勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~ 作:わんた
汚染獣がいないので魔法陣に近づく。ほんのりと光ってはいるが、最初に見たほどではない。
「何かわかるか?」
「うーーん。起動するには魔力が足りないみたい」
「明日までかかりそうか?」
「ううん。あと一時間もいらないぐらいかな。しばらくすれば完全に起動して使えるようになるし……ふむふむ、たぶんだけど何度か連続使用可能だね」
「それは本当か? 前は一度使ったら魔法陣の魔力が切れたのに?」
「極小の汚染獣とかが何度か使った後だったんでしょ。」
そういえば修行の洞窟で戦っていたな。あれらが樹海からやってきて、倒した俺が魔法陣に入ると魔力を使い切ってしまったようだ。
使い切っても一日ちょっとで再使用可能になるなら利便性は高い。世界各地に作ったら汚染獣討伐の効率はもっと……って、そういえば旅をしている最中、転移魔法陣や扱える人そのものを見たことなかったな。
噂や物語では度々登場していたので、この目で見ても驚きはしなかったが、実際の所この魔法陣の価値はどのぐらいあるのだろうか。
「転移魔法陣は人類でも作れるものなのか?」
「無理だよ。誰も実現したことはない。これ、歴史に残るほどのすごい発見なんだから。私は結構勉強してきた方だけど、かろうじて魔力収集して発動する部分がわかるぐらいかな」
興奮気味に言われてしまったが、俺にはよくわからない。へーと感心するぐらいだ。
「ねぇ、これを描き写しても良いと思う……?」
転移魔法陣を国に持ち帰れば人類は大きく前進するが、悪い影響もでてくるだろう。パッと思いつく限りでも暗殺や窃盗がやりやすくなってしまうし、交通の要となっているような町が衰退していく未来が見える。汚染獣という明確な敵がいるのに人類側は大きな混乱がでてしまい、年単位で動きが鈍ってしまうのだ。リュウールは、そういった影響を理解して聞いてきたのだろう。
俺も似たような懸念はしている。
特殊な汚染獣が暗躍して大侵攻がくるかもしれない今、人類同士が争う火種はなくしたい。
「社会が混乱して汚染獣に隙を見せてしまう。俺は反対だ」
「やっぱりそう考えるよね」
「リュウールも同じ意見か?」
首を横に振って否定された。
「私はちょっと違う。ポルンの懸念はわかるし気にはなっているけど……これは魔法陣の技術が大きく発展するきっかけになるんだよ。汚染獣と戦う手段が増えるかもしれないんだ。持ち帰ってもいいんじゃないかな」
「それでも俺は反対だ。現状維持を選ぼう。秘匿するのが一番いい」
「技術を停滞させるってことだよね。その考えは衰退につながるよ?」
「違う。人類の成長ペースにあわせて魔法陣の技術革新を進めるだけの話だ。今までと何も変わらない」
「だったら各国同時に普及させるのはどう? そりゃぁ、多少は混乱すると思うけどすぐに立ち直るって」
「すぐと言っても数年はかかるだろ?」
「まぁね……」
その時間が惜しいというのが俺の意見だ。
明日にでも大侵攻が起こるかもしれないと伝えれば考えを改めるだろうか。腐ってもリュウールは勇者候補だ。怖じ気づくことはないはず。他人の意見も聞きたいので試しに言ってよいかもしれない。
秘匿されている事実を告白するべく、言葉を選びながら口を開く。
「実はだな。特殊な個体が――ッ!」
「どうした?」
まだ気づいていないリュウールのために、数メートル先の空間を指さした。
「これ……歪み……?」
景色がぐにゃりと捻れ、一部が黒くなっていく。危険なのはわかるが、魔法陣から離れたくないので逃げるわけにはいかない。
警戒しながら様子を見守っていると、光を飲み込む黒い球体が出現して強い瘴気を放ちだした。対抗するために浄化の力を強化する。
マズイな。大型もしくは特殊な個体が出現しそうな兆候だ。
「なにこれ……ありえない……」
初めて遭遇したのかリュウールの足は震えていて、ペタリと地面に座り込んでしまった。心が負けてしまったのか浄化する力が減少していて、俺がいなければ瘴気によって体が汚染されていたことだろう。
修行中の勇者候補生にこれ以上の負担はかけられない。
「話は後だ。魔法陣が復活したらすぐに逃げろ」
「ポルンは?」
「あれを破壊する……ッ」
魔力で身体能力を強化しながら地面に深く足跡が付くぐらい力を入れて飛び出し、黒い球体の前に立って槍を突き出す。穂先が黒い球体に入るのと同時に光属性の魔力を最大放出。浄化していくと黒い球体は割れて、中に入っていた瘴気の霧が俺を包んだ。体内に侵入してこようとするが、光属性の魔力で押し返す。それでも止めどなく強い瘴気が流れ出ているので、槍を引き抜いて後ろに飛んで距離を取った。
しばらくすると黒い球体は完全に崩壊して、漏れ出した瘴気が集まって人の形になっていく。
サイズは人と同等だが大型の汚染獣以上の力を感じる。あれはダメだ!
使命感に駆られて飛び出し、槍を突き出すが、固い感触があって手が痺れてしまう。
「く……っ!」
人の形を取った瘴気に柄を握られてしまう。
目や鼻、耳などはないが、口だけはあるようで大きく開く。
「人間ごときがどうやって侵入した?」
特殊な汚染獣と何度か遭遇したので言葉を操ることには驚かない。樹海なら当然いるだろう。まだ予想の範囲内だ。
質問を無視して槍を奪われないように引き抜こうとしていると、瘴気で作られた人型の汚染獣は転移魔法陣のほうを向いた。
「……あれが原因か。お前たちが仕掛けたのか?」
修行の洞窟と樹海を行き来できるようにした犯人は、目の前の存在ではないようだ。であれば聞きたいことはないのだが、リュウールが立ち直るまで時間を稼ぐ必要はある。少し会話を試みてみるか。
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