勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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状況を整理しよう

 ケルベロスに殺された勇者の墓場を作ってから、トラピリオン都市内を数日かけて調査をした。

 

 瘴気を吐き出していた壺はすべて破壊していて、新しく汚染獣が生まれるようなことはなさそうだ。転移魔法陣も他にないので樹海から召喚されることもない。安全になったのは間違いないだろう。

 

 残ったのは壊れた建物と汚染された死体と土壌。生ある者は近寄れない、鳴き声一つなく静寂が支配している。焦げた臭いとホコリの舞う死の気配が濃い場所である。

 

 汚染獣が暴れた後は、だいたいこのようになるのだ。

 

 死と静寂の中で俺たちだけが生きていて、世界が滅んでしまったと錯覚してしまうこともあり、言葉にできない強い不安にかられる。

 

「ポルン様……」

 

 そういった気持ちを察したのか、ベラトリックスがそっと手を繋いでくれた。もう片方はトエーリエ。ヴァリィは後ろからの抱擁である。

 

「モテモテだね」

 

 冷たい目でミュールが見ている。嫉妬……ではないだろうな。一人だけのけ者にされて寂しいのだろう。ずっと小さな部屋で過ごしていたから、人との関わり方や甘える方法がわからないのだろう。こういうときは慣れている俺が歩み寄るべきだ。

 

「こっちこいよ」

「え、その……大丈夫?」

 

 何故か目がベラトリックスやトエーリエのほうを向いている。明らかに聞いている人を間違っている。許可を取る相手は俺だぞ。

 

 コミュニケーション能力が低いと、こういったことすらわからなくなるのか。助けてもらったお礼として少しは教えてやろう。

 

「寂しいんだろ? 俺が良いと言ってるんだから遠慮するなって」

 

 握られている手の骨が折れそうなほどギチギチとなっている。抱きしめられている腕が首に回って、息が苦しい。

 

 仲間たちが殺そうとしているとは思えず何が起こったのか不明だ。

 

 どうしてこうなった!?

 

 混乱しているとミュールが正面から抱きついてきた。なぜか勝ち誇った顔をしている。

 

「男は心の狭い女より、包容力のある女のほうがいいよね?」

「そりゃぁ……いっ!?」

 

 肯定しようとしたらさらに痛みが増した。

 

 ミュールを除いた三人はご立腹のようだ。汚染獣との戦いで磨かれた危険察知能力が、曖昧に答えろと訴えてくる。何度も助けてくれた直感に従わない理由はなかった。

 

「俺は女性の性格に文句はいわない。心が通じ合えばそれでいいだろ?」

 

 ふっと三人から力が抜ける。どうやら正解を選べたみたいだった。流石、俺だな。ここぞと言うときに力を発揮する。本番に強い男なのだ。

 

「もういいだろ。状況を整理しよう」

 

 四人を引き離すと近くの瓦礫に腰を下ろす。視線は俺に集まっていて言葉を待っているみたいだ。

 

「瘴気を生み出す壺は都市の中心部にあった。数はおよそ三十ほどで地中や家、井戸の中に設置されていて手間がかかっている。気づかれずにやったのであれば数日じゃ終わらないだろう。転移魔法陣だって同じだ。誰も知らなかったのであれば入念な準備をしていたはず」

 

 突発的に襲ってきた線は薄い。ないと断言してもいいだろう。

 

 そして大型とはいえケルベロスは戦略を立てられるような知能があるようには見えなかった。少なくともここまで高度な計画は立てられない。

 

「裏で操っているヤツは特殊な汚染獣とみていいだろう。目的は……大侵攻だろうな」

 

 根拠は汚染獣の種類が村で襲撃したのとタイプが一緒だったことにある。

 

「メルベルも一枚噛んでいると思いますか?」

 

 特殊な汚染獣といったら真っ先に思い浮かぶ存在だ。ベラトリックスが疑問に思うのも当然だが、俺は無関係だと考えている。

 

「ない。あいつは天敵を殺して樹海に戻りたがっているだけだ。むしろ寄生型の特殊な汚染獣のほうが気になる。裏で転移魔方陣を使う汚染獣と手を組んでいる可能性はあるな」

 

 人に寄生してしまえば町の治安を乱して汚染獣討伐を遅らせる、もしくは人の手で勇者を殺させる、といった手が取れる。それこそドルンダみたいな為政者に寄生すれば、やりたい放題だろう。勇者制度の崩壊さえ視野に入れられる。

 

「もしかしてドルンダ陛下も汚染獣に操られている可能性が……? それなら、ポルン様をクビにした理由にもなります……」

 

 事態の深刻さにヴァリィは青ざめている。安全だと思っていた足下が脆いことに気づいてしまったのだろう。

 

 体を震わせながらトエーリエが口を開いた。

 

「それだけじゃありません。プルドを村で鍛えさせなかったことも勇者を減らすという意味では理にかなっています。裏に汚染獣がいるとすれば納得です」

「それだったら実はメルベルも手を組んでいるの? 私が使い魔を使って調べた限りじゃ、怪しい動きはしてなかったけど」

「組んではないだろうが、黙認ぐらいはしてそうだな」

 

 一時的にでも魔法でベラトリックスが監視していたのでれば、メルベルも協力しているとは思えない。

 

 ただ無関係というのも楽観的に考えすぎだ。

 

 特殊な汚染獣たちの勢力図は不明な部分も多いが、敵対していないのであれば消極的にも協力することぐらいはあるだろう。

 

 

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