カズマ・サトウは英国に転生し、ホグワーツ魔法魔術学校に入学した。
勇猛果敢のグリフィンドールへ配属され、彼は三人の真なる友を得る──。

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カズマさんの「」は地の文に奪われた!


 

【四人組、結成】

 

 変てこ青女神に唆されて異世界に行くとばかり思っていた佐藤カズマ青年は、しかし転生の儀式の最中に、自身の選んだ“特典”が抵抗をしたことで、ふと気づいた瞬間には凡な英国家庭で二度目の人生を迎えていた。

 

 ──だがそれも昨日までの話。

 ホグワーツ魔法魔術学校なる場所から入学の指示があり、巨漢のおっさんから君は魔法使いだと明かされ、孤児の自分を引き取ってくれたサトウ夫妻の反対を押し切ってまでも、カズマ・サトウはその“魔法”という未知の世界へと喜び駆け上がったのだ──。

 

 

「グリフィンドール!」

 

 いかにも魔法学校ですというそこに入学してから、組み分けの儀式が行われ、謎の喋る帽子には『君は商売に長けた才能を持っている』と言われて熟考数分ほど。白いサンタクロースに微笑まれつつ、盛大な拍手と共に、彼は勇猛果敢を座とする寮へ迎入れられる。

 

 席につくと、先にいたハリーとロン両少年たちから『よろしく!』と言われ、これからの新たな人生への期待を胸に、カズマ・サトウは二人と熱く握手を交わすのであった。

 

 

 年長生に導かれ、カズマは赤を基調とするグリフィンドールの談話室に踏み入る。

 授業は明日以降なので今日は特にやることもない。できることなら学校探索でもしたいところなのだが、それは規則によって禁止されているのでできない。

 

 暇を持て余し、何となしに周囲の様子を伺ってみると、室内に広々と置かれたソファに座りながら対面に向かっている見知った少年二人が。魔法学校で初めてできた両友人たちは、どうやらチェスに興じているようだ。とはいえ“普通“と照らし合わせて異なる点は、駒がまるで一人一人生きているかのように動くという点で。あっ、今ポーンが破壊された。

 

「ほんと不思議だよね、僕こんなの初めて見るよ!」

「ハリー、カズマ、知らないのか? これが魔法界じゃ常識なんだぜ」

 

 この動くチェスを非魔法族の一般大衆に広めたら大受けするに違いない。その場合まず英国に特許をとってから仕入れを確立して……いやダメだ。そもそも自分が開発したものでもないのに特許を主張するとはこれいかに。うむ、せっかくの魔法界から消される予感がするのでこの案は没だ。

 それにしても不思議。後で一緒に混ぜてもらおう。

 

「そういえばカズマ、君の瞳ってオッドアイだよね? 珍しいなあ」

 

 ロンの指摘はもっともで、カズマの瞳は片方だけ異質に紅く煌めいていた。組み分け帽子が静かな声で『とても古い……』やら『紅魔に流れる……』とか言っていたが、悲しかな本人には何のことかさっぱりで、まあとりあえずかっこいいから良いやと、軽く前向きに受け取っておいた。

 

「ご両親は魔法使いなの?」

 

 とはいえ、カズマは第二の物心ついた頃より孤児である。少なくとも本当の両親が既にこの世にないのは確かで、名前や存在さえも知らされていない。まあだからといって、それで寂しさを覚えたこともなかったのだが。理由には、転生だったり顔も知らないなど色々あるが……それ以上に、今の自分を引き取ってくれたサトウ夫妻の存在こそが一番の拠り所といえるだろう。反対を押し切ったとはいえ、最終的にはホグワーツへの入学という願いを聞き入れてくれた彼らの愛情に、今世のカズマは支えられているからだ。

 

「カズマ、君も……その両親がいないってのは、実は僕もなんだ」

 

 驚いた様子でこちらを見るハリー。彼は、自身とカズマとの意外な共通点を見つけて、少なからずの親近感を湧かせているようだった。すると、どこからともなく胸いっぱいに本を抱えて近づいてくる少女が一人。ハーマイオニーと名乗った彼女は咳払いをすると、

