ARMORED CORE FOREIGNER FROM ANOTHER WARLD 作:衝動書きする人
ざわ、ざわ、と工場の中だと言うのに作業着も着ていないスーツ姿の人々がカメラやマイクを構えている。カメラのフラッシュが焚かれ、薄暗くなっている天井も照らしている光の先には、3階建物よりは小さいがそれでも十分に大きい二脚のロボットが立っていた。
「すごいな。これが話に聞いていた人型駆動機か」
「この会見の後、実際に動かしてくれるんでしょう?すごいですよね」
「まさかロボットが開発され、それを記事にできる日が来るとはな……」
ざわざわと記者たちが、特に男性が興奮を隠そうともせず人型駆動機を見る。まだ電源を入れていないのか、動いているような様子も動く気配もない。本当にこれが動くのか、という疑問もわいている記者もいるが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに男性たちははしゃいでいる。
「来ました!博士が入ってきました!」
興奮冷めやらぬ中、ついに記者たちの目的の人物が入ってきたようだ。その声が上がると同時に入ってきた方向にカメラを向け、遠慮なくカメラのフラッシュが大量に焚かれる。入ってきたのは30代ほどのアジア系の顔つきに髪が長い、中肉猫背の男性だった。身長も普通の男性とあまり変わりなく、覇気も感じられないその姿に眉を顰める者もいた。その隣には身なりを整えている男性がおり、スケジュール管理をしているのであろう書類を手にしている。おそらく今回の記者会見の司会者なのだろう。
「それでは、質疑応答のお時間とさせていただきます。質問がある記者の方は手を挙げていただき、指名されてから発言をしていただくよう、よろしくお願いします」
博士が指定の立ち位置に立ち、司会者がマイクを片手に声を出す。前振りもなくいきなり始まったことに動揺が隠せない記者たちだったが、経験豊富な記者はすぐに対応して手を挙げる。
「ヒイラギ新聞社様、どうぞ」
「はい。今回、10m級の人型駆動機の開発に成功し、かつ運用可能レベルにまで完成させたとのことでしたが、今どんな気持ちでしょうか?」
歴史的大快挙ともいえる人型の作業機。おそらくまだ大雑把なことしかできないであろうものだが、細かな作業ができるようになれば土木工事も建設業も大きく発展する。そんな大発明を成したというのに、博士はつまらなそうな表情を浮かべている。
「遂に完成させてしまったか、という気持ちです」
てっきりうれしそうな表情を浮かべるか、あるいは真面目な表情を保ったまま受け答えしてもらえるものだと思っていた記者たちは困惑した。さらに質問の返答もうれしそうなものではないこともあって困惑は深まっていく。
「と、いいますと?」
「まず、前提としてこれだけは主張します。私がこれを開発したのは、ただの趣味です」
博士のその言葉に記者たちはどよめきを隠せなかった。これほどの物を国家プロジェクトでも企業によるものでもなく、ただ個人の趣味によるものだと言うことに信じられないと言わんばかりの困惑が広まった。
「趣味、ですか?」
「えぇ。趣味です。知識もあって1人で作っていたら完成できてしまい、動きも理想通りだったので発表し、今に至ると言うことになります」
それ以上言うことはない、と言わんばかりに口を閉じ、次の言葉を発する様子もないので質問をした記者はしぶしぶと言ったようにありがとうございます、と質問を〆る。司会者の合図とともに記者たちは挙手をするが、先ほどまでの勢いは見る影もなかった。
「それでは、今後の展開について、何かお考えがありますでしょうか」
司会者に指名された新しい記者の質問に、また博士はつまらなさそうな表情を隠そうともせずに応える。
「展開ですか?私からは特に何も。企業が思い思いに装備を作成するだけだと思っていますので、私は今後の展開に触ることはないかと思ってます」
「それは、特許は取っていない、ということでしょうか?」
「特許はとってます。どこかの馬鹿に所有権を言われるのも業腹なので。とは言ってもこれらをどのように改造するのかは各企業の好きに開発してもらって結構なので」
淡々と言葉を続け、再び口を閉じる。もっと言うことはないのか、という記者の質問に特にないと返答をし、再び口を閉じたことで記者は質問を〆る。あまりにもあまりな記者会見となったと暗雲立ち込める中で指名された記者は、こともあろうか悪評が立っている記者だった。
「先ほどの質問に関連することなのですが、企業の好きにしてもいいと言うことは人型駆動機を悪用されることについても容認する、ということでよろしいでしょうか?」
その記者は無表情を徹底するように顔を動かさない。しかし、その雰囲気は失言を狙っているただの邪なものにしか見えなかった。ただ悪評をたてて食い物にしよう。そんな思惑が透いて見えるかのような雰囲気は、次の瞬間には霧散した。
「悪用されない前提で物事考えてたんです?あなた馬鹿なんですか?」
想定していた言葉とは違う。悪用を否定され、そこに付け入ってボロを出させる。そういったチャートを考えていたのに、こともあろうか目の前の人物は肯定的ともいえる言葉を出したのだ。
「人間の本性は善性である、という善性論がありますが、腹痛いですね。そんな人間はごくわずかだ。人間とは、誰も彼もが自分の利益を求めて他者を食い物にする、悪性者だ」
