星屑の夢   作:ハレルヤ

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明けましておめでとうございます。


8-2.補習授業部とのスタート②

◇0

 

 

リョウヤ

[おつかれさまです]

[初回と二回目の答案確認しました]

[ヒフミ、アズサ、コハルに関しては恐らくどうにかなると思う]

 

先生

[ありがとう、おつかれさま!]

[ハナコちゃんの名前がないけれど……]

 

リョウヤ

[ハナコは多分、俺がどうこう出来るものじゃない]

 

先生

[確かに点数は一桁だけど、]

[普段は教える側で頭は良い筈なんだよ]

 

リョウヤ

[なら、やっぱり俺には難しいと思う]

 

 そんなモモトークが交わされて数日後、リョウヤの来訪二回目。天気は風もない晴れ。

 

「出来るって言ってるのに……なんで試験なんか……」

 

 キラキラの陽光とは真逆に、ぶちぶちとぼやきが溢れる。

 未だに追試を受けることに納得のいかないコハルは、不貞腐れたようにシャープペンシル握って教科書を睨みつけていた。既に事実を受け入れていたように見えていたが、疲れとストレスから思わず出てしまった本音のようだった。

 テキストを片手に近くを通ったリョウヤが僅かに考えて、誰に向けたわけでもなく口を開く。

 

「俺もなんだかんだで資格試験は結構受けてるが、それらは知識の確認の意味合いが強いか」

 

 出てきたのは、改めて考えることがなかった事……試験を受ける理由である。

 

「第三者による確認だね」

 

 先生はぽつりと補足をすると、小さく唸る。試験を受けた経験は勿論ある。だが、どうして試験を受けるのだろうか? というのはリョウヤ同様で、言語化した覚えのない話題だったからだ。しかし時間を掛けることもなく、自然と言の葉は紡がれた。

 

「学校のテストは……今の自分が何処まで出来るのかっていう自己確認が大事かな?」

 

 言い聞かせるように自論を展開していく。

 透き通る声に、生徒達の意識はすっかり話に集中していた。

 

「学校の勉強が嫌いなのは……仕方がないことでもある。ただきっと本当なら、知らないことを知るのは楽しいことのはずなんだ」

 

 そうかなぁ? と言わんばかりに表情を彩ったコハルを視界に収め、先生はくすりとした。

 

「けれど勿論、それを楽しいと思えない人もいる。色んな事に興味がいっちゃう歳でもあるから、勉強だけに集中できなかったりもするしね」

 

 私もそうだったから気持ちは理解できるよ、と優しく諭す先生。

 娯楽が過多となった世の中は楽しくもあり、そんな楽しさを後回しにしなくてはならない苦しさもある。

 自制の心が試される機会は、どうしても多い。

 大人の先生でもそんな風に思うのか、という驚き。若しくは当然かという納得。それぞれ違うが似通った感想をヒフミ達は抱きながら、先生の言葉を黙って待つ。

 

「ただ……嫌いな事と怠ける事はやっぱり違うし、やる前から投げ出しちゃうのは勿体無いかなぁって。ほら、やってる内に好きになるかもしれないし!」

 

 パチンと綺麗なウィンクをもって、先生は締め括った。

 先生の語りをじっと眺めていたリョウヤは閃いたように「キッチンある?」と、ヒフミへと声を掛けた。こっちです、と案内されて行き……ヒフミだけが先に戻って来る。「どうしたの?」「よく分からないんですけど、グラスに水を注いでいました」そんなやり取りから数分。

 リョウヤが戻って来た時、その手には五つのグラスを乗せたトレイの姿があった。

 グラスは配られるわけもなく、トレイごとテーブルに置かれる。

 タイミング的に休憩用の飲料とも思え難いが、リョウヤが小さく手招くとなんだなんだと近くに皆が寄っていく。

 グラスの中身は透明であるものの、近くでよく見ると赤い粉も混ざっているようだった。

 

「これ、水に砂糖と唐辛子を同量溶かしたものなんだけど、味はどうなると思う?」

 

 そして想定外の問い掛けが投げられた。

 あまりに突拍子がなく、ハナコ以外は思考が一瞬だけ止まってしまう。

 硬直を経て、困惑にグラスとリョウヤへ視線を行き来させたのはコハルだ。隣で先生が顎に手をやって考え込む。

 

「砂糖は溶かすとドロッとしますし……甘さの方が勝つような気がします」

 

「辛い方が強そうだ。催涙弾には唐辛子を使うものもあるから」

 

