星屑の夢   作:ハレルヤ

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6-4. バイブル求めてgo together!②

 鳴りを潜めた声量で会話をしながら明かりに向かって歩いて行くと、そこに堂々と存在していたのは不自然に電源の入ったコンピューターだった。

 一同が近付いてみると、ピピッと電子音が小気味良く響く。

 次の瞬間、モニターには「Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください」と表示された。

 物は試しにと言うモモイに、待ったを掛けたのはミドリ。待っていたと言わんばかりに起動したシステムを怪しむのは当然だった。

 

「リョウヤくん、どう?」

 

『んー……これはネットに接続されてないな。こちらから干渉が出来そうにない。……そもそも何処から電力の供給してるんだ? これは』

 

 ミドリ同様に警戒心のある先生が伺うと、キーボードを叩く音と共に言葉が発せられた。物に当たり散らかす性格ではないのでキーボードの打鍵音は軽快なものだが、声音には煩わしさが滲んでいる。

 場所が廃墟である以上、電気が繋がっていない方が自然なのだ。にも関わらず、モニターは煌々としている。前述の通り、あまりにも不自然だ。

 最中、アリスはマイペースに辺りを物色していた。ふと目に留まった物に手を伸ばす。

 

「キーボードを発見……G.Bibleと入力してみます」

 

 特に思考なく有言実行しようとしてしまうアリス。あまりに自然過ぎて、周囲が止める暇がない。

 案の定。画面いっぱいに表示されて行くのは意味の分からない文字列。

 

「壊れた!? アリス、なんて入力したの!?」

 

「い、いえ、まだエンターは押していないはずですが……」

 

 あなたはAL-1Sですか? 最後に、モニターにはそんな一文が表示された。

 アリスへ詰め寄っていたモモイと、姉を「どうどう」と諌めていたミドリが肩を震わせた。特に焦った様子もなくアリスがぼんやりとしている横で、先生も目を開いてしまう。

 

「いえ、アリスはアリスで……」

 

「待って! 何かがおかしい。アリスちゃん、今は何も入力しない方が……」

 

 素直なアリスへ行われたミドリの忠告を嘲笑うように、モニターに文字が走る。

 

[音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]

 

 音声認識!? と姉妹と先生が驚愕し、そこへユズがおずおずと口を挟む。

 

「えっと……AL-1Sっていうのは、アリスちゃんのことなの?」

 

「あ、ごめん。ユズちゃんとリョウヤさんには言ってなかったかも」

 

(型式番号、か? ウタハの言葉が、本当に信憑性を帯びて来たな……)

 

 ミドリの肯定に、ユズと共に納得の言葉を返しながらもリョウヤの考察は進んでいく。

 

(人間そっくりの機体を作れるとして、俺なら……俺でも味覚を楽しめる機能はつける。文化は大事だから)

 

 文化を忘れると心が荒む、という個人的な考えはともかくとして。

 人が人を科学の力だけで生み出すことは、凡ゆる物が発展している現代に於いても不可能である。

 あのパラケルススも「人間作りたいなら、嫁でも作って腰振った方が手っ取り早い」と言外に「作れない」と認めていた。尚、直後に娘・アリーセが箒をフルスイングしている。弟の教育に悪いと振るわれた箒は、パラケルススの頭部を見事に直撃した。

 

(懐かしい記憶だ)

 

 望郷に浸るのも刹那、リョウヤは飴玉に手を伸ばして切り替える。

 完璧な人間を再現するという意味でも、食事は摂れるようにするだろう。

 或いは、周囲の人間に怪しまれないよう擬態するためにも食事の機能は付けるかもしれない。

 

「アリスの本当の名前……本当の私……あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」

 

 アリスが僅かな逡巡の後に問うと、モニターも文字が消える。数十秒が経過しても、文章は表示されない。

 周囲に沈黙が落ちる。

 今までが特に間も無く返答されていただけに、どうしても違和感が拭えない。

 

「反応が遅いね」

 

「画面もぼんやりしてきましたね……」

 

「処理に詰まってるのかな?」

 

