星屑の夢   作:ハレルヤ

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お待たせしました。
生きてます。


Extra enchant.2
EX-3.とあるミレニアムでの一日


 六人が広々と乗ることの出来る車の最後尾にはアヤネとセリカ。その前にはシロコとノノミ。運転席にはリョウヤ。助手席にはホシノが収まっていた。

 ミレニアムプライスを数日後に控えた、快晴のお出かけ日和。

 いつか話に上がった小旅行が決行されたのだ。

 

「ガム噛む?」

 

「噛む」

 

 お互いに一度だけのやりとりを経て、ホシノの右手がリョウヤの口元へ自然に運ばれた。

 

「ありがと」

 

「どういたしましてー」

 

 板状のガムを咥えて器用に口内へと導いたリョウヤと、自身も噛む為に新しいガムを取り出したホシノ。

 二人がミントの味を口に広げていく姿を後ろから眺めていた四人も、楽しげにお菓子を交換し合っている。

 

「今の良いね」

 

「運転席と助手席だからですよね☆」

 

 お菓子を交換をし合っても、口に運ぶ必要はない後部座席はないからこその感想だった。

 シロコとノノミに同意するように、アヤネとセリカも何処か羨望するかの如く首を縦に振っている。

 当事者の二人は後輩達の感想にも、照れたりすることもない。そういうモン? そういうものなのー? と不思議そうに感想を口にしている。正直に言って、深く何かを考えた末の行動ではなかった。四人の肯定の声を響かせた計六人を乗せた大型車は、リョウヤ個人の所有物だ。

 先生が初めてリョウヤと出会った日に見た、車庫で解体されていた車である。

 ジャンク品の車を安く買い取り、修理と改造を施していた車は先日やっと完品へと進化を遂げていた。

 タイヤも含めて立派な魔具なので、山であろうと砂漠であろうと優に超えることが可能である。

 長いこと走行して、軽快なBGMを低音量で流していた車窓から見られる景色が大きく変わった。

 

「この橋を渡ったらミレニアム自治区なわけだが……ノノミ」

 

「はいっ! 皆さん、左手をご覧ください☆」

 

 リョウヤから促されたノノミが、元気にバスガイドを真似た。特に拒否することもなく、二人以外の面々は顔を向ける。

 窓の少ない、横に長い四角形の建造物が近付いていた。

 

「あちらに見えますのがトラオム・シュテルン・カンパニー本社にして、第一工場となります!」

 

「わっ! あれがそうなんですね!」

 

「全体に何か凄いペイントされてるんだけど!?」

 

「ん、中々に派手……だけど不思議とバランスは取れてるような気がする」

 

 ノノミの宣言に、車内が沸く。

 アヤネが両手を合わせて感動し、セリカは驚きに包まれていた。

 形そのものはシンプルだが外観はシロコの言う通りカラフルで、しかし派手でありながら調和を感じさせる。

 

「物流センターだったから、元々がシンプルな長方形だったんだ。それだけだと寂しいから、と」

 

「ヴェリタスのマキちゃんが、TS社ではデザイン部門にも属しているんです」

 

「それじゃあ、あの子のデザインなんだねぇ」

 

 リョウヤとノノミの言葉から察したホシノは、ミレニアムの一年生を思い出して「はぇ~……」と感心に息を漏らした。

 ヘイローにも似た円の中に、月と太陽、たくさんの星々が描かれているのだろうデザインは、なんとなく一つの銀河系や世界を想像させる。

 賑やかで楽しく、素敵なデザインだった。

 

「ちなみに向かいの建物が社員寮」

 

「以前に力を貸してくれてた元カタカタヘルメット団の子達も、皆ここに住んでいます!」

 

 社員寮と言われると「そんなものもあるのか」と少し驚くが、建物自体は変哲のないマンションだ。

 寧ろ、ノノミが付け足した情報の方が気を引いた。

 

「それって戦車に乗っていた……?」

 

「セリカちゃんは複雑だよねぇ」

 

「あ、ううん! 謝ってもらったし、実際に力を貸して貰ったから別にもう怒ってないんだけど……なんだか不思議な感じだなぁって」

 

 気にしていない、と首を振ったセリカはしみじみと言った。アヤネが「確かに不思議な縁だよね」と共感の言の葉を落とすと、ホシノとシロコも同意を示す。

 クッ、と思い出し笑いを発したのはリョウヤ。

 

「戦車隊だった奴らには少し前に会ったけど、露骨にガッカリされたよ」

 

「え、どうしてですか?」

 

 アヤネが小首を傾げる。確かに初対面時は怯えられていたような気もするが、落胆されるというのはよく分からなかった。

 

「ノノミに会いたかったらしい」

 

 予想の斜め上の答えである。

 

「立場の話なら……先輩の方が上? あ、でもノノミが社長……?」

 

「偉い方に会いたかったとは限らないんじゃない? けど確かに、どっちが偉いのかしら……」

 

