勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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あのクソ国王がッ!

 森の中を歩き続けて夕方になったので、野営の準備を終わらせると焚き火を囲いながら晩ご飯を食べている。

 

 干し肉と香草を入れたスープと固いパンではあるが、森の中だと思えば悪くない。塩味もしっかりきいているし、香草のおかげで香りは豊かだ。味に飽きたら赤い粉を少し入れるとピリッとした辛みも感じられるようになって、食べている最中だというのに空腹を覚える。

 

 後、数杯はおかわりできそうだ。

 

「辛い粉を分けてもらえませんか?」

 

 俺の右側に座っているベラトリックスがおねだりすると、左側にいるトエーリエは腕を引っ張って私もとアピールしてきた。離れていた期間が長かったためか、いつもよりも距離が近い。ミュールは焚き火を挟んだ向こう側でヴァリィと楽しそうに話していて、邪魔をしてくるようには見えない。気を使っているのだろうか。

 

「使いすぎると舌が麻痺して味がわからなくなるから、ひとつまみ程度にするんだぞ」

「でしたらポルン様がやってくれませんか?」

 

 たいした手間じゃないので、赤い粉を指でつまむとベラトリックスのスープに入れる。水面に浮かんで広がっていった。

 

「美味しそうです」

 

 スプーンですくって小さく開いて口に入れる。

 

 片手で頬を触って蕩けるような顔になった。

 

 味を楽しむためなのか目を閉じていて、身動き一つ取らない。

 

 ただの野営食だというのに、二度と食べられない料理を堪能しているように見えた。

 

「辛みと特別な旨みがあわさって……最高……」

 

 俺たちの存在すら忘れてしまったベラトリックスは、誰に言ったわけもなくつぶやいた。

 

 よくわからないが嬉しそうにしているならいいか。

 

 そうやって割り切ると、先ほどから腕を引っ張っているトエーリエを見る。

 

「待たせて悪かった。スープに入れるぞ?」

「お願いします」

 

 両手でお椀を差し出してきたので、先ほどと同じように赤い粉を入れる。

 

「あと二回お願いできませんか」

「ピリ辛じゃなくなるぞ?」

「いいんです」

 

 強い意思を感じたので断るわけにはいかず、指でつまんでさらに入れるとスープの表面が真っ赤になった。これは口に入れただけで汗がどっと出るほどの辛さになるだろう。旨みを楽しめるか微妙なラインだ。

 

「いただきます」

 

 トエーリエは躊躇することなく、お椀に口をつけてスープを飲む。すぐに額から汗が浮き出ているのが見えた。

 

 水袋を手に取って声をかける。

 

「飲むか?」

「大丈夫です。このままポルン様の味を堪能させてください」

「俺は調味料を入れただけだぞ。どちらかというとヴァリィの味じゃないのか?」

 

 味付けをした人の名誉を奪ったように感じて訂正したのだが、トエーリエには無視されてしまった。汗を流しながら一心不乱にスープを飲んでいる。

 

 野営食をここまで楽しめる二人は、旅をする才能があると言っていいだろう。

 

 樹海ですらストレスなく過ごせそうだ。

 

 食事は終わってないので俺は残っているスープを食べる。優しい味で体も温まり少しだけ気が緩んでしまう。食事中は隙が生まれやすいとは理解しているが、どうしても高い緊張感を維持するのは難しい。周囲に罠を仕掛けていてよかった。

 

 黙々と食事を進めてスープをお代わりしようとして焚き火へ近づいたときに、ふと一人足りないなと思い出した。今さらではあるが聞いてみるか。

 

「なぁテレサはどうしたんだ?」

 

 光教会で働いている女性だ。魔道具を授けられるほどの信仰心の高さと実力を持っていて、俺を神のごとく崇めてくる。別れた後もベラトリックスたちと一緒に行動していると思っていたのだが、姿が見当たらない。

 

 近くにいるヴァリィはミュールとの会話を止めると俺の方を向く。

 

「光教会に問題が出たみたいで別行動をしています」

「何があった?」

「詳細はわかりませんが、ポエーハイム王国と揉めているようです」

「あのクソ国王がッ! 殺してやろうか」

 

 自分でも驚くほど冷たく、殺気が籠もった声だった。

 

 汚染獣と戦う勇者を支援する光教会の邪魔をするなんて、人類に対する裏切りだ。罪状なんて不要。即刻処分するべきである。

 

「ま、待ってください! たいした問題じゃない可能性もあるので、確認してからにしましょう! いいですよね?」

「放置していれば国だけじゃなく人類が滅ぶかもしれないぞ」

 

 脳内は大侵攻の文字で占められていた。

 

 仮にも勇者を保有している国だぞ。滅びが近づいているというのに悠長なことは言ってられない。

 

 怒りが高まってく俺の頬に手が触れた。

 ひんやりとしていて、少しだけ冷静さを取り戻す。

 

「大丈夫だよ。まだアレが発生する兆候はないから」

 

 止めてくれたのはミュールだ。巫女として豊富な知識を持っている彼女が言うなら大侵攻までの猶予はあるんだろう。

 

「どうなったらヤバいんだ?」

「勇者の数が大きく減らない限りは大丈夫」

 

 光属性に高い適性を持っている人の数が重要なのか。なるほど、汚染獣側に立って考えると納得できる。村を襲ったのも大侵攻を行う準備だったのか。

 

 俺とミュールは絶対に死んではいけない。

 

 それが人類のためにもなる。気軽に樹海へ行くとも言い難くくなったな。

 

「二人は何を気にされているんですか?」

 

 大侵攻の存在を知らないヴァリィは戸惑っているように見えた。

 

 ちょうど良い機会だから三人にも世界に危機が迫っていることを伝えるとしよう。

 

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