 

「同じ寮の友人として、これからよろしく頼むわ」

 

 流れるように、『ところでこの魔法なんだけど……』と、挨拶も早々に自分の魔法の知識を語り始めた。いかにも書物が大好きですという感じの娘で、なるほど特徴的で面白い生徒だ。少女の話に耳を傾けながらうなずくハリー。対抗するようにチェスの魅力を語り始めたロン。それら両方を聞きつつ、まずは互いの仲を深めようと、上手く会話を先導するカズマ。

 すれば、彼ら四人の会話は寮の就寝時間となるまで止まる事なく、自分たちの思い出、興味、魔法学校への期待などをさまざま語り合うこととなり……。

 

「僕ハリー。ハリー・ポッター」

「ロン! ロン・ウィーズリー」

「私は、ハーマイオニー・グレンジャー」

 

──最後に、カズマ・サトウを加えた四人組が結成された。

 

 

【とある薬学のこと】

 

「カズマ、貴方ったら最低よ?」

「いいじゃないかハーマイオニー、だってスネイプのあの顔見ただろ?」

「うん、ロン。でも僕“アレ”には助かったよ。減点はされちゃったけど……」

 

 何が悪いのか全く分からない。

 カズマはただ薬草学の授業中に、ハリーが執拗な質問を受けていたので場を和ませようと思っただけなのだ。担当の教授が随分と辛気くさかったので一つ、『先生、失恋の相談は受けますよ?』と言っただけで、あれほど睨まれるとは思ってもなかったのだ。ゲームのギルド運営もこなしていた身としては、この手の恋愛沙汰はよくあることで、善意の心から先生の相談に乗ろうと思っただけなのに……この仕打ち。納得のいかないカズマは可愛らしい顔を作って、こちらを責めてくる少女の慈悲を誘うように潤んだ。

 

「ねえやめて。全く可愛くないわ」

「でもどうして僕をあんなに嫌っていたんだろう」

「スネイプのやつ、カズマの言う通り本当に失恋でもしたのかもな! ははっ」

 

 

【とある箒のこと】

 

「カズマ、貴方ったら本当に最低よ?」

「その、そうだね。でも……ここだけの話、見ていてスカッとしたよ」

「僕、君が退学にならなくて良かった」

 

 何が悪いのか今回はちょっと……分かる。

 ただ初回の箒の授業中に、スリザリンの生徒が、同じグリフィンドール寮の友人の私物を勝手に盗んで煽ってきたのが悪いんだ。ハリーが何とか取り返そうと箒で飛び立ったはいいものの、なかなか奪取できていないようだったので、“魔法”で彼の手助けをしたつもりだったんだ。それがただ、その小悪党なスリザリン生の下着を剥ぐ結果になってしまっただけで、これは無実なんだ。相手味方(特にスリザリン)から少なからず『鬼畜のカズマ』と呼ばれるようになったけれど、これは名誉の傷で……。マクゴナガル先生には厳重注意されたけれど、幸い減点はされなかったし、これはギリセーフなんだ。

 

「その『スティール』ってのは今後禁止ね」

「僕はその……君の魔法はクールだけど、あまりやるのはオススメしないかな」

「カズマ、君の勇気は間違いなくグリフィンドール譲りさ、誇っていい!」

 

 

【ハロウィン・パーティー】

 

 三頭犬に危うく食い殺されかけるという目にあってからその後、四人の結束が強まったかと思えば、しかし今はとても厄介な状況である。

 事の発端は浮遊術の授業中のことで、ハーマイオニーから呪文の違いを指摘され悔しい思いをしたロンが、授業後の彼女を除いた三人でいる時にこっそりと『だから友達がいないんだ』発言をしてしまったことにある。まさかのことに、偶然それを当人に聞かれてしまっていたわけだから……。それ以来、三人の間には微妙に気まずい雰囲気が漂っているのだ。

