勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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ポルンが私にお仕置き……!?

「また新しい女性……ポルン様、不潔ですっ!」

 

 幹から手を離すとメキメキと木の倒れる音が聞こえる。

 

 魔物の血がポタポタと垂れているメイスをぶら下げながらトエーリエが近づいてきた。

 

 娼婦と遊んだわけじゃないのに何で俺は詰められているんだよ!

 

 知り合いが増えたぐらい問題ないだろうに、なんて正論を言っても聞いてもらえなさそうだ。

 

「俺は手を出してない!!」

「私は今すぐに出してもらっても構いませんけど」

 

 背負子から飛び降りたミュールは、腕に抱きつき控えめな胸を押しつけてきた。

 

「未婚の男女が密着するのはよくありません! 離れなさい!」

「それは貴方の考えでしょ。押しつけないで」

 

 歳をとっているからか、ミュールのほうが精神的に余裕ありそうだ。

 

 手まで絡めて繋いでくる。

 

「うらやま……ではなく、ふしだらな行為は……」

 

 さらに文句を言おうとしたトエーリエの肩にベラトリックスの手が乗った。冷静になったのか魔力の放出は止まって髪は動いていない。

 

「落ち着いて。こんな場所で騒いでいたら魔物が近づいてくる」

「でも、あの女性とポルン様が……」

「手を出してないと言ってたのですから信じましょう」

 

 仲間から言われたらトエーリエも大人しくするしかない。深呼吸をすると、表面上は落ち着いたように感じる。自制できるようになったのは大きな成長だ。

 

 危機は回避できた。

 

 心の底から安堵しているのは俺だけじゃなく、ヴァリィも同じようだ。ほっとした顔をしている。

 

「誤解が解けたようでよかった」

 

 腕に絡みついているミュールを離すと、一歩前に出る。

 

「ところで三人はここで何しているんだ?」

 

 森の近くに人が住んでいる場所はない。本当に何もないため訪れる理由が思い浮かばないのだ。俺みたいに修行しに来たわけじゃないだろうし、どうしているのだろう。

 

「ポルン様を追いかけてきました」

 

 冷静なベラトリックスが俺の前にまで来ると抱きついた。

 

 トエーリエはヴァリィが捕まえているので動かない。ミュールは余計なことを言いそうだったので目で制しておくと、空気を読んでくれたようで素直に従ってくれる。

 

「どうやって追跡してきたんだ?」

「目撃情報をたどってきました。一緒に汚染獣と戦いましょう。私は勇者よりもポルン様といたいのです」

「勇者が好きなのに、無職の俺を選ぶのか?」

「はい」

 

 真っ直ぐな目で俺を見ている。嘘をついているとは思えない。本心から言っているのだろう。

 

 樹海に行く前であれば即座に断っていたが、現実を知った今は悩んでいる。

 

 確実に多くの汚染獣を消滅させるのであれば俺一人じゃ無理だ。数匹消滅させて人生を終えてしまう。

 

 頼りたい、でも皆には平和な世界で生きていて欲しい。

 

 二つの気持ちが衝突しあってどうするべきか決断を下せずにいると、ミュールが俺の横っ腹を突っついてきた。

 

「三人はポルンの仲間なの?」

「勇者時代は常に一緒にいた」

「へー、そうなんだ。こんなところにまで付きまとってきちゃう、おかしい女だと勘違いしちゃった。私もちゃんと挨拶しなきゃね」

 

 止める間もなくスーッと前に出たミュールは三人の前に立つ。

 

「みなさんこんにちは」

 

 屈託のない笑顔に誰も口は挟めない。会話の流れは完全に持って行かれてしまっている。

 

 勇者として培ってきた本能が危ないとささやき、手を伸ばして止めようとするが遅かった。

 

「私は村で巫女と呼ばれており、ポルンの婚約者です。以後、お見知りおきを」

 

 森の中だというのに動物や虫の鳴き声すら聞こえない。しーんと耳が痛くなるほど静か。

 

 その原因は三人が放つ魔力にある。威圧されて逃げ出してしまったのだ。無言でこちらを見ているのは俺の言葉を待っているからだろう。

 

「いつ婚約になった?」

 

 手加減して頭をはたく。

 

「痛いですよ~」

「お仕置きされたくなければ嘘を広めるな」

「ポルンが私にお仕置き……!? それはそれで――」

 

 またバカなことを言うと、一瞬だけベラトリックスの頬がピクッと動いた。ギリギリ暴れず我慢できたようである。

 

 村にいた頃のミュールの大人しい雰囲気はどこ行ったんだよ。もしかしてずっと本性を隠していたのか!?

 

 叩けば喜びそうだったので口を塞いで発言を止める。

 

「改めて言うが巫女は婚約者ではない。彼女は光属性の適性を上げる秘薬を管理している重要人物で、勇者候補生時代にお世話になって最近再会しただけの関係だ。それ以上でも以下でもない」

「本当なんですよね?」

「ベラトリックスに嘘をついたことあるか?」

「…………あるような、ないような……まあどちらでもいいです。私はポルン様を信じます」

 

 トエーリエも納得してくれたのか、二人とも発している魔力が体内に収束していった。

 

 暴れ出しそうなのは残り一人だ。

 

「ヴァリィ?」

 

 剣をぶら下げたままじっと俺を見ている。ずっと大人しかったので気づくのが遅れてしまったが、彼女もまた一言間違えれば何かをしでかしそうな雰囲気を放っている。

 

「…………私を置いていかないでくださいね。どこにでも付いていきます」

 

 寂しがり屋か! と突っ込みたくなったが、一人が嫌いなタイプだったなと思い出す。

 

「俺の行き先が樹海の中でも同じことを言えるか?」

「はい!」

 

 生きては帰って来られない場所だというのに即答だった。なんなら命令されて喜んでいる。

 

 四人で行くなら死に至る道も楽しいとでも思っているのだろう。究極のさみしがり屋で押しに弱い女性だ。地味に変わった性格をしているよな。

 

「死んでも恨むなよ?」

「もちろんです」

 

 今の会話でもう二度と置いていかれないと確信したようで、ヴァリィの魔力も収まっていく。

 

 当初の予定だと樹海は一人で行くつもりだったのだが、仲間を連れて行くことも考えなければいけない。特殊なケースではあるが樹海から生還した初めての事例を作ったことだし、計画を見直すタイミングとしては悪くなかった。




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