 ややあって先生、ユズ、モモイが呑気にモニターの状態を口にする。

 漸く表示された文字は「そうで」と不自然に途切れ、以降は文字化けしてしまっていた。

 空気が困惑に包まれる。

 

「何これ、どういう意味!?」

 

[それは]

 

 苛立ち混じりなモモイの言葉に反応して何かを説明しかけるも、またしても途切れてしまった文字列。何かしらの不具合が起こっているのは明白だった。

 

[緊急事態発生――電力限界に達しました。電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒]

 

 徐々に減っていく秒数を見つめる脳裏に過ぎるのは、先ほどのリョウヤの疑問。

 何処から電力の供給してるんだ? というシンプルな謎。それが今、頭の中で、反響して木霊する。

 解答は「施設内に残った、或いはコンピューター自体に残っていたなけなし電力」だったのだと嫌でも理解してしまう。

 瞬間、モモイが声を張り上げる。

 

「えっ!? あ、待って! せめてG.Bibleのこと教えて!」

 

[あなたが求めているのはG.Bibleですか? 〈YES/NO〉]

 

「YES!」

 

 焦りの孕んだミドリの返答で、モニターに文字列が伸びる。次いでG.Bibleに対しての情報が画面に走り抜けた。

 目の前のシステムは、G.Bibleを廃棄対象データだと判断しているようだった。その文章を見て、モモイは必死に叫ぶ。

 どうして! と。ゲーム開発者達の、この世界の宝なのに! と、心の底から湧き出した感情だった。

 

[G.Bibleが欲しいのであれば、提案します。データを移送するための保存媒体を接続してください]

 

「え、G.Bibleが何処にあるのか知っているってこと……?」

 

 ミドリは思考が一瞬だけ止まったものの、理解する為にすぐさま疑問をぶつける。

 

[あなたたちも知っています 今、目の前に]

 

 答えは謎掛けにも似た不思議なものだった。

 

「ど、どういうこと!?」

 

『データとして保存されてるんじゃないのか?』

 

[その通りです。しかし現在、私は消失寸前。新しい保存媒体への移行を希望します]

 

 理解が及ばないモモイに、リョウヤがさらりと補足し、それは肯定される。

 あっ! とゲーム開発部の面々も納得した様子で溢す。

 

「って言われても保存媒体なんて……あ、ゲームガールズアドバンスSPのメモカでも大丈夫?」

 

[………………まあ、可能、ではあります]

 

 モモイの取り出したゲーム機器を認知しているのか、モニター内のシステムは不満であることが隠せていない。

 自分の作ったAIも、このような進化を遂げるのだろうか? そんなことを想像して、場違いにもリョウヤは少し可笑しくなってしまう。

 

[転送開始……保存領域が不足。既存データを消去します。残り時間9秒]

 

「え、嘘っ!? 私のセーブデータ消してるの!?」

 

[容量が不足しているので確保しています]

 

「待って待って! あっ、AWS2! AWS2に保存しちゃ駄目!?」

 

 ゲームのメモリーカードに保存可能な容量であれば、AWS2でも充分に可能であろう。そんな判断からモモイが指差す希望の光は、今は先生に預けられていた物言わぬドローンだった。

 

『出来るなら構わないけどな……今の破損状況じゃ無理だろう』

 

「どっちにしても、今からじゃ間に合わないんじゃないかな……」

 

[可能ならば初めからそちらを提案しています]

 

 現実は非情である。

 AWS2の状態をモニタリングしているリョウヤと、現地で状況をよく把握しているユズによる無慈悲な一言に加えて、まるで「好んでゲームのメモリーカードに転送するわけではない」とでも言わんばかりの眼前の文章に、モモイは「そんな!?」と色んな意味で泣きそうになって叫ぶ。

 

「セーブデータ! セーブデータだけでいいから残して! そこまで装備を揃えるの凄く大変だっ――」

 

