星屑の夢 作:ハレルヤ
◇0
「あっ! 雨!」
唐突に先生が声を上げ、一瞬意味が分からずにコハルが目を丸くする。
直後に窓へ視線を向けると、まだまだ小雨だが確かに水滴が落ちて来ていた。
「……洗濯物!!」
数秒置いて、勢いよく立ち上がったのはヒフミだった。
五人が大慌てで体を翻して行くのを、リョウヤは一歩引いて追いかける。
庭先に着くと補習授業部はすぐさま服に、先生が布団やシーツに駆け寄るも、リョウヤは「おっと……」と動きを止めてしまう。
気が付いたのは、最後尾にいたコハルとハナコだった。
「……?」
どうしたの? と言いたげな小動物に似たコハルの瞳が、上目遣いにリョウヤへ向けられる。
「コハルちゃん、コハルちゃん――ア・レ」
「!? ワッ……わああああぁぁ!!」
照れ顔でハナコが指差す先の物に視界に捉えて、コハルは顔を真っ赤にして声を荒げる。
ピョンピョンと跳ぶコハルは両手を上に伸ばしていて、どうにかリョウヤの視界を塞ごうと奮起していた。
室内から出てこない面々がいるという異常に気が付いたヒフミも、ハナコが指差した事で事態を把握したようで、ハッとなると頬を薄く染めて取り込む優先順位を変えて回収に取り掛かっていた。
「ダメっ! 見ちゃっ!」
洗濯物を干す際、敷地の外側に布団を置く場合が多い。所謂、目隠し代わりだ。そして内側には見られたくない物が干される。
リョウヤが足を止めた理由は一般的に見られたくないであろう服……下着を見てしまったからだった。
――葛葉邸での生活を経て、アビドスの女子生徒陣はリョウヤに下着を見られることに慣れてきてしまっている。
洗濯そのものは女子達が対応していても、庭に干されていたり、取り込んで部屋の隅に畳まれていたり、脱衣所に着替えとして置かれていたりと、一緒に暮らしている以上はどうしても視界に入る。
率先して見ることも見せることもしないものの、こればかりは仕方のない事だった。
言ってしまえば「気にした所でどうしようもない」のだ。
今日のように唐突な雨には、リョウヤも干された服を取り込む為に動くこともあるくらいだ。
だからこそ、寸前まで手伝えると判断してしまっていた。
感覚バグってたなぁ、と反省しつつもリョウヤは「分かってる分かってる」と困り笑いで体を反転させる。
「洗濯籠でも持ってくるよ。洗い直す必要もあるだろうし」
ひらひらと片手を振って、リョウヤは後ろ姿を晒すのだった。
◇1
それから更に時間が経過するも、雨音は止むことがない。どころか、強くなっていた。
「荒れたな……」
シャワーを浴びるかの如く窓に吹き付ける雨。時折り聞こえてくる雷の轟音に、走り抜ける閃光。
雨はあれからも降り続き、リョウヤが帰る予定の時間の空は神立となっていた。
「日中の雨と夕立が重なってしまったのかもしれませんね」
雨に濡れてしまったが故に制服から体操服に着替えたヒフミは、リョウヤの隣で窓の外を眺めながら「あはは……」と同情混じりの笑いを溢す。
「夕食はご一緒しますか?」
「いざとなったら泊まってもいけるよ。部屋は余ってるからね」
何故か学校指定の水着姿のハナコと、親指と人差し指でokを作る先生からの提案を受けて、一先ず前者を受けると決めたリョウヤはモモトークを起動した。
ヒフミ、ハナコ、アズサ、先生、リョウヤと眺めてコハルは違和感に小首を傾げた。
「……?」
雨に濡れた洗濯物を取り込んだ際、制服は雨に打たれてしまっている。干していた物も、濡れたり跳ねた泥に汚れたりと再洗濯を余儀なくされた。
一先ず洗濯済みの体操服を着る事にしたのが補習授業部なのだが、一人だけ服装がおかしい。
誰も指摘はしなかったが、本当に何故かハナコだけは水着で姿を現していたのである。あまりに自然体だ。
「なんで水着!?」
抜群のプロポーションを惜しげもなく晒しているハナコへ、コハルのツッコミ混じりの批難が炸裂した。
