勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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これ以上、何を求めるというのですか

「俺でも汚染獣を体に寄生させられると思いますか?」

 

 そんなことすれば戦えない体になってしまう。

 

 感情に振り回されている自覚はあるが、言わずにはいられなかった。

 

「可能性はゼロに近いので、やめたほうがいいですよ」

 

 儚げに微笑んでから、巫女は血が入った瓶に触れる。

 

「どこで情報が漏れたかわかりませんが、事実を知った汚染獣は、この施設と私を狙ったんです」

「そう……だったんですね。ようやく巫女の言いたいことがわかりました」

 

 勇者が世界を救っていると思っていたし、その自負があるからこそ不利な状況でも心は折れなかった。賞賛され、世界中に認められるのも当然のように受け入れていた。

 

 使い捨ての兵器のくせに。人類の希望だなんて思い上がりも良いところだ。

 

 なんて俺は傲慢だったんだろう。

 

「ポルン……」

 

 頬に手が触れた。自虐的な思考をしている間に巫女が近くに来てくれたようだ。

 

 俺を見る目は哀れみを含んでいるように思える。

 

「あなたは長年、勇者として活動してもスレることなく、人を思いやる心をずっと持ち続けている素敵な人ですね」

「そんなことない」

「ありますよ。数年活動しただけで勇者は心を壊すか、堕落していきました。でも、ポルンは勇者をクビになった後もずっと変わっていません。これってすごいことなんですよ。ずっと正しい姿を見せ続けてくれる貴方は私の救いなんです」

 

 引退した後、勇者たちは遊んで暮らしていたという話を聞いたな。巫女はそのことを言っているのだろう。

 

 汚染獣と戦い続ける人間性は異常だというのはわかったが、心を壊すというのがよくわからん。

 

 敵を憎み、人を助けるために戦っているのであれば変わりようないのに。

 

「だから、そんな自分を責めないでください。これでも私は幸せなんですよ? 」

「どうして言い切れるんですか」

「無力な女でしかなかった私が、みんなの役に立てているんです。これ以上、何を求めるというのですか」

 

 無理をして言っているようには見えない。本心だとわかるからこそ悲しくなる。

 

 思わず抱きしめてしまった。

 

 巫女の体は強ばったように思えたが、すぐに細い腕が俺の背中に回った。

 

「もっと自分だけの幸せを追求してもいいんですよ」

「でしたら私と結婚してくれます?」

 

 あの話をまた引っ張ってくるか!

 

 まさか、本気なのか……?

 

 人知れず長い間、体に汚染獣を飼って耐えてきた少女の願いを叶えてあげたい気持ちはあるが、そこに愛情はない。

 

 求められている生活は実現できないだろう。

 

 俺たちが幸せになるイメージがないのだ。

 

 どうやって断ろうか悩んでいると、耳に唇が軽く触れた。吐息がかかって背筋がゾクゾクする。

 

「ふふふ。冗談ですよ、冗談。同情を誘って結婚なんてズルいことしませんから安心してください」

 

 体を押すようにして離れた巫女の表情は普段よりも厳しいものになっている。鬼気迫る、といった感じで思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。

 

「勇者ポルンに依頼があります。村が狙われているとわかった以上、秘薬はここに置いておけません。光教会の総本部に届けてください」

「巫女は? まさか村に残るとは言いませんよね?」

「その、まさかです。この体は定期的に瘴気を吸収しなければ生きていけないのです」

 

 くそッ。そういうことか!

 

 汚染獣は巫女から栄養を取っているが、それとは別に存在維持のために瘴気が必要なのだろう。また襲われるとわかっているのに身動きが取れないのだ。

 

 瘴気が常にある場所なんて修行の洞窟以外だと樹海ぐらいしか思い浮かばない。

 

 ん? 樹海……そうか、突破口はあるかもしれない。

 

 巫女が隠していたことを教えてくれたのだ。俺も隠し事をなくして、これからのことを話し合うべきだろう。

 

「一つだけ条件にあう場所を思い出しました。あそこなら仮に汚染獣が襲ってきても撃退できるほどの戦力もあります」

「そんな都合のいいことあるんですか?」

 

 目を半分にされて疑わしそうに見られている。またゾクゾクしてきた。

 

「俺が活動していた国ですよ。メルベルと名乗っている宰相が人に化ける不死の汚染獣なんです。アレなら定期的に瘴気を提供できるでしょう」

「まさか! ポルン! 貴方は国を滅ぼすために――」

「勇者をクビになったからって、汚染獣と手を組んでいるわけじゃありません。安心してください」

「ではなぜ、正体を知っても放置しているのですか?」

「お互いに利害が一致したからです」

 

 そこから十分ほどかけてメルベルとの取引内容を話すと、巫女は深く考え込んだ。

 

 先ほどよりも俺を見る視線が柔らかくなったので、人類の裏切り者認定は回避できただろう。

 

「取引内容には納得しました。瘴気の補充もなんとかなりそうですね。私の頭の中には、薬学やポーション製作の知識はあるので場所を変えても秘薬は作れそうです」

「そういうことなら、私からも一つ依頼させてもらえないでしょうか」

 

 リュウールから受け取った、樹海に自生していた植物を取り出した。

 

 ごく微量ではあるが瘴気を放っている。

 

「この草はなんですか? 私が知っている薬草の類いではありません。そこら辺の山に生えていそうですが……違いますね」

「修行の洞窟に樹海への転移魔法陣があったので採取してきました。あそこは非常に濃い瘴気が漂っていて、普通なら植物は生息できない環境だったんですが……」

「枯れているようには見えません。瘴気に適応したんですね。すごい生命力」

「恐らく汚染物質に対する耐性があるのでしょう。巫女の知識を使って研究すれば、秘薬に代わるポーションが作れるかもしれません」

 

 これは革命になるかもしれないと、巫女も感じてくれたのだろう。

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、目がキラキラと輝きだしていた。




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