星屑の夢   作:ハレルヤ

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1-3.そんな日常もある②

 機工魔術士とは、悪魔が自分の力を補わせるための道具……魔具を作らせるために見繕う者のことである。ある意味で機工魔術士自体が悪魔にとっての魔具とも言えるだろう。

 悪魔から力を分け与えられ、物を作る力と魔力付加(エンチャント)の力を得るのだ。

 作れる物が多ければ出来ることが増えるので前者も大事であるが、肝要なのは後者だ。

 魔力付加はリョウヤにとって非常に都合の良いものだった。

 ゲーム等にもたまに出てくることもある魔力付加だが、機工魔術士のそれは何も炎や氷に限定するものではない。

 こういった物を作りたい! という想い、願い、或いは祈りがそのまま付加されていく。

 分かりやすいのが料理であり、気持ちが籠もっていれば、それだけで癒やしの力を持つ物が出来上がる。愛情がスパイスと言われる所以で、機工魔術士でなくても無意識に魔力付加がされているという説があるのだ。

 とは言え、意識していることと無意識下では効率が違う。

 機械を作るのであれば、機械として如何に無駄なく作られているかも重要で、余計な負荷があれば当然質は下がってしまう。

 知識。

 技術。

 思い。

 それらが合わさって初めて良い作品は作られるのだ。

 

「――下からじゃ気がつかなかったけど、こんなにたくさんのソーラーパネルがあったんだね」

 

 アビドス高等学校屋上にて、アヤネの隣に立つ先生は驚きを滲ませて言った。

 リョウヤが強制帰宅となり早一時間。

 先生からの支援を受けることが決まったのがつい先ほどの出来事だった。

 ないとは思うが襲撃のリスクがある以上、輸送ヘリの着陸場所は校庭では不安が残る。屋上の空きスペースがあったことを思い出したので、代表してアヤネが先生と確認に来ていた。

 

「元々あった物もありますが、ほとんどがホシノ先輩とリョウヤ先輩が用意してくれたものですね。この学校での電力は全てこれらで補っています」

 

「へぇ、全て……え、全部? 太陽光発電ってそんなに発電できるものだっけ?」

 

「破棄予定のソーラーパネルを譲って貰ったり、安く買い取らせて頂いて、それをリョウヤ先輩が改修及び改造することで高効率に仕上げたと言っていました!」

 

 自分のことのように自慢げに胸を張るアヤネ。改修、改造と聞いた先生は口をぽかんと開けてしまう。

 元より在校生の少ない学校なこともあり、蓄電器に電気を貯める余裕すらある。

 ソーラーパネルにリョウヤが魔力付加をした結果、通常あり得ない量の発電を可能にしたのだ。

 

「……ていうかリョウヤくんってお医者さんじゃないんだ?」

 

 先生がハッとなる。保健室が似合いそうだとも思い、保健委員も兼ねているのかも? などと考えていたが、確かに本人も周りも医者とは言っていない。

 はい、とアヤネが頷き、すぐに首を横に振った。

 

「あ、いえ、お医者さんとしてのスキルもあるのですが……」

 

「あるんだ!? そうだよね、行き倒れてた私も――」

 

 行き倒れてた!? そんなアヤネの驚きに満ちた声に、先生は慌てて笑顔を作った。

 

「あ、うん、でも大丈夫。リョウヤくんが診てくれたからね。ノノミちゃんに着せてもらってた白衣もあって、てっきり医療従事者かと」

 

 先生は安心させるように微笑んだ。

 アヤネはホッと一息吐き、リョウヤからかつて聞いた話を続ける。

 

「えっと、そもそも一番最初に得た知識が医学だったと言っていました」

 

 つまり医学を学んでから工学を学んだということだろうか? と先生は考える。リョウヤが「学んだと言うと語弊がある」と訂正するのはもう少し後のお話だ。

 

「たくさん勉強してきたんだね……」

 

 先生の呟きは、風にさらわれて消えた。

 きっと本当に、自分では想像も出来ないくらいの努力をしているのだろう。そしてそれはリョウヤに限った話ではない。そうでもしないと九億もの借金を返済できないのだから。

 握った拳に力が入る。

 借金の問題について、先生が教えられたのはつい先ほどのこと。

 協力について反対的な生徒もいたが、力になりたいという感情は強くなっていく一方だ。

 

「身内贔屓かもしれませんが、意図してヘリコプターが着陸できる程度のスペースは空けている気がします」

 

 ソーラーパネルを抜けると、アヤネが髪を押さえながら言う。

 先生もそんな気がして、肯定しつつもシャーレに連絡すべくスマートフォンを取り出すのだった。

 明日には支援物資が届くそうです! とアヤネが嬉々としてモモトークのグループに送信することになるのが数分後。

 リョウヤがモモトークに気がつくのは、更に二時間経ってのことだった。

 

(ゲヘナに月一でプリン作りに行くことになったって言うの忘れてたな……)

 

 眠りと目覚めの合間で、リョウヤの思考が回り始める。肩に誰かの手が触れたことにも気が付かず、夢と現実の狭間で意識が揺蕩う。

 

「――ちゃんとベッドに行かないと風邪引くよ~?」

 

 慈愛に満ちた声と共に体が優しく揺すられ、リョウヤの眼が開きはじめた。

 

「……ユメ……先、輩……?」

 