良い声、とリョウヤが呟く。
「実は昨日、体操服を洗いそびれてしまって……先ほど制服と一緒に洗濯機に入れてしまいました♡」
嘘か真か、何処か気持ち良さげな表情のハナコを見ても判断はつかない。
「それとも……コハルちゃんは私に脱げと言うんですか? もう、仕方ないですねぇ」
「言ってないし言わない! エッチなのは駄目! 死けぇ……あああああ! 何本当に脱ごうとしてるの!? 馬鹿じゃないの!?」
既に洗濯機は稼働させてしまっている以上、体操服が着れないのも事実なのだろう。
ハナコのコハルに止められる前提の奇行にヒフミと先生も慣れたものなので、頓着の無いアズサも含めて気にした様子は絶無だった。
「ま、まぁ、ハナコさんが水着で良いなら構わないですが……」
「リョウヤくんも平然としているしね」
「だから言ったろう? 平気だって。そもそも問題あったら診察にも支障が出るしな」
そんなやり取りから十分程経過すると、普通に犯罪だから! と憤慨を経たコハルも今はすっかり落ち着き、銃火器の整備をしているアズサを興味深そうに観察している。ハナコは頬に手をやってツヤツヤしている。
いつしかアビドスでシロコや先生が、ミレニアムではモモイとミドリが言ったが、洗練された動きを見るのは楽しいことだ。
パズルのピースを迷いなく嵌めるが如く、アズサは床に座って愛銃を組み上げていく。
「手早いな。それに丁寧。良い仕事だ」
「……うん、扱う武器の整備は重要だから」
モモトークでの連絡を終えたリョウヤが口笛でも吹くように感心すると、アズサは顔を向けることもなく淡々と応じる。だが褒められた事自体は嬉しいのか、声は一トーン弾んでいた。
(“丁寧”って
先生が一人こっそり縦に首を振った。
キヴォトスの住民は大抵が銃の手入れに慣れている。だからこそアズサの整備を見ても、出てくる感想は「早い」に留まるだろう。
ここ暫く、リョウヤが発揮しているのは講師としての
そんな言うなれば後方理解者面の先生に気が付くこともなく、リョウヤは唐突に問い掛けた。
「バイトとか興味ある?」
ぺたんと床に敷いたシートに座り込んでいたアズサがゆっくりと顔を上げた。
「それは……自分で使えるお金が増えるということ?」
「そりゃ当然。基本は時間換算の月払いだけど、日払いでも週払いでも対応できる」
補習に参加する以前までは好きでなかったものを、アズサは好きになっている。ヒフミから勧められたモモフレンズだ。
グッズに手を出すのなら、当然お金が必要である。あればある程良いのは言うまでもない。
アズサの心の内を知ってか知らずか、閃きを得たリョウヤのプレゼンテーションは続く。
「もうすぐ夏休みだろう? 寮にも空きがあるし、数日詰め込んだだけでもそこそこ稼げるよ」
「夏休みの短期バイトって奴だね! 懐かしいなぁ」
懐かしそうに目を細めた先生もあって、アズサの興味は更に増したようだ。
「先生も経験が?」
「昔ね。私は普段バイトはしていなくて、長期休暇に短期のバイトで稼ぐってスタイルだったんだ」
アズサからの問い掛けを肯定して、先生は人差し指をピンと立てる。
「バイトは社会を経験するのに手っ取り早い手段の一つで、お給料も出る。私としては学生のうちに一度はやってみて欲しいかな」
しかもTS社なら闇バイトの心配もないしね! とウィンクをして締め括られる。
「TS社……?」
「あれ? 違った?」
きょとんとしたアズサを見て、確認の視線をリョウヤに流した先生。返答は「違くない」とこちらも僅かに驚いた様子である。
直後に「えっ」とコハルまでもがアズサと同様の考えだったような反応をした事で、リョウヤと先生の驚きは加速した。
「……てっきりアビドスの見回りかと」
あー……、と四人――リョウヤ、先生、ヒフミ、ハナコの納得が重なる。共通点は恐らく、リョウヤがTS社の創始者である事が既知であったことであろう。