 残念、消去――と無情な文字列が表示され、モモイは悲鳴を上げた。

 尚、G.Bibleはきちんと移行出来ていた。ただし、起動にはパスワードが必要なようで、ゲーム開発部はヴェリタスを頼ることとなる。

 ちなみに当然ながら、度重なるモモイの絶叫で敵性ロボットが集まって来ていた。学校に帰るのには相応の苦労があったが、モモイの八つ当たりめいた奮闘で想定ほどの苦労はなかった。

 

「――ああああ! 疲れたーー!」

 

 ぼふっ、と音を立ててモモイが赤いソファーへと倒れ込む。

 敵性のロボットとドローンを打ち倒した後、ゲーム開発部は途中ヴェリタスへと立ち寄って、先んじて訪れていたリョウヤと合流。ゲームガールズアドバンスSPをメモリーカードごと預けて、漸く部室にまで戻ることが出来たのだった。決して、五分十分で済むことではなかったというのは言うまでもない。

 昼過ぎに行動を起こして、既に十六時を回っていた。

 

「ソファー独占しないでよ、お姉ちゃん」

 

 姉妹のやり取りを横目に、リョウヤは自分の鞄を漁る。

 取り出したのは、借りていたゲームソフトである。その数は二つ。うち一つは随分と前に貸してもらったソフト。もう一つは昨日貸してもらったものだった。

 

「これ、クリアしたから返しておくな」

 

 感謝の言葉と共にテーブルに二つのゲームソフトを置くと、リョウヤは「何か用意する」と冷蔵庫へと向かう。飲み食いに関しては好きにして良いと、既に許可は得ていた。

 疲れが吹っ飛んだのか、モモイが勢いよく体を起こして「どうだった!?」と感想を尋ねると「面白かったよ」と笑い返される。ミドリとユズ、アリスもわくわくした表情を浮かべて感想を聞いていた。

 引っ掛かりを覚えた先生は、思考の海に沈んでいく。

 

(どちらも名作。確かクリア時間の目安は十時間と……もう片方、昨日モモイちゃんが貸した物は六時間程のライトな推理もの)

 

 元から借りていたというソフトは、時間に余裕が増えたリョウヤならばクリアしていても可笑しくはない。

 が、昨日の今日でクリアしている後者は話が違う。

 もうクリアしたの!? と驚きを隠せていないアリス以外の面々を見るに「自分の考察も間違っていないだろう」と先生は、密かに確信を得る。

 

「――緊急クエスト発令、葛葉リョウヤを拘束せよ!」

 

 唐突な先生の発表に、ユズもモモイもミドリもきょとんとする。迷いなく動き出したのはアリスだけだった。

 ぼふっ! と鈍い音を立ててアリスがリョウヤに追突した。

 アリスは頭から飛び込んだのだ。腹部に受けた衝撃から、リョウヤの口から空気と呻き声が漏れる。

 避けきれないことを悟り咄嗟に腹筋を締め、なけなしの魔力で強化したものの割と本気のダメージである。しかし、アリス自身にダメージはなく、悪意がないことも明白だ。気を遣わせない為に努めて平然を装う。

 

「た、躊躇いないな……」

 

 くてっ、とリョウヤはアリスの頭部へ凭れ掛かってしまう。アリスの後ろ髪に隠れたリョウヤの顔は、見事に引き攣っていた。

 まるで干され布団にも見えるリョウヤを見て、アリスに合わせて演技をしているのだと判断したモモイとミドリが、リョウヤの左右の手首を一本ずつ掴む。迷いの果てにユズはリョウヤの背後に回り、両手できゅっと背中の服を抑えた。

 そんなゲーム開発部に微笑むと、先生は真剣な表情を作る。

 

「ごめん、ちょっとそのままにしていてくれる? 時間経過でクリアになります」

 

 膝を折って立つアリスがリョウヤの腰に手を回した状態で首を動かすと、満面のドヤ顔が先生の視界に映り込む。

 モモイとミドリは立ったままに、ユズはリョウヤの背後からそっと顔を覗かして伺うと、先生は片手に携帯端末を取り出して「ストップ!」とでも言うように空いた片手の五指を立てて手の平を向けた。

