星屑の夢   作:ハレルヤ

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レトロチック・ロマン、プロローグとなります。
楽しんで頂けると嬉しいです。


enchant.2
Pr-2.▶︎GAME START


「依頼に関してのお話は、ここまでにしておきましょう」

 

「契約書に関してはまた後で」

 

 ミレニアムサイエンススクールの部室棟。机と椅子の並ぶ、どこにでもあるような教室でありながら、凡ゆる盗聴盗撮対策の施された一室で頷き合ったのは二人。話が纏まったことで、元より決して固くはなかった空気が更に弛緩していく。

 窓から青空が顔を覗かせる中、一人は椅子に腰を下ろし、一人は車椅子に収まっていた。

 

「話は変わりますが、魔力のバーストで肉体に負担が掛かりすぎた理由は判明したのですか?」

 

「オーバーフローした魔力が、工房でなら綺麗に体外に溶けていくみたいだ。逆に工房以外では効率的に体内から排出されない」

 

 心配そうに発せられた問いに頷いたリョウヤが、あくまで冷静に告げる。それは、シリンジガンで体内に魔力を摂取した際に倒れる程の体調となった理由の分析だった。

 ふむ? と可愛らしく顎に人差し指をやったのは質問主のヒマリだ。

 

「濃度、でしょうか」

 

「間違いなく」

 

 魔力や魂。機工魔術士(エンチャンター)と、その工房等。キヴォトスでは知り得ない情報を、リョウヤはヒマリに対しては説明をしている。だとしても、僅かな情報から正解と思われるものに瞬時に辿り着ける人間が一体どれだけいるだろうか。自身と同じ結論を出した師に、今となっては驚きもない。

 周囲が魔力に満ちている工房では、体内から溢れんばかりの魔力が効率的に外の魔力へと溶けていくという話だ。

 反対に工房以外。周囲に魔力の満ちていない場所では、体内から魔力が抜けていかない。

 結果、許容量を遥かに超えていた魔力が肉体へ留まり続けて負担を掛けた。

 

「……あの時は運が良かっただけだった」

 

 倒れたのが、カイザーPMC理事との戦いの後だったから良かった。他の兵士を仲間達が倒してくれていたから良かった。そんなものは、最終的に上手くいったから言えるだけなのだ。

 もし仮にゲヘナ風紀委員会の力を借りられていなければ。もし仮にヒフミとトリニティの力を借りられなければ。もし仮に便利屋68の力を借りられなければ。もし仮に先生の力を借りられなければ。他にも多くの力を借りて、完封にも近しい形で終わることが出来ていたが、一つ欠けていればどうなっていたかは分からない。

 リョウヤが額に手を当てて、深い溜め息を伴いながら反省を落とす。

 

「しかし検証はしていたでしょう? その検証も切り札として運用するのなら、人目につく場所では出来ないことです」

 

 対して、ヒマリは労いの微笑みを浮かべた。リョウヤが検証を工房で行ったのは自然なことだと考えていたからだ。寧ろ、秘匿性を重要視するのなら他の場所では出来ないだろう。

 

「別の手段で魔力を増やしてもなんとかなる、というのも結果論ですしね。それに……作ったモノを、実地で使用感を確かめたいと言うのは自然なことです。それで、どうでした? 使ってみた感想は」

 

 ヒマリが話題を変えてくれたことは明白であり、優しさを感じ取りながらリョウヤは思考を回すように天井へと視線をやった。

 

「実際、思っていた程の利便性はなかった。いや、使い所は考えないといけないって言うのが正しいか」

 

「やはり工程の多さが?」

 

「流石」

 

 錠剤による魔力のブーストは即効性が低い。故に即効性を求めたモノが注射による接種だ。

 一に工房から取り出す。

 ニに針を当てる。

 三に引き金を引く。

 即効性と言いつつも、実際には三つの(トリプル)アクションにより漸く魔力はブーストされる。取り出して、口に含んで、飲み込む……動作数は錠剤型と変わらない。

 勿論、錠剤型よりも魔力の増強は圧倒的に早い。だが、一秒ですら重要な戦闘時では明らかな隙だった。

 

「改良するまでは、外での使用は控えた方が良いでしょうね」

 

 ああでも、とヒマリは真剣な声色をわざとらしく区切る。

 

「普通に生活していたのなら、リョウヤは風邪なんか引かないでしょう?」

 

「はい……? まぁ、そうだな。体調管理はしてるつもりだよ。知っての通り医者だし」

 

 要領を得られずにリョウヤが不思議そうにすると、ヒマリは一転して悪戯っぽく笑んだ。

 