リョウヤは当事者。先生とヒフミは対策委員会との繋がりがある。そしてそもそも、リョウヤが創始者である情報も既に広まっている。ハナコが知っていても何も可笑しくはない。反対に、知らないのも仕方がない。大々的に宣伝はしていないからだ。
加えて、アズサとコハルは日中にした話が尾を引いていたのである。また、そちらに人の手が足りていないのも事実だった。
「それはそれで有り難い話だが、今の誘いはミレニアムにあるTS社工場での物作りだよ。学区内じゃないんだけど、トリニティ近くに工場を増やす予定があってな。望んでくれるなら、予め
スカウトは専門じゃないんだよ俺、と言い訳をしながらも「ごめん、言葉が足りてなかったな」とリョウヤは誤魔化すように笑んだ。
「私は見回りの方が向いている……と思う。何より慣れているから」
「手先は器用なようだし、学習意欲も高い。俺は向いていると思うが……」
言葉が足りていなかった事に不満のないアズサは素直に口にして、リョウヤが「そう?」と首を微かに傾げながらもアズサ同様に所感を溢した。
とは言えアズサ自身が言うのなら、とリョウヤも切り替える。
「見回りは……いや、物作りも一人でやるもんじゃないんだが、見回りをやるならチームを組んでやって貰うことになる」
見回りを募集する事は対策委員会の定例会議で議題に上がったのだが、当然その時点で単独でいたセリカへの襲撃及び誘拐の前例が全員の頭を過った。
個人で動いて貰うわけにはいかない、とすぐに結論がつけられている。
「実力は勿論のこと、連携や信頼関係が重要という意味では、最初からある程度見込める補習授業部まるまるスカウトしたい所だが……こっちの仕事は俺達も話を纏めて切れてないんだよなぁ」
戦力的にも一定水準が求められる故に、雑にバイトを募集するわけにもいかず、実際に誘ったのは
誘ったと言っても、ミレニアムですれ違った際にリョウヤが「興味ない?」と聞いてみただけである。
ちなみに秒で拒否られた。あまりに予想通りなので、リョウヤは思わず笑って返してしまった。
先生が自身の顎に手をやる。
「将来……TS社でバイト経験があるのは強味になるよね。確か今まで一度もバイト募集はしてなかったと思うし」
「未来でどうなってるか分からないけどな」
「でも現状、会社はどんどん大きく有名になってる。だから工場も増えるわけでしょう?」
「んー……まぁね」
先生が持ち上げ過ぎている気がしてリョウヤは口を挟むが、率先して会社を潰すような真似をするつもりも毛頭ない。ミレニアムの協力者達を考えると、潰れる可能性も万に一つないだろうと思えてしまう。そこには、姉貴分達への圧倒的な信頼があった。
そして現状、上手く回っていることも事実なのだ。
「アズサちゃんが未来で何をしているかは分からないけど、もし何かを作る企業に勤めるのなら確かな資産になると思う」
「そうじゃなくても、履歴書に書いて有利に働く可能性はありますよね」
「……そんなに凄いの? 私、あんまり詳しくないんだけど……」
先生とヒフミの高評価具合に、コハルがおずおずと割り込んだ。
仕方がない事ではあります、とコハルに寄り添いつつ答えたのはハナコである。
「トリニティではあまり有名ではないので、知らなくても無理はありません。どうしても
若しくは……意図的に流行り過ぎないようコントロールしている者がいるかもしれない――そんな邪推をハナコは表情を変えることなく飲み込んだ。
瞬間、話を遮るが如く一際強く閃光が走り抜けた。
ほぼ同時に轟音が鳴り響くと、ビクン! と揃って大きく肩を跳ねさせる。
「っ、停電……?」
「……の、ようですね」
明かりが落ちたのも同時だった。こちらには特に大きな反応はない。
ぴっ! と小さな悲鳴を上げたコハルは僅かに不安を滲ませてヒフミに寄り、肯定の返事をしたハナコはコハルに選ばれなかったことが残念なようだ。
