勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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私は謝罪を求めたか?

 勇者一行が村の中に入った。

 

 二台の馬車は村の中心にある広場で止まる。兵たちは慌ただしく動いていて、天幕をたてはじめた。

 

 俺や冒険者が普段使っているような簡易的なものではなく、居住性を重視した作りだ。床はフカフカの絨毯を敷いていて豪華なベッドや毛布、椅子などが運び込まれていく。食料が入ってそうな木箱まで用意されていて、田舎村でも豪華な食事が楽しめそうだ。

 

 準備が進む中、老人が兵たちに近づく。あれは村長だ。ベラトリックスと分かれてから何度か話したことあるが、気さくで村のことを第一に思っている人間として好感が持てる男である。

 

 何を話しているのか気になるので、近くに移動して建物の影に隠れながら盗み聞きをする。

 

「広場をどうされるつもりなんですか?」

「汚染獣討伐の前線基地にする。備蓄の食料はすべて提供するように!」

「そんな! 横暴です!」

「なんだと? 勇者であり第四王子殿下でもあるプルド様の考えに逆らうつもりか?」

 

 空いている場所を占拠することまでは理解できるが、さすがに食料の提供はおかしい。

 

 特にここは汚染獣によってまともな食料なんて残ってないので、兵に差し出せるものなんてないだろう。

 

 光教会に頼めば食料なんてすぐ用意してくれる。なぜ現地で徴収しようという考えに至ったのかわからない。

 

「ここには偉大なるドルンダ陛下もお越しになっている。逆らうなら斬るぞ!」

 

 兵が腰にぶら下げている剣に手を当てた。

 

 守るべき相手に刃を向けようとするなんて愚かな行為をするとは思わず、一瞬頭が真っ白になった。

 

 なんだこいつら。

 

 人として終わっている。

 

 この村にドルンダがいるとかどうでもいい。王家に目障りだと思われ排除される可能性が高まったとしても、今は村長を守るために動こう。

 

 飛び出そうとして下半身に力を入れると、金属鎧を身にまとった騎士団長のヴァリィが兵の頭を殴りつけた。

 

 反射的にだろう。兵が振り返りながら剣を抜くが、刀身を握られて止められてしまった。

 

「てめぇ、ぶっ殺……ッ!?」

 

 ようやく相手が上官だと気づいたようで兵の顔が青ざめた。

 

 ヴァリィは貴族だからなぁ。平民の一般兵では相手にならないし、騎士であっても団長には逆らえないので、この場を収めるには最適な人物だ。俺の出番は必要なさそうである。

 

「お前は誰に剣を向けようとした?」

「もうしわけございません!」

「私は謝罪を求めたか?」

「違いますッ!!」

「なら答えろ」

「ヴァリィ騎士団長に剣を向けようとしてしまいました! 申し訳ござい――ゴァッ」

 

 顔面を殴りつけられた兵が吹き飛んだ。

 

「お前は守るべき国民に剣を向けようとした! それすら分からないのかッ!!」

 

 俺と全く同じ事に怒りを感じていたようだ。

 

 新勇者のパーティになっても変わってなくて安心する。兵の話しぶりからしてプルドやドルンダは期待できそうにないが、ヴァリィやトエーリエがいるなら、最悪の事態は避けられるだろう。

 

「村長、食料の話は忘れてくれ。だが場所は借りることを許して欲しい」

「あ、はい。広場だけであればご自由にお使いください」

 

 圧倒的な強さを披露したこともあって、村長はペコペコと頭を下げていた。

 

 ヴァリィは眉を下げて困った顔をしている。

 

 戦いでは無類の強さを発揮して頼りがいはあるんだが、こういった場面には弱いんだよな。

 

「何かあったの?」

 

 騒ぎを聞きつけたベラトリックスがやってきた。後ろには純白のワンピースを着てどでかいメイスをぶら下げたトエーリエがいる。久々に三人が揃うところを見た。

 