 

 貶してしまったことに少なからず負い目を感じているロンと、関わってしまった他二人。同じ寮生からの情報によると、ハーマイオニーは今開催されているこの美味しいハロウィンパーティーにすら参加せず、ずっと女子トイレで泣いているらしい。

 もしカズマの性別が女だったのなら、彼女の潜む地下トイレにディナーの宅配便くらいしてもよかったのだが、残念ながら今の性別は正真正銘の男。ゆえに誰も彼女に声をかけにいくことはないし、ロンもロンで意地を張っており、ハリーはそんな親友をみて行動できずにいる。

 

「地下室に、トロールが‼︎」

 

 そしてびっくり、扉を全開に走りこんで『トロールがいる』という危険情報を持ち込んだ張本人は、流れるままに大広間中央に倒れこんでいた。ざわめきが広がり、何が起きたのか困惑する生徒たち。不安はみるみるうちに伝染し、辺り一帯が喧騒となった頃、この学校の最高責任者である校長がようやく立ち上がり大声を出して生徒たちを静めた。監督生たちが生徒を引率して寮に戻るよう指示を受け、皆が冷静に行動に移していく中、だがとても大きな問題が浮上した。

 

「ハーマイオニーが、このことを知らないよ!」

 

 ハリーの言葉に思い出したかのように顔を見合わせる三人。すぐにもと来た道を引き返し、ハーマイオニーのいる地下の女子トイレの元へと駆け足で行った。すると……おっとまずい。そこには既に女子トイレへと今まさに侵入していく変態トロールの姿があった。『急げ!』と、ロンの言葉に押されて女子トイレまで正当侵入するカズマたち。声の高い悲鳴が聞こえ、なんとトロールが女子トイレのドアをその棍棒で大胆に破壊している最中だった。瓦礫の下にはうずくまって助けを求めるハーマイオニーがおり、このままではマートルよろしく第二の亡霊となってしまうだろう。

 

「二人とも、何か良い策はないの⁉︎」

 

 ハリーからのすがるような視線。しかしロンは驚きのあまり杖を持って固まっている。何とかしなければ。カズマは数瞬のうちに考えに考え、そしてこの状況を打破する活路を見出した。

 

「わかった! 時間を稼げばいいんだね⁉︎」

「やーい、こっちを見ろよウスノロ!」

 

 散らばった破片をトロールの頭めがけて投げる少年二人。すると、もちろん効果はないが十分気を引くことができていた。ハリーとロンの方向へ身体を向けて呑気に頭をかいている巨体。その隙に、カズマはデカブツに気づかれないよう『潜伏』しつつ、ハーマイオニーの隠れる手洗い場の下へと足早に近づきその身体にそっと触れた。そして僅かに稼がれた時間を大切に使い、彼女の腕をひっぱりハリーたちのいる出口近くまで何とか避難する。と、今! カズマは一際大きな瓦礫を持ち上げて、『狙撃』するのだ。

 

「わ、うわぁ……」

「その、痛そうだね」

 

 眼前のトロールは瓦礫が(股間に)クリーンヒットしたため地面に突っ伏して悶絶していた。だが悠長に見ている暇はない。そんな姿を横目に、カズマはこの場にいる三人の身体に触れて再度『潜伏』しこの場から逃走を図ろうとする……が、魔力切れで倒れた。

 

「「「カズマーーー!!?」」」

 

 

 ここから先は三人から聞いた話になる。

 カズマが気絶した後すぐに先生方が到着したらしい。そこで幸いにもトロールは縛りあげられ無力化された……のだが、『何をしているのです四人とも!』と次はマクゴナガル先生からのお叱りがあったとのこと。まさかの減点危機に、ここはとっさの機転をきかしたハーマイオニーによって上手く加点の方向へと切り替えたらしい。そしてその後、三人が責任をもってカズマの身体を医務室へと運んでくれたというわけである。うむ、めでたしめでたし。

 