天気は荒れていても夏の夕刻。薄暗いものの、真っ暗ではない。赤みがかった空は不気味で、家の中はかなり暗くなっていても室内が見えない程ではないのは幸いである。
パッ、とリョウヤが工房からランタンを取り出した。手元に現れたソレをテーブルに置くと、スイッチ一つで周囲を照らし出す。それだけでも、不思議と安心感は増していく。
「ブレーカーが落ちたのかな?」
あー、と面倒そうに先生が天井のライトを眺めた。
「俺が見てくるよ」
「あ、それくらいなら私が……」
すぐに反応したヒフミを、リョウヤは片手で制す。
「壊れていた場合、そのまま直せるかもしれないから」
「では私が護衛に。落雷に合わせてブレーカーを落とし、その隙に侵入して来た者がいるかもしれない」
至って真面目な様相のアズサに、リョウヤは「なるほど」と小声を発した。
納得の言葉に不思議がるのはコハルだ。納得するんだ……? と素直な疑問である。
アズサの言動に慣れて来ていたヒフミとハナコ、先生も「確かに」と改めてコハルに同意見を示して、リョウヤを視線を向けた。
「考えてみると、俺も狙われる理由がいくつか思い付くなぁと」
「あっ、カイザーコーポレーションの企みを阻止しています!」
「TS社の創始者であることも理由になりますよね」
「治安を維持する側なら、逆恨みされている可能性もあるかも……?」
「……私も一人、個人的に君を欲していた人物が思い当たるなぁ」
リョウヤが改めて自覚をすると、ヒフミもハナコも思い当たり、コハルも覚えがあったのか渋面で、先生は溜め息を晒しながら頭を抱えた。
やはり、とアズサは満足げである。
「じゃあ行くか」
「うん」
短いやりとりで部屋を後にする二人を「行ってらっしゃい」「よろしくお願いします」そんな言葉達が追いかけてくる。
リョウヤとアズサは携帯端末のライト機能を使い、室内と比べ物にならない暗さの廊下を歩くのだった。
◇2
目的の場所にはすぐに辿り着くと、リョウヤは胸ポケットに携帯端末を納める。
端末の僅かに覗くカメラ側のライトが、ちょうどよく正面を照らす。
「照らしておいてもらえるか?」
リョウヤに頼まれたアズサは素直に首を縦に振り、携帯端末を高く翳して明かりを調整した。
配電盤を開くとリョウヤはすぐさま結論を下す。
「ショートしてるな。これくらいなら手持ちの部品の交換で済みそうだ」
少し後ろから照らしていたアズサは何か考えているようで、返答はなない。
横目に悩んでいる様子を見るも何も言わず、リョウヤは修理に取り掛かることにする。
工房から工具を取り出して、特有の金属音が鳴り始めると、アズサは意を決して告白した。
「――私は孤児だ」
「それは……いや、続けてくれ」
まさかお揃いであると言いたいわけでもあるまい、とリョウヤは続きを促す。
「リョウヤは“それでも幸福だ”と言った」
雨音の強まる中、絞り出されるのはつい先日の出来事だった。
「私……私は、そんな風には思えなかった」
どうしてそんな風に思える? と問い掛けられているようだった。
作業の手が止まったのは一瞬だ。だが確かに、動きが止まった。アズサはまだ、リョウヤと知り合って短い。故に違和感を覚えることなく、問い掛けたわけでもないのに、返答を待っている。
そしてリョウヤ。
(……予想外に重い話が来た)
目元を押さえたいのを必死に堪え、代わりに胸中で冷や汗を流す。
アズサはリョウヤの境遇にシンパシーを感じたのだろう。
更に関係は生徒と講師。既に幾度となく質問と回答を繰り返している。答えを教えて貰えると考えるのは自然な事だ。
宛ら子犬のように、アズサは言葉を待っている。
「まず……身も蓋もないが、俺とアズサじゃ出会ってきた人が違う」
頼ってくれたと言うのは、その程度の関係にはなっているということになる。それ自体は、リョウヤも嬉しい。
(精神鑑定は専門じゃない!)
