勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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まあ、そんな感じだ

 魔力を垂れ流して浄化を続けながら秘薬を飲み、二日が経った。

 

 干し肉と固いパンで腹を満たし、何度か仮眠まで取れたので体調は悪くない。

 

 その間も地面に横たわったリュウールは目覚めることなく静かな寝息を立てていた。

 

 魔力を使い果たして気絶している間に、肉体は過酷な環境に耐えられるよう強化されるらしい。もし本当なら長いこと眠り続けるほど強化されていくとも考えられるので、リュウールの修行は順調に進んでいるとみて良いだろう。

 

「ふぅ……」

 

 何もすることがないので自然と、ベラトリックスたちの顔が思い浮かんだ。

 

 今頃何をしているのだろうか。俺は汚染獣と刺し違える覚悟を決めているが、彼女たちに付いてきて欲しいとは思わない。仲間として充分に戦ってきたのだから、後は平和な世界でゆっくりと過ごして欲しいと思う……なんて言っても絶対に考えは変えないだろうな。

 

 樹海が勇者以外は生存できない場所だと説明しても理解してくれないだろうし、今は詳しいことを言わずに距離を取って落ち着くのを待っている。

 

 きっといつか俺の気持ちは伝わって――。

 

「ううん、ここは? ああ、寝てたのか。体が痛い」

 

 考え事をしていたらリュウールが起きたみたいだ。

 

 目をこすりながら立ち上がる。

 

「疲れは取れたか?」

「え、うん?」

 

 寝ている間に俺の存在を忘れてしまっていたみたいだな。

 

 声をかけたら驚いた顔をしやがった。

 

「おかげさまで。約束を守ってくれて助かった」

 

 手を振って気にすんなと伝えてから、俺も立ち上がってリュウールに近づく。

 

 誰もいないのだが、念のため周囲を確認してから耳元に口を近づける。

 

「なななにをするきだっ!」

 

 暗がりでもわかるほど顔が赤くなっている。何で慌ててるんだよ。

 

 離れようとして腕で押してきたので、掴んで逆に引き寄せた。

 

「暴れるなって」

「やめろ! 俺はそんな趣味ない!」

「勘違いするな! 俺だってない!!」

「だったらどうして抱きしめるんだよ!」

「内緒話をしたいからだ! そのぐらい察しろ!」

「バカ! わかるわけないだろ!」

 

 暴言を吐きながら俺の体を引き離してきやがった。人との接触が苦手みたいだな。

 

 仕方がないので、少し離れて小声で話すことにする。

 

「洞窟内に汚染獣がいるみたいだ」

「本当か!?」

「しー! 声が大きい。近くに人語を理解する汚染獣がいるかもしれない。注意しろ」

 

 修行の洞窟に汚染獣が出現した例は一件もない。異常事態が発生しているのだから、特別な個体が潜んでいても不思議ではないのだ。

 

 気を使いすぎるぐらいがちょうどいい。

 

「そんなのがいるのか?」

「いる。しかもそういったヤツらは特殊な能力を持っているんだ。俺は生物に寄生するのと不死に出会ったことがある」

「…………倒せたのか?」

「いや。残念だが生きている」

「そうか。大変だったな」

 

 逃がしてしまったことを責めるのではなく、労うような声色だった。

 

「まぁ、そいうことだから洞窟にいる汚染獣を倒しに行くぞ」

 

 リュウールの背中をドンと叩くと、前につんのめって転びそうになる。

 

「ごほっ、ごほっ、ったく乱暴なんだから」

「男同士なら、こんなもんだろ……」

 

 荒っぽい接触も嫌がっていたことを思い出して、ふと気づく。

 

「もしかして貴族出身か?」

「まあ、そんな感じだ」

 

 だから平民の荒っぽい関係に慣れてないのだろう。似たようなヤツらは何人か知っているので納得できた。

 

「汚染獣は地位に関係なく平等に襲ってくる。今のうちから荒事になれておけよ」

 

 地面に刺していた槍を引き抜いて肩に担ぐと洞窟内の通路を歩き出す。

 

 不満そうにしていたリュウールであったが、追いかけてくる足音が聞こえてきて、すぐ俺の横に並ぶ。

 

「で、目的のヤツはどこにいるんだ?」

「そこの通路を左に曲がって、しばらく進んだ先にいる」

「意外と近いな。どうして気づけなかったんだろう……」

 

 光属性の魔力を放出することに集中していて浄化の状況まで気が回らなかったのだろう。

 

 修行したてであればよくあることで、俺も似たような経験をしたことがある。

 

 魔力を垂れ流して安全を確保したと思っていたら、隠れていた死にかけの汚染獣に襲われて死にかけたことがあるのだ。当時はトエーリエに治療してもらいながら、すごく後悔していたな。それに比べればリュウールはマシだ。

 

「浄化しながら周辺の汚染状況まで感じ取れるよう修行するんだな。そうすれば汚染獣の居場所もわかるようになる」

「……勇者への道は長そうだ」

「頑張れ」

 

 こればっかりは助けようがないので、それ以上の事は言えない。

 

 口を閉じて歩き続ける。

 

 通路を右に曲がってしばらく進むと、感知した場所に汚染獣がいた。

 

 体は馬だが顔は人のような形をしている。目や鼻、口、耳といったパーツが崩れているので、見ているだけで恐怖感が湧き出てくる。リュウールは緊張した面持ちをして、剣を抜きながらも一歩後ろに下がった。

 

「汚染獣を前にして後ずさりするな。怯えは隠し、殺意で塗り潰せ」

 

 勇者は人類の希望であり、先頭に立つ人間だ。

 

 少なくとも人類はそう思っている。

 

 そんな俺たちが弱い心を見せれば、汚染獣には勝てないと思い込んで仲間は逃げ出してしまうだろう。逆に勇ましく戦う姿を見せれば、勇ましく戦ってくれる。

 

 だから絶対に、後ろ向きな姿を見せてはいけないのだ。

 




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