 きちんと根拠を伴って素直に答えたヒフミとアズサを、交互に見やるコハルは「無味むしゅっ……無味!」と宣言した。問題とは関係のない香りに関してまで言い掛けてしまった所に勢いの強さを感じさせ、同時に愛らしさという形の癒しが周囲に振りまかれる。ハナコが笑みを深くした。

 

「甘さと辛さの中間……しょっぱい……すっぱい……いや、安直だなぁ」

 

 先生が唸っているのを横目に、リョウヤはご機嫌なハナコと目を合わせる。

 

「知ってそうだな?」

 

「ふふ、はい。これは是非実際に飲んでみて欲しいですね」

 

 ハナコの希望を聞いて楽しげに首を縦に振ったリョウヤに、コハルが渋面を作る。無味と予想していても、唐辛子の入った水を飲みたくはなかったからだ。それはヒフミとアズサも同様のようで、誰一人として腕を伸ばさない。

 そんな中で、躊躇いがちにグラスを手に取ったのは先生だった。ヒフミが気遣うような視線を向ける。

 

「せ、先生……良いんですか?」

 

「これくらいはね。それに、考えてみると辛すぎるってことはないのかな? って」

 

 リョウヤがどれだけの量を溶かしたかは定かではないものの、あくまで常識の範囲だろうと先生は当たりをつけたのだ。

 それでも決して気乗りはしない。緊張した顔つきでグラスを小さく振り、半分も入っていない水面を揺らして弄ぶ。

 

「い、いただきます! ……!!」

 

 ややあって、迷いを見せながらも一気に口に含んだ先生の瞳がカッと開く。

 

「ど、どうなの? 大丈夫……?」

 

 なんだかんだで気になっていたコハルが上目遣いに問い掛けた。

 

「甘くて辛い……! 辛くて甘い! 何これ何これ何これ!? 凄い不思議な味!」

 

「アリスみたいな反応を」

 

 えー! と感動と驚きに包まれている先生に、既視感を覚えたリョウヤは頬を緩める。

 

「甘くて辛い……!」

 

「ほ、本当だ……え、凄く不思議な感じです!」

 

「かっ、辛っ……でも甘い……! なんで同時に来るの……!?」

 

 先生に好奇心を刺激されてアズサ、ヒフミ、コハルがグラスに口を付けると、やはり似たような反応となっていた。

 何故? どうして? と舌に訪れた正反対の感覚に、四人の好奇心が回答を知る二人に集まる。

 

「甘味は味覚で感じますが、辛味は痛覚なんですよね」

 

「ああ、それぞれ違う感覚だから一緒に味わえるんだ」

 

 満足そうにピッと人差し指を立てて解説するハナコを、リョウヤは愉快げに肯定した。

 

「あ、言われてみると納得です!」

 

 ヒフミが感嘆する。

 アズサも興味深かったのか、もう一度グラスに口をつけている。コハルも理解はしつつも、尚も不思議そうに透明な液体を眺めた。

 辛味が痛覚というのは、比較的有名な話だ。何処かで聞いた記憶がある。

 しかし、同量の辛味と甘味を同時に味わうとどうなるのか? というのは中々知り得ない知識だった。

 

「……こういう授業もしてくれるなら、そりゃセリカちゃんも勉強に楽しさを見出すわけだ」

 

 うんうん、と感心に一人頷く先生。

 

「持ち上げてくれてる所に悪いが、俺も最初は盛大に失敗してる」

 

 リョウヤはクッと笑った。それは誰の目に明らかに自嘲だった。

 失敗談を晒すのは抵抗がある。だがチヒロからされた「ゲーム開発部に昔のリョウヤの話を共有した」報告に、先生からの「何か思う所はあったみたい」という報告を思うと、意味があるかもしれないと思わざるを得ない。

 思い出を遡るように、リョウヤは置かれたグラスの水面を見つめた。

 

「アビドスでは去年、体験入学を募集したんだが……事前に勉強会って形で人を集めたんだ」

 

 ちなみに、発案者はノノミだったりする。リョウヤにもホシノにも無かった考えだったので、一度話し合ってすぐに採用された経緯がある。

 先生は勿論のこと、ヒフミ達も知らなかった話だ。興味ありげに耳は傾けられていく。

 

「初回は多少、人も集まったんだが……二回目以降は集まらなかった。ぶっちゃけ、残ったのは今年アビドスに入学してくれた二人だけでな」

 

 飛び出して来た言葉は、小さな衝撃だった。

 