 ……また話は少し逸れるのだが、トロール事件の際に運悪く破れてしまっていたカズマの靴下だが、目を覚ましたらなぜか真新しい新品の物が横に置かれていた。察するに誰かがプレゼントしてくれたようだが、しかしハリーでも、ロンでも、ハーマイオニーでもないと彼らは言うのだから、一体このほかほかで素晴らしい製品は誰からのものなのだろう。もしかすると、カズマのことが好きな隠れファンによる、早めのクリスマスプレゼントなのかも? しれない。そんな仄かな期待を胸に、カズマ・サトウは、今年初めての退院をするのであった。

 

 

【みぞの鏡のこと】

 

「起きてよロン、カズマ‼︎ すごい物見つけたんだよ!」

「ぅぅん……なんでぇ?」

 

 先日のクリスマスで透明マントを送り主不明のサンタクロースから貰ったハリー。彼はそれ以来、ニコラス・フラメルなる人物の情報を探すため夜な夜な図書館に忍び込んでいるようだった。

 カズマもハリーから一緒に探索をしないかと誘われていたのだが、彼はその透明マントやらは匂い魔法などがあったらバレるだろうと思っていたので丁重に断り、ロンはニコラス・フラメルの名をハーマイオニーから何度も聞かされノイローゼ気味だったので、これまた深夜徘徊は不参加に。

 

 しかしそこでハリーが普段とは違う、興奮した様子で戻ってきたわけだから、ピンクな予想をしてしまうのは仕方がない。幸せそうな表情のハリーに、カズマはついに女子寮侵入とか“そういう”ことに使ったに違いないと、下唇を噛みながら推測していた。

 それならそうと最初から誘ってくれれば良かったのに……。

 だがそれは考えすぎだったようで、叩き起こされた二人が実際にハリーの透明マントに隠れてついていくと、そこはただ巨大な鏡が置いてある部屋だった。

 

「ただの鏡じゃないか?」

「よーく見て? ここに立って。ほら見えただろう? 僕のパパとママが」

「わあ、僕が活躍している姿が見えるよ! これって未来を見せるのかな?」

 

 ふむふむ、これは実に怪しい鏡だ。ハリーには両親の姿が見えていて、ロンには輝かしい自分の姿が見える。なら自分はどうだろう? カズマも興味を惹かれてその鏡を覗いてみると、そこにはなんと、今は(この世界に)亡き、懐かしいサブカル的な美少女たちがカズマを取り囲んでいる様子であった。それも結構際どい格好の。

 ハリーから『君は何が見えるんだい?』と言われたので、言葉を濁さずありのまま(つまり女の子に囲まれてハーレムな姿)を伝えてみたところ、ロンにはドン引きされ、ハリーには呆れた顔をされた。

 

「なんだ、叶わない夢を見せるのかよ……」

「そうみたいだね……期待して損しちゃった」

 

 何とも酷い言い草である。カズマは二人に抗議した。しかし、『だって君は鬼畜のカズマじゃないか』と声を揃えられては仕方がない。いずれにせよ彼らはこの鏡に興味を失ったらしい。大人しく口をつぐんでおいた。

 

 だが翌日。

 性懲りも無くカズマはハリーにお願いして、もう一度あの鏡のところに行こうと説得していた。あの素晴らしいボンキュッボンな光景を再び目に焼き付けたかっのだ。ええ……と最初は面倒そうな顔をしていたハリーだったが、それでも結局折れて鏡の前に行くと、二人仲良く静かに座ることとなる。なお、カズマが一人で行こうとしなかった理由は、赤信号みんなで渡れば理論ではないと正しておこう、きっと多分。

 

「二人とも。君たちもまた多くの人々と同じように、みぞの鏡の虜になったようじゃな」

 

 鼻の穴を広げながら鏡を見るカズマとは対照的に、ハリーは寂しさと嬉しさを半々に鏡を見つめていた。だが夢の時間もここまでのようで、温かな声が聞こえ、後ろを振り返ると、そこには我が魔法学校の校長陛下がいらっしゃった。長いひげを触りながらこちらにゆっくり近づいてくるおじいちゃんを視界に、カズマはさりげなくハリーの後ろに隠れた。

