎて行き、唯一の毎月決まっている来訪者が現れる。

 

「――カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします」

 

 銀行員の定型分を最後に、返済はあっけなく終わった。尤も現金の受け渡しで問題が発生するのは洒落にならいので、それ以上を望むこともない。

 とは言え、どうしても気は滅入る。

 青空とは真逆……と言うと大袈裟だが、間違いなく陰鬱さを増した雰囲気で一同が部屋に戻ると、一息入れることなく話し合いが始まった。

 

「カタカタヘルメット団の使っていた戦略兵器の破片を分析した結果、現在は取引されていない型番だということが判明しました」

 

 意識を切り替えて手早く切り出したのはアヤネだ。

 仕事が早い、とリョウヤが素直に感心する。

 

「それはどうやって手に入れたのかしら?」

 

「ブラックマーケットだろうねぇ」

 

 首を傾げたセリカには、ホシノが迷うことなく断ずる。正確にはブラックマーケットで購入された物が、カタカタヘルメット団へと流れたのだろう……ということだ。

 一般的な学生にはあまり馴染みのない場所だったからか、シロコが「ブラックマーケット……」と復唱した。

 

「中退、休学、退学。理由は色々あるだろうけど、学校辞めた連中のコミュニティだな。規模感は町とかそういうレベルだから、かなりの大きさになる」

 

 簡単に解説して、リョウヤは口の中に飴玉を放り込んだ。

 アヤネが一度頷いて肯定する。

 

「連邦生徒会の許可を得てない否認可の部活も、たくさんあると聞きます。便利屋68も何度か騒ぎを起こしているという情報もありました」

 

「では、そこが重要ポイントですね!」

 

 アヤネが眼鏡の位置を調整し、ノノミはポン! と手を打つ。

 情報が纏まり始める中、リョウヤは少し気まずそうに頬を掻くと、すーっと手を挙げて割り込んだ。

 

「あー、便利屋が出入りしてることに関しては俺が依頼してるからかもしれない」

 

「そう言えば、どんな依頼を?」

 

 シッテムの箱でブラックマーケットについて検索する先生の疑問は、至って当然のものだった。

 

「機械とかの回収。レア物とかも出回ってるんだよね、ブラックマーケット」

 

 呆気なさすら感じるほどに依頼内容簡単に明かす。隠しているわけでもないのだ。……拘りの強いアル辺りは、守秘義務として明かさないようにしてくれていそうではある。

 ついでに近い形だが、リョウヤによって生産の終わった戦略兵器をブラックマーケットで手に入れられる可能性は補強された。

 

「じゃあ決まりだねー。ブラックマーケットを調べてみよう」

 

 ホシノの一言を皮切りに、意外な手掛かりが見つかるかもしれないと一同はすぐに行動へと移した。

 それぞれ準備を終えて向かい、トラブル一つなくブラックマーケットに辿り着く。

 建物や看板で、ごちゃごちゃと散らかった印象のエリアだ。

 

「ここがブラックマーケット……」

 

「わぁ☆ すっごい賑わってますね?」

 

「本当に。……連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるんだね」

 

 興味深そうに辺りを見渡すセリカ、ノノミ、シロコの声色には驚きと同時に感心が含まれていた。

 

「普段、私たちはアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所も多いんだよー」

 

「ホシノ先輩、ここに来たことあるの?」

 

 話し方から察したセリカは、眼前に広がる光景を眺めながらホシノへ確認する。

 うん、と三年生の先輩はすんなり肯首した。

 

「リョウヤの仕事の手伝いとかでだけどね。まぁでも、そもそもアビドス学区以外には色んなものがあるんだよー」

 

 加えて三年生の二人が一年生の頃、二人きりになってしまった頃にもホシノはブラックマーケットに出入りしている。目的はリョウヤへ機械系を提供するためだ。

 へー? とシロコはリョウヤにジトッとした目を向けた。向けられた側は苦笑いで誤魔化すしかない。

 

「アクアリウムとかね! うへへ、見たことも聞いたこともない魚がたくさんいる楽しい所でねー! いつか皆で行きたいなぁ……」

 

