星屑の夢   作:ハレルヤ

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2-4.道中、作戦会議

 ハッキングを終えた直後だが、戦闘用の装備は工房に常備しているのでリョウヤに物的な準備は必要がない。当然、そのことはホシノ達も知っている。既にいつでも出撃可能になっている面々を見て、リョウヤが口を開く。

 

「場所は分かった。準備も終わってる。後は足か」

 

「それも用意できてるよ~」

 

「……流石だよなぁ」

 

 故に、本当に準備は終えていた。

 ホシノの待ってましたと言わんばかりの返答に、一瞬の間を開けて本音を零す。ホシノ以外も得意げである。

 リョウヤは学力や知識的に指示を出す側になりがちだが、他の者が考えられないということは断じてない。次点で学年的にホシノが指示役になることも多いし、個々が考えを持って動いているのだ。

 

「それなら……」

 

 リョウヤが伺うように皆を見渡すと、後輩達と先生は号令を待つように三年生二人を見つめていた。

 

「うん、行こうか」

 

 最後に視線を向けられたホシノが頷き宣言すると、五つの頼りになる声が響く。

 リョウヤ、ホシノ、シロコ、ノノミ、アヤネ、先生の六人は部屋を出て行く。アヤネだけは隣にあるオペレート室が行き先なので、部屋を出てすぐに「リョウヤ先輩」と声をかけた。

 

「ドローンを先行させますけど、大丈夫ですか?」

 

「ああ、頼むよ……それから昼間に組んだシステムも起動しておいてくれるか?」

 

「実戦投入ですね、分かりました!」

 

 アヤネが気合い充分にオペレート室へと入っていくのを見送り、リョウヤはホシノ達の後を追う。

 ホシノ達が用意していたのは軽トラックだった。

 リョウヤが追いつくと、既に助手席に先生が待機している。当たり前にように、女子生徒達は荷台だ。

 

「だって先輩は移動中も何かしら作業しそうだったから」

 

「ねー、そう思うよね~?」

 

「はい☆ 満場一致でした!」

 

 リョウヤが「俺荷台で大丈夫だよ」と言ったところ、帰って来た言葉がこれらである。言っていることは正しいのだが、別に荷台でも問題ないというのがリョウヤの意見だ。とはいえ、気を遣われた以上は甘えることとする。

 ただし、女の子が体を冷やすのは頂けない。

 工房から人数分のタオルケットを取り出し、投げ渡しておく。何故そんな物が工房にあるのか? の答えは「工房に作業場だけでなく、倉庫の役割も求めた」からである。床下などの収納スペースを確保していたのだ。

 嬉しそうな感謝の言葉には軽く手を振って応え、トラックの扉を開け放つ。照れてる? と言われていることは、気にしないことにした。

 タオルケットを羽織り、身を寄せ合う三人がミラーに映り込むのを横目に、リョウヤは助手席に乗り込んだ。

 

「――もしかして、このトラックって……」

 

 軽トラックが発進してすぐに、リョウヤは車内の漂う香りに気が付いた。

 分かった? と先生が微笑んだ。

 

「ホシノちゃん達がお願いして、柴関ラーメンの大将に貸してもらったんだ」

 

 先生の声音は、心底から嬉しそうだった。

 うっすらとラーメン店独特の匂いが漂っていることにも納得である。

 

「事情を説明したらね、二つ返事で了承してくれたよ」

 

「柴大将が……」

 

 柴大将は知り合って三年目であるリョウヤとホシノは勿論、二年目のシロコとノノミも、一年目のアヤネとセリカも可愛がっている。

 セリカはバイトを始めたからか特に可愛がっているのが、今日のお昼の様子で見て取れた。

 リョウヤの心が温かくなる。同じように、柴大将が即答してくれた時はホシノ達も有り難くて、嬉しくて、取れてしまうのではないかと思うほど勢いよく頭を下げてしまったものだ。