 

「この鏡が何をしてくれるかもう気づいたじゃろう?」

「はい、先生……。これは叶わない夢を見せるものです」

「ほっほっほ、遠からず、近からずじゃな」

 

 曰く、世界一の幸せ者がこの鏡を見たらいつも通りの自分が映るらしい。続けて、心の一番奥にある一番強い望みを映すのだとか。ダンブルドア校長の説明を受け、もう撤去するから探さないようにと諭されたハリーは『はい』と一つ寂しそうに答えた。

 

「ところでカズマよ、君には一体何が見えたのかね?」

 

 それは……妹キャラ、オンラインゲームの妹分、従妹系ヒロイン。カズマは、今回の欲望では趣向を凝らしてみたので、鏡から摂取した成分はそれであった。ゆえに、

 

「そうか……そうじゃったの」

 

 ダンブルドアのどこか寂しく懐かしそうな顔。

 ──なんかそれっぽく解釈されたらしい。

 

 

【森徘徊のこと】

 

 ハーマイオニーが帰省から戻り、ニコラス・フラメルの正体が賢者の石を作成した大物だと判明した。よって四人でハグリッドにかちこみにいったところ、温かな室内では新たな生命が生まれるところだった。卵を割って殻から現れたミニドラゴンは可愛らしく、聞くにロンのお兄さんが研究している分野らしい。試しにカズマも触らせてもらうと、ほかほかしており、見た目の色がピクルスみたいなので『ホットピクルス』とさりげなく名付け親になろうとした。が、森番のおっさんは即座に『ノーバートだ』と訂正してきた、残念。

 

 しかしそれ以上に残念なのは、見覚えのあるスリザリンの生徒にその瞬間を目撃されたことで、今この瞬間、寮監に叱られているという現状である。

 

「いいですか。どんな理由があろうと夜中に抜け出して学校を歩き回ってはなりません」

 

 グリフィンドール二百点減点! 何と恐ろしい事だろう、我が寮監は薬学の紳士よりもっと注意するべきだったのだ。これは明日からグリフィンドール寮で肩身の狭い思いをすることになるに違いない。いや、カズマはそういった仕打ちに“以前の件”である程度慣れているのだが、他の三人にとっては初めてで、これほどにも可哀想なことはないだろう。我々を告発した金髪のスリザリン生をカズマが見つめてやれば、『ひっ⁉︎』手で服下を押さえて怯えたように目を逸らされてしまった。うむ、何も言えない。

 

 そのまま金髪も含めた五人は罰則として引率され、悲しげな様子の森番に引き渡されるのであった。とぼとぼと歩き、森に入ってから少しすると、そこには銀色の液体が。ユニコーンの血だというそれは、傷ついた彼らの跡らしい。聞くにカズマたちの罰則はそれの捜索任務にあたるようだ。

 

「ロンとハーマイオニーは俺とこい」

 

 でかいおっさんがチームを決定し、カズマはハリーと金髪、犬一匹で行動することになった。なかなか目を合わせてくれない金髪だが、ハリーとは犬猿の仲のようで、この薄暗くて早く帰りたいような森の中でも元気に煽りあっている。しかし、深く進んでいくとそこには倒れたユニーコーンが、黒い影のような存在に吸血されていた。悲鳴をあげて去る金髪と逃走する一匹、額を抑えるハリー。こちらに向かってくる不審者。絶体絶命のピンチ。

 

「てりゃっ♂」

 

 しかしあっさりと、結果を言えばそれらは何事もなく終わった。どこからともなく現れた鍛え上げられた筋肉を持つガチムチの四本足の兄ちゃんが、黒い影を追い払ってくれたからである。その素晴らしい筋肉に拍手をしつつ、城へおかえりと、ユニコーンの血と不死の効能を説明された後、ハリーとカズマの二人は無事、森番に保護されたのであった。

 

 

【賢者の石を守れ】

 