「俺としては普通の授業のつもりだったし、それこそ同級生にも当時一年だった二人の後輩にも試験運用として勉強会の内容を披露して……問題ないだろうとお墨付きも頂いていた」

 

 寧ろホシノ達からは好評だったのだ。だからこそ結果として上げて落とされる形になってしまったのは、正直中々に堪えた。

 

「――んだが。普段から勉強慣れしてないとしんどいのか……酷く退屈な内容だったらしい」

 

 理解し易さや効率に重きを置いた授業は、様々な問題で時間を削られているアビドスだからこそ活きるものだった。だがそれは、時間に余裕がある者からすれば面白味がなく、悪く言えば淡々と進むだけの内容なのだ。

 為にはなっても、楽しくはない。

 また、リョウヤが実施したのは学校の授業に近いものになっていた。つまり生徒が中心に行う勉強会とは、認識に温度差があったのもよくなかったのだろう。

 先生は複雑そうに目を伏せた。

 

「同級生のホシノちゃんや、後輩のシロコちゃんとノノミちゃんはリョウヤくんの授業に慣れていて、きっと当人達のやる気もある。だからこそ、フィルターが掛かってしまっていた……のかな」

 

 そういうこと、と短く返して首を縦に振ると、リョウヤの口は一度音もなく空気を揺らす。

 

「贔屓目のない授業は魅力もなかったんだろうさ」

 

 何処か寂しさを感じさせる声音には、やはり当時の感情が滲んでしまっていた。

 

「自分と離れた……内面的に反対の人の心情は容易く理解できないなんて言うが、実際その通りで。学びを得られる環境にいながら、自ら蹴っていく人の気持ちを俺は想像できていなかった」

 

 結局、リョウヤもまた子供だったのだ。

 心の何処かに自分がそうなのだから、と決めつけていた部分があったのだろう。

 

「学ぶことは楽しいことだし、勉強が出来るのは贅沢で、恵まれたことだって思っていたんだ。機会があるなら誰だって望むだろって」

 

 自覚はないものの、リョウヤ自身が孤児であり、他人のお世話になっているからこそ率先して真面目に学んでいたという節もあったのかもしれない。

 また、言い訳に使いたくはないが……ホシノもシロコもノノミも、望んで学ぶスタンスだったこともあり余計に決め付けは強くなっていた。

 けれど現実、勉強会どころか体験入学すらしてくれたのは二人だけになってしまった。

 心に刺さる出来事だが、それでも既に切り替えの済んだ出来事なのであろう。一同の暗い顔に気が付いて笑い掛けたリョウヤの笑みは、カラッとしている。

 笑みに釣られて、空気が弛緩していく。

 

「世間的には……それは大人が喜んで肯定する考え方ではあるんだよね。子供に対して求めるスタンスとでも言うのかな……率先して勉強をして欲しいからこその理由付けというかさ」

 

 寂しげな微笑みで返した先生が吐き出したのは、一人の大人としては思わずにいられない本音だった。

 

「でも……参加者が一転していなくなってしまったのは、しんどいですね……私だったら暫く立ち直れないかもしれません」

 

「ま、そりゃな。俺も相応にダメージはあったし」

 

 悲しげなヒフミに、リョウヤは軽い調子で肩を竦めた。

 何よりしんどかったのは、皆が少しずつ集めて来てくれた勉強会希望者達の大半を失ってしまったことだ。

 ホシノもシロコもノノミも、リョウヤを責めることはしなかった。寧ろ「自分達も悪かった」「自分達は好き」だとリョウヤを励ました。自分達も凹んでいるのにも関わらず、他人を気遣う優しさの中にある悲しげな姿が、どうしようもなく辛かった。

 

「ただ、勉強になったのも確かだ。退屈な授業をしてしまった俺にも責任はある。それで想定していたカリキュラムにメスを入れた。興味を持てるように、楽しくなるように、達成感を得られるように」

 

 傾向と対策だね、と先生が呟く。

 リョウヤは首肯を返した。

 

「それで緩急をつけることにした。座学だけでなく……体験を伴う形を増やして、実験のようなものを合間合間で挟むようにしてみたり」

 

 二回目にして寂しくなってしまった勉強会で、アヤネとセリカはすぐに授業内容の変化に気が付いた。楽しく学ぶ為の工夫を、講師役を務める先輩は実践し始めていることに。

 それは紛れもなく自分達の二人の為であり、回数を増す毎に他の先輩達も巻き込んだ息抜きに似た実験は間違いなく楽しい思い出としても糧になっている。

 

