勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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もう一戦するか?

 お互いに向き合うと長髪の男――リュウールは剣を構えた。刀身が青白く光っていて浄化の力を出している。特別司祭のテレサが愛用している弓と同じく、光属性の魔法が使える武器なのだろう。

 

「その剣、光教会からもらったのか?」

「ああ。その通りだ。お前の槍もそうだよな」

「残念だが違う。この前の戦いで壊れたので自前で用意した」

 

 メルベルとの戦いで完全に壊れてしまったため、光教会から提供してもらった槍は破棄している。今、愛用している武器は腕の良い鍛冶屋に作ってもらった品だ。頑丈で壊れにくいだけで特別な能力はない。他の勇者が使っている武器に比べて劣るだろうが、だからといって俺が弱いことにはならない。

 

「負けても使い慣れてないからって言い訳するなよ!」

「当然だ」

 

 槍の穂先を後ろに向けて腰を落とす。

 

 周囲は薄暗いが光源は二つもあるのだから、模擬戦をするには差し支えない。

 

「先輩として先手は譲ろう」

 

 反発するかと思ったのだが、素直に提案を受け入れたようで視界からリュウールが消えた。

 

 背後から殺気を感じたので腕を上げて柄で受け止める。

 

「よく防いだなっ!」

 

 押し込んできたので腕、腰に力を入れて耐える。

 

 近くで見てわかったのだが、リュウールの顔は青白かった。俺より先に入っていたみたいだから浄化の力を使いすぎて魔力切れを起こしそうなのだろう。ふっと槍にかかっている圧が弱まったので、押し返す。

 

「くっ」

 

 大きく後退したリュウールは洞窟の壁に背をつけた。槍を突き出すと思っていたとおり横に転がって回避し、立ち上がりながら剣を振ろうとしたので、腕を蹴り飛ばしてバランスを崩させる。

 

 槍をくるりと回転させ、石突きを腹に当てた。

 

「ごほっ、ごほっ」

 

 手加減はしたが息は詰まってしまったようで、リュウールは咳き込んでしまう。濡れた唇から涎がツーと垂れているが、拭う余裕はないみたいでそのままだ。

 

 武器は手放していないが、地面を腰に着けたままで動けない。

 

 石突きを眼前につきつける。

 

「模擬戦は俺の勝ちだな?」

 

 痛みによって、すぐに声は出せないようだ。数分使って呼吸を整えてから口を開く。

 

「素晴らしい動きだった……勇者を辞めた後もしっかりと訓練していたみたいだな」

 

 実力は劣っていても下手には出ないみたいだ。汚染獣との戦闘をするのだからこのぐらい根性あった方がいい。好感を持った。

 

「まぁな。自慢じゃないが、訓練は欠かしたことないぞ」

 

 現役時代よりも過酷な戦いをしていたので、むしろ技術は磨かれている。去年の俺と対決すれば間違いなく勝てるだろう。

 

 負けを認めてもらったので槍を地面に突き立てる。

 

「もう一戦するか?」

「実力がわかったのでもういいかな。それよりも少し休みたい」

 

 やはり魔力切れが近かったんだな。後輩には優しく接しよう。

 

「俺が浄化を続けるから、安心してゆっくり休め」

 

 完全な善意で言ったのだが、リュウールは疑わしそうな目で俺を見ていた。寝ている間に殺されるなどと思っているのだろうか。さすがにそれは心外だぞ。

 

「汚染獣を倒す仲間なんだから変なことは絶対にしないと誓う。だがそれでも信じられないなら、外で休めばいい」

 

 今の言葉が本当なのか疑わしそうに見られている。きっと脳内で葛藤しているのだろう。

 

 これ以上できることは何もないので槍を骨に突き刺し、どかりと地面に座って目を閉じると、体の外に出している魔力を薄く広げていく。

 

 今いる骨置き場を満たすと通路を進み、浄化するエリアを増やす。体内の魔力は減っていくが、このペースなら数日は持つ。さらに寝ていても浄化はできるよう訓練しているので、休憩を取りながらであれば一週間は継続できるだろう。

 

 この技術さえあれば瘴気が蔓延した樹海の中でも生きていけるはずだ。

 

 浄化のエリアを順調に拡大していると、リュウールの方から警戒が解けたような気配を感じた。結局は俺の言葉を信じたのだろう。

 

「信じてるからな」

「任せろ」

 

 目を閉じたまま返事すると気配が薄くなった。魔力を回復させるために眠ってしまったみたいだ。

 

 しばらくは起きないだろう。

 

 一人になったのでより集中して浄化のエリアを広げる。細かい通路も光属性の魔力を流し込んでいく。

 

「ん?」

 

 一部だけ浄化の進まない場所があった。正確には浄化してもすぐに汚染されてしまうのだが、この現象が発生する条件は一つしかない。

 

 修行の洞窟内に汚染獣が潜んでいやがるッ。

 

 穏やかだった心が殺気立ち、今すぐにでも飛び出したくなって目を開く。

 

 壁に寄り掛かって寝ているリュウールの姿があった。

 

 初対面にもかかわらず俺を信じて魔力を使い切ったのだ。感情に身を任せて汚染獣と戦いに行ってはいけない。

 

「ふぅ……」

 

 息と一緒に同時に怒り、憎しみ、恨みといった感情も吐き出す。

 

 汚染濃度から相手は極小型なのは間違いない。居場所さえ見失わなければいつでも倒せる相手だ。侵入経路もわからないのだから、急ぐ必要はない。他にも汚染獣がいないか調査しよう。

 

 じっくりと魔力を広げて修行の洞窟の半分ほどを埋めたが、汚染獣の気配は他になかった。

 

 最初に見つけた所だけいるようだ。その奥はわからない。他にも居るかもしれないと思ったら決して楽観できる状況ではなかった。

 




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