「意図的に強い風邪の症状を起こせるのです。皆に看病してもらえるじゃないですか」

 

「そんなことしませんケド!?」

 

「ヒマリお姉ちゃんもしてあげますよ?」

 

「しないと言うに……」

 

 ヒマリやヴェリタスもまた、あの日のカイザー社と出来事を観測している。

 あんな姿のリョウヤは見たことがなかった。

 肉体と精神の繋がりは強い。だからこそ、それまでは精神面が落ち込んでいても肉体の健康さでカバーして来た。

 肉体面と精神面が弱ったからこその本音だったのだろう。

 それを曝け出した相手がアビドスの子達なのは、リョウヤにとって良いことだったとヒマリも理解している。

 しているが、それはそれとして師であり姉である自分には? と頬を膨らませてしまったのも事実なのだ。

 

「リョーくんは照れ屋ですねぇ」

 

 ここぞとばかりに姉アピールに走り、くすくすと上品に笑うヒマリ。

 リョウヤは強く出られないようで、乾いた笑いを溢している。どうしようもなく面倒をかけた自覚はあった。世話を焼かれたことも理解していたのだ。

 そんな弟の反応に満足したのか、若しくは揶揄い続けるつもりがないのか、ヒマリは思い出したように一つの提案を出した。

 

「ブースト用の魔具、良ければ一つ貰っても?」

 

 伸ばされた傷一つない手の平に、リョウヤは逡巡する。

 

「扱いには気を付けてくれ」

 

「勿論です」

 

 結果、シリンジガンと錠剤を工房から取り出す。

 目の前の相手であれば「大丈夫だろう」と思いつつも忠告と共に手渡された二つの魔具を受け取ると、ヒマリは掛けていたブランケットで包み込んで膝に乗せた。

 咄嗟にリョウヤがブランケットを工房から出したのを見て、ヒマリは「あら」と笑みを深めてしまう。

 すっと軽く猫背となって受け入れ態勢をとったヒマリの肩に、ブランケットがふわりと舞い降りる。

 ヒマリは仮にも病弱と申告している。既に暖かい気候となっていても、ブランケットを取り上げることになるのを医者として無視できなかった。

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

「一番弟子が掛かり付け医というのも良いですねぇ」

 

「弟だったり、弟子だったり、掛かり付け医だったり……忙しいな」

 

「全て両立しますから」

 

 ニコリと笑んだヒマリに、リョウヤは「医者と言えば」と閃いたように話題を上げる。逃げたとも言う。

 新たな議題はレセプターについてだ。

 ヒマリにはカイザーコーポレーションとの一件の一部始終を説明している。

 レセプターという能力に関してもだ。話を聞くと、ヒマリは楽しげだった瞳に真剣な色を宿す。

 

「レセプターは……本来ならば生物学用語ですね」

 

 レセプターとは細胞外からやってくる様々なシグナル分子を選択的に受容するタンパク質のことで、受容体や受容器とも言われているものだ。

 当然のようにヒマリにとっても既知の単語である。概要をつらつらと確認するように呟いて最後に「ですね?」と自信に満ちながらも確認すると、リョウヤが小さく頷いた。

 

「私よりリョウヤの方がよっぽど専門な気はしますが、能力や体質となると……」

 

 むむむ、と唸るヒマリをリョウヤは黙って見守る。

 

「少なくともキヴォトスでは、そのような話は聞いたことがありません」

 

「魂をレセプションしていた……らしい」

 

「文字通り受け入れていたわけですね。体に何か異常はありましたか?」

 

 ヒマリは分かっていても、微かに心配の色を滲ませていた。

 いや、とリョウヤは首を横に振る。

 

「そもそもフルカネルリの魂をレセプションしたのも、既に二年以上前になるわけだし」

 

 その間、何か変わったわけではない。自覚症状がなかったので、魂をレセプションと言っても当人は気が付きもしなかったのだ。

 フルカネルリは魂や力、魔力の大半をユウカナリアによって取り出し保存されている。リョウヤの中に居た彼は、本当に残滓であったのだろう。

 だからこそリョウヤへの干渉が出来なかった。最期に先生の夢へと姿を現したのは、その残滓を燃やし尽くすことでエネルギーを捻出したのだ……と言うのは先生がフルカネルリから聞いていた話である。

 アビドスとカイザー社との問題が落ち着いてから、先生はリョウヤへとフルカネルリから聞かされた詳細を共有していた。

 

「レセプションされた魂が、俺から何か力を奪うのは難しいのかもしれない」

 

