星屑の夢   作:ハレルヤ

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二話同時プラスあとがきの投稿、その二話目となります。


Ep-1.リンケージ

 先日、シャーレに訪れた対策委員会の六人が、先生へと揃って頭を下げた。

 実はずっと疑っていたと三年生の二人とセリカが。そのことを知っていて黙っていたと二年生の二人とアヤネが。

 先生としては怒りの気持ちはなく、すんなりと胸に落ちた。

 アコにも言われて自覚したが、シャーレは少々怪しすぎる。

 寧ろリョウヤとホシノを知れば知るほど、警戒してないとおかしくない? と思っていたので、逆に解釈一致ですらあった。

 それから数日。

 空は青く、日の光は白く。今朝降った小雨に濡れて、木々がキラキラと輝いている光景に「良い一日になりそうだ!」と先生が感じ取った日の午後。明るい日差しの中、シャーレに一人で現れたのはリョウヤだった。

 同居していたこともあってか、僅か数日ぶりでも随分と懐かしさを感じてしまう。

 白衣を纏うリョウヤは、シャーレにもよく馴染んでいて違和感がない。

 

「書類の山だ……」

 

「いや本当に! まさかここまで溜まっているとはね!」

 

 アビドスで先生は葛葉邸を拠点としていたのだ。取り寄せて仕事をするのにも、どうしても限界があったのだろう。

 溜まりに溜まった書類に阿鼻叫喚となっている先生に、リョウヤは同情と申し訳なさから苦笑した。

 

「まぁうん……俺に出来ることなら手伝うよ、今日はフリーだし」

 

「デジマ!?」

 

 ひーん! と泣きそうになっていた先生だったが、乾いた笑いを浮かべるリョウヤの提案に勢いよく反応する。

 二人はデスクを挟んでいるが、お互いの顔が見えない程に紙が積まれているので、表情を確認することすら叶わない。

 

「迷惑かけちゃったしな」

 

「え、何が?」

 

 リョウヤはアビドスとカイザーコーポレーションのことを差していたのだが、先生は本当に分かっていないらしい。気にしていないことがよく分かって「まったく、この人は……」と呆れながらも、それでもやはり納得してしまう。先生にとって、生徒に手を貸すのは当然だったのだろう。

 不思議そうに首を傾げる先生の近くに寄って、リョウヤは片手に持てる細長い箱を差し出した。

 一目で分かる長方形のネックレスケースだ。

 

「え? 私?」

 

 リョウヤは先生へ首を縦に振って答えると、少し強引に押しつける。

 戸惑いながらも受け取った先生は促される形でケースを開けて、わぁ! と感嘆の声を漏らした。

 

「えっと……私が貰っちゃっていいの?」

 

「貰ってくれ」

 

 遠慮がちな先生に、リョウヤはハッキリと強い言葉を贈る。

 

「先生には本当に感謝してるんだ。自己満足させて欲しい」

 

 先生は呆気に取られた。

 自己満足という単語には覚えがあったのだ。

 自分の行動は自己満足だから悪いこと。そんな自己嫌悪をリョウヤは抱えていて、先生はそんな生徒に自分なりの言葉を授けていた。

 

「そっか……どうもありがとう、リョウヤくん」

 

「こちらこそ、ありがとう……先生」

 

 授けられた言葉を受け入れ、自分で解釈して飲み込んだリョウヤへ、先生はくしゃっとした笑顔でお礼を言う。

 リョウヤもまた、よく似た笑顔だった。

 

「……先生の指のサイズは測ってないけど、平均サイズの指輪と首紐。指輪は銀製で中身は機械になってる」

 

 指輪の話題が出た時、先生は誘いを断っている。

 リョウヤは、先生の指のサイズを測ることが出来ていなかった。少なくとも先生が左手の薬指に嵌めることは、それこそ婚姻の際だろうことも分かる。

 少し考えた結果、首から下げる形にすれば良いと閃いたのだ。

 