 賢者の石を狙う人間が失恋おじさんだと判明したため、石を守るべくまたもや夜中に寮を抜け出し、四人は第一関門の三頭犬に会いにきていた。

 しかし犬たちはすでに眠っており易々侵入することが叶う……のであれば良かったのだが、途中犬が目覚めるといったハプニングに見舞われる。でも大丈夫。こんなこともあろうかと、彼らは森番から犬の好きそうな音楽をあらかじめ聞いており、そして連日連夜ハーマイオニーに歌の練習をさせておいたのだ。寮内でその歌が流行ったのはまた別の話で、少女のソプラノボイスが綺麗な音色を奏でると……ほら簡単。犬っころはグースピ眠ってしまうのだ。

 

「ハーマイオニー、そのすっごく上手だったよ」

「君、プロの歌手になった方がいいんじゃないか?」

 

 

 本格的にハーマイオニーの歌い手デビュー計画を考えつつ、四人は第二関門に到着した。そこは抵抗すると締め殺される悪魔の罠で、文字通り足掻くほどキツくなる仕組みだ。

 ハリーとハーマイオニーが落ち着いてこの罠を突破する中、カズマも真似てしてじっと大人しく解放されるのを待っていた。のだが……ん? なかなか離されない。それに、なぜだろう。カズマはこの植物がたまたま偶然か、執拗にお尻を撫でてくる感覚に襲われていた。きっと気のせいだろう。ロンはハーマイオニーの忠告を聞かずに隣で足掻いており、なかなかハードに絞められている。

 しかし……さわさわ。え? いやいや、下二人からの『落ち着いて!』の助言に従い心を無にしてみる。それでも……つんつん、ぐりぐり。お尻の側面からだんだん中央に、圧力はだんだんと強まってくる。

 

 ……こ、これは! 

 

「か、カズマ⁉︎ いきなり大声をあげてどうしたんだい‼︎」

 

 カズマ・サトウは今世紀最大の貞操危機を感じ全力で抵抗していた。忠告はどうしたとばかりの抵抗だが、これも仕方のない話だ。尻を明らかに狙ってくるツルがうじゃうじゃいる中で、どうして人が冷静でいられようか⁉︎ 

 ──結局、ハーマイオニーの放った呪文によってカズマの純潔は守られたのであった。

 

 

 第三関門は空を飛ぶ鍵であり、その数がめちゃめちゃ多かった。

 どうやらこの中にある“当たり”を取らなければならないようで、一個一個探していくのでは相当時間がかかるのは明らかだった。ハリーが『箒があるよ!』なんて言っていたが、カズマはそれを制する。こういう分かりやすいのは大体罠なんだ。そう言えば、ハリーはなるほどと納得する。ゆえにここはカズマの出番、『スティール』を発動することで対応した。運だけはいいカズマ、これなら役に立てるだろう、そう思っての行動。ふっ、簡単な仕事だぜ。

 ──手には目的の鍵と、しかし一枚の布地が握られていた。

 

「あの、スースーするからもう返してくれないかしら?」

 

 

 さらに加速していく。

 第四関門の巨大チェス盤はロンが上手に解決し離脱。

 第五関門のトロールは既に寝ていたので無視。

 第六関門の論理パズルはハーマイオニーが見事解決し離脱。

 

 つまり残るはハリーとカズマの二人だけで、残された最後の部屋にたどり着く……そこには。

 

 

 

「クィレル教授……なぜ貴方がここに?」

 

 明らかに怪しい偽シク教徒のコスプレ先生がいた。

 しかし彼はハリーの疑問に答えない。代わりに返ってきたのは、『鏡の前に立て』との命令だった。どうするかハリーと目を見合わせるが、相手が杖を取り出してしまえばこちらは終わりだ。大人しく相手の要求に従うことにする。

 カズマとハリーがゆっくり鏡の前に立つ。次に教授から『何が見える』と二人は尋ねられた。

 

「ぼ、僕がダンブルドアと握手してる! グリフィンドールが優勝して」

 