 リョウヤが窓の外の青空へと視線を流し、フルカネルリへと想いを馳せる。

 彼の人柄であれば、好んで他人の力を奪うことはしないだろうという確信。

 だが孤独に苛まれていたリョウヤというケースであれば、話をする為に……孤独を和らげる為に最低限の力を奪うというのは選択肢に入る筈である。それを選ばなかったというのが答えなのだ。

 

「よくある取り憑いた、とは違うわけですよね? 映画等ではよく見るシチュエーションですが……」

 

 リョウヤの感情が揺れたことに気が付いたヒマリが問い掛ける。

 特異現象捜査部らしく、その手の映画はチェックしているようだ。

 しかしそれでも、幽霊や悪魔といったオカルトに関する事実を知っているわけではない。そこがヒマリとリョウヤの明確な差だった。

 

「んー……本来なら一つの肉体に二つの魂が入るのには条件があるんだ。条件が合わないと取り憑けないし……仮に無理矢理取り憑いたとしても、条件を無視していると魂は二つとも壊れてしまうから――」

 

「普通は取り憑かない」

 

 言葉を引き継いだヒマリの声は、リスクを知ったことで硬さが宿る。リョウヤは安心させるような表情を作ると、大きく首を縦に振った。

 

「魂を分けて入れる為の装置っていうのは見たことがある。死に掛けた悪魔の魂が、たまたま近くにいた機工魔術士(エンチャンター)の肉体に入り込んだことがあったんだ」

 

「なるほど、その装置を用いて二人の魂を救ったと……とんでもない技術者もいたものですね。それとも、そちらでは普通だったのでしょうか?」

 

「まさか。そんなモノが作れる機工魔術士(エンチャンター)は限られるよ」

 

 器としての役割だけでなく、意識や人格を工学的に繋げるというモノだ。大概なモノだった。技術的にも勿論、倫理観的にも。

 倫理観というのは元の肉体の持ち主ではなく、後から入り込んだ者に肉体の主導権を渡すというものだったからだ。

 装置の作成、取り付けに関わった大人達は――既に肉体を失った悪魔の娘に、期間を定めて生きることを許した。

 肉体の持ち主である少女・メルクーリオからしたらボランティアだが、問題はそのメルクーリオとはなんの交渉もなかった点。あくまで外野が勝手に決めたことだった。

 装置を手術で肉体に取り付けたパラケルススは「延命を望むのなら、誰であっても救う努力をする」というスタンスだ。死を目前にした悪魔の望みを叶えるのは信念、或いは在り方や生き方の指針の話でしかないし、そもそも放置すれば二人とも死ぬのだから命を優先するのならば当然取り付けるだろう。

 リョウヤも何も言わなかった側の人間だが、今となっては思う所があり、感心するヒマリの言葉には曖昧に頷く。

 

(あの男……カリオストロは何を思って装置を作ったんだか)

 

 伊達男のような風貌のイタリア人、アレサンドロ・ディ・カリオストロ。その男が、意識と人格を繋げる魂の器を作り上げたのだ。

 カリオストロはパラケルスス、フルカネルリと並ぶ機工魔術士(エンチャンター)であり、現代においてはこの三人こそが機工魔術士(エンチャンター)の頂点だった。

 パラケルススやフルカネルリとは違い、リョウヤはカリオストロと然程の関わりを持っていない。

 とある魔具に触れて尚、無事だったリョウヤに興味を持ったカリオストロから接触されたことがあるだけだ。一つ二つ言葉を交わしたのみで、本当に浅い関係だった。

 それでも、なんとなく分かる。

 彼は善意から、メルクーリオと名も知らぬ悪魔を救ったわけではない。

 

(いや、慈善活動の動機が必ずしも善意でなくてはならないなんてことはないし……そもそもどの口がって話か)

 

 しかしやはり、表の人格を本来の肉体の持ち主にしなかったのは理解できそうにない。どうしても何かしらの人体実験にしか思えなかった。が結局、当時なにも意見しなかった自分には非難する資格もない。自己嫌悪をそっと飲み込むと同時に、ヒマリが現状での結論を下した。

 

「レセプター能力は、そう言った外部ユニットが必要ない……ですかね」

 

「まぁ……そうだよな」

 

 レセプションしたことで力が増すわけでもなければ、害があるわけでもない。

 今の段階で分かるのは、そこまでだった。

 

「単純な疑問なのですが、レセプションされるものは……或いは出来るのは魂に限定されるのでしょうか?」

 