「アビドスの校章だぁ……! え、待って、これ彫られた校章に嵌めてるの宝石なのでは」

 

「そこは皆それぞれの誕生石。誕生日なら先生のも聞いてあったし、都合が良かった」

 

「……高かったんじゃあ?」

 

「立場的に安く手に入るし、そんなんでもないよ」

 

 壊れ物を扱うように丁寧にケースから指輪を取り出すと、先生は「ほぁー……!」と口をぽかんとさせながら眺め始める。

 

「彫金は専門じゃないけど、白のシールド……端的に言うと魔除けの魔力付加(エンチャント)もしてある。銀は元から魔除けの効果のあるものだから、そこそこちゃんと出来たと思う」

 

 先生の反応をリョウヤは嬉しそうに見つめながら、魔具でもある指輪の説明をしていく。

 

「先生の指輪は心で念じると救難信号を飛ばすようにしてあって、エネルギーは充電器にもなるケースと光源……後者は毎日コツコツ貯めて予備電源になるようにしてある」

 

「ケース? あっ、これか!」

 

 側面に爪を引っ掛けられる部位を見つけた先生が爪を挟んで持ち上げると、コードを挿すのであろうポートが姿を表す。

 長辺となる裏側の側面も似たようなもので、多くのポートが仕込まれていた。

 

「先生、変わったガジェットとか好きそうだったから……」

 

「こういうのは大好きさ! つまりケースであり、指輪の充電機器であり、周辺機器をパソコンと繋げる魔具ってことだよね?」

 

 あくまで予測だったリョウヤが少し不安げに尋ねると、先生はパッと興奮したように笑顔を咲かせた。

 そうそう、とリョウヤがコクコクと頷く。

 

「はぇー……あっ、じゃあ、皆で指輪つけあってから来たのかー……ああああ! それ見たかったぁ!」

 

 リョウヤの左手薬指で輝く銀を視界に入れ、既に本性を隠さない先生は書類を崩さない絶妙な力加減でデスクに突っ伏した。

 

「完成したからって自分だけ付けておいたら、めちゃくちゃに顰蹙買ったよ」

 

「当たり前でしょう……!」

 

 リョウヤが肩を竦めると、先生は「何やってるの、この子」と楽しそうに笑うのだった。

 ――あの戦いの後。

 対策委員会は先生の公的な認証によって、アビドス高等学校の正式な委員会として認知された。

 今の対策委員会は、正式に生徒会としての役割を担っている。

 尤も、生徒会長は決まっていない。

 順当にいけば当時から副会長であるホシノなのだが、本人は断固として拒否を貫いたのだ。

 書記であったリョウヤもまた、向いていないからと辞退している。

 柴関ラーメンは一先ず屋台での営業を再開した。

 セリカもバイトとして復帰したのだが、柴大将が「店が建て直されたら、屋台をセリカちゃんに譲るのも……」と意味深に溢していたのを、対策委員会の何人かは聞いていたりする。

 ……繁盛しているようで何よりだ。

 アビドスの借金は、取引が公式のものだったのでやはり減ることはなかった。

 カイザーローンはブラックマーケットでの不法なやりとりが発覚し、連邦生徒会の捜査が入ることになる。

 ホシノは「ヒフミちゃんのおかげかな~?」と呟いていた。

 カイザーコーポレーションの理事は、諸々の罪で指名手配となっている。

 どうやら黒服からも、罪を被せられていたらしい。

 理事に関してはリョウヤが「俺がちゃんと拘束しておけば……!」と心底から頭を抱えていたのは、対策委員会の皆にとっても印象に残っていた。

 とは言え、利子は以前よりも遥かに少なくなってくれた。

 

「――リョウヤさー、流石に一人で指輪付けてくるのはひどいと思うよ~?」

 