「ちょっとトラブルがあったから対処してたんだよ」

「対処ねぇ……ちょっとやり過ぎじゃないの?」

 

 呆れた声でトエーリエが言うと、倒れた兵の近くにまで移動してしゃがみこんだ。

 

【ヒール】

 

 お得意の回復魔法を発動させてケガを癒やしたみたいだ。

 

 意識を取り戻した兵は立ち上がると頭を何度も下げてから立ち去る。おっかないヴァリィから早く離れたかったんだろうな。

 

 見送ったトエーリエは村長を見て話しかけた。

 

「この村には秘湯があると聞いたんですが、使えますか?」

「申し訳ありません。なぜか水が真っ黒になってしまい閉鎖しております」

 

 汚染獣の影響だな。入ればたちまち肉体が腐るだろう。

 

「それは困りました。プルド様が行ってみたいらしいんですよ」

「別にそんなの無視すれば良いじゃない。あんな男のお願いなんて聞く必要はない」

 

 ベラトリックスは敵意を隠すようなことをしていない。

 

 王都に戻ってプルドと行動を共にしても勇者とは認めていないようだ。

 

「まぁまぁ、そう言わずに。一応、勇者ではあるんですから」

「トエーリエは相応しいと思うの?」

「回答は控えさせてもらいます」

 

 ベラトリックスの追求に貴族らしい対応でトエーリエはあしらったが、今の言葉だけで認めてないことは伝わる。

 

 俺の代わりに勇者となったプルドは、思っていた以上にクソ野郎かもしれない。

 

 まともに汚染獣と戦えるのか心配になってきた。

 

「そこで何をしているのかしら? ドルンダ陛下がお呼びよ」

 

 三人に話しかけたのは、真っ赤な服に同系色のドレスを着た女性だ。

 

 見た目からして平民には見えない。

 

「メルベル宰相? あなたも来ていたんですね」

 

 ヴァリィが警戒しながら返事をした。

 

 勇者時代には国の重鎮と何度もあったことがある。宰相は死にそうな爺さんだったはずなのだが、いつから若い女に変わったんだ。

 

 貴族の序列を無視した抜擢に周囲は反対しなかったのだろうか。いや、絶対にあったはず。

 

 それらをはね除けて今の地位に就いているというのであれば、その手は髪と同じく真っ赤に染まっていることだろう。

 

「お仕事があるから同行させてもらったわ」

 

 一瞬ではあったが、盗み見している俺の方を見た気がする。

 

 いや、勘違いか?

 

「さ、早く戻ってくれないかしら。ドルンダ陛下が話し相手になって欲しいらしいの」

「だったらメルベル宰相が相手をしてください。私たちは忙しいんです」

「私じゃ楽しくないらしいのよ。それに私はプルド様と一緒に、この村にいると噂のポルンを探すお仕事があってね」

 

 国の上層部が俺を探している?

 

 どういうことだ?

 

「何をするつもりですか」

 

 同じ疑問を持ったらしくベラトリックスが殺気を放ちながらメルベルの前に立った。あれは本気で怒っている。

 

 一般人なら怯え上がるほどの恐怖を感じるはずなのだが、見た目上は変化がない。

 

 ライバル貴族を蹴落として宰相になる女傑であれば、この程度は涼しい顔して受け流せるか。

 

「ちょっとしたお話し合いをするだけよ。あなたが心配するようなことはないわ」

 

 指でベラトリックスのおでこを押すと、メルベルは馬車の方へ戻っていく。

 

 先ほどの言葉を信じるほど俺はバカじゃない。絶対に何かを仕掛けてくるつもりだ。村に滞在するのは危ない。かといって頼りないプルドにすべてを任せるわけにはいかないので、俺は別行動をして汚染獣の調査を始めるか。

 

 特に大型は非常に珍しく、俺は出会ったことないし、光教会が記録した資料にもほとんど残っていない。良い機会なので情報を集めておこう。

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