 噛みしめるように目を閉じたリョウヤに、先生は「それにね」と語りかける。

 

「君たちの力になってくれる大人が、ちゃんといてくれた事が……私はどうしようもなく嬉しい」

 

「先、生……」

 

 リョウヤがルームミラーを通して先生の顔を見やると、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「あ、当然だけど迷いなくトラックを貸してくれたことも嬉しいよ? 感謝もしてる」

 

 恥ずかしくなってしまった先生は、戯けるように言って笑った。

 リョウヤは先生を疑っている故、罪悪感に胸がチクチクと痛む。先生は、あまりにも善人然としている。それでもどうにか笑ってみせるものの、思うところはある。だが、リョウヤに立ち位置を変えるつもりはない。

 それに朝食の際、セリカとホシノとは「全部終わって先生が良い大人だったら、三人でごめんなさいしよう」と決めている。反省も後悔も、するのなら後である。

 

「……」

 

 リョウヤは切り替えるように深く息を吐き出すと、工房からノートパソコンを取り出した。

 

「少し調整したいことがあるから、運転の方は頼んだ」

 

「うん、安全に急ぐね」

 

 電気の明るさが少なくなった外の風景の中、会話が一度途切れる。

 キーボードを叩く音と、運転する軽トラックから発する音。二人の呼吸音をBGMにして数十分。

 リョウヤが腕を伸ばしてストレッチをしたのを確認して、先生は「聞いてもいい?」と前を見たまま尋ねた。

 

「うん?」

 

「何もない所から物を取り出しているけど、あれってどういう仕組みなのかなって」

 

「あー……」

 

 先生からしたら、地味にずっと気になっていたことである。ぶっ倒れていた時も見ていたのだが、その時は体力的に余裕がなかった。その後も何度か見て、しかし自分以外は気にした様子はない。さも当たり前のようだった。実際、リョウヤと周囲の人物からしたら当たり前なのだろうが、リョウヤ以外には出来る人物を知らないのも事実だ。

 当のリョウヤは「今更か」と先生の質問を意外に思う。最早、気にしていないと思ったのだ。

 

「噛み砕くと、専用の工房にある物限定で出し入れできる」

 

「空間転移ってこと!?」

 

 浪漫だ! とテンションを上げる先生。

 

「現象的にはそうだけど、詳しく説明すると違う……詳しく聞きたい? 長くなるけど」

 

「……いや、いいかな……きっと理解できない」

 

 一転して冷静になる先生に、リョウヤは苦笑した。こういう言い方をすれば拒否するだろうなとは思ったものの、随分と正直な反応をされたからだ。

 機工魔術士に関する情報は、最低限の人にしか話していない。聞いたところで悪魔がいないのでどうしようもないとは言え、広めることでもないという判断だ。

 先生から見たリョウヤは専門家である。素人が聞いても理解できないと考えるのは、至極当然だった。

 

「でも便利だよねぇ」

 

「エネルギー問題とかあるけどな……」

 

 しみじみと感想を述べる先生。リョウヤは渋い声で窓際に肘を立て、手のひらに頭を置いた。

 過ぎ去る景色は既に真っ暗で、軽トラックのライトしか明かりがない。

 瞬間、ノートパソコンにアヤネから通信が入った。

 ルームミラーを見ると、荷台に待機していたドローンも同時に反応したようだ。

 

『先行させていたドローンが、カタカタヘルメット団のアジトに到着しました!』

 

 パソコンの画面と、ドローンから空中に投影された映像の中のアヤネが言い、皆が「おつかれさま」と労いの言葉を発する。

 ありがとうございます、と口にしてアヤネはカメラで撮影されている映像を映し出した。上空から見下ろした風景だ。

 ライトアップされている砂漠に、使われることのなくなった線路。倒れた電車。廃駅に、ボロボロになった家屋。凡そ人の住める環境とは思えない景色だ。しかし、カタカタヘルメット団の姿は至る所に見える。