 勿論ブラックマーケットにアクアリウムは存在しない。アビドス学区外というワードで蘇った記憶に、ホシノは盛大に顔を緩ませる。

 アクアリウムと聞いてもピンと来ない者が三人。

 アヤネとセリカ、そして先生だ。

 シロコからの圧をフォローしてもらったリョウヤは、ホシノに感謝しつつ微笑む。

 

「去年のクリスマスに合わせて、シロコとノノミがアクアリウムのチケットを二枚用意してくれたんだ」

 

 つまりクリスマスプレゼント。二枚のチケット。用意したのは現二年生の二人。導き出されるのは三年生二人のクリスマスデート。

 先生の脳裏に電流走る。

 

「リョウヤくんのバイクのキー!」

 

 先生がリョウヤを見て声を上げる。すして、すぐに今度はホシノへと顔を向けた。

 

「ホシノちゃんのスマホ!」

 

 それぞれにデフォルメされた魚のキーホルダーがぶら下げられていることを、先生は唐突に思い出したのだ。色は確か……そう、リョウヤが薄桃色でホシノが薄青色。

 口元に手をやり、目を輝かせて「キャー!」と女子高生のような歓声を上げる先生に、シロコがドヤ顔でピースサインを向けた。

 

「カップルチケットを用意したからね」

 

「特典で色々と付いていたんです☆」

 

 ねー! とシロコとノノミが笑い合う。

 キーホルダーも特典の一つだった筈である。お土産もたくさん貰ったし、話も聞けて、写真を何枚も見せてもらった。だがやはり、チケット付属のキーホルダーを今も大事に付けているのは、プレゼントを贈った自分たちにとっても非常に嬉しいことだった。見るたびに、口元が緩んでしまう。

 ホシノとリョウヤにとっても、可愛い後輩達からの贈り物には歓天喜地だった。クリスマスということで、数に限りのあるチケットでもあったのだ。入手難易度は想像に難くない。

 勿論、アクアリウムも存分に楽しんだ。二人で出掛けることは多くあっても、デートという意識では初めてだった。それも後輩二人から「デート楽しんで!」と満面の笑みを向けられていなければ、デートと認識すらしていなかったかもしれない。リョウヤは生まれて初めて着る服で頭を悩ませたし、リョウヤを相手にして初めてホシノはぎこちない態度を見せた。全てが大切な贈り物だ。

 

『皆さん、油断はしないでください。……非常に。非常に気になるお話でしたが……』

 

 アヤネとて花の女子高生。二度にわたる非常に、の連呼で本音が隠せていない。仲の良さは知っていても付き合っているわけではなく、浮いた話も聞かない二人の先輩のデートについては詳細を知りたかったが、今いる場所はブラックマーケット。表情を引き締めて己を律する。

 セリカはシロコからリョウヤへ向けている感情が分からなく「本当に甘えてるだけだった?」と頭にひたすら疑問符を浮かべていた。

 

『何が起こるか分からないんですから……えっ!?』

 

「銃声だ」

 

「銃声ですね☆」

 

「銃声だな」

 

 銃声自体は珍しいものでもない、治安の悪いエリアでは特に。呑気な反応のシロコ、ノノミ、リョウヤをよそに、アヤネが慌ててドローンを上空に向かわせる。

 爆音と粗雑な足音は、すぐそこにまで迫っていた。

 待て! じゃっぞラァ! などと品のかけらもない怒声も聞こえてくる。

 

「う、うわあ! まずっ、まずいですー! ついて来ないでくださいー!!」

 

 どれだけ必死にお願いしても、止まってくれるチンピラや不良は希少だろう。それに何より、かなり出来上がっている様子だ。

 アヤネが『トリニティ総合学園の制服……?』と溢す。

 叫びながら追われている涙目の少女の姿を、リョウヤとホシノは仲良く凝視した。

 

「あー……リョウヤ? 依頼の話はあった?」

 

「いや、そもそも今は受付を停止してる……」

 

 あっ、とホシノが先日の出来事を思い出す。

 ミレニアム、ゲヘナでほぼ一ヶ月間を過ごしたリョウヤへのお説教を実行した際、依頼の受付を一時止めると本人から申告があったのだ。

 アビドスで対策委員の皆との時間を優先する――言葉にしたわけではないが、意味としては同義である。駄目だと言う理由はなかった。

 