 シロコとセリカが同様の疑問に頭を悩ませ、ノノミとリョウヤを交互に眺めた。

 

「リョウヤ先輩です☆ 創始者様ですから!」

 

 片手を胸に当てて、ノノミは宣言してみせた。それはそれで納得ではあるのだが、リョウヤ当人はなんとも微妙な反応である。

 

「とは言え社内ではノノミが社長で、俺は一人のエンジニアだからな。創始者だって話も、ここ最近で広まった話だし。ただまぁ今回に関しては――」

 

「関しては~?」

 

 お菓子を摘むホシノからの合いの手を受けて、リョウヤはふっと笑って言い放つ。

 

「自分達に家と職をくれた恩人に会いたかったんだろうさ」

 

「もうっ! それはタイミングのお話じゃないですか!」

 

「でも俺、スカウトは仕事じゃないしな。余裕があっても、彼女達にわざわざ声を掛けに出向いたかどうか……」

 

 ぷんぷんと頬を膨らませるノノミ。その頬をシロコが人差し指で突いた。ぷふっ、と空気を可愛く漏らしたノノミがシロコの脇腹をつつき始める。

 ミラー越しに二年生の二人を見たリョウヤは頬を緩めると、表情を変えることなく憂いた。

 

「治安向上の意味でも、ヘルメット団を雇うのはプラスなんだけどな」

 

「企業としては、最低限ほしい能力がある……ですね」

 

「あ、そっか。少なくとも戦車隊に関しては、戦車を簡単に操れるくらいには機械に慣れてるんだ」

 

 難しい話だとアヤネが薄い渋面を作ると、セリカは「当たり前だけど、慈善活動じゃないんだもんね」と納得する。

 ホシノが「じゃあコネ採用で楽はさせてもらえないか~」などと言い放つが、眠そうな声音には落胆の色はなく、本気で言っているわけではないのは明白だ。

 残念、とシロコも便乗して一年生二人がツッコミを入れる。

 リョウヤはちらりと横目を向けた。運転中故に瞬間だけ見つめたホシノは、素知らぬ顔で窓の外を眺めながら会話に混ざっている。

 

(俺は本当に暗いな……)

 

 会話が暗くなることを防いでくれたホシノに胸中で感謝しつつ、リョウヤは丁寧にハンドルを切った。

 悲しいことに、アビドスに近い程ミレニアムの自治区は過疎化していく。更に悲しいことに、過疎化していて尚ミレニアムの方が賑わっている。

 仕方がないことではあっても、胸を締め付ける現実だった。

 そうして対策委員会が訪れたのは、大きなショッピングモール。この手のお店も、アビドスでは跡地という形でしか見ることが叶わない。

 駐車の際、女性陣は運転手が助手席に手を回すという動作にキュンと来るか来ないで盛り上がっていた。

 その後は六人でいくつかのピアスを見繕うと、一行はとある売り場の前で足を止める。

 

「先輩も一緒に選んでくれるんですか?」

 

 ニコニコと楽しそうなノノミに対して、リョウヤは頬を引き攣らせた。

 女性向けの下着売り場である。

 ぶっちゃけ……下着売り場に並ぶ下着を見ても、リョウヤに思う所はない。極論ただの布であるとすら思っている。しかし、周囲の目というものがあるのだ。

 女性向け下着売り場を眼前にして、既にリョウヤには対策委員会からではない視線が刺さっていたのだ。その中には、面識こそないがミレニアムサイエンススクールで見た覚えのある顔もある。

 ここで仮に女性下着売り場に乗り込もうものなら、確実にミレニアム中に広まる。

 チヒロが知ればリョウヤを叱るだろうが、ヒマリに知られれば確実に弄られる。コタマとウタハも後者寄りであるだろうし、なんなら最終的にチヒロも弄る側に回るだろう。

 そそくさと踵を返したリョウヤの反応を楽しむと、離れていく背中を眺めていたホシノが口を開く。

 

「おじさん、新しい下着は必要ないかなー」

 

「大丈夫、ホシノ先輩のは私達が選ぶ」

 

 折角の揃ってのお出かけでリョウヤを一人にすることに抵抗を覚えたホシノだったが、シロコがドンと自身の胸に拳を当てて返した。

 

「大丈夫ってどういうこと……?」

 

「どういうこと……ですかね?」

 

「うーん、おじさんにもちょっと分からないかな」

 

 セリカがアヤネを頼り、アヤネはホシノへと目をやるも、当事者もよく分かっていないようで困り笑いである。

 

「ん、勝負の為の下着」

 

 そんな三人に、シロコはキリッとした表情で告げた。

 ホシノ、アヤネ、セリカの三人はギョッとして頭に「!?」を浮かべる。

 フリーズしたホシノを引っ張るようにしてシロコがずんずんと進み、アヤネとセリカに続くようにとノノミが促した。

 初めこそ四人で固まって動いていたが、暫くすると一団はばらけ始める。

 ホシノをノノミが「あ、あれなんてどうですか?」と引っ張っていくのを見送って、セリカが遠慮がちに口を開いた。

 

