勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~ 作:わんた
「あ、あの数はマズイって! いったん撤退しよう!」
震えた声でリュウールが敵に背を向けて逃げだそうとする。
不利な状況であれば、立て直すために退く判断は間違いじゃない。俺だって経験はある。だから非難するような気持ちはないが、今回ばかりはダメだ。事態は悪化するだけである。
「ここは汚染獣の住む樹海だ。逃げ場なんてないぞ」
「え……」
初めて来た場所ではあるが、周囲に漂う汚染された空気から確信を持っている。
濃度からして転移した場所は中心部近くなのだろう。
いつか行こうと思っていたのだが、まさか修行の最中になるとは思わなかった。
「どうして樹海につながる転移魔法陣があるの!?」
焦っているからなのか、口調が変わったリュウールは目に涙を溜めながら座り込んでしまった。
勇者候補生にとってキツイ環境なのはわかる。頼れないだろう。俺だけの力で対処するしかない。
「さぁな。生き残った後に調べるさ」
槍を回転させてから構える。
様子をうかがっていた人面馬が殺到してきたので光属性の魔力を全力で放出する。灰にして消滅させることまでは叶わなかったが、足を止めて苦しんでいる。皮膚はドロドロに溶けていた。
光属性の魔力は当然、上空にも放たれている。羽毛がない鳥は羽の動きを止めて地面に落下してしまい動けない。
ここら一帯の空気も浄化できたので本来の力を発揮するのは難しいはず。
近くにいる人面馬を突き刺しては、傷口から光属性の魔力を挿入して灰にして、汚染獣は順調に処理している。
「すごい……これが勇者……」
「感心する余裕があるなら手伝え!」
「は、はい!!」
戦意を取り戻してくれたようだ。落としていた剣を握ると、落下した羽毛がない鳥を突き刺して灰に変えてくれた。
よし、一匹目が上手くいった。成功体験さえ積めば二匹目、三匹目と止めを刺しに行ってくれることだろう。極小や小型は任せても良いか。
「俺はこっちを相手する」
見上げるほどデカい体毛のない猿に穂先を向けた。
光属性の魔力を放出し続けているというのに、肌が軽く溶ける程度で動きに支障はなさそうだ。
「うほーーーーーーっ!」
大声で叫び、縄張りに侵入してきた異物を威嚇しているように見えた。
敵を前にして隙だらけだ。そう思って足を前に出すと視界の端に動く何かが入った。一瞬のことだったので正体まではわからないが、長年戦ってきた経験から危険があると感じ取って後ろに下がる。
左側から長い尻尾が迫ってきた。跳躍して回避すると止めを刺し回っているリュウールに当たってしまうので、槍を縦にして尻尾を柄に当てて軌道を変える。
尻尾は上空に向かって進んで当たることはなかった。
「頭悪そうに見えて、意外と知恵がある……」
音を出して胸に視線を集め、死角を作ったのだ。
中型というのはもう少し単純な思考をしていたはずなのだが、長く活動していて賢くなったのかもしれない。
メルベルは勢力争いに負けて逃げ出したらしいので、樹海に住む汚染獣は強い個体が多いのだろう。やっかいだな。
「うほほーーーうっ!!」
気が抜けそうな叫び声を上げると大きく跳躍した。身長が十メートルもあるのだから、直撃しなくても近くに落ちただけで危ない。先ほどのように受け流すなんてことは不可能である。回避一択だ。
くるりと反転して駆け出し、リュウールを抱きかかえる。
顔を真っ赤にして暴れだした。
「急に何をするの! 変態っ!」
「うるさい! 上を見ろ!」
「あ……っ」
口を開いたまま動きが止まった。わかり易い反応だ。
抵抗されなくなったのでスピードは落とさず、木の裏に回り込む。
一息なんてつく前に地面が揺れた。土や小石が飛び散って幹に当たって削っていく。体に当たったら痛いじゃすまなかっただろう。
「仲間の汚染獣まで押しつぶしてたよね……」
「よくあることだ」
メルベルみたいな特殊な個体を除けば、汚染獣に友情や愛情といったものはない。生物を殺すためなら同士討ちなんて躊躇うことなくやってしまう。
木に隠れながら猿が着地した場所を見る。足の裏を確認して死体がないと気づき、キョロキョロと周囲を見渡していた。どうやら俺を見失ったようだ。普段は図体のデカい汚染獣と戦っているだろうから、小さい人間との戦い方はわかってないのかもしれない。
「今のうちに逃げる?」
「先輩として一つ、いいことを教えてやる」
いきなり言われてリュウールは困惑しているが、これは重要なことなので聞き逃さないでくれよ。
「僅かにでも勝てる可能性があるなら、勇者は汚染獣から絶対に逃げてはいけない」
「どうしてです?」
「俺たちは人類の希望であり続けなければいけないからだ」
汚染獣による脅威にさらされている人類にとって、勇者は最後に残された希望である。
そんな存在がいち早く逃げ出したらどう思う?
絶望するしかない。
抵抗する気なんて一切起こらないだろう。そうなれば人類は滅ぶしかない。
戦略的に撤退するのは良いが、逃亡だけは絶対に許されないのだ。
「だからって……自分の命の方が大事じゃないですか……」
「そう思うなら勇者に向いてない。人類の希望になる資格なんてないから、修行は中断して家に帰りな」
勇者になる覚悟すら持っていないのであれば、ここは一人で戦うしかない。
俺に注目してもらうため、リュウールを置いて隠れている木から飛び出すことにした。
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