「どんなに小さな事でもさ、知らないことを知ることは……楽しかったろう?」

 

 今回の話をする切っ掛けとなったコハルにリョウヤが目を合わすと、先生は目を大きく開けてしまっていた。

 リョウヤは先の自分の話を聞いて、知らないことを知る楽しさを実体験をさせようとしてくれたのだ。

 コミュニケーション能力に難があったことは事実なのだろう。だがゲーム開発部とのやりとりを思うと、切っ掛けになる言葉さえあれば道筋を立てる能力はきちんとあるのだ。

 こんな事を言うべきではないかもしれないけれど、と先生は弾みそうになった声色を努めて抑えて前置いた。

 

「ぶっちゃけ、学んだことを試験後に忘れても構いやしないんだよ。また学び直せば済むんだから。スマホだってある、本だってある。人に聞いたって良い」

 

 補習授業部の面々を見渡して、それぞれと目を合わせると、ふわりと笑顔を浮かべる。

 

「だから気を楽にして、けれど真剣に……皆で頑張ろう?」

 

 

◇1

 

 

「つまり……さっきの公式を当て嵌めて……こう……?」

 

 リョウヤを伺うように見たコハルは、所属している委員会の副委員長である羽川ハスミを尊敬している。

 そしてハスミは、自分より周囲を優先する傾向にあった。見ようによっては、自分の失敗を誰かの糧にする為に打ち明けたリョウヤも自分よりも他者を優先したと言えるだろう。

 

「流石。すっかり解けるようになったな」

 

「ふ、ふん! 当然よ! 元々ちゃんと理解してるんだから!」

 

 ハスミの性質は、現在の講師役にも似通った点がある。

 例えば面倒見の良さ。

 例えば冷静で穏やかな様。

 と、何が言いたいのかというと――コハル、三回目の来訪にしてリョウヤに懐く。

 多少キツイ物言いをしても気にすることのないリョウヤは、人見知りの気質を持ちながらもツンツンとしてしまいがちなコハルにとっても気楽な相手になっていた。

 先生の言葉を受け入れ、知らないことを知る楽しさや、解けなかった問題を解く楽しさを、頭の片隅で意識して学べるようになったことも大きい。

 スラスラと文字を書けていけるのは気持ちが良かった。褒めてくれるのが嬉しかった。

 

「教えるのが上手い。教え慣れているというのも分かる」

 

「それに褒めて伸ばすタイプだから、気を張ることなく学べるんだね」

 

「なんとなく想像通りではあります」

 

 可愛がっていた子を奪られたに近しいハナコが「この気持ちは一体なんなのでしょうか……」とコハルとリョウヤを恍惚と眺めているのを無視して、アズサと先生、ヒフミが首を縦に振り合う。

 リョウヤは言わなかったが「きっと教え方自体も色々調べたんだろうな」と先生は察していた。でなければ……自己完結人間などと呼ばれていることもある人間が、他者への教え方を熟知しているわけがないのだ。

 終始和やかな時間は流れ、休憩時間。

 各員に冷たい飲み物の注がれたグラスが行き渡ると、早々にハナコがした提案は部屋中に衝撃を与えることになる。

 

「折角ですから、リョウヤさんともっと友好を深めてみませんか? セから始まる遊びで」

 

 ゴフッ! とコハルが飲んでいたアイスココアを勢いよく吹き出した。

 

「せ、セから始まる遊びですか……?」

 

 ヒフミが頬を微かに桃色に染めつつ、視線を逸らしながら問う。まだ答えを出すには早い。早いのだが……ハナコの気質を把握しているが故に、嫌でも思考はピンク思想に引っ張られてしまう。

 ハナコを睨むコハルはケホケホと咽せ返っており、先生に口周りをハンカチで拭われている。

 アズサとリョウヤは、素直に考え込んでいるようだった。しかし流石に情報が足りず、黙ったままである。

 

「ヒントその一、三文字目がクになります」

 

 ニコニコのハナコへ、顔を真っ赤にしたコハルが叫ぶより先に回答者が現れた。

 ――リョウヤだ。

 

「せいくらべ?」

 

 せいくらべ。背比べ。文字通り、背を比べること。幼い子供が友人同士ですることもある遊戯の一つである。

 アズサは「なるほど」と短く感心し、すぐに「けれど一見してリョウヤが大きいことは分かってしまうからゲームにはならない」と足した。

 リョウヤは「それもそうか……俺、遊びには疎いからなぁ」と、アズサに苦笑を返している。

 表情筋が仕事を放棄したのはハナコだけではない。

 この二人、ピュア過ぎでは? とヒフミとコハル、先生ですら考えた。

 ただ一人、先生だけはリョウヤが故郷で受けた教育を知っている。すぐに思い当たった。

 

(思考が下ネタへ行き難いのかな……?)