「シロコ先輩がホシノ先輩とリョウヤ先輩に向ける感情って、一体どうなってるの……?」

 

「でも二人をくっつけたいっていうのは、充分過ぎるほど伝わってくるから……」

 

「二人の間に挟まりたい」

 

「「はい!?」」

 

 これ可愛い、本当だ、とフリルの一着に目を取られていた二人が勢いよくシロコへ顔を向ける。

 何か聞き間違えたとしか思えない。返事は疑問の答えにはならないものだった。

 

「私と先輩二人には共通点があります。何でしょう?」

 

 人差し指をピンと立て、改めた口調でクイズが出されると、一年生の二人は顔を見合わせてからシロコと目を合わせる。

 

「強い」

 

「頼りになります」

 

 ふるふる、とシロコは首を横に振って髪を揺らす。

 

「判断力がある」

 

「優しいです」

 

 シロコ、同上。

 

「素敵な写真を撮影する」

 

「私達をとても大切にしてくれます」

 

 素直に回答を続ける一年生達に対して、シロコは僅かに俯いてそっぽを向いた。

 

「……違う……それに、流石に照れるからやめてほしい……」

 

「先輩から振ったのに!?」

 

「ほ、褒めて欲しいって言ったわけじゃない」

 

 この先輩可愛いな、とセリカが頬を薄く染めるシロコを見やる。

 隣でアヤネは思い至り、小さく声を漏らす。

 

「……もしかして目、ですか?」

 

「え? あっ! オッドアイ!」

 

 褒め言葉しか出なかったのは意識してのものではなかったし、瞳も綺麗だと思うが、ビジュアルに関しては触れていなかった。そもそも男女の共通点だったので、見た目には思考が向かわなかったのだ。

 見た目の共通点があるようには一見思えない三人は、左右で瞳の色が違うのである。

 

「それが家族みたいって、前にノノミが言ってくれたんだ」

 

 葛葉邸ソファーで、リョウヤとホシノの間にシロコが収まっていた日の出来事だ。

 単に共通点を告げられただけである。それも別に、瞳の色が同じということもない。

 リョウヤとホシノはおろか、ノノミですら言ったことを覚えていないかもしれないが、シロコは忘れたことがなかった。

 

「あー……」

 

「言われてみると確かに……」

 

 セリカとアヤネも説明されると納得できなくもない。

 ごっこ遊びの延長ではあるのだろうが、対策委員会はリョウヤをパパ、ホシノをママと呼ぶことも多かった。

 話題の中心、シロコも同上だ。リョウヤに気があるのならば、パパではなく旦那様やダーリンなどになりそうなのにも関わらず……だ。

 この先輩、ガチで娘になりたかった? アヤネとセリカの脳裏にそう過ったのは一瞬だった。

 

「だから本当の家族になれたら、素敵だなって」

 

 ニコリとシロコは綺麗に笑う。

 それは心の底から出た感情だった。

 先輩二人の関係を進めたいことに関して、シロコがノノミに相談した際には「そうでもしないと、関係が発展しなさそうではありますよね」との意見を頂いている。

 余計なお世話を焼いているという自覚はある。当人達の気持ちを確認したわけでもない。先輩二人の感情は、あくまで外野から見て推測したものでしかない。

 ホシノもリョウヤも、本当に迷惑だと思っていたのなら言葉にしてくれる……というのがシロコの所感だ。シロコとて、本気で拒否されたのなら従うつもりである。

 だが今の所、先輩二人からは何も言われていないのだ。なんなら楽しんでいる節もある。見させてもらったクリスマスデートの時の写真で、先輩二人が浮かべている笑顔が偽物とも思えない。

 

「でも実際――いざ二人が付き合いだしたら、邪魔になるから……一緒にはいられないってことも分かってる」

 

 分かってるけど、とシロコは言葉を濁す。

 ここまで言われてしまえば、セリカとアヤネにも言わんとしていることは想像できてしまう。表情は複雑に彩られていく。

 

「まぁ、その……今更になって出て行くのが嫌って言うのは……分かる、けども……」

 

「偶に一人の家に帰ると、どうしても寂しさを感じちゃう……よね」

 

 小さく頷き合う二人。自覚してしまえば、シロコの気持ちは嫌と言うほど理解できる。

 一人暮らし用の小さな部屋が広く感じられるようになるなんて、入学した頃は考えてもみなかったのだ。

 

「ん……今、皆で家族みたいに過ごしてるから、偶にで良いから一緒の日があったら良いなって」

 

 それは本当に、細やかな願い事だった。

 三人がそんな会話をしていた場所と、ノノミとホシノがいる場所は離れていない。

 同じ店内にいるのだから当然である。

 

「……だ、そうですよ?」

 

