星屑の夢   作:ハレルヤ

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4-6.してい

 携帯端末へ届いたメッセージは二つ。うち二件目を読むと、リョウヤは「ちょっと行ってくる」と短く告げ、唖然とする面々の返答を待つことなくヒラヒラと片手を振って早足に離れていく。

 二通目は正面角を右に次は左等、端的に場所を指定するメッセージだ。指示に従うと、今日日珍しい縦長の長方形が目につく。

 そこには古めかしい公衆電話ボックスが佇んでいた。

 

(ブラックマーケットには、こんな物まであったのか……)

 

 自分の工房にホールクロックを置いている奴が言うなと思われるかもしれないが、化石でも見たような気分である。

 扉に手を伸ばそうとした瞬間、公衆電話はけたたましく鳴り始めた。近くに人は少ないものの、いないわけではない。僅かに好奇の視線が集まる中、リョウヤは急いでボックスに入って電話を手に取った。

 

「ここ、大丈夫なのか? ……ヒマリ」

 

「既に掌握済みですよ。それから――」

 

 暗に電話ボックス内に盗聴若しくは盗撮の機械が仕込まれていると認めていたが、本人が掌握したと断言した以上は信じられる。

 何せ相手は、明星ヒマリなのだから。

 ミレニアムサイエンススクール所属、特異現象捜査部部長にして、非公認ハッカー集団・ヴェリタス元部長。

 そして、リョウヤの特異性に自力で辿り着いた者でもある。

 雪にも似た美しい白髪。エルフのように尖った耳。儚げな雰囲気。メッセージで自称していたように美少女……ではあるのだが、普通は自分で自分を美少女とは言わない。所謂、図太くイイ性格と呼ばれるカテゴリの生徒である。

 

「――師匠、でしょう? 愛弟子」

 

 軽やかに笑って言い聞かせてくる言の葉通り、リョウヤとは明確な師弟関係だった。

 ヒマリは自己是正心も然る事乍ら、ハッカーとして能力、情報分析や機器の発明、設計も高次元で実行する紛れもない天才なのだ。

 

「唇読まれるのはどうしようもないので、自力でどうにかしてくださいね」

 

 片目を閉じ、ヒマリは悪戯っぽく唇に人差し指を当てる。普通の音声電話なので、相手には見えていない事をツッコんでくれる人はいなかった。

 リョウヤは左腕を垂直に立つ公衆電話の上で横にし、自分の額を押し当てる。左手を枕にしたのだ。顔が下を向いていれば、透き通る電話ボックスの外から口唇を読まれることはないだろう。

 公衆電話の手前に置いておいた携帯端末の画面に、自分の顔が反射していた。

 忠告をすぐに実行に移す辺りが弟子力高い。満足そうなヒマリの姿に、ヴェリタス部長代理を務める各務チヒロは「誰かさんたちも、あれくらい素直ならね」と本音と共に眼鏡の奥を優し気に細める。思い当たる節のある三人が、ギクリと体を揺らした。

 

「で、盗聴? 盗撮?」

 

「はい? 何がでしょうか」

 

「いや、こっちの様子見てたんじゃないのか?」

 

「ああ、それなら盗聴です。コタマが」

 

 進行形でヴェリタスの部室にいるヒマリによって、あっさりと暴露された音瀬コタマが椅子からずり落ちかけ、眼鏡が太腿の上に落下する。ヒマリへと恨みがましい視線を向けるも、気にした様子はない。

 事実として、電話ボックス内には盗聴器とカメラが仕掛けられていた。流石はブラックマーケットだ、油断ならない。今は言った通りヒマリによって掌握されており、部室内のモニターには背中を丸めたリョウヤの姿が映し出されている。

 その画面を眺めていたヴェリタスのメンバー、小塗マキは閃いた。迅速果断。すぐさま赤い髪を揺らしながらキーボードを叩く。

 

「それで我が弟子、何か言うことがあるのではないですか?」

 

「盗聴盗撮は程々にしてくださいネ」

 

 思わず敬語になった。

 流れ弾がぶつかりコタマが呻く。

 リョウヤの携帯端末は独自のセキュリティを構築してインストールしているものの、ヒマリは勿論、他のヴェリタスメンバーでも突破はしてくる。これは、そもそもの畑が違うので割とどうしようもない。ハッキングはまだまだ勉強中なのだ。

 

「あら?」

 

 ヴェリタス部室の数多く存在するモニターの一つの画面が切り替わる。

 画面の中のリョウヤとばっちり目が合った……と錯覚するも、勘違いだ。リョウヤが置いた携帯端末の、インカメラの映像だろう。

 んー! とマキが体を伸ばした。やりきったと言わんばかりの態度で、被害者が被害に気がつくことなく犯人が判明する。

 