 不意にリョウヤの手を取ったヒマリは、何かを確かめるように意味深に聞こえる言葉を教室内に響かせる。

 二人が密談を交わした教室に夕日が差す頃、教室内はもぬけの殻になっていた。

 同じ夕日でオレンジ色が差し込む葛葉邸リビング。そのダイニングテーブルに、ミレニアムから帰還したリョウヤはビニール袋を無造作に置いた。

 袋の中の小箱に目敏く反応したのはシロコである。

 

「ん……これ、ピアスあけるやつ?」

 

「人工知能の育成を始めてな。一先ずはコンタクトレンズ通して風景を見せていて、音はスマホで拾ってるんだ……けど」

 

 AWSSの機械音声の正体でもある。起動時のボイスなどはシステム音声でしかないのだが、今後は経験を積ませて自分達のサポートを任せたいと考えていた。

 

「集音機能のあるピアスを作るということですね☆」

 

「え、それってわざわざピアスの必要あるの?」

 

「可能な限り、人間に近い位置にしたいんだ。見るのも、聞くのも」

 

 一度切られた言葉でノノミが察し、セリカが不思議そうに小箱を眺める。リョウヤは右手で耳に触れ、左手で目を指差した。

 景色は瞳の、音は耳の、それぞれ存在する位置から認知させたいのだ。

 

「――はいはい、もうごはんだから一回どけてねー」

 

「今夜は唐揚げですよー」

 

 キッチンからホシノとアヤネが声を掛けると「はーい」と四人が動き始める。

 いただきます。ごちそうさま。感謝の言葉で食事が始まり、終わる。漂っていた香りだけでも美味だった夕食は、終始和やかな雰囲気に包まれていた。

 改めてローテーブルに置いたピアッサーの小箱を眺めると、ソファーに座るリョウヤは小さく嘆息する。

 

「なんだか……嫌そう?」

 

「痛いだろ」

 

「すっごい普通なこと言った!?」

 

 シロコが小首を傾げ、リョウヤが憂鬱そうに白状すると、セリカは目を見開いて声を上げた。

 

「あれ? でも魔力のブースト? は注射器もあるんですよね?」

 

 首を傾げながらも、ノノミが二つのテーブルに人数分のプリンを並べていく。リョウヤが作り置きしていた一品だ。ゲヘナでのプリン作りの一件もあってか、技量を上げる為だったり種類を増やしたりする為に、プリンを作る機会が増えていたりするのだ。

 リョウヤは億劫そうに答えを口にする。

 

「あるけど、俺だって好き好んでは注射はしたくはないよ」

 

「耐えられる、我慢できることと、好き嫌いは別の話だよねぇ」

 

「まぁその、言ってしまえばピアスホールは傷ですからね……」

 

 ホシノが「あーむっ」とプリンの揺れるスプーンを口に含むと、その甘美さに気の抜けた表情を作った。アヤネは苦笑を隠さずにホシノへと同意を示し、同じようにプリンに舌鼓を打つ。

 疑問を口にしたノノミと、ノノミと同じ感想を抱いたセリカが「言われてみれば」と得心する。

 ここでシロコ、閃いたと口を開く。

 

「つまり、リョウヤ先輩をキズモノにする機会が来たということ」

 

「言い方ァ!」

 

「怪我云々の話なら、とうの昔からキズモノだけどな」

 

「あ、そっか。お腹にも傷痕残ってるよね」

 

 セリカ渾身の良く通るツッコミを聞きながら、リョウヤがあっけらかんと告げてコーヒーへと手を伸ばす。

 セリカからのツッコミで「一仕事終えた」とでも言うような楽しそうな顔だったシロコは、転じて納得を表情に浮かべ、リョウヤのお臍辺りを手の平でポンポンと軽く叩いた。

 リョウヤの腹部には刺し傷の痕跡が残っている。パラケルススをして、消しきれなかったものである。

 現在三年生と二年生の四人は、学校のプールを使っている。去年のお話だ。季節的には夏の終わりだったが、まだ暑い日の続く時期に修復が辛うじて間に合ったのである。リョウヤの上半身を見る機会があったので、すんなりとした反応だ。

 反対にアヤネとセリカは初めて知った情報だった。驚いている二人に「故郷にいた頃にちょっとな」とリョウヤは告げると、コーヒーを置いて携帯端末を取り出す。

 

「左右でピアスの意味が変わるんだったか?」

 

「ん、守ってくれる存在がいる象徴が右。左が守るべき存在がいる象徴」

 

「ですけど、今では両耳に着けている人も多いと思います」

 

 携帯端末を手に取ったのは検索をする為だったが、それよりも早く回答は得られた。

 ピアスをつけているだけありシロコがすんなりと答え、アヤネもまた知っていたからである。

 

「今後もピアス型のモノを作るなら両耳かな」

 