皮肉まみれの言葉と共に、まるで面白いものを語るかのように口角を徐々に上げる。その様子に記者は誰も言葉を発せない。予想外すぎる言葉に、思考が追いつかないのだ。
「俺の作ったこれらも、戦争の道具として使われることになるだろうな。企業がこれらを兵器と見出し、利益を求めて武装を作り、戦争ビジネスを続ける。予言しよう。これらが世に出て時間が経てば、人はこれらを使って戦争をする。ビジネスとしてな」
その時俺は生きてはいないだろうがな。と愉快そうに喉を鳴らして笑う博士。その様子を見て、ようやく言葉を飲み込めた記者たちは詰め寄るように博士に言葉を発する。
「あ、あなたは戦争を望んでいるのですか!?」
手を挙げることも忘れ、非難するかのように大声をあげる記者。その言葉に賛同するように記者たちは次々と声を上げる。司会者が発言を止めようとするも記者たちの熱が止まることなく、次々と言葉をかぶせていく中で、博士は面白いものを見るかのような表情を浮かべて口を開いた。
「俺が?戦争を?面白いことを言う。戦争を望んでいるのは国や企業じゃないか」
ピタリ、と再び記者の口から声が止まる。博士が言った言葉にまた思考が止まってしまったが、今度は瞬時に理解して否定の言葉を出そうとするが、それをわかっていたかのように博士はそれを制するように口を開く。
「土木工事の安全向上を望んで作ったダイナマイトはどうやって使われてきた?使われてはならない、作ってはならないと言われた核兵器は今でも存在しているのに?戦争の道具だと非難されている戦車や戦闘機を、どの国も手放すことはないのに?今でも国主導でミサイルを作っている場所も、戦争を吹っかけている国も存在しているのに?」
民が否定しても国は戦争を求めている証拠ではないか、と面白いものを見るかのように笑いながら言葉を続ける。
「人の本能は闘争だ。誰かを叩き潰すために、自分の満足を得るために。非難されようが、侮辱されようが。人は決して、争うことをやめはしない。スポーツがいい例だ。あれこそ平和的に相手を叩きのめす、誇りをかけた戦争の図と何ら変わりはないではないか」
世界大会で負けただけで、負けても命に別状もないのに選手に暴言を吐く民衆がいるのがいい例だ、とクツクツと笑いを隠そうともしない博士。これに関しては極論だと反論する記者もいるが、それを聞いた博士は鼻で笑う。
「極論?極論結構。極論だなんだと言っても、それは可能性があるから論じられることだ。実際に起こっていることでもあるのに、極論もクソもないだろう。そもそもこの話題の発端になった質問も極論から始まったものではないか。悪用される前提で作ったのか、なんて質問は極論以外の何物でもないではないか」
違う!それは当然の質問だ!とわめく記者もいたが、それを無視して新たな記者が前のめりに声を張り上げる。
「それなら、最初からそれを防ごうとするために対策を講じるのが当たり前ではないのですか!?人型駆動機を作成した博士ならそれぐらい容易いでしょう!」
「どんなに強固なセキュリティを施そうが、何年かかろうが解析し続ける奴らは存在する。どんなに法律で縛ろうが悪用する馬鹿はどこにでもいる。それを知らないと宣う馬鹿は、ここにはいないだろう?まさか、情報のブラックボックス化なんて簡単にできると思っている馬鹿がいるということなのか?」
そもそも知識もない人間ばかりなのだからそう思っているのか、と憐れむかのような視線を記者に送る博士。
「これは既存の技術の延長線上だ。いくら情報を隠そうとしても、頭がいい奴ならほんの少しの情報があれば、劣化版あるいは廉価版、もしくはこれと同じようなものを作り上げていくだろうな」
それは
「0から1を作るのは非常に困難なことだ。類似した前例があっても新しい物を作ることができないことは、歴史が証明している。同時に、1を派生させることの容易さも歴史が証明しているこれから作り出される歴史は、果たして今まで通りのものになるんだろうかねぇ」
愉快だ、愉快だ、と笑い声を上げる博士。狂気すら垣間見えるその様子に、記者たちは誰も声を出すことができない。
「あぁ。私の名前は戦争ビジネスを加速させた世界的戦犯者として名を遺すのだろうな。戦争世界を発展させた稀代の大犯罪者、とな」
まるで独白するかのように言葉を出す博士。それは誰に対して言っているのか、少なくとも記者に対して言っていないことは誰の目から見ても明らかだった。
クルリ、とダンスのターンをするかのように軽やかに回り、人型駆動機に向かって歩き出す。軽やかに歩いているだけなのに、その様子はタップダンスを踊っているかのような錯覚すら見えるその様子を、記者はただ黙ってみていた。
「あぁ、そういえばまだこれの名前を言ってなかったか」
人型駆動機の足元まで近づいた博士は、ふと思い出したかのように足を止めて顔を記者へ向ける。
「想定された使われ方は世界のインフラを
まるで謡うかのように言葉を紡ぐ。踊るように体を回し、狂気に満ちた目を記者と人型駆動機を行き来する。
「これの名前は、『ARMORED CORE』だ」
まるで戦争の宣言をするかのように手を広げ、名前を告げる。それに呼応するかのように人型駆動機、『ARMORED CORE』の頭部が目を開いたかのように赤く光る。これが博士の予言した戦争の火種が発火した瞬間、国家すら超える力を持った企業が主導の戦争が始まる、たった100年前の出来事だった。