 声の主の息を飲む声が響く。

 発せられた言葉は、意識をしていたわけではない。

 自然に零れた先輩の名前に、リョウヤの脳は即あり得ないと返答した。

 帰宅し、長風呂を終え、ソファーに座ったところで意識が断線したことを自覚する。寝落ちしていたのだろう。

 座ったままの体勢だったリョウヤは、片手で頭を押さえながら呻くように口を開く。

 

「ごめん……ホシノ」

 

 自己嫌悪でいっぱいだった。

 疲れもあったのだろうが、それを言い訳にするつもりもない。

 けれど今のホシノは、ユメと重なる表情や仕草が多い。リョウヤが思わず口にしてしまうのも無理はない、とホシノとユメの両者を知っている者は言うだろう。

 ホシノが「うへ」と零し、リョウヤの頭に手を置いた。

 

「大丈夫ですよ」

 

 懐かしい喋り方だ。が、ホシノの口調が昔のものに戻ったのは一瞬だった。

 わしゃわしゃと大型犬でも愛でるような手つきで、ホシノはリョウヤの頭を撫で回す。

 ホシノとユメの名前をリョウヤが言い間違えるのは今回が初だが、罪悪感の拭えない少年はされるがままだった。

 

「寝ぼけてたんだろうしね」

 

 リョウヤの本日の睡眠時間を踏まえれば可愛いものである。寝不足によるストレスは大きい。失言にしたって、もっと酷いものが出てきてもおかしくないのだ。

 元よりホシノも最初から怒る気はない。

 

「ほら、後輩も来てるから顔を上げて」

 

 ホシノの手がパッと離れ、漸くリョウヤは顔を上げる。

 普段と変わらない、緩い笑みの少女と目が合う。

 思うところはあっただろうに、既に切り替えが済んでいる同級生に続くべく、リョウヤは立ち上がり体を伸ばした。

 

「く、あぁー……」

 

 声が漏れ、凝り固まった筋が伸びる。

 小さく息を吐き、部屋を見渡す。

 窓の外は既に暗くなっており、室内は電気が点されていた。

 

「俺、どれくらい寝てた?」

 

「うーん、私達も今来たところなんだよね~」

 

「あー……誰か来てるんだっけ」

 

 リョウヤの家の鍵は、対策委員会のメンバーには全員渡してある。緊急時の避難先としてリョウヤが配ったものだが、現状では出入り自由のサブ自宅扱いである。

 特段リョウヤに不満はなく、ホシノも後輩達も定期的に訪れているので勝手知ったる葛葉邸だ。

 

「あ、先輩起きたんだ」

 

 ひょこりと廊下に続く扉から顔を覗かせたのはセリカだった。少し気落ちしている風にも見える。

 

「大分スッキリしたよ……隈も消えたんじゃないか?」

 

「消えるわけないんだよねぇ」

 

「消えるわけないでしょ」

 

 両手の人差し指で、茶目っ気たっぷりに隈の出来る箇所を指さすリョウヤだったが、ジトッとした瞳で総ツッコミを受けて肩を竦める。本人としては充分に休息できているのだが、その目の下は相変わらず黒いままだ。

 ホシノとセリカ……というよりも対策委員会のメンバー全員、果てには先生すらも「あれは一日二日でできる隈ではない」と確信していた。ソファーで座りながら少し寝た程度で、どうこうなるとは思えない。

 

「その、ゆっくりしたいだろうに……ごめんね、先輩」

 

「それは全然大丈夫。別にゆっくりは出来るし」

 

 ホシノとセリカ、それにリョウヤも学校指定のジャージ姿だった。これは言ってしまえば部屋着で、家主以外が着ると泊まっていくという意味もある。

 申し訳なさげなセリカに、リョウヤは気にしなくていいと告げながらテーブルのエナジードリンクに手を伸ばす。中身は空だった。

 台所に持っていきがてら、冷蔵庫に何かあったかを確認……するまでもなく、食材はないことを思い出す。

 出張前に買ってあった食材は使い切っていたのだ。

 

「食材なら買ってきたよ。その途中でセリカちゃん見つけたから、おじさんが思わず誘拐しちゃったんだー」

 

「それは助かる、ありがとう」

 

「セリカちゃんが来てくれて嬉しいって」

 

「っホシノ先輩! ズレた受け取り方しないで! それからリョウヤ先輩は座って! 夕食は私たちで作るから」

 

 リビングとキッチンはカウンターを一つ挟んでいる。

 ホシノがリビング側からゆっくりと歩いているのに対し、セリカは小走りでやって来て、リョウヤの腕を掴んだ。

 ズルズルとされがままにソファーまで連行されたリョウヤは「セリカが来てくれたことは嬉しいぞ」と口にするか迷い、やめておく。既に彼女の顔は真っ赤だったからだ。

 エプロンを纏ったホシノとセリカが、カウンターの隅の小箱に入れられたヘアゴムでポニーテールにするのを眺めながら、リョウヤはソファーからテーブルに手を伸ばす。

 手に取ったのは文庫本だ。

 コミュニケーションの勉強をするために選んだのが文学小説を読むことだったのだが、今ではすっかりハマってしまった。

 

(……セリカに何かあって、ホシノが誘拐して来たのかな)

 

 特に理由などなくとも遊びには来る。ただなんとなく今日はそんな理由な気がするリョウヤは、台所から聞こえる料理の音と女の子二人の会話をBGMに、趣味となった読書を始める。

 何かあるのなら、きっとホシノから切り出してくると理解しているからだ。

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