勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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昔はあったの?

 転移してすぐに光の弾を浮かべて光源を確保するとリュウールの姿を探す。前にはいない、左は壁だ。右に……いた! 倒れているようだが息はある。無事が確認出来たので槍をもつと、地面を何度か削り魔法陣を破壊した。樹海に行く手段はなくなってしまったが、これで転移は無効化できたはずだ。

 

 不安は残るので距離を取りつつ様子をうかがう。

 

「いッッ……あれ、魔法陣を破壊したんだ」

「ああ。これで転移は無効化できたよな?」

「確認してみる」

 

 地面をペタペタと触りながら破壊された魔法陣を触っている。

 

 しばらくして顔を上げると俺の方を向いた。

 

「機能は完全に停止しているよ。転移魔法陣は対になってないといけないから、樹海側の魔法陣が無事だとしてもこっちを修復しない限り転移は行われない」

「なら、こっち側を直せば転移できるようになるのか?」

「樹海側が無事ならね……って、何考えているの!? また行くつもり?」

「当然だろ。樹海のど真ん中に転移する方法は他にないんだから」

「そうなんだけどさ……怖く……ないの?」

 

 か細く震える腕を押さえながらも、リュウールは不安げな顔で聞いてきた。

 

 勇者になろうとする人間が言ってはいけないとわかっていても止まらなかったのだろう。それほど特殊な汚染獣との戦いは、彼女の中に大きな傷を与えたようだ。

 

「戦っているうちに慣れたよ。今は恐怖という感情はなくなった。強力な汚染獣が出現しても怯えて隠れるようなことはしない」

「昔はあったの? 今の私みたいに……」

「当然だろ。俺をなんだと思っているんだ?」

「汚染獣と戦うことしか考えてない変態」

「最悪な表現だなッ! もっと他の言い方がなかったのかよ!!」

「だって本当のことじゃん」

 

 まだ表情は硬いが、小さく笑っている。俺との会話で緊張が解けたのであればよかった。

 

 勇者の数は絶対的に足りないので、この程度で心が折れてもらっては困る。何度も困難を乗り越えて恐怖を克服して欲しい。そして俺が樹海に突入するとき、一緒にいてくれると助かる。浄化しながら特殊な汚染獣と戦うのは大変だからな。

 

「魔法陣のことは巫女にも伝えておこう」

「犯人に心当たりがあるかもしれないしね。私は賛成だよ」

「ああ。そうか、すっかり忘れていたが、魔法陣を仕掛けた存在を調べる必要もあるな」

 

 村に住む人々は魔法に詳しくない。外部からやってきた存在が設置したのは間違いないので、不審な人物を見かけなかったか聞いて回れば痕跡が残っているかもしれない。

 

 仮に何も見つからなくとも警戒はできるので、今回の事件を包み隠さず伝える価値はあるだろう。

 

「行くぞ」

 

 修行の洞窟を出ようとして歩き出そうとしたら腕を引っ張られたので止まる。

 

「なんだ?」

「私の正体は黙っててね」

「仲間を売るようなことはしない。安心してくれ」

「……頼んだぞ」

 

 リュウールの声が低くなって口調も男っぽくなった。他人が来てもバレないようにしたのだろう。

 

 理由は追求しないと決めたので聞こうとは思わないが、複雑な事情を抱えているんだろな。

 

 引っ張られていた手を振りほどいて歩き始める。樹海のように空気は汚染されているので浄化しているが、今までよりも負担は軽く感じる。何もしていないときと同レベルぐらいだ。樹海には一日しか滞在していなかったが、光属性の適性はかなり上がったようである。リュウールも似たような状況らしく、強くなったと喜んでいる。

 

 俺がまた樹海に行こうとしていることに引いていたから、心が折れかけているんじゃないかと心配していたが、この調子なら大丈夫そうだ。勇者として活躍してくれることだろう。

 

 道に迷うことはなく、洞窟に置いていた物資を回収してから修行の洞窟の出口まで着いた。

 

 焦げ臭い臭いがする。

 

「ポルン!」

「わかっている! 急ぐぞ!」

 

 不穏な気配を感じた俺たちは走って外に出た。

 

 昼間らしく太陽が頂点にある。眩しいので手で日陰を作りながら目を細めて村の方を見ると、建物から黒い煙が上がっていた。ぱっと見た限り倒れている人はいない。暴れ回っている魔物の姿も見えず、ここからじゃ何が起こっているかわからない。

 

 続いて巫女が住んでいる小さな家の方に視線を移す。家は無事のようだ。ドアの前には大剣を持った上半身裸の戦士が一人いる。あれは山の麓で出会ったペルルロージだな。運良く村に戻っていて巫女を守ったといった感じだろう。

 

「村が……犯人は誰が…………」

「人以外の何かだろうな」

 

 汚染獣と戦う勇者を鍛える唯一の場所だ。まともな為政者なら、どんな事情があっても絶対に襲おうとはしない。仮に国のトップが汚染獣に操られていたとしても周りが必ず止める。無視して軍を派遣しようとしたら革命が起こるだろう。

 

 この村は、それほど重要な場所なのだ。

 

「魔物? それとも汚染獣……?」

「もしくは両方か。俺たちがあれこれ想像するよりも当事者に話を聞こう。俺は巫女に会う。リュウールは?」

「村人の安否を確認してから、そっちに行く」

「了解。近くに敵が潜んでいるかもしれない。油断だけはするなよ」

「そっちもな」

 

 もし汚染獣が襲ってきているのであれば、バラバラに動いた方が村人の生存率は上がる。リュウールの考えに異論はなかったので、別れて一人で巫女の家へ向かう。

 

 無事でいてくれよ。




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