勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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それならいいが……

「わ、わかった」

 

 気を引き締め直したのか、リュウールは剣を構えながら俺の前に出た。

 

 敵は極小の汚染獣だ。ややサイズは大きいとはいえ、勇者として活動するならこのぐらいは一人で勝てなければいけない。試金石となるような戦いになるだろう。

 

 人面馬は俺らが放出している光属性の魔力を警戒して、うなり声を上げながらも動かない。対するリュウールは緊張によって息が荒くなっていた。

 

「はぁ、はぁ、俺は……汚染獣に負けないっ! 勇者になって自由を得るんだっ!」

 

 先に動いたのはリュウールだ。無意識なのか距離を取りたいと思ったようで突きを放つ。光属性の魔力をまとわせてないため、口を大きく開いた人面馬は切っ先を噛んで止めてしまった。

 

 力は汚染獣の方が上回っているようで、引き抜こうとしているが動かない。諦めて武器を手放そうとしたリュウールは手の力を緩めた。

 

「バカ! 早く光属性を流し込めッ!」

「あ! はい!」

 

 なぜ俺たちが勇者と呼ばれ、頼りにされているのか、リュウールは忘れていたようだ。

 

 汚染獣の天敵なんだぞ。

 

 武器に光属性が付与されると人面馬は切っ先を離して後ろに下がりながら、舌を伸ばして鞭のように叩きつけてくる。

 

 打ち払うとリュウールは前に出て剣を振り上げる。歪な人間の顔が縦に割れて傷口から光属性の魔力が侵入、毒のように全身に回ってグズグズと溶けながら消えていった。

 

 修行の洞窟で適性を上げている途中だというのに、勇者と呼ばれてもおかしくはないほどの威力だ。経験さえ積めば多くの汚染獣を倒してくれることだろう。

 

「やった! 私、倒せた!」

 

 勝つのが当たり前になってってしまった俺には、喜んでいる姿が眩しく見える。戦いの中で無くしてしまったものを見せつけられたような気分だ。

 

 褒めようと一歩進むと足音が聞こえた。

 

 周囲に浮かべている光の球を通路の奥へ移動させると、人面馬が数十匹見える。暗闇の中にはもっといるだろう。

 

「え、なんでこんなにいるの?」

「わからんが、俺たちがやることは変わらない。倒すぞ!」

 

 飛び出して槍を突き出す。光属性を付与していることもあって、顔面に突き刺さると消滅する。人面馬たちが口を開くと複数の舌が迫ってきたので、後ろに下がりながらいくつか槍で突き刺して魔力を流し込む。

 

「――――!!」

 

 声帯はないようで、無言の叫び声を上げながら舌から回ってきた光属性の魔力によって苦しんでいた。

 

 チラリと横を見れば、数に圧倒されていたリュウールは冷静さを取り戻したようで、危なげなく戦っている。勇者二人もいれば、数が多くても極小の汚染獣ごときじゃ相手にならない。ものの数分で全滅させてしまう。

 

 囲まれる心配はなかったこともあって危なげない戦いだった。この場で小型が出たとしても余裕をもって勝てるだろうし、普通の中型であっても一匹程度なら問題はない。負けることはないはずだ。

 

「奥に行ってみよう。リュウールはどうする?」

 

 二人きりではあるが戦力的には余裕があるので調査がしたい。

 

 断られたら単独行動するつもりだったのだが、そういった心配は不要だった。

 

「もちろん俺も行く」

「いいだろう」

 

 命令しても反発されなかったのは、戦いの中で俺の実力を認めてくれたからだろうか。

 

 先頭を歩いて通路を進む。

 

 瘴気は濃いが極小の汚染獣がいたと思えば異常だと思うほどではない。周囲を浄化しながらも足は止めず、コツ、コツといった足音を反響させているが敵は出てくる気配がなかった。あれだけいた極小の汚染獣の姿はなく、不気味なほど静かである。

 

「洞窟に巣くっていた個体は全滅したのか?」

 

 不安そうにしているリュウールはキョロキョロとして落ち着かない。

 

「まだ結論を出すべきじゃない。せめて行き止まりについてからだ」

「わかってる! なんとなく言ってみただけだ」

「それならいいが……」

 

 それ以上言っても何も変わらないので口を閉じた。

 

 ここからまたしばらく奥へ進むと通路の終わりが見えたが、調査は終わらないようだ。

 

 床に光る魔法陣があった。

 

「これはなんだ?」

「わからん」

 

 魔法に関しての知識が少ないため近づいて文字や模様を確認しても効果がわからない。ベラトリックスがいたら教えてくれたんだろうが、この場にいないので頼ることはできん。村に戻って報告するべきだろう。

 

 立ち上がってリュウールの姿を探すと魔法陣の中にいた。

 

「何も起こらない。無効化されているのか? 少し調べてみよう」

 

 蛮勇を発揮したのか、一人で中に入りやがった。

 

「バカッ! 早くでろ!」

「ビビるなって。大丈夫――」

 

 じゃなかったようだ。急に魔法陣が光り出した。見えない壁に阻まれているようで、リュウールは外には出られないようだ。

 

 攻撃系であればすでに俺たちは重傷を負っているはず。また毒や呪いでも同様だ。でなければなんだ?

 

 即座に思いついたのは転移である。

 

 膨大な魔力を使うこともあって発動までに時間がかかるのだ。今の状況と一致している。

 

 すぐに死ぬことはない。未来の優秀な勇者を助けようとして俺も魔法陣に飛び込んだ。幸いなことに外からの侵入は許してくれたようで、一緒に転移する。

 

 先ほどまで暗い洞窟にいたはずなのに、うっそうとした森の中にいた。それよりも尋常じゃないほどの瘴気が蔓延していて、俺たち二人でなんとか浄化できている状況だ。俺一人だったら結構ヤバかったな。瘴気に冒されて死んでいたかもしれない。

 

「なに……あれ……」

 

 前を見るとまず目に入ったのは数十もいる人面馬だ。これだけならまだいいのだが、その後ろには全長が三メートル半はありそうな真っ黒な鳥がいる。羽毛はないため肌が見えていて気持ちが悪い。サイズからして小型に入るだろう。

 

 さらに木々をへし折りながら十メートルはある中型の汚染獣までやってきた。こちらは体毛のない猿だ。鋭い牙があって噛みつかれたら、防具なんて簡単に貫いてしまうだろう。




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