 対するカズマにはいつも通り欲望のままの光景が見えていた。悪い事は言われまい、ハリーに心配そうな顔をされながらも、ありのままの光景を答えようとしたその矢先。ターバン先生が独り言を始めたかと思えば、ゆっくりとターバンを外し、何と頭の裏にやばい人を飼っている新事実を、Oh…文字通り露呈させたのだ。何を思って後頭部に生き者を飼っているのだろう、まさか魔法界ではよくあることの一つなのだろうか。

 

 すると、イカつい顔のソレ……ヴォルデモートはカズマに近づくと、『貴様には、何が見える?』と囁いてきた。カズマが分かるのは、目の前のやつは経験則的に冗談が通じない感じの、理不尽にキレ散らかしてくるタイプの人相の持ち主だということで。ゆえにこういう時は、私は人畜無害ですアピールで時間を稼ぐのを最善に、それっぽい返答で冷静にお茶を濁して──。

 

「そうか、ならお前から殺そう」

 

 悲報、想像以上に短気。

 絶体絶命のピンチ。二度目の人生にして最大の危機訪れる。いや先の悪魔の罠もわりと別方向で多くを覚悟したが、今のこれはアレ以上だ。杖を額につきつけられたこの状況はどうしようもなく手遅れで、ゴクリと喉を動かす。するとハリーが慌てた様子で言葉を発した。

 

「やめろ! 石なら僕が持ってる‼︎」

「怖いか? 死は」

 

 しかしハリーの言葉に意にも介さず、やつは嘲笑いながらこちらに問いかけてくる。怖い、どうしようもなく怖い。心拍数が上がる。胸の鼓動が頭に響いてくる。

 できるものなら、カズマは全てを投げ出して自分だけでも逃げおおせたいくらい、恐ろしいと思っていた。まだやり残したことが沢山あるのに、こんなところで死ぬなんて死んでも死にきれない。可能ならば誰かが自分の代わりになってほしい。

 

 でも、それはできないし……例えできたとしても、今のカズマはそれを選ばないだろう。──鏡を見る。そこには、”友人たち皆に囲まれる”己の姿があった。

 

「ほう……怖くないと。なら、その震えた足はどうした」

「やめろ‼︎」

 

 ハリーが叫び、杖を構える。しかしヴォルデモートが『黙れ!』と彼を吹き飛ばすと、その衝撃でハリーは意識を失って倒れてしまった。

 

「さて、準備はできたか?」

 

 ただ、願わくば……。

 例え自分の命が今ここで失われても、それまでの間に。この魔法学校で初めてできた友人を、ハリーを助けてくれる誰かの時間の糧となるならば、可能性がゼロの連なりにイチでもあるのなら。

 俺は、俺は──!

 

 

「あっ、やっと見つけたわ! 探すのに残業までして結構時間かかったのよ?」

 

──救いの女神が降臨した。

 

 

 

 

 

 

【デウス-エクス-アクア】

 

「誰だ貴様!」

「はぁ⁉︎ アンタ何様よ! 私はこの星のえらーい神様なんですけどっ‼︎」

 

 絶世のつく、一生で一度も見ることができないほどの美女が現れる。

 ヴォルデモートは警戒していた。突如この場に現れた謎の第三者に。この場に訪れることができるのはホグワーツ生徒か、教職員、その関係者くらいで。やつが『ダンブルドアの差金か‼︎』と、推測し邪魔者を消そうとするのは当然のことだった。

 

「『アバダ・ケダブラ』!」

 

 カズマの額におしつけられていた杖は離され、即座に新たな存在の方向へと向けられる。杖先からは緑色の光が放たれ、それは射線上にいた“彼女”の身体にあわや触れた……。

 と思ったら、しかし呪文はペシっと叩き落された。

 

「ちょっと! いきなり何するのよ‼︎」

「何をした! なぜ生きてる⁉︎」

 