「ふふっ」

 

 盗聴盗撮に関しての苦言とは裏腹に不快感の一切ない表情のリョウヤと、マキの小さな悪戯に思わず上品な笑いがヒマリから溢れ、コタマはホッと一息吐く。

 モニターの中のリョウヤが、人差し指で携帯端末の画面をタップしている。どうやらモモトークからメッセージが届いているらしい。

 見ている側からすると自分が携帯端末の画面の中に入ったような、なかなか見ることの出来なさそうな映像だ。

 マキに誘発され今度は小鈎ハレが閃いたらしく、キーボードに触れ始めたが、察しをつけたチヒロに肩を叩かれてしょんぼりと肩を落とした。チヒロもハレなりのじゃれ合いのようなものなのは理解していたが、他人のメッセージを覗くのは倫理的にNGなのである。

 

「あまり、お友達を待たせるわけにはいきませんね」

 

 ヒマリが柔和に呟く。

 このタイミングでのメッセージは送り主が絞り易い。対策委員会か先生とやりとりをしているのだろう。

 コタマの名誉の為に説明すると、常日頃からリョウヤを盗聴しているわけではない。

 そもそも、アビドス高等学校の一部エリアや葛葉邸では携帯端末へのハッキングは仕掛けても失敗に終わってしまう。特に葛葉邸は防御力が高いのだ。……逆にそのせいでヴェリタスのようにゲーム感覚で突破しようとしてくる者達もいるが、魔力を用いた特殊な領域にしているので今のところは問題なかったし、なんならヴェリタスに突破される分には今後の参考にすらなる。

 頻度に関してはコメントしないが、今日に関してはリョウヤが危険なエリアに入ったことで心配から盗聴を始めている。何故、ブラックマーケット入りが分かるのかと問われると……位置情報を抜かれているということである。

 

「――頼るつもりはないよ」

 

 優しくだが、キッパリと言い切る。

 リョウヤとて馬鹿ではない。

 ヒマリからメッセージが届いたタイミング。内容。電話での会話。ヒマリの面倒見の良さや善性。これだけ情報があれば、推測は充分に可能だった。

 

「ああいや、もうずっと頼ってるのか」

 

 参ったな、と苦笑してしまう。

 ヴェリタスの三年生、ヒマリ、チヒロ、コタマ。三人とリョウヤの出会いは一年生の頃にまで遡る。

 リョウヤが当時から出入りしていたからだ。

 ミレニアムサイエンススクールは、キヴォトスで最も科学技術に力を入れている学園である。当時、ユメからそう教えられたリョウヤは幾度となくミレニアムサイエンススクールに侵入していた。

 例えばリョウヤが首に巻く、ヘイローを投影しているチョーカー。

 これは魔具にこそならないものの、ミレニアムの生徒なら作れる者が多い。

 ……が一年生のリョウヤに人脈はなく、資材も機材もなく、ついでにコミニュケーション能力もなかった。果てには見たことのない素材も存在するのがキヴォトスだ。幾ら機工魔術士といえど簡単に作ることが出来るはずもない。

 そんなリョウヤに手を貸してくれたのがヴェリタスの三人と、エンジニア部の現部長である白石ウタハなのだ。

 リョウヤは元は末っ子だ。正確には違うのだが、周囲にいた人々は引き取り手も義姉も五百年前後歳上であり、他も近しい。そんな面倒をみてもらう側の雰囲気が滲んでいたのかもしれない。

 ヒマリは持ち前の世話焼き気質もあり、コミニュケーション能力皆無のリョウヤの面倒を率先してみてくれていたのだ。積極的だったのは、駄目な子ほど可愛かったのかもしれない。

 気安いやり取りをしている理由でもある。

 

「カイザーだろうがなんだろうが、ヒマリなら……ヴェリタスの皆なら確実に情報抜けるんだろうなって思う」

 

 声色には確信が込もっていた。

 カイザーコーポレーションは大企業だ。セキュリティにも力を入れている。

 バレるとどうなるから分からない以上、確実に可能となるレベルにまでスキルを高める必要があった。そしてそれは、リョウヤにはまだ出来ないことだった。今はまだ、だが。……その為にヴェリタスに教えを乞うているのだ。

 

(俺が頭を下げるだけなら安い)

 

 事情を説明して本気で頼めば、ヒマリ達なら力を貸してくれるだろうことも理解していた。

 けれど、巻き込めない。巻き込みたくはない。

 

