勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~ 作:わんた
巫女が住む家の前に着いた。上半身裸のペルルロージが大剣を地面に突き刺し、俺を見ている。
「何があった?」
「肉がドロドロに溶けている犬型の極小の汚染獣に襲われた」
「被害は?」
「口から火を出す能力があって家は数軒焼けたが誰も死んでないし、汚染獣は巫女様が浄化させたから今は安全だ」
勇者を修行させる重要拠点であるため、この村には魔力を光属性に変換する杖があると聞いたことがある。えらく変換効率が悪いので膨大な魔力を持ってなければ使えないのだが、巫女なら問題なく使えたのだろう。極小の汚染獣程度なら勇者抜きでも戦えたようだ。
「巫女はどうなった?」
「魔力を使いすぎて今は横になられている」
「面会したいんだが……」
「許可したいところだが、力を使い過ぎちまっている。数日は待って欲しい」
体内の魔力が欠乏すると体が動かせなくなる。何度も経験していればある程度の耐性ができて全身がダルい程度で済むが、大切に育てられている巫女はそうもいかない。ペルルロージが言ったとおり寝込んでいるんだろう。普段なら元気になるまでノンビリ止まっていただろうが、今はそのような状況じゃないのだ。
死ぬわけじゃないし、意識があるなら話せるだろ。
「村を襲撃した汚染獣に関連する話だと言ってもか?」
「どういうことだ。詳しく教えろ」
ペルルロージが発する声のトーンが低くなった。殺気に似た圧を感じる。冷静に見えているが、内心は怒りの感情が渦巻いていたようだ。
「同じ説明を二度はしたくない。巫女との面会を許可してくれ」
「ポルン、交渉が上手くなった」
知りたいなら俺の要求を飲め。
狙ったとおりに伝わったようだ。必要なことはすべて言った。後はペルルロージがどう判断するかだ。
「必ず会えるかはわからんぞ」
「村の安全にかかわることだ。巫女なら許可するさ」
「…………ここで待ってろ」
背を向けて家の中へ入っていった。
暇なので地面に刺さったままの大剣を見ると刀身が少し黒ずんでいる。指でこすると取れたので煤が付着していたようだ。火事の現場で極小の汚染獣と戦っていたみたいだな。今も体は瘴気に侵されて辛いだろうに、それを見せない姿は戦士として頼もしいと感じる。ヤツが光属性の魔力を持っていたら樹海に誘っていただろうな。
大剣から離れて巫女の家を見るが、ペルルロージは戻ってこない。
腕を組んで待っているとリュウールの声が聞こえた。
「ポルン! 村人は全員無事だったぞー!」
後ろを向くと手を上げながら走っている姿が視界に入る。死者はゼロだったのが嬉しいようで笑顔だ。
被害の状況に一喜一憂できるなんて羨ましい。俺はもう、それほど喜べなくなってしまったよ。心にあるのは汚染獣に対する恨みだけだ。
すぐに俺の前にまで着くと息を整えてから、リュウールは質問をしてくる。
「巫女はどうだった?」
「魔道具を使って魔力が欠乏しているみたいだが、死ぬようなことはなさそうだ」
「よかったぁ」
緊張から解放されたのか、俺の報告を聞いて地面にどかりと座った。
出会って間もないはずなのに心配しすぎだなと感じる。
「そんなに嬉しいのか?」
「知り合いの身を案じるのは当然だろ! 違うか?」
俺にだって他人を思いやる気持ちはある。友人や知人どころか、守る対象は誰も死んで欲しくはない。だがその一方で、どんなに努力しても死ぬときは死ぬとわかっているので、生死に一喜一憂してはいけないともわかっている。
執着すれば失ったときの喪失感は計り知れない。
そんなの一度経験すれば充分だ。
きっとベラトリックスやヴァリィ、トエーリエが死んだとしても、泣くほどは悲しめないだろう。
そんな冷たい俺がまともな感覚だとは思っていない。リュウールの言葉を否定すれば人格を疑われることぐらいはわかっている。
「違わない。人として当然だ」
「だよな!」
時には嘘をつくのだって必要である。こういった場合は同意するのが無難なのだ。
彼女の笑顔がそれを証明していた。
「巫女様の家の前で騒がしいヤツらだな」
容体を確認していたペルルロージが戻ってきた。入り口で立ったまま、やや怒っているようにも見える。上半身裸の変態ではあるが、意外と信仰心みたいなのは高いんだよな。
「悪かった。すまん」
「わかったならいい。それより巫女様が面会すると言われていた。入っていいぞ」
「助かる。リュウールはどうする?」
「俺も行く」
ペルルロージの肩を軽く叩くのと同時に体内に蓄積した汚染物質を浄化すると、二人で家の中に入る。小さなベッドの上で横になっている巫女の姿が視界に入った。部屋が暗いせいか顔色は悪く見える。目は半分ほどしか開いてないが瞳はしっかり俺たちの方へ向いていて、意識はしっかりありそうだ。
「横になったままでお話を聞きます」
「大変なところ悪いのですが急ぎでお知らせしたいことがあり、お時間をいただきました」
「みたいですね。詳しく教えてください」
どこから話そうか迷ったが、結局は最初からにした。
修行の洞窟に汚染獣がいたことから始まり、転移魔法陣、樹海、瘴気の結界を使う汚染獣のことを伝えていく。途中から巫女の顔が険しくなったのは体調が悪化したからじゃない。事態の深刻さを理解してくれたからだ。
経験したことをすべて伝え終わると黙って反応を待つことにした。
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