「丸聞こえだねぇ」

 

 ノノミが腰を折ってホシノを覗き込むと、ホシノは少しだけ困ったように目を細めて頬を掻いた。

 一先ず、ホシノに不満はなさそうである。ノノミはひっそりと胸を撫で下ろす。

 ホシノは消え入りそうに声を落とした。

 

「そもそも付き合ってないし、その予定もないんだけどなぁ……」

 

 勿論リョウヤを嫌っているわけではないが、しかし「成程」とホシノは理解する。

 リョウヤがどうかは知らないが、少なくともホシノは後輩……シロコとノノミの意図を察していた。その上で今漸く、真意も聞くことが出来た。

 現状、迷惑だなんて考えたこともない。寧ろ本心を聞くと後輩への愛しさが増してしまった。……とは言え、である。

 そもそも、付き合い始めたとして――あのリョウヤに対して、下着を、或いはそれ以上を晒す場面が来るのかは甚だ疑問だった。

 

(そっち方面は教育以前に、もっと本能的なところで――なんとなーく苦手にしてる雰囲気があるんだよねぇ)

 

 ホシノはふと振り返り、リョウヤの姿があった場所を眺めた。当然そこに、探してしまった姿はない。

 ホシノ先輩? とノノミに声を掛けられて、ホシノは「なんでもないよ~」とかぶりを振るのだった。

 

「――クラッシュナッツモカフラペチーノ、ココアパウダー&ホイッププラス、Sサイズでください」

 

 一方のリョウヤは、特に不満もなく一人の待ち時間を楽しんでいた。

 下着だって服である以上は必要であると理解しているのだ。折角の機会なのだから、ショッピングを楽しみたいとも思うだろう。

 孤独を寂しいと感じるタイプであっても、一人は耐えられないなんてこともない。

 呑気に「ノノミに揶揄われたなぁ」なんて思いながら、片手にコーヒーとココア、ミルクからなる呪文めいた名前のフローズンドリンクを握っている。手の平に広がる冷たさに心地良さを感じ、クラッシュナッツの振り掛けられたホイップクリームを楽しみながら足を弾ませていた。

 

(前にも一度来てるけど、この辺は全然見てなかったな……)

 

 最近はDIYも流行りなので、加工された鉄や木といった原材料が多く取り扱われている。

 ミレニアムという地区故か、価格の割に質が良い。

 

(今更だが、普通の原材料は無属性なんだよな)

 

 人間属性や悪魔属性とはまた違う、無属性なる概念が存在する。

 原料を材料へと加工する際に、普通の人間では無属性になるのだが、対して純属性というものもある。

 感情や思考がモノ作りに影響を与える……つまり、原料を加工する段階で無意識の魔力付加(エンチャント)がされてしまっているのだ。これが前者の無属性。

 パラケルススやヤマト等の一部の機工魔術士(エンチャンター)が可能とする純化と呼ばれる作業は、この無意識の魔力付加(エンチャント)を抜く技術である。

 純化を終えた材料には、雑味が消えてより素直に魔力付加(エンチャント)が可能になるのだ。それこそが後者、純属性の特徴である。

 

(こっちに来た頃に気にした記憶はあるが……今じゃ全然だったな)

 

 改めて、純属性について記憶を辿る。

 リョウヤは純化を可能としていない。故に当然、無属性の原材料に魔力付加(エンチャント)を行うが、その効果は特に弱いとは感じていない。

 改めると何故? と頭に過ぎる。

 力が強ければ、無属性であっても強力な魔力付加(エンチャント)か出来るだろう。しかしそれは本当に一部の強者、フルカネルリといったレベルでなければ叶わない。寧ろ、リョウヤが契約で分け与えられた魔力は少ないのだ。

 にも関わらず、リョウヤは他者が完品にまで仕上げた物にすら、充分過ぎる魔力付加(エンチャント)を可能としていた。

 工房そのものを魔具とし、特殊な状況下で魔力付加(エンチャント)しているとは言え疑問は大きい。

 

(……原材料や完品に俺の魔力を受け入れ(レセプション)させている、は都合良く飛躍させ過ぎか)

 

 “受け入れる能力”の方向性としては真逆の発想だ。それ程の応用が効くのなら便利だが、ホシノに魔力を受け入れ(定着)させることは出来なかった。となると、現状そうは思えない。

 義姉であるアリーセが炎と水のような相反する魔力付加(エンチャント)を得意としていたように、自身の持つ特性の可能性もある。

 

「――リョウヤくん!」

 

「うん? ああ、先生」

 

 思考を伴いながらもダラダラと原材料を眺めて歩き、フードコート近くまで来ると、少し離れた位置から先生が声を掛けた。ちょうど誰かと話していたようで、横にはミレニアムの生徒の姿もある。