 

 実の所そのリョウヤも、既にハナコからの洗礼は済ませている。

 赤ちゃんは何処から来るんですか!? そんな質問を初日にぶん投げられていたのだ。

 尤も効果は薄い。医者であるリョウヤに動揺は欠片もなく、それはもう懇切丁寧に生物の成り立ちを解説していた。

 人間に限った説明ではなかったので保健体育、或いは理科の授業だろうか。

 実は俺も出産を手伝ったことがあるんだ、と実体験を踏まえた解説は非常に為になるものであった。誰一人として茶化すこともなく、最初の授業とも言える一幕は閉じられたのだ。

 余談だがこの時点で一度、コハルは尊敬の眼差しをリョウヤに向けていた。あのハナコを黙らせた……! と強い驚愕に襲われたからである。この出来事があったからこそ、早い段階でリョウヤに心を開いたのかもしれない。

 ハナコとのそんなやりとりを経て尚こうもピュアなのは、先生も少し違和感を覚えてしまう。

 

「確かに当て嵌まりますが不正解です」

 

 こほんとわざとらしい咳払いの後、再起動を果たしたハナコはめげない。

 

「続いてのヒントは四文字で……」

 

「エッチなのはダメっていつも言ってるでしょ!」

 

 見事なツッコミが炸裂し、ハナコは破顔した。欲しかった反応であったことを隠せていない。そんなハナコに、ヒフミが乾いた笑いを浮かべた。

 

「エッチ……ああ、遊び……まぁそうも言えるか。言えるというか、遊びと捉えている人もいるか」

 

 コハル渾身の叫びを聞いて、漸くリョウヤも得心する。後半の声は僅かに、だが確実に重くなっていた。

 医療に携わる者としては、笑い飛ばすことが出来そうになかったのだ。遊びと捉えて欲しくはない、というのが本音だった。

 

「病気の対応も出来るから、何かあったら連絡してくれたら内密に診るよ。後、余計なお世話かもだが――ちゃんと避妊はしなさいネ」

 

「え、あ、いえ……すいません……私が遊びと捉えているわけでは……」

 

「大丈夫。俺は医者だから、その辺にも理解はあるつもりだ。女性にもその手の欲求は当然ある」

 

「そ……そもそもですね、私には経験がな――」

 

 不特定多数と関係を持っていることも疑われ、性病の可能性を挙げられ、挙句に避妊するようにとまで注意を受けたハナコは余計な情報を出し掛けて再度フリーズを起こす。

 訂正はスンと冷めた表情で始まったが、薄桃に染まってしまっていた頬は隠せようがない。

 

「ふ……ふふ、見事な誘導尋問ですっ」

 

「完全に自爆だったでしょ……」

 

「自爆でしたね……」

 

 コハルとヒフミ。頬を薄っすらと染めた二人からの呆れ混じりのツッコミに、ハナコは「コハルちゃんとヒフミちゃんにも辱められてしまいました」と無敵である。

 ブレないハナコに苦笑を誘われながら、先生がリョウヤを見やってしみじみと溢す。

 

「リョウヤくん、お医者様だもんねぇ……そうなるよねぇ……」

 

「そうなるがどうだか分からないけど、言っておいた方が良いかなと。でもセクハラで訴えるのはやめてほしい」

 

「そこは私達も証言できるから、訴えられたところでだけどね。いや、そもそも訴えたりしないだろうけども」

 

 リョウヤとて本気で言っているわけではないのだろう。しれっと叩かれた軽口に、先生はからから笑って返すのだった。




年末年始の挨拶は大事と存じます。そんな思いから十二月三十日と本日の投稿となりましたが、結果として12/01→12/30→01/01と月始が同日に。
というわけで、Vol.3 エデン条約編第1章及び第2章からなるenchant.3は一日と三十日の月二回を目安に投稿したいと思います。

ハーメルンに於ける個人的な抱負は……去年の投稿数である十六話を超えること! です。はい。いや……最低限でも同じ位は投稿したいですね。

それでは、今年もどうぞよろしくお願いします。
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