 そう言っている間に食後のデザートタイムが終わり、リョウヤがお風呂場へ向かうと、ノノミが部屋の隅の小箱を手に取ってローテーブルに下ろした。

 手際良くテーブルに並べていくのは、ステンレス製のバットやピンセット。そしてガーゼや消毒液だ。

 自分で出来るとリョウヤは言ったものの、結局はノノミが担当することとなったのである。何せノノミは、普段から医者としてのリョウヤを手伝うことが多い。……と言っても健康診断や、セリカがカタカタヘルメット団に誘拐された際の塗り薬による治療等の軽い程度のものだが、誰の影響か医学について学んでいるのも事実だった。

 お風呂から戻ったリョウヤは硬い表情で、真面目な顔のノノミと向き合う。

 他の面々の視線が集まる中、パチン! と小さいけれども軽快な音が三度響く。

 右耳に一つ、左耳に二つのピアスホールは呆気なく開けられた。

 おー! とホシノが興味深げに溢し、ピアスという共通点にシロコは満足顔を隠さず、アヤネは穴の開けられる一瞬だけ目を逸らし、セリカは「当たり前だけど、本当に簡単にピアスホールって出来るのね」と感心している。

 

「……ピアスの魔具を作るってことは、買いには行かない?」

 

 空気が落ち着くと、シロコは僅かに寂しさを馴染ませた瞳で「あー、痛かった」なんて溢していたリョウヤを見つめる。返答は特に何を意識するでもなく「そうだな……」という肯定だった。

 微かにしゅんとなってしまったシロコは、ピアスをつけている。対策委員会では唯一だ。けれどピアスをつける人が増えれば、一緒に買い物などを楽しむことが出来るだろう。

 ホシノは容赦なくジトッとした視線をリョウヤへぶつけ、ノノミは自分も開けてみようかと耳に触れ始める。アヤネとセリカも「やっちゃったよ、この人」とでも言うようである。

 漸く当人も気が付いた。

 

「あっ、いや……買って、それを改造するのも有りか」

 

 何処か慌てた様子や滲ませて、リョウヤが言の葉を紡ぐ。

 指輪(リング)型魔具のリンケージリングは銀を仕入れて、一から作り上げたモノだったので、自然と全てを手作りにすると思考が固まってしまっていた。

 

「そ、そんなに気を遣ってくれなくても大丈夫」

 

 少しだけ焦りを見せたのはシロコだ。リョウヤの無意識な返答から、買うつもりがないことが明白だったからである。

 子供ではないのだから、と遠慮がちになるのも無理はない。

 

「気を遣う遣わないじゃなく、実際に楽ではあるんだよ」

 

「買った方が時間や手間というコストは少なく済みますよね」

 

 本音と共に笑い掛けたリョウヤへアヤネがフォローを入れると、ノノミも便乗していく。

 

「作れると言っても、市販品を軽んじているわけではないですしね☆」

 

「買って手に入る製品は基本的にプロの作ったモノだからな……例外も勿論あるけれど」

 

「あ、そっか……そうだよね」

 

 リョウヤの意見を聞き、セリカも納得したように頷いた。仮に全て機械で済ませた商品でも、多くの専門家……プロが関わっているだろう。

 粗悪品を扱う悪徳業者もいる世の中なので言葉通り例外があるので、買い手もきちんと買うものは吟味する必要もある。

 目安となるのがブランド等だろう。

 何でもかんでも作れば良い、と考えているわけではないのだ。

 

「うへへ……じゃあ折角だし、皆で買い物行こうか~」

 

「使えるお金も増えたし、服とか買いたいかも……」

 

「どうせならドライブがてらどうだ? 車も直し終わったし」

 

「場所はミレニアムでどうでしょう?」

 

「日帰り旅行ですね……!」

 

 ホシノの笑顔で出した提案に、反対意見は一つも出てこない。セリカ、リョウヤ、ノノミ、アヤネと、小気味良く話が纏まっていく。

 咲いた花のような笑顔を、シロコは浮かべたのだった。




一つ、ご報告を。
私は書き溜めた文章を再編集して投稿していた、ということを後書きで書いたことがあります。
アビドスでのお話は、それ故に週一投稿になっていました。
レトロチック・ロマンも終わりまで書き溜められているのですが……原文を読み直して、編集や加筆という作業をしての投稿が「自分のスタイルにあっている」と今までの経験から感じました。
なので投稿は七日から十日置きになります。
以前は週一だったのに三日伸びる可能性があるのは、最近忙しいリアルの都合です。本当に申し訳ない。

本作への反応、いつも励みになっています。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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