洞爺丸召喚 〜青函連絡船、新世界に就航する〜   作:ペジテ市民A

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この頃の青函連絡船はもう全船がレーダー搭載であるようなので、その様に修正しました。


大陸と大船

 昼を過ぎて、洞爺丸船団は再び動き出した。機帆船エル・カスプは船団最後尾の十勝丸に曳航されている。エル・カスプの乗員40名のうち、船長ら代表として洞爺丸に移乗し、残りの者は他の4隻に分乗している。

 

 これは、洞爺丸には1000人を優に超える乗客が乗っており、40人を収容する余裕は無かった上に、異邦人を40人も乗せればどうしても乗客の目に触れ、混乱が必至であったからだ。

 そのため、乗客が居らず客室が空いている他の一隻に全員移乗させる事となったのだが、今度はよく知りもしない者達を大勢乗せるのは問題だとなる。40人ともなれば、十勝丸ならこちら側の5割を超える人員だ。どんな思惑が有るかも分からぬ船乗りをそれだけ乗せれば、最悪起きるのは乗っ取りであるから、これはまずい。

 議論の後、結局10人弱ずつ分乗させる事で結論したのだった。

 

 船団の出発が昼過ぎとなったのは、まずこのエル・カスプ乗員達の移乗のためであった。また、曳航索にしても、発射銃で投げる訳にもいかず、そういう作業の為にカッターが走り続けていて、時間を食っていた。

 

 その上、なんと言っても海図が手に入ったのである。エル・カスプ船長のエルターはこの海で航海する事数十年の熟練であるとも判明し、洞爺丸船団の行先は大いに晴れた。その擦り合わせで、時間を取られたのは仕方のない事だろう。

 

 文字が通じず、口語は何者かを通して翻訳されたかの様に伝わっている事などが確かめられた後、エルターはまず、エル・カスプが曳航を必要とする状況に至った経緯を説明した。

 

「あれは酷い嵐だった。気象部も電報は寄越してなかった筈だ。全くの不意打ち。我輩が初め、ああ西側か、なんとかなるなと思っていたものが、どうにも急に舵を切ったようである。半日の内に大嵐の方に追いつかれた。そこからはもう力の限りで乗り越えるしかなかった。それで機関が駄目になって、もやは砕けるという所で嵐から飛び出たのだ。実に幸運、そうとしか言えない。あなた方との遭遇もそうだ。守ったつもりのマストも心許ない、いや実を言うとナーカルに帰るまで持つとは思えなかったのだ」

 

 海図上に打たれた点線を指でなぞりながら、エルターは苦闘の時を思い出すように、顔に皺を寄せた。その思いは洞爺丸の面々にも大いに共感する所であって、近松は、

 

「我々も嵐の中、気がついたらこの晴れた海に出たのです」

 

と言う。すると、エルターは目敏く指摘した。

 

「これ程の威容を誇る船団。これ程の船を湛える港。これを我輩は知らぬ。このムーにおいてだ。あなた方はどこから来たのか。曳かれている立場であるが、これが明らかでなければ、晴明なる心で我が母港に案内する事は出来ない」

「なるほど、違いない。では、その事についてお話ししましょう。ただ、その話をする為に、居らねばならぬ人があるのです。呼びに遣るので、暫し待たれよ。その間、この海域を航海する上で実際の所を詰めましょう」

 

 そして、船長近松や航海士達がエルターや他のエル・カスプ幹部の話を聞いて、知らねばならぬことを纏め船員達へ周知する事柄を整えていた頃、乗客代表太刀川・米軍人指揮官ハウの両氏が加わり、洞爺丸の首脳陣は台風の事から元来た海とは全く別の海に来たであろう事まで話した。エルター達は驚愕しながらも、ムーの伝説を語り強ち嘘とも思わないと宣言した。また、彼らからはこの世界の情報を手に入れる事も出来た。

 

 そうして、最後には、ムー人と地球人(ご存知の通り、洞爺丸に乗っているのは日本人ばかりでは無い。)の双方が、異なる世界に洞爺丸ら青函連絡船5隻が

()()

してしまったのだと確信する足る話が、エルターの口から飛び出たのだ。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 それは洞爺丸側が見せた世界地図について、エルターがムーものとは全く違うと否定した直後の事である。

 

「なんとも、この地図はこの地図で、見たことがある気がする。なんだったか、小説の挿絵か、何かか、いや、そうではあるまい」

 

 エルターはそう呟きながら席をたった。エル・カスプ乗員の知恵もあって、米兵達の釣果が今までになく良い焼き魚に仕上がったとの司厨長からの知らせが、会議室としていた甲板室に届いたからである。一同も昼飯にしようと、机いっぱいに資料に地図にメモの類を広げ、煙草の煙に満ちた船室から脱出する所であった。

 

 と言うのも、この甲板室とは都合良く空いていた一等喫煙室なのである。交流を深めた彼らは、談合の間にも葉巻や紙巻きタバコを交換して、大いに消費していた。太刀川が貴重なのだからと指摘するまでに、船室は煙り切っていた。事は機密と扉を締め切っていたから、もう酷い有様だった。

 

 エルターが机の隣に立ち上がった時、時計を見ようとして、ジーンズのポケットからから硬貨を1枚落としてしまった。ポケットを飛び出した大判の硬貨は、机に落ち、地球を日本中心で表した世界地図の上転がって太平洋の真ん中で倒れる。その光景に、エルターは啓示の如く、ある事に気がつき、叫んだ。

 

「おお、これは! 古き大地、地球ではないか!

 

 この時の「地球」という言葉には、それまでとは違う含みがあった。エルターはさらに続ける。

 

「アトランティスは……、そうか、これがアトランティスか。引き伸ばされて分からなかった。いや、これは驚きだ」

 

 次々に駆け寄って驚きの声を上げるムー人達に、洞爺丸側は困惑するが、その中で太刀川は訝しみながらもこう言った。

 

「アトランティスですか。プラトン、ベーコン、それにヴェルヌ。古くから地球に、いや『地球』で語られて来た伝説の大陸です。これまで固有の地名がこれと、もう一つ『地球』。この2つだけ会話に登っている」

「どういう事ですか」

「つまり、我々と彼らは認識として、この2つを共有している。我々が後にして来たと思われる地球の地名である、ごく固有の単語であるにも関わらず。これが意味するところは……。

 

 

 

彼らは地球を知っている。いや、そんな半端な言い方は要りませんか。

 

 

 

──そう、彼らは地球から来たのです。我々と同じように、この世界に転移して来たのでしょう

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

「その通りだ。我輩の先祖は地球から、転移なる厄災によってこの世界に放り出されたのだ。混乱で多くのものを失ったが、誇りは失わず、現在の栄光を築いている。そして驚いた。まさかあなた方が遠く古き同胞であったとは」

 

 太刀川の問いかけに、エルターは興奮した様に答えた。近松も強く同意した。

 

「私もだ。まさか──。なにより、勇気づけられた。我々にも未来が見える。1万年の未来、この世界に現代地球人の足跡を遺す機会を得た事は、各々にとって奇貨ではないかとすら思えるようになった」

 

 ハウも机上の地図に描かれた星条旗に目を遣りながら言う。

 

「わが "First Team"(第一騎兵師団)はこの地でもlegends(伝説)となるでしょう」

 

 その言葉に一同は破顔し、近松は笑ってこう言った。

 

「その通り。いやはや、『大陸と大船』、ムーの栄光を聞いて心強く思える程には似ていますなあ!」

 

 そうして彼らは共に、焼き魚を食べに向かうのだった。

 

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