「えっ、リョウヤさん!? ホシノさん!?」

 

 シロコより少し背は高いだろうか。幼い顔立ちの女生徒はトリニティ総合学園ではなくアビドス高等学校の三年生二人を見つけて、瞳に宿る不安の色を大きく薄めた。

 自分達を視認してあからさまに安心されてしまうと、信頼されているのが分かって嬉しくなる。

 

「ヒフミちゃん、とりあえずこっちにおいでー!」

 

 ホシノが普段の調子で声を投げ掛ける横で、リョウヤは小さく手招きをしている。

 パッと花を咲かせた阿慈谷ヒフミは「はい!」と迷いなく二人の影に隠れた。

 

『お二人ともキヴォトス一のマンモス校、トリニティ総合学園の――』

 

「そう! そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもあるトリ学! だから拉致って身代金を頂こうってわけさ!」

 

「拉致って交渉! これが財テクだ!」

 

「「成敗!」」

 

 テンションが上がっているようで、アヤネの言葉を遮ってまでチンピラ二人は宣言する。が、次の瞬間にはシロコとノノミに返り討ちにされてしまっていた。

 アヤネが『トリニティ総合学園の生徒と知り合いなんですか?』と三年生二人に問おうとしたように、二年生の二人もまた先輩達と目の前で追われている生徒が知人であることを悟り、素早く行動に移していたのだ。

 

「あ……えっ? えっ?」

 

 即断即決。

 あまりの展開スピードに目を丸くするヒフミの目に、リョウヤとホシノからお褒めの言葉を賜ったシロコとノノミが喜んでいる姿が映る。犬……? と口には出せない光景を幻視してしまった。

 一拍置いて、状況を理解すると「ありがとうございました」と頭を下げる。

 

「皆さんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……」

 

 お礼の言葉を受け取り、場が少し落ち着くとリョウヤはヒフミを右手全体で指して「こちらはトリニティの二年生、阿慈谷ヒフミ」と紹介し、流れるようにシロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ、先生へと続けた。

 よろしく、と各々が挨拶を口にする。

 

「三人は元々知り合い、なんだね?」

 

「探し物があるから護衛を、と俺に依頼してくれた子だよ。ホシノには何度か代わりを頼んだことがある」

 

「リョウヤがちょうどミレニアムに行く日と、被っちゃったこととかあってね~」

 

 ホシノとリョウヤ、ヒフミと視線を流して首を傾げる先生の疑問は、他の対策委員たちも抱いていたものだ。

 リョウヤが目を配すと、ホシノは頷き、説明を聞いたシロコが「ほう?」とでも言いたげにリョウヤへ両の目を向ける。まさに目は口ほどに物を言うの体現だ。

 

「今度があったらシロコに頼むとするよ」

 

 根負けだった。

 ぽふっと軽く頭に手をやると、シロコは満足したように大きく頷く。

 次いで今度はリョウヤの肩がトントンと叩かれる。振り返ってみると、ノノミとセリカが見上げていた。

 自分たちは? と有弁に物語る笑顔である。頼って欲しいと強請る後輩達は、頼り甲斐があると同時に愛らしい。二人にもな、と微笑ましさを隠さずに告げているリョウヤを見てヒフミはくすりと笑う。

 

「ホシノさんに聞いていた通り、仲良しでほんわかしちゃいますね」

 

「人数少ないとどうしてもねぇ」

 

 うへへ、とホシノも釣られてはにかむ。

 リョウヤ自身たまに「どんだけ好きだよ」と自分にツッコミを入れてしまう程度に自覚もある。故に他校の生徒に指摘されると、ほんの少しだけこそばゆい。

 緩み始めた空気の中、コホン! と可愛らしく咳払いをしてアヤネが空気を一新させた。ちなみにパソコン関係……直近では戦車のパーツに関する情報収集を任されていたアヤネには、既にリョウヤの力になっているという自負があったのでシロコたちのような欲求は少なかったりする。

 リョウヤが戦闘に於いて心底から対策委員会のメンバーを頼っていることにシロコ達が気が付かないのは、自身の耐久性に関して話していない故のものだった。

 