 『死の呪文』を受けても平然とする彼女。その現象にヴォルデモートは驚愕していた。いやいやと首を振り、やつは再度同じ呪文を放つ──。が、またもや叩き落とされる。

 

「効かないだと⁉︎」

「もう! 服が汚れちゃうじゃない‼︎」

 

 怒ったような表情を浮かべる彼女。

 自分の杖を信じられないように見る相手を尻目に、

 すると手を前にかかげ、ふうっと深呼吸をすると、

 

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』‼︎」

 

 ──“本物の魔法“が顕現した。

 

 それは蒼く透んでいた。

 それは明らかに炎であり液体とは遠く離れていた。

 例えるなら水の炎。

 見惚れ、憧れ。彼にとって致命的な隙を生んだ。

 一度でいいから触れてみたい。

 その聖火を浴びてみたい。

 仄かな願い、赦し乞えば油断。

 彼は融けていた。賭けていた。

 奇跡はきっと自分を救ってくれる。

 いつかの火は今訪れ己を妬き尽くした。

 ああ、終わりなき人生。永い物語。

 世界から、消滅していた。

 

 

☆☆☆

 

 あっけのない結末だった。

 

 このカズマ・サトウとハリー・ポッターの危機は、ただ通りすがりの女神様(本人自称)によって無事解決されたのであった。

 青髪の彼女曰く、クィレル教授の頭裏に住みついていた例のあの人は浄化され、あの瞬間、この世から存在が消えたというのだ。何やら“バラバラ”だったらしいが、それらも含めて皆全部、還してしまったらしい。それを簡単に言うのだから、正しくそ女神の所業である。

 自慢げにそう説明する彼女は、しかし途中、あっと何かを思い出すと、ぷくっと頬を膨らませてカズマを睨み何かを言おうとする──が。

 

 ──これまた突如現れた、銀髪の女性に引っぱられ『ナンデヨー‼︎』どこかへと消えてしまった。

 

 ……カズマは呆然としながら無を見つめ、すぐ慌てて意識を失って倒れているハリーに駆け寄った。胸に触れ、その鼓動を確かめる。大丈夫だ。生きている。友人の無事にほっと一息をつき、医務室へ連れて行こうと考えた。腕を伸ばし、身体の下に潜り込ませる。

 カズマは残りの体力を振り絞り、ハリーをよいしょ持ち上げようとし……残念、魔力切れ。そのまま眠るように倒れてしまうのだった。

 

 

 

 目を覚ますとそこは医務室で、カズマは自分が逆に誰かに運ばれてしまったことを察した。

 すると『起きたぞ!』と赤毛の少年のような声が聞こえる。『カズマ、起きたんだね⁉︎』とはきっと眼鏡の少年の言葉であり、身体を起こしてみれば、本を片手にこちらへ微笑む少女がいた。『君が一番良く眠ってたよ!』との情報はその通りのようで、どうやら三人はもう制服姿である。

 

 ゆえにカズマは三人に向けてサムズアップをし、地面に足をつけ、もう大丈夫だと笑って見せた。そうさ、自分だっていつまでもゴロゴロしてるわけにはいくまい。授業にだって、遊びにだってやることはいっぱい残っているのだから。今日の食事はなんだろう。替えの靴下の在庫は?

 校医に健康満点のお墨付きをもらったカズマは、今年二度目の退院をしたのであった。

 

 

「今年の優勝は、グリフィンドール!」

 

 

 冒険の終わりに。

 彼ら四人の活躍により、賢者の石は無事守られた。その偉大な行いは秘密とされており、秘密とはホグワーツにおいて”皆が知っている”も同然ということ。その功績を賞して大幅加点がなされたグリフィンドールは、晴れて今年の優勝寮へと輝いた。大広間は彼らの勇敢な冒険にむけて多くの拍手と歓声によって満たされている。

 そして、いつだってその中心には……。

 

 

「「「やったね、カズマ!」」」

 

────四人の小さな英雄たちの姿があるのだ。

 

 

END




後日談、ロンのネズミを云々してハリーはおじさんと幸せに暮らす。

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