勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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絶対に手を離すものか!

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 さすがに息が切れてきた。ケルベロスは頭の再生に時間をかけていて積極的に攻撃してこない。嫌がらせ程度に結界の階段を尻尾で叩くぐらいだ。

 

 光属性の魔力が付与された槍を体内に突き刺せば勝てる。

 

 そうなると信じて駆け上がっていると、黒い触手が襲って来なくなったことに気づく。下を見たらミュールがケルベロスの近くにいた。光属性の魔力を強く放出して、攻撃を阻害しているようだ。

 

 近くにはヴァリィがいるので何かあれば守ってくれるだろう。

 もう俺は周囲を気にする必要はない。

 

 魔力を温存するため浄化を止めてしばらく進むと、階段の最上階に到着する。落下すれば即死するほどの高さだ。下を見るだけで震え上がるほどで、足がすくんでしまいそうになるが弱気なことは言ってられない。

 

 ケルベロスの背が見えているのだ。

 

 倒すなら今しかない。

 

「消えろぉぉぉおおお!!」

 

 瘴気に汚染され始めた体を動かすため、奇襲するのに声を出す愚行をしてしまったが、ケルベロスの頭は吹き飛んでいるので気づいていない。槍をもったまま落下して背に乗ると突き刺す。

 

 光属性の魔力が体内を侵して痛いのだろうか。

 

 俺を振り落とそうとして体を左右に激しく揺らしている。

 

「絶対に手を離すものか!」

 

 抜けないように体重をかけて槍を深く沈める。柄は中ほどまで肉にめり込んだ。

 

 あとは残りの魔力を注げば……っ!?

 

 急に地面が近づいている。ケルベロスが転がりながら押し潰そうとしているのだ。

 

 とっさに槍を抜きながら跳躍をして、体から離れることには成功したが、地上から十メートル以上の高さはある。落下死する距離だが、トエーリエが結界で足場を作ってくれたので緊急退避に成功する。

 

 俺を押し潰し損ねたケルベロスは腹を見せていたので、再び槍を突き刺し、即座に残っている魔力を一気に注ぎ込む。大型であっても耐えきれない量を与えたことで、ようやく灰になって消滅してくれた。

 

 汚染獣の体がなくなってまた落下を始めたが、結界の足場がいくつも出現して無事に着地する。

 

 勝利を喜んでいる暇はない。

 

 仲間たちは既に散開していて魔法陣を探している。俺もすぐに動かなければ。誰もない場所に移動すると建物の瓦礫を退けていく。

 

 地面は見えたが何もなかった。

 

 次だ。

 

 近くに横転した馬車があったのでしゃがんで下を見ると、探していた転移魔法陣があった。光は強まっていて、もうすぐ起動しそうだ。

 

 馬車をどかしている余裕はない。

 

「ここにあった! 破壊してくれ!」

 

 すぐに歪な氷の塊が飛んできた。巻き込まれないように走って離れていたが、馬車の破片が背中に当たって、受け身を取れずにゴロゴロと転がってしまう。

 

 頭がぐらぐらして視界が定まらない。なんとか立ち上がって転移魔法陣があった場所を見ると、完全に破壊されていた。これで大型の汚染獣が再びこちらに来ることはないだろう。

 

「大丈夫ですか!」

 

 最初に駆け寄ってきたのはトエーリエだ。怪我の状態を調べる時間も惜しいらしく、手を握ると【ヒール】を使って回復してくれる。背中に感じていた痛みがすぐに引いていき、心なしか疲労もマシになった気がする。

 

「結界の魔法は助かった」

「護衛を放棄したと怒らないのですか?」

 

 ミュールを守るのであれば都市に入るべきではなかった。俺が負けそうになるなら逃げ出すのが正解だ。

 

 本人もその自覚があったので、怒られると思い泣きそうな顔をしているのだろう。

 

「結果的に助けてもらったんだ。感謝しても怒ることはしないさ」

「ポルン様……!」

 

 手を合わせながら感動していた。

 

 拝んでいるような姿に、俺は神じゃないと喉まで言葉が出かけたが、我慢して飲み込む。それよりも、すぐに確認したいことがあった。

 

「ミュールはどうした?」

「ヴァリィとベラトリックスの二人が護衛しています。すぐに来るかと」

「なら大丈夫か」

 

 今の所、瘴気が濃くなる気配はなかった。また転移魔法陣も残っていないようで汚染獣が新しく出現することもない。

 

 周囲は光属性の魔力によって浄化されており、生き残りがいても近づくことすらできず消えることだろう。

 

 もうしばらく様子を見る必要はあるが、人類の生存圏は守ったと判断していいはずだ。

 

「この汚染獣は勇者を殺すために来たのでしょうか?」

 

 遠くを見ているとトエーリエが不安そうに聞いてきた。

 

 勇者の減少が大侵攻の引き金になる。

 

 その言葉を思い出したのだろう。

 

「情報が足りないのではっきりしたことは言えないが、最悪のケースを考えるなら、そうなんだろうな。汚染獣は再び大侵攻を起こそうとしている」

「やはり……そうなんですね……」

 

 心のどこかで大丈夫なんて思っていたのかもしれないが、壊れた都市を見れば強く実感してしまう。

 

 人類の危機が迫っていると。

 

 猶予はどのぐらいあるのか、汚染獣の全てが大侵攻に参加するのか、回避する手段はないのか、知りたいことは沢山ある。

 

 そのためにもやはり、ポエーハイム王国に戻ってメルベルに会わなければ。

 

 アレなら何か知っているはずだ。

 

 勇者の埋葬や都市の再興は別の人間に任せて、すぐに出発しよう。

 

 

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