『えっと、ではブラックマーケットに来るのも初めてではないんですね』

 

「はい! 今日はペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定ぬいぐるみを探しに来ました!」

 

 嬉々として鞄から取り出したのは、舌を出している白い鳥とアイスクリームがハーモニーを奏でているぬいぐるみだ。

 その奇抜なデザインに一部の者が硬直する。

 

「わあ☆ モモフレンズですね、私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねぇ! 私は特にミスター•ニコライが好きなんです!」

 

「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて!」

 

「ミスター・ニコライと言えば、この前発売した本なら俺も買ったよ」

 

「善悪の彼方ですね! 私も初版で買えました!!」

 

 なんとも言えない表情で黙ってしまったシロコの目が、僅かな驚愕を持ってノノミとリョウヤを行ったり来たりする。いや、リョウヤに関しては分かるのだ。単なる本好きでしかない。しかしキャラクターのデザインの方に関しては……いかんせん癖が強い。

 仲間を見つけて嬉しくなり、早口になって語っていたヒフミだったが、正気に戻って今度は逆に問い掛ける。

 

「あ、それでですね。先ほどの人たちに絡まれてしまって……アビドスの皆さんは何故こちらへ? お仕事ですか?」

 

「私たちも探し物だよ~」

 

 リョウヤの請負人という側面を知っているヒフミの当然の想像を、ホシノはやんわりと訂正した。

 

「そう。今は生産されていなくて手に入れ難い物なんだけど、ここにあるかもって話を聞いて」

 

 シロコから自分と似たような事情と教えられ、親近感からヒフミの表情が綻んだ。

 だがそれも束の間。

 慌ててアヤネが声を上げた。

 

『皆さん、大変です! 武装した人たちが集まって来ています!』

 

「あれは……さっき撃退したチンピラ!」

 

「話を聞いてもらえそうには……ないよね」

 

 セリカは敵意を込めながら、既に目視できる距離にいる武装集団を睨んだ。

 額を軽く掻くいて、先生も諦めの溜め息を溢す。

 

「しつこいな……あまりここで騒ぎを大きくしたくないんだが」

 

「独自の治安機関があるんだっけー?」

 

 ブラックマーケットに出入りした経験が一度ではないリョウヤとホシノは、戦闘とは別の問題が脳に過って思考を回す。

 横にいるヒフミがホシノの疑問を肯定すると、リョウヤは首を回して辺りを見渡した。

 

「アヤネ、敵は正面だけか?」

 

『いえ……大きな集団とは別に、脇道や路地裏から個人規模で向かって来ている人達がいます』

 

 常に対策委員会たちの上空を飛んでいるドローンから得ている情報に、リョウヤは一瞬考える素振りを見せて手首をスナップする。

 

「なら、これ使えば逃げられるかな」

 

 工房から取り出したのは、誘拐されたセリカを救う際にも使用されたスタングレネードだった。

 周囲に他の人影はない。二人とはいえ既に一度、チンピラが騒いでいたせいだろう。荒事の気配を察知したのかもしれない。大した危機察知能力だ。

 だが好都合だ。

 一言二言の後、近くにまで来ている集団に背中を向けて、対策委員会一同とヒフミは走り出す。

 脱兎の如く離れていく背中に、チンピラ集団から下品なスラングがぶつけられていたが――最後尾をキープしていたリョウヤが、しれっと背後に落としたスタングレネードが炸裂したことによって叫ぶ、転ぶ、ぶつかる、転がる、誤射すると阿鼻叫喚と化す。あまりの惨状に、リョウヤも申し訳なさを感じるほどだ。

 細い道から飛び出してくる数える程度のチンピラを薙ぎ払い、全員無傷で逃げ切ることに成功するのだった。




今更ですが、機工魔術士側の設定にもオリジナル要素は出していきます。
今話ならお化粧による魔力付加ですね。可能か不可能か分からなかったですが、ギリギリ作ると言えるのでは? と考えて出来るということに。

それからもう一つ。
先生の性別に関して、現時点では男女を明記しておりません。どちらとも受け取れるようにしています。

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