 互いに歩み寄ると、先生は両手にお菓子や飲み物の入った袋を抱えていた。

 リョウヤが「ゲーム開発部に?」と問うと「皆、頑張ってるからさ」と先生は笑顔を浮かべる。

 リョウヤはゲーム開発部へプリン各種の差し入れをした日を最後に、ミレニアムへの出向を終えていた。ユズ達が努力を続けていることを教えられ、柔らかく笑んだ。

 

「そちらは久しぶりだ」

 

 先生と歓談していた生徒は、腹部を大きく晒したトレーニングフェアを纏っていた。

 名は乙花スミレ。トレーニング部の部長を務める二年生である。

 ショッピングモール前をランニング中にスミレは先生と遭遇し、休憩がてら共にしていたのだ。

 

「その節はお世話になりました」

 

 スミレが小さく頭を下げると、纏められた長い黒髪が揺れた。

 おう、と短く返すリョウヤ。

 先生が声を掛ける以前、先にリョウヤに気が付いたのは彼女である。その際、出会いの切っ掛けを先生は説明されていた。

 即ち、故障したトレーニング器具をリョウヤが直したというもの。本人曰く「接触不良を直しただけで大したことじゃない」とのことだったとか。

 ふと思い出したようにリョウヤが呟く。

 

「トレーニング部……かなり器具が充実していたな。あれって部外者が使っても良かったりするのか?」

 

 きらりとスミレの瞳が輝いた。

 

「! 興味がありますか?」

 

「うん? んー……つい先日、ヘバッてんのかって指摘されてな。体力足りてないのかなとは思った」

 

 僅かに声が弾んだスミレに、リョウヤは情けなさから頬を掻く。

 

「では是非、我がトレーニング部に顔を出してください。素晴らしい体験を提供します」

 

 熱の帯びたスミレの強い目もあり気軽に参加したリョウヤは、身体中が悲鳴を上げることなる。なんなら悲鳴で済まなかった。声が出せなくなった……のが後になってからの出来事。

 とある人物が示したデータでは、スミレのトレーニングに参加した生徒の完走率は二パーセント以下。自分の足で家に帰れた生徒は一パーセント未満である。

 後にネルは「数少ない前者がリョウヤだ。ぶっ倒れて帰れなかった。なんでも、一日分として出されたトレーニングに丸二日掛けたらしい」と話す。

 ホームランに憧れる野球部の生徒は親近感からリョウヤに興味を持ち、遠い未来でネルからその話をされたトリニティの生徒は割と本気で戦慄することとなったとか。

 挨拶を終えてスミレがランニングに戻ると、残った二人はフードコートの一角で休息をすることになる。

 元より三十分と時間を決めていた女性陣も、先生と会ったことと場所の連絡を受けてすぐに合流し始めていた。

 

「リョウヤくん以外とは久しぶりだね。皆、元気にしていた?」

 

 そんな他愛のない挨拶話から始まった昼食を兼ねた時間は和やかに過ぎていき、今では食後。残ったポテトを摘む者とデザートを楽しむ者に分かれていた。

 ゲーム開発部のゲーム作りが佳境であることを先生が告げる事となったのは、対策委員会の目的の一つが彼女達に会うことだったからである。

 

「――それじゃあ、リョウヤの妹分ちゃん達に会うのはやめた方が良いかもねぇ」

 

「そうだね。あ、でもあの四人も皆とは会いたがっていたよ。ほら、カイザー社との一件でお兄ちゃんに頼られていれば、自分達も知り合えてたって」

 

 以前のエンジニア部に次いで、可愛らしい文句だった。

 ぶー垂れてた、と先生がリョウヤへ視線を流す。

 

「……四人共?」

 

 引っ掛かりを覚えたリョウヤに、先生の視線が急速に緩む。

 

「ユズちゃんも、リョウヤくんの事もあってアビドスの人となら大丈夫かなぁ? って」

 

 ホシノ達にユズとの面識はない。けれど家での会話の中で共有されている話も多い。それは例えば、ユズが人見知りであること等。

 先生の言葉通りならば……ユズからリョウヤへの信頼の形であること明白だ。ニマニマとした視線がリョウヤに集まり、視線を集めた当人は逃げるようにストローに口を付けていた。

 微笑ましいとばかりに小さく笑うと、先生は改めて対策委員会を見渡す。

 

「けれど何というか、ミレニアムで君達と会うのは新鮮だね」

 

「初めて来たけど、色んなお店が入ってて一日中いられそう……」

 

 珍しい光景なのは間違いがなかった。

 凄いと感動してきるセリカの言の通り、リョウヤ以外は初めてこのモールには来ているのだ。

 

「色々なお店があるので、目移りしてしまいますよね☆」

 

 ノノミがほくほくとした笑顔で、買い物が好きな女性らしい感想を述べる。

 

「パジャマも見たいですし……あ、夏に合わせて水着コーナーも多かったですね」

 

「水着……」

 