「俺と関わりがある時点で、なんらかのマークはされる可能性がある……って話はしたことあったな」

 

 たった一度だけ接触してきた……暗闇がそのまま象ったような黒衣の大人の姿が、リョウヤの瞳の裏を掠める。

 

「ただでさえ目を付けられてるかもしれないのに、これ以上の深入りはさせられない」

 

 例えそれが、ただのエゴなのだとしても。

 決意の籠った両目に真摯な言葉、真剣な表情。

 本当に変わった、というのがヴェリタス三年生共通の感想だった。

 リョウヤは当時から真面目ではあったが、関わった者全員の印象として感情を発する能力の低さが上げられる。

 口数は少なく表情に色のなかった少年が、今ではすっかり色鮮やかな顔をするようになった。

 ヒマリだけでなく、ヴェリタスの中で悪戯っ子達の面倒を見る側のチヒロも、悪戯する側でありながらも献身的な面のあるコタマも。相手を強く思い遣って自ら発信するようになったリョウヤには感動を覚えてしまう。同い年でありながら、弟の成長を喜ぶ姉にも似た感情だ。

 優しい微笑みを浮かべて、モニターを見つめるの仕方がなかった。

 

「…………あ」

 

 我に帰ると「コホン」と小さく、そして可愛らしくヒマリは咳払いを一つ。

 

「それは自己満足ですよ?」

 

「ああ、駄目か?」

 

「いえいえ。ですが分かっているのでしょう? この師匠属性まで得てしまった超天才美少女ハッカーが弟子を放っておくはずがない、と」

 

「自己満足か?」

 

「はい、そうですよ」

 

 テンポの良い言い合いで、リョウヤは改めて思い知る。やはりヒマリという女生徒は凄い、と。声からでも充分に分かる。やるべき事を、やりたい事を貫こうとする明確な意思を持っているのだ。

 それが何か問題でも? そう笑い飛ばす強さを持つヒマリに、思わず笑みが溢れる。

 考えてみれば昔からそうだった。

 想像して、リョウヤは噛み締めるように目を閉じた。

 

「ヒマリにも、チヒロにも、コタマにも。ハレにも、マキにも。俺はたくさん教えられてるよ。放っておくどころか、充分に助けられてる」

 

 静かだが感情の籠った言葉だ。

 まだまだ教えてもらうつもりもある。これからも助けられていくのだろう。

 だからこそ、一線は簡単に越えられないと思ってきた。

 効率だけを求めるのなら頼るべきだが、そもそもそれならノノミを頼ってしまえば終わりなのだ。

 

「感謝しても……しきれない」

 

 優しく、穏やかで、少年のような笑顔だった。

 ヴェリタス部室に沈黙が静寂が訪れる。キーボードを叩く音さえ息を潜め、パソコンなどの機械音だけ流れてること数秒。真っ先に動き出したのは、やはりというかチヒロとコタマだった。

 キーボードが叩かれる音が響き始める。

 チヒロ達の動きを感じ、ヒマリはくすりと笑う。

 

「……実はこの会話、チーちゃん達も聞いているんです」

 

「え……は!?」

 

「ふふ……皆、凄いやる気ですよ?」

 

 リョウヤにはヒマリの声しか届いていなかったのだ。時折り会話とは関係ない所で笑う声を聞いていたので、他に誰かいるとは思っていたが特異現象捜査部の和泉元エイミだと思い込んでいた。

 しかし、会話が筒抜けだなんてことは想定していない。いや、聞かれていてもそれこそエイミだろうと高を括っていた。

 

「ですので、お互いを尊重して――輸送車の移動ルートと集金確認のデータだけは我々が手に入れることにしましょう」

 

 見えていないと分かりつつも、ヒマリは満面の笑みで宣言した。

 三年生に続くように一年生も二年生も行動を始めてしまっている。ヴェリタス共同作戦だ。

 尊重、とリョウヤがオウム返して呆然としてしまう。それ、俺を尊重してくれなかった場合どうなってるんだ? とは恐ろしくて聞けそうになかった。

 弟子であり弟分を苦しめる対象へ向けられている感情は、当人達にしか分からない。今までも手助けを最小限にしていたのは、それこそリョウヤの意思を尊重しているからでしかないのだ。

 

「……最初から手の平の上か」

 

 お釈迦様の手の上の悟空の気持ちが分かった気がした。

 

「おや、まさかこの超天才清楚系美少女ハッカーに作戦立案が出来ないとでも?」

 