 携帯端末を数度タップすると、コール音が響く。呼び出しはすぐに繋がった。

 

「――もしもしホシノちゃん、いま平気?」

 

『うん、平気だよー。どうしたの? 先生』

 

 聞こえてきた言葉と慣れ親しんだ声に、痛みも忘れてリョウヤの顔が勢いよく上がる。

 待って、嘘だろ? と雄弁に語る顔色だ。

 周囲に聞こえるようにと、先生は敢えて携帯端末で出力される音量を上げたようだった。

 

「いきなりだけど、昨日ってリョウヤくんは眠っていた?」

 

『うん? んー……部屋には戻ってた筈だけど』

 

 今後の流れを悟ったリョウヤは、諦めの極致だ。

 終わった、と言葉通りの色のぼやきをゲーム開発部が聞き取る。

 

「あれ? 今は皆で眠ってない?」

 

『うん。元々リョウヤがそういうの気にする性格なのは、先生も知ってるでしょー? 時間に猶予が出来たこともあって、男女はちゃんと別々に戻したんだよー』

 

 先生の電話の相手、ホシノは何もおかしなことはないとでも言うような声色だ。

 え? とアリス以外がぎょっとして、当人の一人であるリョウヤの顔を覗き見た。

 

「一緒の部屋なら、俺が寝てることを確認できるから……」

 

 リョウヤが小声で、しかし密着して眠っていたことは隠して説明する。

 モモイ達も、リョウヤに隈があることが多いのは知っていた。エンジニア部やヴェリタスと徹夜をすることがあるのも然りだ。短い言葉で、充分に理解と納得ができてしまう。

 

「その貞操観念は本当に感心するんだけどね。……そんなに余裕あるんだ?」

 

 リョウヤを横目に眺めて、先生が苦笑う。感心していると言うのは、紛れもない本音だった。

 寝室が同じことに関しては、ホシノ達からしたら今更気にするようなことではない。だがやはり、リョウヤの方からやんわりと提案したのだ。

 勿論、リョウヤとて皆と共に眠るのが嫌なわけではない。温かくて、心地が良い。しかし、それはそれとしてなのだ。

 ホシノ達もリョウヤが義姉達から受けた教育に関しては知っていたし、それが間違ったものではないと理解もしている。元の状態に戻るだけだから、と提案を飲んだのだ。

 

『手数を増やすってロボットアームを二つ作ってからは、作業の効率も上がったみたいでね~』

 

「ロボットアーム!?」

 

『アームって言うか……ハンド、なのかなぁ? 手の平型のロボットがビュンビュン飛んで物を作るんだよ~』

 

 工房は魔力含め使用可能なエネルギーが多い。視覚代わりに検索(サーチ)を使いながら手掌型の魔具を操ることで、文字通り手を増やしたのである。

 魔具を使った作成では魔力付加(エンチャント)がされないものの、部品の組み立てくらいならば熟すことが可能だ。効果は落ちるものの、魔力付加(エンチャント)は完成してからでも出来ることも追い風だった。

 

『それで先生。リョウヤに何かあったの?』

 

 対策委員会のメンバーはリョウヤがミレニアムに出向いていること。先生と再会し、共に行動をしていることも知っている。

 先生から尋ねられた内容で、リョウヤに何かしら起こったのだろうとホシノにも簡単に当たりが付く。

 先生の雰囲気から大した問題ではないと確信しながら、それでも無視は出来ないとホシノはやんわりと先を促す。

 

「ああ、うん。実はね……」

 

 先生から連絡の理由。昨日の今日で返却されたゲームのクリア目安時間と、リョウヤがゲームを長時間プレイしているのかどうか……正確には睡眠時間を削っているのではないか、と尋ねられたホシノは「ふーん?」と少し下がったトーンで返す。

 一緒に住んでいる自分達に知られずに、ゲームをプレイすることが可能であることは考えるまでもないのだ。だからこそ、ホシノが次に向かう場所は絞られていた。

 

『少なくとも工房にゲーム機はないかな。ちょうど三階にいるから、念のため部屋を見てみるね』

 

