勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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近くに狼の気配はない

 夜が明けると朝食を済ませてから移動を再開した。

 

 途中で川を見つけたので順番で水浴びをして汚れを落とし、食糧確保のために狩りも行う。

 

 無駄に時間をかけているように思えるかもしれないが、ちゃんと考えがある。また村を襲った汚染獣は消滅できていないため、俺たちを襲撃してくることも考えられるので、速度よりも安全を優先しているのだ。

 

 余裕ある移動計画であるため、背負子に座っているミュールは周囲の景色を堪能して楽しそうである。

 

「綺麗な鳥。なんて名前なのかな?」

 

 木の枝に止まっている小鳥を指さしていた。

 

 鮮やかな緑色の毛をもっていて狼のような鳴き声を出すのが特徴だ。

 

「狼鳥だね」

「名前に意味があるの?」

「もちろん。鳴き声で狼を操り、草食動物を襲わせるので気をつけなければいけないよ」

 

 説明したのはヴァリィだ。騎士団で働いていたときに覚えた知識だろう。何も知らない妹に説明するような口調だった。

 

 ミュールは年齢がわからなくなるほどの長寿だというのは説明しているが、十歳ぐらいの見た目であるため年上のようには扱えないみたいだ。

 

「だとしたら私たちは危ないんじゃ?」

「近くに狼の気配はないので、今は枝で休んでいるだけだよ。安心して」

「そうなんだ。ヴァリィは若いのに物知りだね」

 

 お姉さんっぽく振る舞っているヴァリィを優しく見守ってたら、トエーリエが視界に入った。

 

 目が合うとウィンクをされてしまう。

 

 再会したときは一暴れしそうなほどピリピリした空気だったが、誤解が解けてミュールが汚染獣との戦いに重要な人物だとわかってからは落ち着いている。みんな好意的に接してくれて助かっていた。

 

 * * * * * *

 

 順調に森の中を進んで三日経つと、ようやく森から出た。

 

 目の前には草原と青空が広がっている。小さな丘がいくつもあって遠くまでは見通せないが、視界は悪くない。馬車が通れるほどの道があって地平線まで続いていた。

 

「丸一日歩いた先に、ベテランの勇者パーティが住んでいるトラピリオン都市があるから数日は休憩しよう」

 

 旅に慣れていないミュールを気づかっての判断だ。

 

 皆も賛同してくれたので道を歩く。

 

 ほどよい気温でそよ風も吹いている。心地よく進んでいたのだが、一時間ほどして異変に気づく。

 

 丘の上に人の集団があったのだ。野盗かと思って警戒したが俺たちの姿を見ても隠れる様子はない。襲ってくることはなく、動かないので敵対する意思はなさそうだ。

 

「どうします?」

 

 体内の魔力を練りながらベラトリックスが聞いてきた。攻撃の命令を出せばすぐに魔法を発動させるだろう。

 

 先手を打つのも大事ではあるが、様子がおかしいので確認を優先したい。

 

「使い魔で偵察をしてくれ」

「任せて下さい」

 

 ローブの下からクリスタルで作られた鳥の彫刻を取り出すと、ベラトリックスは地面に置く。

 

【ファミリア】

 

 生命が吹き込まれたかのように、クリスタルの鳥が羽ばたくと丘の上にいる集団へ向かって行く。

 

 ベラトリックスは使い魔の視界を共有しているらしく、目をつぶって操作しながら状況を教えてくれる。

 

「子供や女性、老人がほとんどです。成人してそうな男性は二人だけです」

 

 野盗が集まっている線はなくなった。するとあの人々は、特定の場所に住まない遊牧民かもしれない。

 

「家畜やテントはあるか?」

「ありません。荷物はなくケガを負っている人も多いみたいで、みんな疲れた顔をしています」

「ポルン様、難民ではないですか?」

 

 トエーリエと同じことを考えていた。

 

 汚染獣から逃げるために、町の外へ出た人たちと似ている。若い男は時間稼ぎのために残っているので、子供や女性、老人ばかりの集団になっているのだ。過去に何度も見たことがあるため間違ってないという確信を持っている。

 

 勇者がいる都市で異変が起きたかもしれない。

 

 嫌な予感がする。

 

「使い魔をトラピリオン都市の方へ飛ばしてくれ」

「今しています」

 

 流石、長年一緒に活動をしていたベラトリックスである。

 

 指示を出す前に動いていたようだ。

 

「追跡はされてないようですね。近くに魔物や汚染獣はいません。もっと都市の方に近づいてみます」

「頼んだ」

 

 差し迫った危機はないようだが、難民が発生した原因は気になる。誰もがベラトリックスの言葉を静かに待っていると、集団から一部が抜けてきてこっちの方に向かってきた。

 

 目的は容易に察せられる。食料や水をわけて欲しいとお願いされるはずだ。

 

「ヴァリィは余剰の食糧と水を用意してくれ。トエーリエはケガ人がいたら回復を任せる。ミュールは俺の側を離れるな」

 

 俺がピリピリした空気を発していると感じ取ったようで、すぐに動き出してくれた。

 

 勇者の未来はミュールにかかっているので甘い顔はできない。食料を奪い取ろうとして暴れてきたら、遠慮なく叩きのめすつもりだ。

 

 こっちに向かってきている難民は十人ほど。一人は成人した男で三十代ぐらいだ。他は年齢が一桁の男ばかり。女性と年寄りは置いてきたようだな。

 

 目測で十メートルぐらいの距離になると槍を構える。

 

「止まれ。それ以上近づくと敵と見なして攻撃する」

 

 警告に従ってくれた。

 

 先頭に立っていた成人の男は立ち止まると、両手を軽く上げる。

 

「見ての通り俺たちは子連れだ。敵対するつもりはないから武器をしまってくれ」

「何のために近づいてきた?」

 

 穂先を向けたまま警戒は続ける。

 

 人間に見えても体内に寄生型の汚染獣がいる可能性もあるからな。

 

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