 アヤネは悪意も何もなく純粋に零したのだが、オウムの如く返したリョウヤは嫌な予感に表情筋が仕事を放棄していた。

 案の定、シロコが悪戯っぽく笑う。

 

「ん……リョウヤ先輩でも水着なら売り場に入れる?」

 

 続けて、ノノミが爆弾を投下した。

 

「一説によると、男の子が女の子に選ぶ服は同時に自分で脱がせたい服だとか」

 

 えっ!? とアヤネ、セリカ、シロコ、ホシノ、先生がぎょっとした後、照れたように頬を染める。

 

「そんなこと言われたら普通の服も選び難いだろ……と言うか誰に吹き込まれたんだ」

 

 ノノミからのキラーパスに、リョウヤは「興味深い説だが」と好奇心を刺激されながらも苦笑を浮かべてしまう。

 

「ヒマリさんです☆ ヒマリさんはリョウヤ先輩の服を選ぶ際に、偶然知ったと言っていました」

 

「あの時か……その話で思い出したが、俺にその手のセンスはないよ」

 

 ……と言うのも、義姉アリーセは服のデザインや作成を専攻としていた。義弟の着る服を楽しく選んでいたのだ。服に関しては丸投げにしていたリョウヤは、ファッションセンスが磨かれることがなかったのである。

 加えて、どちらかと言えば着られれば良いというスタンスでもある。TPOは意識するものの、部屋着には安売りされていた謎センスのシャツも多い。

 

「あー……」

 

 白の無地に林檎や蜜柑などのフルーツに手足が生えた絵のシャツを着ていたのは、先生ですら覚えがあった。まず間違いなくセットで安売りされていたのだろうシリーズのシャツだ。流石に外出時には着てはいなかったが、納得である。

 尚、外用は外用でセットアップを購入しているだけである。マネキン万歳! とリョウヤが戯けた。

 

「その話って……服を選んでもらったっていう?」

 

 セリカの疑問を「そう」と短く肯定したリョウヤの手はポテトに伸びていた。

 

「ホシノ先輩とのクリスマスデートに着ていく服を、ヒマリさん達に選んでもらったんですよね」

 

 楽しげに言って、ノノミはポテトを一本だけつまんだ。ちまちまと小口で咀嚼していく様は、正しくお嬢様である。

 

「水族館のチケットを渡したのが、クリスマスの一週間前……つまり……ホシノ先輩とデートする直前に、他の女の子とデートした……?」

 

「外聞が悪いにも程がある……!」

 

「実際にはウタハさん達も一緒だったそうなので、デートではなかったみたいです」

 

 歯に衣着せぬシロコに、リョウヤが複雑そうにツッコミを入れると、ノノミが「ふふっ」と笑ってフォローに回った。

 ホシノがアイスティーを意味もなくストローで掻き回し、カランコロンと氷を鳴らす。

 

「そう考えると、私達もミレニアムでのリョウヤは全然知らないねぇ」

 

 確かに、とシロコが頷く。アヤネとセリカも興味ありげな様子だ。四人の心情を悟ったノノミは得意げな顔を作ると、ゆっくりと語り出した。

 時期は去年のクリスマス直前。二人の後輩からプレゼントを渡されたリョウヤの行動は、翌日にチヒロへとアポイントメントとる所から始まっている。更にその翌日、ミレニアムを訪れたのだ。

 ヴェリタス部室にはチヒロだけでなく、コタマとハレ、ヒマリ、そしてウタハの姿があった。

 室内に、僅かだが虚を突かれたような声が響く。

 

「……大人数だな」

 

 ハレまで、とリョウヤは当時まだ一年生だったヴェリタスの生徒を見やる。ハレは「や、先輩」と挨拶した後「ここヴェリタスの部室だしね。外した方が良い?」と伺い立てた。

 

「いや、大丈夫だよ。ついでに聞いてくれると助かる」

 

 気にした素ぶりもないリョウヤに、ハレは素直に頷く。

 

「さて、相談がある聞きましたが……」

 

「連絡を受けたのはチヒロだけどね」

 

 本題を切り出そうとしたヒマリに、ウタハの鋭い指摘が炸裂した。

 

「……分かっていますとも。その事に関して聞きたいことはありますが、まずは相談内容を知らなくてはなりません」

 

「物凄く気にしているじゃないですか……」

 

「ま、まさか私に聞かれたくないなんてことはないですよね……?」

 

 ウタハの発言で一瞬硬直するも、ヒマリは自身に言い聞かせるように早口で紡いだが、今度はコタマの指摘に勢いを失速させ、何処か縋るように声を震わせる。

 

「私にも聞いてほしいんだから、部長に聞かれたくないなんてことないと思う」

 

「えぇ、えぇ! そうですよね、ハレ! 素晴らしい分析です!」

 

 テンションの落差が激しいヒマリを横目に、ウタハはリョウヤへ向かって挙手をした。

 どうぞ、とリョウヤが短く一言。

 

「ちなみにチヒロを選んだ理由は?」

 