「お、断言だ」

 

 ホシノの即断に、先生は意表を突かれたと言わんばかりの顔と声になってしまう。

 先生の知る限り、対策委員会はあまり工房に出入りはしなかった筈なのだ。

 

『さっき掃除したばっかりだからねー』

 

 対策委員会が本格的に同居を始めてからは、家主がいない間に工房の掃除をする為……と言っても床だけで、しかも部品が落ちていることもあり得るので箒と塵取りを使った簡素なものだが、行うことが増えた――そういった事情もあって、リョウヤ以外が工房へ出入りする機会も増えていたりするのだ。

 リョウヤが何かを作っている時に、工房の隅に誰かが一緒にいることもある。単純に、組み立てを眺める者。読書をする者。勉強をする者。作り手を眺める者など……揃って居心地が良いと言っていただけに、工房にも人が集まるようになって来ていた。

 パタパタとスリッパで歩む音を立て、ホシノの向かう先はリョウヤの自室である。

 対策委員会は、葛葉邸の全ての部屋への入室が許可されていた。それには先の工房だけでなく、家主の自室も含まれている。

 自室に関して女性陣は、ある意味では工房以上に気を遣っているので掃除などもリョウヤが自分で行なう空間だ。

 つまり、何か隠している場所としては可能性が非常に高い。

 迂闊な……とまではいかないものの、過去の発言にリョウヤは首を絞められていた。

 ガチャリとドアノブを捻る音が、躊躇いなく響く。

 

『――ゲーム機とモニターが増えてる……』

 

 いつの間に、と絶句を挟んでホシノが呆れを滲ませた。

 リョウヤの自室。そのベッドにモニターアームが接続されており、寝っ転がりながらゲームがプレイ可能な環境に変化していた。

 子供が親にバレないようにと、布団を被ってゲーム機器を遊んでいるような感覚である。いや、実際はそんな可愛いものでもない。

 たっぷりと十秒ほど置いて、ホシノは口を開く。

 

『先生、今リョウヤと一緒にいる?』

 

「うん、側にいるよ」

 

『おじさんの声が聞こえるようにしてくれるかなぁ?』

 

はい、どうぞ(いぇす、まむ)

 

 ホシノの声にヒヤリとしたものを感じ取った先生が、一度体を震わせてから携帯端末を拘束状態のリョウヤの口元へ添える。

 そんな先生を暫し見ためた後、意を決した表情でリョウヤは応答した。

 

「……もしもし」

 

『あ、聞こえてるー?』

 

「はい」

 

 ホシノは普段とそう変わらない間延びした話し方の筈なのに、妙な威圧感を覚えてリョウヤは冷や汗を流し始める。

 流石に状況を理解したゲーム開発部は、それでもより親しい側であるリョウヤに同情の視線を向けていた。

 

『帰ったら皆でお話しようね』

 

 あまりに短い言葉は、お説教宣言である。

 

「い、言い訳だけさせてくれ――」

 

 三時間で目が覚めることは相変わらず多いが、確実に睡眠時間自体は増えているのだ。

 いや、未だに忙しくなる時期はある。TS社での商品を作成しなくてはならないタイミングがあるからだ。一から作るモノもあるし、魔力を付加するだけのモノもある。同じ作業をするのなら纏まった時間に、一気に作り上げるのがリョウヤのスタイルなのだ。

 ここ数日は確かな余裕があった。

 そんな言い訳が瞬間で脳内に溢れ出すも、言葉は呆気なく遮られる。

 

『不思議だなぁ、返事が聞こえないなー?』

 

「あ、はい……お話します……」

 

 今までは仕事であったり、借金の為であったり、或いは自分達の為だったが故にホシノ達もリョウヤの短い睡眠に強くは言えなかった。けれど今回は話がまるで違う。

 無慈悲な返答に、リョウヤは弱々しく頷くのであった。尚、対策委員会女性陣に囲われて行われたお説教は「次にやったら、また一緒に眠る」という形に落ち着く。

 別にゲームをするなという訳ではない。寧ろ遊んでくれていた方が安心すらする。きちんと睡眠を摂って欲しいだけだ。というお説教を同級生と後輩から受けたリョウヤは、正座のまま首を縦に振るしかなかった。