 

『こちらがリアルタイム映像なのですが……』

 

「……かなり明るい」

 

「ですね……」

 

 砂漠化しているエリアに電気は通っていない。携帯の電波も届かない。

 時刻は深夜にも関わらず、明るさを保っているのはあり得なかった。

 アヤネとシロコ、ノノミが訝しむのも無理はない。

 

「電源があるってことかな?」

 

「ん~、まぁそうなるのかなー」

 

 運転中なので画面こそ見ていないが、先生が思い当たる可能性を口にし、ホシノは目を細めて肯定した。

 夜の闇に紛れて行動することになるも踏んでいたので、想定とは外れてしまったことになる。

 

(どちらかと言うと問題は……資金源か)

 

 リョウヤは小さく鼻を鳴らした。

 ホシノも思い至ったようだが、電気は無料ではない。発電機にしろなんにしろ、それを用意するには資金が必要だ。カタカタヘルメット団に、そこまでの余裕があるとは思えない。

 出資者がいるのは明白だった。

 

「これだと、すぐに見つかってしまいますよね?」

 

「別に見つかっても良いとは思うけど……」

 

「流石に誘拐なんて手段とられると、二度とその気が起きないようにしないといけないって思うよねー」

 

「どっちにしても、分からせる必要があるって話だね」

 

『皆さん、過激ですね……』

 

 ノノミとて不安があるわけではないが、想定した状況と違う以上は修正が必要だと思っての言葉だった。

 対するシロコとホシノの強気な姿勢に、お仕置きや罰則ならば必要だと理解する先生。アヤネですら言葉とは裏腹に否定はしていない。なんならノノミも苦笑いではあっても、やること自体には賛同する側である。

 カタカタヘルメット団が一線を超えているのが、よく分かる対応だ。

 

「最終的な戦闘は避けられないにしても、まずはセリカの確実な保護だ。人質目的なら無事だろうけど、最優先には違いない」

 

 下手に見つかってセリカを移動させられると面倒だ、とリョウヤは前髪をを揺らす。

 

「ですよね☆ ではやっぱり、こっそりと侵入しますか?」

 

「だな。どうせ戦闘になるからって、初めから正面突破の必要はない」

 

 カタカタヘルメット団への対応は賛同していても、やはり肯定的な意見をして貰えるのは嬉しいもの。リョウヤの言葉に、ノノミは破顔した。

 

「ん……電源がどこにあるか分かれば、明かりは落とせる?」

 

「リョウヤなら確実。最悪、破壊でも大丈夫だとは思うかな」

 

 ノノミの発案に乗るのなら、やはり暗闇に乗じたい。急な停電であればカタカタヘルメット団も動揺するし、暗闇に目が慣れるまで時間も稼げる。また、電源のある場所に人を集めることも可能だろう。

 手段があるのなら、より確実に、安全に。なので、シロコとホシノも真面目に分析を始める。

 

「アヤネちゃん、見つけられそう?」

 

『……電線が剥き出しなので、恐らくいけます! 可能な限り、セリカちゃんの捜索もしますね!』

 

 先生の確認に、アヤネは暫しカメラの映像を見、首を縦に振って答えた。

 ドローンが発見されてしまうリスクがあるので、空中から慎重に探索しないとならない。セリカの探索は流石に難しそうだが、電源の位置の特定は余裕だろう。

 

「お願いね~、アヤネちゃん」

 

「気軽にな。確実にここにはいない、が分かるだけでも違うから」

 

 現地まで常に車で移動するわけにはいかないが、車移動の時間はまだある。その間に追加の情報が得られる可能性は高い。というか、探索エリアが絞られるだけでも充分に有り難いのだ。

 柔らかい態度のホシノとリョウヤからの頼みを受けたアヤネは『はい!』と元気に応えた。

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