「とりあえず通しておけば問題ないかな、と」

 

「それは正しいですね」

 

「違いない」

 

 何を隠そう、リョウヤの入校許可証を最初に発行したのもチヒロである。真面目なのは言うまでもない。

 何でもないように答えたリョウヤの意見には、コタマも全く持って同意だった。ウタハも首を縦に振っている。

 信頼を受けていたチヒロは喜色を滲ませ、コホンとわざとらしく咳払いをした。

 

「それでリョウヤ。相談っていうのは?」

 

 一転、リョウヤは気まずそうに頭を掻く。

 

「クリスマスに出掛けることになったんだけど……そういう時のちゃんとした服とか持ってないんだよ、俺」

 

 瞬間、そういう時! つまりはデート! とヴェリタス休憩室が色めき立つ。

 何せ皆、花の女子高生。恋愛事情には興味があるのだ。同時にハレ以外には「あのリョウヤが!」という感動もあった。

 リョウヤが「大袈裟な」とツッコミ、どうにか落ち着きを取り戻させると漸く本題……即ち着て行く服に関する相談を共有すると、全員にタブレット端末が支給されていた。

 画面に映っているのは所謂、実際に存在する服を組み合わせて確認できるアプリケーションだ。

 

「素材が細身だから、やっぱりシュッとした格好が良いと思う」

 

「スレンダーだからこそ、余裕のある服という選択肢もある」

 

「ワンポイントに眼鏡(グラス)は如何です?」

 

 ヒマリが一人タブレット端末を操作する傍で、チヒロ、ウタハ、コタマが楽しそうに、だが真剣に意見を出し合う。

 

「お洒落は我慢と言いますが、そこは頑張れますよね? デートなのですから」

 

「ああ、まぁ、うん」

 

 相談内容を打ち明けた直後、クリスマスデートであることを理解した一同から生温い視線を受けたリョウヤがヒマリの確認に肯首した。何処か曖昧な返答になったのは、後輩含め凡ゆる人間がデートと強調して来るからである。

 

「ツナギ……つまりオーバーオールなんてどうだろう?」

 

「エンジニアぽさを出そうとしてません?」

 

 コタマがウタハへ、じとっとした瞳を向けた。

 

「してないしてない……いや、本当に。今はお洒落なのも多いよ?」

 

 ほら、とウタハが持っているタブレット端末を引っくり返す。

 細身のオーバーオールに、上着を更に羽織ったモデルの姿があった。オーバーオールの内側にもシャツを着用していて、予想よりも見映えが良い。

 

「これはこれで纏まってるけれど、クリスマスデートにはそぐわないんじゃない? 可愛い系になっているし」

 

「む……」

 

 チヒロからの論理的な主張に納得したようで、ウタハは口を閉ざしてタブレットの操作を再開する。

 

「デートならやはり格好良い系ですよね。普段あまり見られない眼鏡でギャップを狙うのは、やはり有りなのでは……?」

 

「サングラス……いや、変に気取るよりも素直に伊達メガネが良いかな」

 

「さては二人、眼鏡をさせたいだけだな?」

 

「「そんなまさか」」

 

 ウタハから胡乱な目を向けられたチヒロとコタマ(グラスコンビ)は、わざとらしい程に清々しい笑顔である。

 

「リョウヤのパーソナルデータと、クリスマスという日付から算出されたラッキーカラーは赤。ラッキーアイテムは緑のニット帽。つまり……答えはこれです!」

 

 ヒマリがくるりと端末を翻す。

 画面を向けられたリョウヤがじっとコーディネートを見つめ、ややあって独り言のように溢す。

 

「クリスマスツリーを被ったサンタクロース……?」

 

 ごふっ! と吹き出したのは、リョウヤの後ろから画面を覗き込んでいた面々。

 全身が赤でコーディネートされているのも中々に特徴的だが、ラッキーアイテムと言った緑のニット帽、そしてクリスマスという時期もあり、確かにクリスマスツリーを被ったサンタクロースであった。開き直って、帽子の先端に星でも付けて欲しい気さえする。

 

「分かっていませんね。これは合理的な色でもあるんですよ?」

 

 ふふん! と鼻を鳴らすヒマリ。対して周囲は理解が及ばす、言葉を待つ他ない。

 

「時期は真冬。つまり寒いですから、赤はピッタリなのです!」

 

 自信満々なヒマリだったが、他の面々は要領を得ない。クリスマスに赤ならばサンタクロースが思い浮かぶものの、寒いと赤がピッタリというイメージがなかったのだ。

 最も早く再起動したのはリョウヤだった。伺うようにヒマリと目を合わせる。

 

「信号のお話?」

 

「信ご……あ、脳科学?」

 

「確かに赤は体温を上げるって言うね」

 

 リョウヤからヒントを得たことでハレとチヒロが続く。信号と言われて真っ先に思い浮かんだのは道路に存在する赤青黄の信号機だったが、流石の知識量ですぐさま思い至っていた。

