洞爺丸召喚 〜青函連絡船、新世界に就航する〜   作:ペジテ市民A

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洞爺丸召喚

1954年。それは日本国が新世界へ転移する60年も前である。また、大日本帝国の陸海軍が異界に派遣されていたのは僅か10年前、と言う時代だ。

 

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 1954年、昭和29年。それは皇居二重橋の惨劇から始まった。第五福竜丸被曝の年であり、自衛隊発足の年であり、或いは造船疑獄と指揮権発動の年である。また、ゴジラ襲来の年であり、墓場の鬼太郎誕生の年である。

 

 しかし、その中で、ある大事件があった。その衝撃は日航ジャンボ機墜落事故にも匹敵したであろうに、知るものは少なくなった。それは、彼女等の後輩すらも既に役割を終えて久しいからだろうか。

 

 

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 1954年9月26日午後。函館港内外では幾隻もの船が嵐と格闘していた。その年の台風は予想外ばかりであったが、台風15号マリーは特段だった。その時、気象台も、巡視船も、青函連絡船の運行者等も、台風の軌道を予測し、彼の現在地を把握することは出来ていなかった。

 

 青函連絡船洞爺丸は、津軽海峡の女王である。米空母艦隊の攻撃により壊滅した青函連絡船、そして戦後造船業界の期待を背負い、難航を乗り越えて、お召船として天皇陛下を北の地へ送り届けたばかりであった。

 

 洞爺丸は車載客船で、本州と北海道の鉄道を繋ぐ役割を持ち、よって優秀さを求められ、また大変優遇されてきた青函連絡船の系譜にある。

 

 そんな洞爺丸は、今機関がやられ、風に船体を立てる事が出来ずに流されていた。船長以下船員らは七重浜への座礁を決め、船内では乗り合わせた宣教師達が救命胴衣を着けさせたりと奮闘している。

 

 突如として轟音、そして強い衝撃が船体を揺らした。座礁だ。そのように思い、船員や乗客は少し安堵していた。運航司令に位置と共に座礁した事を報告する。しかし、暫くすると運航司令から問い合わせが入った。

 

『位置至急返事待つ』

 

 海図に照らすと、そこは水深12m。洞爺丸の吃水では座礁しえないのだ。

 

 洞爺丸はなお海岸線の方へ押し流されていた。照明が落ちる。SOSを出した。

 

 そしてその時、洞爺丸は大きく傾き始めた。横倒しでは収まらず、ひっくり返ってしまうまで、あっという間だった。先程まで座礁していた筈のものが、たちまち海中に浸かったのである。

 

 

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 こうして洞爺丸は転覆した。同じ夜、第11青函丸、北見丸、日高丸、十勝丸も海中に没した。死者行方不明者は5隻合わせて1430名を数える。タイタニック号に次いで、史上第二、第三と言われる大海難事故、世に言う洞爺丸事故だ。昭和29年第15号台風マリーは、洞爺丸台風と渾名されている。

 

 この事故を受けて青函トンネルの計画は加速し、1988年開通。同年、青函連絡船は惜しまれながら終航した。最期の日、利用者数は列車を上回ったと言う。

 

 さて、この、昭和の長い物語は、実に興味深いものだが、これから語るのは、別の物語である。正史ではない、並行世界の、荒唐無稽な、「もしも」の物語なのだ。

 

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 洞爺丸の船長近松は、大傾斜する船橋で、近くの手摺に掴まり、踏ん張りながら外を見ていた。船橋に留まるのは船長の役目と思っていたが、外をじっと見ていたのは、「次元の歪み」としか形容できないものが、薄らと光を放ちながら近づいて来ているからだ。海峡ではよく見られるガスの類かとも思ったが、やはり異なるし、そもそも季節が違う。ならばなんだ。

 

 考えている内に、歪みが船橋に衝突した。そして、近松は驚愕する。

 

 目の前から嵐荒波の夜は消え、暗くも晴れ渡った、見通し良好な大洋が広がっているのだ。いつの間にか90度近い大傾斜は復元している。

 

「おかしい。これはおかしい。なんだ、俺は化かされているのか?」

 

 異常はそれだけではない。外を見た船橋の人間は皆気づいた。彼らは次々におかしさを指摘する。

 

「何故北海道が見えん? 船首の向きからして、いや、向きによらん。南西でも龍飛崎が見える筈だ」

「水平線の曲率が明らかに変だ。蜃気楼なのか?」

「海の色が。なんだ、函館湾じゃおかしい」

 

 近松はそれらに頷いて言う。

 

「ここは明らかに函館の近くではない。星がよく見えるが、全然見覚えがない、どころか、こんな夜空はどの海でも無い。そんな事は、海峡の往復に人生を費やして来た俺にだって分かる」

 

 皆頷く。そしてある運転士が困り顔で言った。

 

「案外、行方不明になったなんちゅう船の行方はここやも知れませんなァ」

「辰和丸の様に、か」

「そうです、今年はありましたな。水爆のアレと一緒に気の毒に思っていたが、まさか我々があんな目に遭い、そしてコレとは。難航ぐらいは有るだろうと思いますなでも、コレは流石にびっくり仰天」

 

 その後、近松は方針を決め、次の指示を飛ばした。

 

・乗客には「状況が変わったが、一先ず安全で有る。デッキに出ず客室に居るように」と伝達する事。

・総員退避としていた機関部員は、機関室に入り状況を確認する事。

・無線室はSOSの内容を変更、広範囲に通信を求める事。

・浸水状況の確認を行う事。

・周囲の観察を行う事。

 

 すると、直ぐに驚くべき報告が為された。

 

「すると、浸水は無くなり機関、主缶、発電機は健全で復旧可能。ただ床の泥状の炭のみが問題? そもそもの傾斜復元と言い、あり得ない事ばかりだ。全く、奇跡に他ならないが、ここからどうにか発見して貰わなければ。しかし、」

 

 近松は水平線を見る。

 

「こりゃどうも、地球とは信じられん。北極海に流されたとして、こうでは有るまい。地球より大きい球の表面の様に見える。例えば木星の海で有るとか。荒唐無稽だがね。いやはや、救助隊に期待できないなら、動力の無事に感謝して自力で何処か港に向かわねば、なのか? レーダーで陸地を探すと言ってもなア」

 

 そう、洞爺丸は日本初のレーダーを搭載した貨客船なのである。

 結局、近松船長はレーダーを起動する様に指示した。とは言っても、これは見知らぬ海で何かと衝突する事を避ける為で、機関が復旧されれば慎重に陸地を探すつもりであった。陸地があるなら良し、大洋の只中などなら大困りである。洞爺丸は海峡を往復する為の船なのだ。可能かも分からないし、そもそも食料が無かった。

 

 暫くして、無線を受信した。第11青函丸からであった。この海に流れ着いたのは、洞爺丸だけでは無かったのである。

 

 

 

 

 

 

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