勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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これも感謝している

 身を隠しながら果実と水を確保してから拠点に使っている大木に戻った。

 

 汚染獣に襲われた形跡はない。入り口を隠している木の枝が動くとリュウールが顔を出した。サボらず、ちゃんと見張りをしていたようである。

 

「おかえり」

 

 宿屋暮らしだった俺には、ずいぶんと長く聞いてなかった言葉だ。汚染獣に村が滅ぼされる前の記憶が蘇り、懐かしさがこみ上げてくる。

 

 僅かだが心は温かくなった。

 

「ただいま」

 

 洞の中に入って地面に座ると果実を三つ置いた。浄化してあるので本来の赤色を取り戻している。

 

「これが樹海にあったの?」

「汚染されていたが、浄化済みだ。甘くて美味いぞ」

「…………」

 

 食べてみろと勧めてみたのだが、リュウールは黙ったまま見ているだけだ。動く様子はない。しばらく食事なんて取ってないんだし、腹は減っているだろう。原因がわからずに困惑している。

 

「どうした?」

「え、いや……。その……」

「なんだよ。ハッキリ言えって」

 

 出会ったばかりではあるが、なんだからしくないと感じていた。

 

 疑問に思いつつも返事を待つ。

 

「浄化されたといっても汚染されてたんだよね」

「そうだが……何か問題でもあったか?」

「気持ち悪くない? ポルンは気にならないのかなって……」

 

 光属性の魔力で浄化されて体内に入れても問題ないぐらい綺麗なのだが、一度でも穢れてしまうと人間というのは忌避感を持ってしまう。これは物だけじゃなく、瘴気に犯された人に対しても同じような対応を取る人はいる。

 

 せっかく瘴気から解放されたというのに、差別されて孤独になってしまう人というのも珍しくはないのだ。

 

 最悪の場合は村から追い出されるケースすらある。リュウールもそういった一般的な考えを持っているのだろう。世間からすれば彼女の方が常識的だともいえるので、責めるようなことはできない。

 

 しかし、勇者になりたいのであれば別だ。

 

 多くの人たちと出会い、救っていかなければいけない存在である。

 

 俺たちだけは汚染された人を差別しちゃダメなんだよ。

 

「一度でも汚染された存在が汚いというのであれば、世界で最も不浄なものは俺たちになるぞ」

「っ!!」

 

 多くの汚染獣と接する勇者こそ汚れの象徴になるかもしれないと気づき、リュウールはハッとした顔になる。

 

「俺は何度も汚染されて死にかけた。なぁ、この体は汚いか?」

「ううん。そんなことない」

「だろ。だったら浄化された果実だって同じだ」

 

 果実を一つ手に取ってかぶりつく。口内に瑞々しい果実が広がって喉が潤う。

 

 咀嚼しながら、もう一つの果実を手に取ってリュウールに投げる。

 

「あっと、と、と」

 

 手の上で何度かバウンドさせながらも、運動神経は悪くないので落とさずにキャッチしてくれた。

 

 果実を見たのは一秒にも満たない。口を小さく開いて、かぶりつく。

 

「……おいしい。ポルン、これ美味しいよっ!」

「だろ。樹海の中にあるのがもったいないぐらいだ。持って帰れば高く売れるぞ」

「勇者なのに最初に思いつくのがそれ?」

 

 高潔で清貧でなければいけない勇者としてどうなんだ? と言われてしまった。

 

 先ほど軽く説教じみたことをしていたからやり返された形になる。

 

「俺は勇者をクビになったからな。金儲けを優先しても問題ないんだよ」

 

 親指と人差し指でわっかを作って、あえてだらしない笑顔を浮かべてみた。

 

「ぷぷっ、確かに問題ならないね」

「だろ? 勇者なんてならない方が自由に生きられていいぞ」

「もしかしてだけど、ポルンは今までのこと後悔しているの?」

「それだけは絶対にない。俺は勇者として活動できたことを感謝している」

「じゃあ、クビになったことは?」

「これも感謝している」

「どうして?」

「女遊びができるようになったからだッッ!!」

 

 とはいっても娼婦には嫌われるし、娼館に入ろうとしたら毎回邪魔されるので実行はできてないが……。

 

 だが肝心なのは、遊んでも許される立場になったということだ。

 可能性がゼロじゃない、希望がある、そう思えるだけで嬉しい。力が湧き出てくる。

 

 きっと勇者に救われた人々も似たような心境だったんだろうな。

 

「あのねぇ……」

 

 目が半分になったリュウールは呆れたような声を出しながら、果実をかじる。

 

 どうやら話す気力がなくなったようだ。

 

 男のロマンは同性でしか理解できないんだろう。

 

「それを食べたら秘薬を飲んで少し休め」

「ポルンの方が疲れてそうだけどいいの?」

「俺は三日三晩戦い続けても元気なぐらい体力がある。勇者にもなってないリュウールとは鍛え方が違うんだよ」

「言い方はちょっとむかつくけど事実だからありがたく受け入れる」

 

 頬をぷくーっと膨らませながらも納得してくれたようだ。

 

 子供っぽい仕草に可愛らしいと感じてしまう。生意気だとは思えなかった。

 

 入り口を枝と葉で隠すと監視業務に戻る。薄く浄化を続けながら俺も秘薬を飲み一晩過ごしたが、汚染獣に襲われることはない。

 

 朝方になってリュウールが起きたので監視業務を交替して仮眠をとると、光属性の適性は結構上がっていた。想定外の場所に飛ばされたが修行は順調である。

 

 転移した直後を除けば、樹海初日は至って平和であった。




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