 チーちゃん達、皆、と言ったからには聞いていたのはチヒロ一人ではないと窺える。

 思い返せば、リョウヤを盗聴していたと名指しされていたのは……ヒマリでもエイミでもなかった。

 つまりはヒマリだけでなく、ヒマリ及びヴェリタスのメンバーも説得しなくてはならない状況だったのだ。

 そして会話内容。こちらも自分たち二人以外には聞かれていないと認識している状態での発言なので、心の底からの言葉なのは明若觀火。

 褒めちぎっていたので、寧ろヴェリタスの士気を高めてしまっている。

 最早、言葉では止められないだろう。

 

(そこまで本気で詰みに来てると、一体誰が思うんだよ……)

 

 溜め息を吐くも、一周回って笑えてくる。

 集金確認書類が見たいのですか? 任せてください! 見つけましたよ! 送りました! 唯我独尊とも言えるヒマリならこうなる可能性もあった。

 自分に話を通してくれただけ温情なのだ。今回が善意の押し付けにならなかったのは、筋をしっかり通すべきだと主張したチヒロの功績だった。大体いつも、彼女がブレーキ役を担っている。

 なんにしても、リョウヤの大敗だった。

 ならばせめて、と口を開く。

 

「――ありがとう」

 

 精一杯の感謝の気持ちを師匠達へと告げ、短い挨拶の後に緑色の受話器はフックスイッチへと戻される。

 ガシャッと音を立てると、何かが軽くなった気がしたのは錯覚ではないのだろう。

 一度だけ力を抜くように息を吐いて、携帯端末に目をやる。

 リョウヤがヴェリタスと電話で話している間に、先生達から少し移動しているとモモトークで報告が入っていた。

 先ほど休憩していた公園で先生がリョウヤと合流し、近くの路地裏へと導く。

 リョウヤの姿を確認した謎の覆面集団は、休日朝に放映している戦隊シリーズを彷彿とさせるポーズをビシッと決めてみせた。

 背後で爆発演出でも起きそうである。

 

「おー……!」

 

 リョウヤは呆けながらも、両手でパチパチパチと乾いた音を鳴らす。

 揃いも揃って先日に貰った覆面を持ち歩いてることに感心しながら、携帯端末を取り出して撮影の態勢に入る。

 

「センターはヒフミなんだな」

 

 覆面ではなく一人だけ紙袋のせいで存在感が凄いことになっているヒフミに、リョウヤが意外だと言うように視線をやった。

 

「リーダーのファウストさんだよー」

 

「そんな気はしていましたが、やっぱり私がリーダーなんですか!?」

 

「リーダーです! ボスです! そして私は……覆面水着団のクリスティーナだお!」

 

「いつから覆面水着団なんて名前になったの!? そもそも水着じゃないのに!」

 

『確かにこれでは覆面制服団ですね……』

 

 撮影を待ってポーズを決め、始まったのは漫才のような、あまりに気の抜けるやりとりだった。

 これから銀行を襲おうとしているとは思えない。

 アヤネはリョウヤがいない間に纏めていた話の中で、気になったことを訪ねる。

 

『ところで先輩、覆面は持ってきていますか?』

 

「寝室に置いてある」

 

 えっ、とシロコは目を丸くする。

 他の面々も似たり寄ったりの反応だった。アヤネだけは予想していたのか「ですよね」と苦笑する。

 リョウヤからしたら、そもそも今日の目的は銀行を襲うことではないのだ。仮に襲うのだとして、普通は予定と計画を練るのだから常日頃から持ち歩く必要もない……という主張だった。

 ファウスト二号になりますか? と再びたい焼きを買って紙袋を入手することを示唆させるノノミ。小分けにしてもらったアヤネへのお土産の紙袋は小さ過ぎるし、何より中身も残っているのだ。ファウストが増えることへの期待に、ヒフミが密かに目を輝かせていた。

 リョウヤは誤魔化すように笑い、ゆるりと先生へと瞳を向ける。

 

「先生は……肯定的なんだな」

 

 意外、と軽い調子で付け足された。

 言われてみれば、と文句一つ出さなかった先生に注目が集まる。先生は、言葉を投げかけて来た生徒と真っ直ぐに目を合わせた。

 

「あの時、リョウヤくん言っていたよね。逆にどうやって、って」

 

 それは夕日に包まれた一室での、情けなさを孕んだ言葉だった。

 先生にとっては、思い出すまでもないことだ。まだ日が浅いこともあるが、それ以上に記憶に刻み付けられたように残っている。

 

「好き好んで銀行を襲撃するわけじゃないのは分かってる。皆にとっても苦肉の策だ」

 