 じゃあ後でね、とホシノとの通話は切れる。

 先生からもクエストクリア宣言がなされ、リョウヤの拘束は緩んでいく。

 

「えーっと、色々と言いたいことはあるけど……」

 

 沈んだ様子のリョウヤを見て、モモイが僅かに遠慮がちに口を開いた。

 

「ロボットアーム……じゃなくて、ロボットハンドなんてあるの!?」

 

 リョウヤは虚を突かれていたが、全員が気になってしまったのは飛び回るというロボットハンドである。

 驚愕に反して「ああ」と容易く肯首された。

 

「前に会った時、腕と目がもっとあったらって話しただろ?」

 

「それで本当に腕増やしちゃったんだ……」

 

 けろりと告げられ、当時モモイと共に聞いていたミドリが呆然と溢す。

 

「やっぱり誰かと話すってのは有意義だと思ったよ。あの時、声を掛けてくれたモモイには感謝だな」

 

 お礼と合わせて明るい表情を浮かべられ、モモイは嬉しそうに破顔した。

 

「腕が四つ……ま、まさか魔王ですか?」

 

「じ、()()()()()()()()()で頼りになったモンスターも四本腕だったよね……?」

 

「あっ、アリスを何度も救ってくれたモンスターです!」

 

 ドラゴンなクエストの五作目を思い出して身震いしたアリスに、ユズがポケットなモンスターを思い起こさせると、アリスは一転して明るい笑顔にった。

 頭にクエスチョンマークのリョウヤには、モモイが生き生きと話題に上がったゲームの説明を始めている。

 

「――やっぱり天才っているんだなぁ」

 

 実姉達とリョウヤのやりとりを眺めて、ミドリがひとりごちる。

 ミドリは見たことがないが、アビドスとカイザーコーポレーションの一件以降は、リョウヤの戦闘能力そのものが噂になった。刀で大立ち回りをしたのだ、と。

 前提としてリョウヤは医者だ。

 ゲーム開発部は予ねてよりゲーム機器の修理をしてもらっていて、今日だけで料理とドローン操縦技術が追加された。戦闘に於ける判断力も同様だ。

 更には日常の会話の中から何を作るのかのヒントを得ていて、想像を適切な形で現実に仕上げていることも判明して。

 多芸が過ぎるし、技術力も高すぎる。

 ミレニアムという環境下でなら、まだ理解できた。

 同じ道を歩む周囲と切磋琢磨することもあるだろうし、教えを受ける機会も多いだろう。

 だがアビドスは深刻な人材不足であり、借金もあって余裕がない筈なのだ。

 このミレニアムにも数多くの天才がいるが、リョウヤの知識や技術、技量は間違いなくミレニアムの天才達にも並び得るだろう。

 コミュニケーション能力不足にしても、何処まで事実なのか分からない。いや、仮に変わったことが本当でも……そこにどれだけの苦労があったのかは不明だ。

 

(ユズちゃんより酷いコミュ力だったって言っても、変わるのが大変だったとは言ってないんだよね……)

 

 たまたま言わなかったのか、敢えて言わなかったのか。どちらにしても、案外とすんなりコミュニケーションを身に付けていたかもしれないのだ。

 面倒見の良い人であることは否定しようがないので、ユズへ発破を掛ける為に、敢えて「自分の方が酷かった」「だからユズも変われる」と伝えている可能性は捨て切れないのだ。

 ただやはり――伍する者がいないであろう在野で、時間もなく、環境や状況も決して良くないであろうにも関わらず、リョウヤの出来る事は幅が広く、その質も全体を通して高いと素人目にも分かってしまう。

 レベルが違い過ぎて、もはや嫉妬する気持ちも湧き起こらない。

 

「――」

 

 ミドリの横にいた先生は何か言いたそうにして、結局はきゅっと口を結んだ。




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