――などと口に出来る由もなく、記憶を辿り、思考を必死に回して口にする言葉を選んでいく。
「俺自身、誰と出会っていても同じ考えに至っていたと断言するつもりはない」
「……うん」
「アズサが出会ってきた人達も変わらない」
「……うん」
「過去は変わらないし、どんなに願っても変えられない」
言ってリョウヤは息を吐き出す。やけに湿度が高い気がしたのは雨のせいか、或いは――別の理由、何かを思い出してしまったのか。当の本人にも分からない。
アズサには背中を向けているので、自嘲が見られていない事は幸いだった。
誤魔化すようにククッと小さな笑いが溢れる。
「幸福だなんて言っても……やっぱり後悔や失望はあったしな」
アズサの白い両翼が下がる。
無論、アズサもリョウヤに聞けば凡ゆる回答が得られるとは思っていない。
ただ――リョウヤが「その後の運が向いていてな」と言い切った時の顔が、声が、纏う空気が、あまりに幸福に満ちていて、自分もそんな風に思えたら良いと思ってしまったのだ。
知れば自分も同じように思えるのではないか、と。
「時間って面白いよな」
唐突な話題は要領を得ず、アズサは一度困惑に身を震わす。
「今は間違いなく今だけど、同時に過去になって行ってるワケだ」
相手の様子を気にせずに続けられた話も、やはり意味が分からない。
「アズサももう、俺と同じ“向いた運”ってやつを得てるんじゃないか? ってお話」
「――――」
続いた事の葉は想像した事もなかったものだった。
落ちかけていた視線が上がる。リョウヤは相変わらず配電盤と向き合っていた。
「今、幸せだろう?」
「それは……」
リョウヤの澱みなく動く手と口に対して、アズサは言葉を詰まらせた。
「ああでも、こんなこと他人に言われてもか」
いや失敬、と謝罪の念を告げると「そうだな……」とリョウヤは言葉を区切る。悩んでいるようだった。
リョウヤ自身、論点をすり替えているだけな自覚はあった。身も蓋もないが、実際に言えることなどないのだ。
出会って来た人達が違う以上、培ってきた経験が異なる以上、同じ想いを抱くわけがないのだから。きっとアズサも、心の奥底では理解していた筈だ。
けれどリョウヤは――歳下の女の子から相談を受けて、彼女から切実さを感じていた。何かしら意味のある言葉を授けたかった。
どうか価値あるようにと、願いながら考えを纏めていく。
「俺は手放し難い出会いを経た。
過去よりも現代と未来をと一人「うんうん」と頷くリョウヤを、アズサはやはり眩しく思う。
不意にアズサの脳裏に過ぎったのは――先日、リョウヤが帰った後。ハナコが「リョウヤさんにとって、アビドスの皆さんは掌中の珠なんですね」と評し、先生が「正しく!」と肯定し、“珠”に或いは“ハナコが珠”と言ったことに反応したコハルが過敏に反応をして、ヒフミが“掌中の玉”について解説する――そんな光景だった。
(あの時、私はどんな顔を――)
配電盤が閉じられた音に、アズサはハッと我に帰る。
「少なくともヒフミ達といるアズサは、俺には楽しそうに映っているよ」
氷の魔女とは思えない、と戯けたリョウヤはゆっくりとアズサの横を通り抜けた。アズサの髪が微かに揺れる。
「もし、だ。今の繋がりを未来でも手放したくないと願えているなら、護りたいと思っているなら――アズサは俺と同じなんじゃないか?」
パチン、と軽快な音と共に部屋が明るくなった。
改めるとやっぱり俺は恵まれているな――と心配するように笑い掛けたリョウヤを、アズサはジッと見つめている。
リョウヤのその顔色に、悔恨という名の黒い影がある事にはまだ気が付けなかった。
サブタイトル[補習授業部とのスタート]はここまでになります。実質的な序章ですね。
元々コハルちゃん、ハナコちゃん、アズサちゃんとリョウヤが少し仲良くなる話だったので①〜③に纏まっていたのですが、最終的に文字が増えて④⑤まで伸びていました。不思議。
ここまでの読了、ありがとうございました。