 リョウヤが一人シャーレを訪れた同日、午前。

 見てくれ、完成した! リョウヤはそう言って、左手の薬指を掲げ、アビドス高等学校のいつもの一室に飛び込んだのだ。

 フリーズした空気に疑問を覚えたリョウヤにホシノは呆れ、けれど「そういう所がらしいよねぇ」と微笑んだ。

 

「ん、やっぱり自己完結人間」

 

 シロコもまた恒例となる評価を下すも、口元は楽しげに笑みを作っていた。

 

「本当に仕方ないなぁ、リョウヤ先輩は」

 

 セリカが優しく笑うと、ノノミとアヤネも首を縦に振る。

 誤魔化すように咳払いをしたリョウヤが改めて口を開いた。

 

「魔具には型式番号を振るんだが、今回はかなり特別だからLR……リンケージリングと名付けた。敢えて言うならEXLRの初期バージョン、かな」

 

 特殊ではなく特別、型式番号のEXと、リョウヤが言ったことで部屋の空気が更に柔らかさを増す。

 リンケージ。

 連鎖。結合。つながり。そんな意味を持つ単語だ。

 エンゲージともかけているのだろうことは、誰の目にも明らかだった。

 

「これがアヤネ。次がセリカ。シロコ。ノノミ。ホシノ」

 

 熱を持った声で名を呼んで、テーブルに規則正しく高級感の漂うリングケースをことり、ことり、と丁寧に並べていく。

 受け取ってくれ、とリョウヤが告げると、各々がゆっくり噛み締めるようにその小さな箱を手に取った。

 開くと、感動の声が木霊する。瞳は銀が反射しているかのように、キラキラと輝いていた。

 シルバーリングにアビドスの校章を彫り込み、誕生石を薄く削ってガラス代わりに蓋とするデザインの指輪だ。

 数時間後に先生にするように機能の説明をするが、違う点もある。

 

「言われた通り、常にお互いの場所が把握できるようにしてあるが……」

 

 その一つが、発信機の役割を持つことだ。

 そもそもが誘拐対策にするための魔具なので必要不可欠な機能なのだが、予め常時発信機として機能していて良いと注文がされていたのだ。

 本当に良いのか? そんな疑問がリョウヤに渦巻いていた。

 

「だって別に困らないからねぇ」

 

「提案したのは私達ですから☆」

 

「ん、嫌なら断ってる」

 

「常に分かってる方が安心できるもんね」

 

「――というわけです、先輩」

 

 ホシノ、ノノミ、シロコ、セリカがあっけらかんと言い放ち、アヤネが上手に纏める。

 誰一人として不満のないことが分かる明るい表情だ。

 臆病で寂しがり屋な誰かさんを想って決めたことだった。

 

「今はまだ、先輩の家のパソコンルームだけなんですよね?」

 

「オペレート室が直ったら、そこでもとは考えてるよ。後は……各自のスマホかな。魔具にしちゃえば、セキュリティはヴェリタスお墨付きになる」

 

 ノノミとリョウヤが話している間に、シロコはこっそりとホシノへ耳打ちする。

 すると今度はホシノがリングケースを撫でながら、アヤネへと何かを伝えるように視線を流した。察したアヤネは頷いて、眼鏡を軽く押し上げる。

 ややあって、アビドス高等学校での一日が始まった。

 

「それでは定例会議を始めます!」

 

「今日は、まずリョウヤから指輪を嵌めてもらうところから始めるよ~」

 

 指に嵌めるだけならまだしも、気の利いた言葉は一つも紡げなかったことは言うまでもない。




次回、あとがきとなります。

合計30話となりました。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。

一度ステータスを完結にします。
あとがきにも書きますが、本作は過去に完成していた文章を編集や加筆していたので週一投稿ができていました。
それでも誤字はなくならないので、誤字報告には本当に助けられました。
また読んでくれた方々の反応があったので、どうにかキリの良いところまで来られたのだと思います。
ありがとうございました。
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