勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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なんだその顔……

 地下室から戻ると、ミュールは村人全員を集めてポエーハイム王国へ行くと宣言をした。

 

 理由すら言わなかったのに誰も反対しない。巫女の言葉は絶対で否定してはいけないといった考えなのだろう。

 

 絶大な権力を持っている証拠だ。

 

 窮屈な世界だな。

 

 もし誰かを気に入らないとでも言ってしまったら、そいつは村から追放されるだろう。他にも言葉の裏を深読みされて、意図せず行動されてしまう場合もあったはず。勇者をしていていた俺も不用意な言動はできなかったので、なんとなくわかるのだ。

 

 一言が重いため、心を開けるような相手はいなかったんだろうな。

 

 安心出来る場所が、あの小さな家だったわけだ。そんな生活を何十年、何百年と過ごすなんて、俺には到底できない。ミュールは素晴らしい忍耐力をもっている。

 

 そんなことを思いながら村から食料を分けてもらい借りていた部屋で出発の準備をしていると、リュウールがドアを開けた。中には入ってこないようで、壁により掛かりながら腕を組んで俺を見ている。

 

「村には戻ってくるのか?」

「どうなるかわからないが、多分無理だろう」

「修行はどうするんだよ」

「どこかでするさ」

「ここより効率のよい場所なんてないぞ!」

 

 怒りが含まれているように感じた。リュウールが何を考えているのかよくわからん。

 

「わかっているが、巫女の依頼だから断れない」

「あんな女に従ってどうするつもりだ? それで汚染獣を倒せるのか?」

 

 あぁ、なるほどね。巫女の事情を知らないリュウールは、俺がわがままに振り回されていると勘違いしているのだ。

 

 秘薬の製造方法が公開されてないがために、巫女の命を守ることが勇者制度の維持につながると想像すらできないのだろう。

 

「俺の目的は汚染獣を根絶させることで、今回の仕事は無関係じゃない」

「だったら詳しく教えてくれ。俺じゃダメなのか?」

「……悪いな。知りたかったら巫女に頼み込んでくれ」

 

 今は人類側に潜り込んでいる汚染獣がいるので、情報を規制する重要性は高まっている。

 

 長年隠してきたことを俺がバラしてしまうわけにはいかない。長く生きている巫女のミュールに判断を委ねると決めた。

 

「わかった。ポルンからは詳しく聞かない」

「それでいい。リュウールは自分の適性を上げることにだけ集中するんだ」

 

 荷物の整理が終わったので背負い袋を持って立ち上がる。

 

 部屋を出ようとしたら腕を握られて止められた。

 

「修行が終わって勇者になったら再会できないか?」

 

 汚染獣がいるとこなら会えるかもな。

 

 そう言おうと思って口を開きかけたが、あまりにも真剣な目をされてしまったので言葉にはならなかった。

 

 後がない人特有の雰囲気を放っていて無視するわけにはいかない。

 

 汚染獣と戦う者同士だ。勇者が困っていて俺が助けられるのであれば、協力を断るわけにはいかないな。

 

「場所はどうする」

「ドーボトル王国に来てくれ。俺はそこで勇者として活動しているはずだ」

 

 新人の間は、よほどのことがない限り国外には出ない。一箇所にとどまって実力を磨いていく。滞在している場所はすぐにわかるだろう。

 

「わかった。すべての用事が終わったら会いに行く」

「約束だぞ」

 

 手を差し出されたので握ると肌が柔らかかった。剣ダコはあるのだが、それでも男みたいにゴツゴツとはしていない。改めてリュウールが女性だと感じる。

 

「なんだその顔……」

 

 おっと。気を抜いたら口元が緩んでしまっていたようだ。

 

 若干引き気味のリュウールを見ながら気を引き締め直す。

 

「ちゃんと約束は守る」

「来てくれたら屋敷で盛大なパーティーを開くから、楽しみにしててくれ」

「貴族みたいなこと言うじゃないか、もしかしてリュウールは――」

「すまない。まだ深くは聞かないでくれ」

 

 嘘が下手なヤツだ。自分が貴族だと言っているようなもんだぞ。

 

 平民とも貴族とも違う、勇者という特別な立場を目指しているのは、性別を隠している理由にも繋がるのだろうか。

 

 何か問題を抱えているとは思っているが、それ以上はわからない。踏み込んで聞いてみても答えはしないはずだ。いつか教えてくれると思って今は表面上のやりとりで終わるとしよう。

 

「勇者にさえなれば抱えている問題は解決するのか?」

「それは間違いない」

「なら、細かいことは聞かない。頑張れよ」

 

 後輩を応援して激励する意味も込めて、握手をしたまま肩を叩いた。

 

「いつか先輩を追い越すぐらいには強くなってやる」

 

 白い歯を見せて笑った。

 

 顔は年齢よりも幼く見えて守りたいなと思ってしまったが、仮にも勇者になるような女性だ。相棒にはなっても庇護下に入るような存在ではない。

 

 樹海で実戦経験を積んだリュウールは頼もしい勇者になってくれることだろう。

 

「楽しみにしている」

「任せろ」

 

 最後まで男っぽく振る舞っていたリュウールから手を離して外へ出ると巫女が立っていた。

 

 近くには背負子のようなものが地面に置かれていて、人が座れるようになっている。

 

 体力のない巫女を背負って運べということなんだろう。

 

 戦闘はしにくそうだ。

 

 魔物に見つからないよう慎重に移動するとしよう。




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