 コタマとウタハも得心がいく。ついでに「確かに合理的ではある」と納得の表情を浮かべる。

 理解を得られたヒマリが花を咲かせた。

 

「とは言え――これはないわね」

 

「ないですね」

 

「ないね」

 

「“ない”はないでしょう!?」

 

 仲良きことは美しき哉。じゃれ合うように、ヴェリタスとエンジニア部の年長者がわいわいと部屋に声を響かせている。

 あーでもないこーでもない、と姦しさを増していく中で動く人影が一つ。

 

「こういうのとか、どう?」

 

 年上四人を横目に不意にハレがリョウヤに寄って、胸の前にタブレットを持つ手を差し出したのだ。

 

「ああ、良いな。何処がどうとかは言えないが……」

 

「マフラー巻くとこうで、スヌードならこんな感じ。これだけでも印象は結構変わると思う」

 

 リョウヤとハレが穏やかな表情でタブレットを眺めている横で、ミレニアム三年の四人に電流走る。

 ――本人の意思が大事だった! という、そんな当たり前のことに気が付いたのだ。

 最終的には六人全員でショッピングモールに出向き、実際にリョウヤを着せ替え人形とした。

 店員含め、周囲の人間を巻き込んでの服選びは閉店時間まで続いたのだ。

 結論を述べると、店員というファッションに携わる者の意見はやはり強かった。

 同時に、嫌と言うほど理解させれたことがリョウヤには一つ。……女性の買い物に付き合うことに拒否感はない。買い物にも荷物持ちにも楽しく付き合えるタイプだったが、着せ替え人形にされることは尋常じゃなく疲れるということだ。

 

「――凄い詳細にご存知ですネ!」

 

 リョウヤ渾身のツッコミは、フードコートの喧騒にあっという間に飲み込まれて行く。

 知られたところでどうこうではないものの、先にシロコが言った「デート直前に別の異性と出掛けていた」ことも、自分で服を選べないことも、率先して話すことではないのだ。

 その判断を下した理由に「格好がつかないから」が含まれないかと問われると、間違いなく含まれる。流石のリョウヤも羞恥心が刺激されてしまう。

 ノノミはビシッと敬礼した。

 

「チヒロさん達が話してくれました!」

 

「何でも共有するんだな……」

 

「最近は顔を合わせる機会も多いんです☆ 大手を振ってお会い出来るようになりましたから」

 

「さいですか……」

 

 言ってみて、ノノミがTS社に直接顔を出すようになったのはカイザー社との一件が落ち着いてからだったことを思い出したリョウヤ。

 それ以前、ノノミはTS社関連では書類仕事を対応してくれていたのだが、書類自体はリョウヤが会社から持って来た物をアビドスで捌いていた。TS社に顔を出した経験はほぼなかったのである。チヒロ達と直接顔を合わせた経験もなかった。

 ノノミの今の心から楽しそうな表情から、チヒロ達ときちんと会って話すことを喜んでいることが分かったリョウヤは、瞳に複雑な感情を映していく。

 

「ああいや、その辺りは気を遣わせてごめん」

 

 気にした様子もなく、ノノミは優しく微笑む。

 結果としてカイザーPMC理事ですら、TS社の社長を把握できていなかった。その甲斐あってリョウヤには社長との交渉期間が設けられ、時間的猶予を得たのだ。確かに意味があったと知っていたのである。

 

「いえいえ、私も納得してミレニアムの皆さんと会うことは避けていましたから」

 

 ノノミは最低限ではあるが、電話等でヒマリ達と繋がり自体は持っていた。ヴェリタスは通信記録を改竄できるからだ。それでも会うことを避けたのは、リョウヤ達への誠意だった。

 今になって制限がなくなり、TS社でも顔を合わせる機会が増え……顔を合わせた時に共通の話題になりがちなのは、やはりリョウヤを中心とした出来事なのだ。

 二人のやりとりに一同が笑顔を浮かべる。

 ホシノも「うへへ」と溢し、目を細めていた。その胸中としては“自分とのデートの為に四苦八苦してくれていた事実”への照れが大半を占めていたのは胸に納めておく。

 

「ちなみにこれ、実際に二人が撮った写真」

 

 シロコが携帯端末をテーブルに置くと、初見だった先生の顔が大きく崩れる。

 ベージュのキャスケットを被りショールを羽織るホシノと、マフラーを緩くワンループ巻きして眼鏡を掛けたリョウヤが映っている一枚だ。

 ぐっと伸びた手から、ホシノの自撮り写真であることが窺えた。

 自撮りの特性上、見られるのは顔と上半身の一部だが、きちんと着飾っているのも分かる。

 背景には多種多様の魚が映り込んでいて、水族館特有の神秘的な暗所だ。

 顔を寄せ合う二人の笑顔は、薄闇の中で煌々と輝いていた。




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