 覆面を被って準備を終えているメンバーを見渡し、視線はリョウヤへと戻っていく。

 他校のヒフミですら、逃げる様子がない。それはリョウヤとホシノが切っ掛けとなり、シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネの人柄によって力を貸したいと本気で願ったからだ。

 力を貸したいと思ったことが、力を貸したいと思われることが、どれだけ尊いことか。

 

(例え闇銀行でも、目的が現金でなくても、それはいけないことだよって……口で言うのは簡単なのにね)

 

 対案を出せないことが、どうしようもなく情けなかった。だが、負の感情は表に出さないように努める。

 一人の大人として、子供に不安は抱かせたくはない。

 

「行動の末に発生した責任を肩代わりすることは出来ない。だから、その責任は――私も一緒に背負う」

 

 悪人に対してなら、何をやっても構わないなんてことはない。

 そして、理由がどうであれ罪には罰なのだ。

 きっと皆、理解している。その上で、それしか手段がないから決意してしまった。決意……させてしまった。

 ならばせめて、共に責任を負うことはさせて欲しい。

 強い瞳でリョウヤを見つめ、迷いのない言葉を告げる。

 何か言いたげに僅かに口を開けていたリョウヤだったが、すぐにきゅっと口を結んだ。

 

「……そういう責任の取り方を選ぶんだな」

 

 数秒置いて、囁くように声を落として言った。

 責任を取るのではなく、共に背負う。言葉だけ見ると僅かな違いだが、その意味は大きく異なる。

 だが次の瞬間、リョウヤはなるべく自然になるように口元を綻ばせた。

 

「けど、ごめん。今日はなしだ」

 

「先輩だけでやるつもり? それともホシノ先輩と?」

 

 真っ先にシロコが目を細める。

 自分たち後輩が大事にされていることは分かりきっているのだ。最も可能性が高いのは自己で完結するリョウヤ一人での実行だが、次点でホシノと二人でとも考えられた。

 

「あ、そっか。チャンスそのものは来月にもあるんだ……」

 

 返済日は毎月ある。その度に集金記録は生まれるのだ。呆気に取られていたセリカも言われて、その可能性に気がつく。

 

「先輩は……性格的にもやるのなら来月ですよね」

 

『策を立て、堅実に……なタイプですからね』

 

 ノノミとアヤネもシロコに同意見な様子だった。

 黙っていたヒフミもきっちりした契約書の存在から、なんとなく「そうなんだろうな」と思う。学校の違う自分では、リョウヤへの理解度はアビドスの者とは比べ物にならないだろう。しかしホシノと二人でブラックマーケットを訪れた際に聞いていた話や、実際に見て聞いた印象から確信に近いものがある。

 話題の人物は少し困ったように頬を掻いていて、仕方ないなぁとホシノが助け舟を出した。

 

「単純にさっきのメッセージじゃないのー?」

 

 あっ、リョウヤとホシノ以外の一同が声を揃える。ポージングと以降の真面目な会話で、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

 

「ああ、集金記録を調べてくれるって」

 

 丸くした目の集中砲火にあったリョウヤは、悪戯の成功した子供のように戯ける。

 ホシノ達にとって、あまりにタイミングの良い助っ人は正直に言って怪しさに溢れていた。

 しかしそれは、銀行襲撃が予期されている可能性があるということでもある。

 日を改めることに不満はない。

 先述の通り、集金記録を確認するチャンスは今日だけではないからだ。

 名も知らない人が力を貸してくれるというのは……他ならぬリョウヤが言うのならと一定の理解を示しつつも、やはり詳しく説明はしてほしいとも思う。

 ならば、とすっぱりとブラックマーケットを後にしようと話が纏まった。

 

「――ヒフミも来てくれ。トリニティ風に言うなら、お茶会にしよう」

 

 リョウヤが笑い掛ける。

 最後、目的は変わってしまったが、治安の悪いブラックマーケットは余裕を持って離脱しておきたい。

 

「えっ、いいんですか?」

 

「今日はお世話になったしねぇ」

 

 嬉しそうに顔を綻ばせたヒフミに、ホシノは当然とばかりに即答し、他の面々もコクコクと頷く。

 軽い足取りで一同は踵を返した。




4-3でのハッピーアンバースデーや今話ラストのお茶会という単語はPandoraHeartsという漫画で個人的に印象に残っているものでした。
私は当時店頭で表紙と帯を見て衝動的に買いました。まだ二巻までしか発売していない頃の話です。
こちらも素晴らしい漫画ですので、調べてみて興味があれば是非読んでみてほしい作品です。
……機工魔術士を読み直し、その後PandoraHeartsも読んでしまったが故のダイマでした。

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