勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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あら、素敵

 背負子の上に巫女――ミュールを座らせると村を出て森の中を歩いている。

 

 村の守りは筋肉自慢のペルルロージとリュウールに任せれば、汚染獣の襲撃があってもなんとかなるだろう。むしろ重要人物と行動を共にしている俺のほうが危険だ。油断せず、獣の気配や痕跡がない場所を選びながら慎重に進む。

 

 かなりの集中力を求められるのだが、座ったままのミュールは暇らしく頻繁に話しかけてきた。

 

「あそこに鳥が止まっているんだけど、ポルンは名前知っている?」

「食える鳥だ」

「えーー。それ名前じゃないよーー」

 

 雑に返事をしたら機嫌を損ねてしまったようだ。髪を軽く引っ張って抗議している。

 

「学者じゃないんだから名前なんてわからない。重要なのは食えるか食えないか、じゃないか?」

「そんなの面白くないよー!」

 

 小さな家にいたときよりもテンションが高くて子供っぽい反応である。長く生きているというのに精神は幼いままだ。

 

 久々の自由を感じて嬉しいのか?

 

 長年あの薄暗い家に縛られていたと考えれば気持ちはわかるが、正直なところ邪魔でしかない。汚染獣に襲われるかもしれないのだから、黙ってて欲しいところだ。

 

「静かにしろって。汚染獣や魔物に見つかったらどうするんだよ」

「ポルンが助けてくれるんでしょー」

「もちろんそうするつもりだが、走り回ることになるから酔うぞ」

「それは……嫌だね」

 

 背負われていることを思い出したようで、ミュールは黙り込んだ。気持ち悪くなるのは避けたいのだろう。

 

 大人しくなったので、再び周囲の警戒をしながら伸びきった草をかき分ける。

 

 生き物の糞を見つけた。

 

 形状からして狼型の魔物が近くにいるかもしれない。

 

 槍を持つ手に力を入れつつ慎重に進む。

 

 足跡の数が多すぎて十以上いるだろうぐらいしかわからない。ただ、狼型の群れの中に入っているのは確実である。

 

 風向きを確認してから安全そうな方向を探していると、遠吠えが聞こえてきた。さらに爆発音までする。最悪なことに熱風を感じるほどかなり近い。

 

 魔法を使う魔物と戦っているのか?

 

 厄介だな。

 

「どうするの?」

 

 小声でミュールが聞いてきた。

 

 大声を出さないことからちゃんと状況を把握しているのがわかる。

 

 戦闘の様子を確認したい欲求はあるが、俺一人ではないので安易に近づくのはマズイだろう。何度も通る道じゃないのだから離れるのが正解だ。

 

「巻き込まれないように進む」

「確認しなくていいの?」

「大切な物を背負っているからな」

「あら、素敵」

 

 語尾が飛び跳ねるような感じで喜ばれてしまった。

 

 演技には思えない。きっと俺が一歩踏み込めば肉体関係まで進むだろうが、その後が怖すぎる。身柄を拘束されて一歩も外に出られない生活を強いられそうだ。

 

 なぜそう思うかって?

 

 勘だよ。男の勘。どろっとした空気がまとわりつくような、そんなものを背後から感じるんだ。

 

「急いで離れる。少し我慢してくれ」

 

 余計なことは考えることをやめて走り出す。

 

 戦闘が発生しているのだから気づかれないだろう。

 

 振動が激しくなったのでミュールは酔ってしまうかもしれないが、死ぬよりかはマシだと思って諦めてくれ。

 

 倒れた木を飛び越え、草をかき分けながら進む。しかし敵の姿は見えないが爆発音は遠ざかるどころか近づいていた。

 

「魔物の姿が見えた! 緑の狼!」

「クソッ! よりによってこっちに逃げてきたのか!?」

 

 走るスピードを上げたいが、道が悪すぎる。ミュールの負担も考えるとこれ以上は難しい。

 

「あっ! 人もいるっ! 狼と戦っているみたい!」

 

 魔物同士の戦いに巻き込まれたわけじゃないようで安心した。相手が人間であれば交渉は可能だ。

 

 近くにあった大きな木の幹に隠れると戦闘の様子を見る。

 

 森の中だというのに銀色に輝く金属鎧をまとった女性が狼の首を一刀両断する姿が目に入った。生き残りは数十匹いるが、追尾型の火球が当たると臓物をまき散らして死んでいく。圧倒的な攻撃力だ。

 

「凄腕の冒険者かな? きっと有名人だよね。どうする?」

「戦闘が終わったみたいだし会いに行く」

「大丈夫なの?」

「心配するな。知り合いだ」

 

 今見えているのは騎士だけだが、他の仲間も俺が想像している人物であるのは間違いないだろう。

 

 隠れるのを止めてミュールを連れて近づく。

 

「よう、こんなところで会うなんて奇遇だな」

「ポルン様! やっと見つけましたよ~」

 

 疲れた表情を浮かべながらも喜んでいるのはヴァリィだ。

 

 先ほどの発言から察するに、貴族の屋敷から逃げ出した後、ずっと追いかけてきたのかもしれない。

 

 さすがに罪悪感を覚えてきた。

 

「二人も近くにいるのか?」

「ええ。すぐにやってきますよ」

 

 言っているそばから、美しい黒髪をしたベラトリックスとメイスを持ったトエーリエの姿が見えた。

 

 俺と目が合うと小走りで近づいてきて途中で止まる。

 

 視線の先は……ミュールだ。

 

 魔力の制御が甘くなったみたいで、ベラトリックスの長い髪が蛇のようにうごめいている。トエーリエは近くの木を握り、幹を握りつぶす。

 

 あ、これ、ちゃんと説明しないと死ぬかも。




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